ありふれていなければならない物理法則で世界最強 ※完結   作:十二の子

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 大学が春休みに入ったのでこの機会に艦これなど進めているわけですが、うん、西方海域きついな…


23 「いざ帝都へ」

ー*―

 ハジメ一行の乗る飛行艇は、エクラノプランー日本語訳すれば「地面効果翼機」でもある。これは飛行機が地面や水面に近いところを飛行すると地面と翼の間の気流で浮き上がる現象を利用しており、つまり、平らな場所を飛行するのであれば地面に近づくほど燃費が良くなる。

 

 というわけで。

 

 真っ黒な100メートル超の翼が自らのほうへ突っ込んでくるのを見て、さしもの帝国軍も肝を抜かした。

 

 地面を削るように近づいてくるブラックは、飛行するどんな魔物より1桁大きく、その気流は草原に生えた灌木などをなぎ倒さんばかりなので、至近では山が迫るに等しい。

 

 呆然、立ちすくむ帝国兵の首が、スパッと飛んだ。2つ、3つと。

 

 轟音がさらに高まりを見せ、飛行艇が着陸した。

 

 そこへ、どこからともなく現れた群団が、首をいくつも手に整列する。

 

 「お久しぶりです!ボス、正妻様、ユエ様、姐御!」

 

 「…誰が姐御ですって?」

 

 開いたランチから、光線が奔った。

 

 群団ー兎人族、ハウリアたちが、光線を避ける。

 

 「漢磨かせてもらい、ありがとうございます、sir!」

 

 一石は、うなだれた。

 

―*―

 

 かつて、樹海でハウリアに出会った時。

 

 樹海迷宮に挑戦することはついにできなかったー神代魔法の数が足りなかったからーが、その前に、ハジメと香織は、シア、そしてハウリア一族を鍛えていた。

 

 ハウリアは弱いー臆病なうえに、身体能力も亜人族最下位である。が、いくら酷い身体能力とはいえ一石よりは上、そしてさらに臆病すなわちすばやさと察知能力に長けると言うことなのだから、心を変えれば恐ろしく強くなるのは自明である。だから彼らはそれはもう思い切り鍛えたーのだが、その時に一石のことー容赦のなさや冷酷さを引き合いに出したのがまずかったらしいことは、美しかった樹海の現状を見れば言うまでもない。

 

 「…ここまでやっちゃダメだよ…」

 

 「香織、なんで私のことを見るのかしら。やらないわよ私も。」

 

 樹海を通りフェアベルゲンへ向かう道の両側は煙が上がる灰の園となっており、樹海を満たす霧は完全になくなってしまっていた。

 

 「いえボス、最初に樹海に火をつけたのは帝国兵ですぜ。」

 

 ーカムの語るところによれば。

 

 ある日、樹海へ帝国兵が攻めてきた。従来は樹海の中で霧に迷わないためには亜人の案内役が必要であり、亜人も仲間を守るために、拷問される前に舌を噛み切っていたのだが、帝国兵は樹海ごと焼き払うことにしたのである。

 

 「どうせ焼き払われるのならって、アルフレリックに直訴したんだな。…したんです。」

 

 熊人族の族長ジンが付け加えた。今にも一石に平身低頭せんばかりである。ハジメへの尊敬の塊であるハウリアと一石への畏怖の塊である熊人族は、奇妙な平衡で結び付いて共闘していた。

 

 「で、焦土作戦、と。」

 

 「奴ら『検閲済み』のくせに頑丈でなかなかくたばらなかったんで、『検閲済み』して『検閲済み』したら『検閲済み』になったんですよ。」

 

 …これが、手段を択ばない効率主義とハジメ式地獄の特訓が最悪のカタチで組み合わさった結果であった。

 

 「…光ちゃんがハジメくんといっしょに大迷宮を踏破しなくて、本当に良かったよ。」

 

 「香織、酷いわ…」

 

 しくしく。

 

 「それで、被害はどうだったんだ?」

 

 シアなど、気が気でない様子ー焼け野原の先にフェアベルゲンが見えると言うことはつまり、帝国軍はフェアベルゲンに到達したのだ。

 

 「…私が、私たちがフューレンで非合法の亜人密売を根絶やしにしたからよね…」

 

 一石は、どうして帝国軍が直々に奴隷狩り侵攻をせざるをえなくなったのか読んで、内心罪悪感に駆られた。

 

 「兎人族は狩られてはいませんが、他の部族は…

 

 …それに、戦死も200を数えています、ボス。」

 

 兎人族が捕虜にならず犠牲が抑えられたのは、帝国軍をむしばむ、「兎人族に手を出した時の天罰」の噂による。カムも、危ういところで見逃されたことが何度もあったらしい。

 

 「ひどくやられたな…」

 

 「こんな…」

 

 とりわけリリアーナ姫は、心を痛めたー王国に並ぶ人間族の強国であり、魔人族との戦いにおける頼れる盟友である帝国、その軍勢によって、フェアベルゲンが涙と鳴き声に満たされているのを目の当たりにしたから仕方がない。

 

 「アルフレリック?おーい、アルフレリック?」

 

 「ヒカリ殿、お久しぶりです。

 

 …そちらは?新顔のようですが」

 

 「今から説明するわ。リリアーナ?」

 

 一石は、よりにもよって王国の長であるリリアーナを、フェアベルゲンの長の前に突き出した。そして、リリアーナに向き合う。

 

 「姫様。

 

 …姫様はこの惨状を知って、何を思った?

 

 …この惨状を知って、あなたが取るべき責任は、あると思う?

 

 …エヒトのことも知って、魔人族との戦いの真相も、亜人族が力を失った理由が『エヒトがイジメられて楽しむ弱者を眺めたかったから』だって知って、どう思う?

 

 …その上で、あなたは、この焼け野原の真中で、何を思うの?どうすればいいと信じるの?」

 

 「…私は、それでも、姫なのです。」

 

 「それで?

 

 何かを知り、何かで応える。その営みは人間として当然にして普遍。王族だろうと奴隷だろうと、宮殿だろうと迷宮だろうと、考えることだけは変わりがないわ。」

 

 リリアーナは、沈黙し、うつむき。

 

 そして、アルフレリックに向き直った。

 

 「謝って済まされることではありません。

 

 絶対に、私が、何とかします。

 

 …赦さなくても、いいですから…」

 

 アルフレリックが、温厚な顔を歪め、手をパーにして、思い切り振り、姫の端正な顔にビンタする。

 

 「…後は、己自らで、お示しなさってください。」

 

 姫は、赤くなった頬をさすり、深々と頷いた。

 

 「…南雲様、香織様。

 

 いますぐ、帝国に向かい…力を貸していただけませんか?」

 

 「ああ。」

 

 「リリィ、任せて。」

 

 でも、すべて台無しにしちまうかもな、とハジメは呟いたが、香織にしか聞こえなかった。

 

 かくて、飛行艇は、再び空へ。

 

―*―

 

 「リリアーナ、手順を確認するわよ?

 

 このメモにも書いた通り。」

 

 「はい…

 

 …でも、本当にこれで、私は、いいのでしょうか?それに、私に、できるのでしょうか?」

 

 「あなたが救いたい人間は、蹴る人間か蹴られる人間か。それだけの話よ。」

 

 ハジメはハジメで何かもくろんでいるようだけど。…私は、蹴られる人間を蹴る人間にしてキリがないよりは、蹴る人間を蹴り飛ばして脅したほうが早いと思う。

 

 さて。

 

 「いってらっしゃい。

 

 …覚悟のほどは?」

 

 「私は、父君からずっと、困っている民を救える王族になれるようにと教わってきました。

 

 神の慈悲がないのなら、私は、王族として、せめて、苦しむ者への慈悲になりたいと思います。」

 

 「その心があるのなら、あなたは必ず、なれるわ、立派なリーダーに。」

 

 それが例え、少なきの血と反吐と肉片と灰の上に、多くの救いをもたらすことだとしても。




 エクラノプランは漢のロマン。Beー2500はロシアが誇るロマン(でもべリエフ設計局さん、あの大きさはさすがに無理があると思います)。

 原作登場のハジメーカムの非正規外交に対し、一石ーリリアーナーアルフレリックの正規外交ルートも出してみました。

 ※21/2/19誤字訂正。報告ありがとうございます!
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