ありふれていなければならない物理法則で世界最強 ※完結   作:十二の子

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 原作と違い、ハジメーハウリアの側には唯々諾々と手なずけられた熊人族がいますーが。

 あえて、それらを踏み台にー


24 「帝都は燃えて居るか?」

―*―

 

 最悪だと、ずっと思ってまいりました。

 

 まだ7歳のわたくしを、あの方、皇子バイアス様は、舐めるように、ねぶるように見て。

 

 怖い、嫌いだと、一度だけお父様に申し上げた時、お父様は烈火のごとくお怒りになられましたー王族とは、自分の気持ちを押し殺し、民のために尽くすのだ、と。だから、人間族のために、そのような事を言ってはならぬと。

 

 だから。

 

 私は、何度だって、ドレスを選んだのです。これが、唯一、私にできる戦いですから。

 

 「ほぉ、今夜のドレスか……まぁまぁだな」

 

 …バイアス様!?

 

 「…バイアス様。いきなり淑女の部屋に押し入るというのは感心致しませんわ。」

 

 「あぁ? 俺は、お前の夫だぞ? 何、口答えしてんだ?」

 

 あ、侍女、騎士の皆さん…

 

 独りにされると、私…

 

―*―

 

 「…リリィ、どう?」

 

 「…香織、見るか?」

 

 ハジメは、こっそり忍び込ませたクモロボットアーティファクトのカメラからの映像を、義眼と同じ仕組みで映像を映すプロジェクターに出力した。

 

 ドレスを破り捨てられ、押さえつけられ、両手は頭の上、足の間に膝を挟まれ、動くこともできないも顔を真っ赤にして胸を揉まれている。

 

 「ハジメくん、早く、助けてあげて。」

 

 「ああ…

 

 …ちょっと待て、香織。」

 

 ハジメは、耳にイヤホンをさした。

 

 「『バイアス様、わたくしを犯される前に、一つだけ、約束してはくれませんか?』

 

 『ほう、俺に対価を求めるか。何が欲しい?金か?服か?メシか?』

 

 『奴隷を…あのかわいそうな亜人を、民を、救っていただけませんか?わたくしのことは、いくらしいたげなさってもかまいませんから。』」

 

 「えっ…」

 

 香織が、ユエが、ティオが、、息を呑み。

 

 シアが、声を出しそうになって口を押えた。

 

 「ふん、ダメだな。

 

 誰の入れ知恵か知らんが、弱い奴は黙って従っていればいい。ただ強くなればいいのに、なぜしない?

 

 強くなれない奴など家畜も同然だ。お前のようにな!」

 

 バイアスは、まだ残っていたドレスを一気にはぎ取った。

 

 シミ一つない玉のような肌を隠すモノは、もはや、何もなく。

 

 「ハジメくん!」

 

 すっと、ハジメは指をピストルのカタチにして、撃つ真似をした。

 

 パタッと、バイアス皇子が足をもつれさせて倒れ。

 

 極小の☢マークをつけたカプセルが、ひょいっと皇子の股間へ。

 

 リリアーナ姫が、ハジメたちの側を向いておじぎした。

 

―*―

 

 「出番よ、もう一人の私。」

 

 ーそうですか。

 

 「なかなか、酷いことを考えますね、さすが私です。

 

 さて、長い間こうしていては感づかれてしまうでしょうから、手早く済ませましょう。

 

 『生成魔法』『錬成魔法』

 

 フリッツ・ハーバーにも、エドワード・テラーにも、なる気がなかったのではないのですか?

 

 それでも、そうすべきと、それが大勢を救う選択だというのならば、私は行い、隠しましょう。」

 

 ーっ!?

 

 「コレ…

 

 …でも、リリアーナに、私情で国を動かすように勧めたんだから、私も私情だけではいられないわよね。

 

 リリィ…せめて、微笑みだけは絶やさないでくれるかしら…」

 

 「姐御、こんなところで何を?」

 

 「あら熊人族の…って、こんな数十人も集めて何を?」

 

 「ボスから聞いてないんですか?

 

 夜に、パーティーに乗じてハウリアが花火を上げるから、熊人族は帝城へ入るはね橋を占領しろ…って。」

 

 …南雲君、何やらせてるのよ…

 

 「いいけど…熊人族にも兎人族にも徹底して。

 

 日が落ちたら、絶対に、帝城北門の北にある草原には出ないように。街道より北にいると危ないわよ。」

 

 「了解であります、姐御!」

 

 …ヤクザじゃないわよ!?

 

―*―

 

 夜。

 

 パーティーは、リリアーナ姫とバイアス皇子の婚約を発表するモノでもある。にもかかわらず漆黒のドレスで現れ、バイアスと踊るときも作業のような踊り方の姫に、誰もが困惑した。

 

 そして、踊り終わった後。

 

 今度はハジメと踊り、名残惜しそうな様子を見せるリリアーナに誰もが嘆息しー

 

 ーそして、1人だけ、そんな場の様子を見もせずに、右手を震わせている者が。

 

 「…どうしたのですか?」

 

 珍しく、本当に珍しく制服ではなく、一石光は、フューレンで香織に買ってもらったヒラヒラの藍色ワンピースを着ていたーが、服が落ち着かないそわそわも、今は問題にならない。右腕だけが小刻みに震え、左腕はそれを隠すために右手首を押さえている。

 

 踊り終わったリリアーナ姫は、そんな一石に、声をかけた。

 

 「踊らない?」

 

 そして、一石は、リリアーナ姫の笑顔を見て、手を差し出す。

 

 男女で踊るのが暗黙の了解の中において、2人の美少女が、暗めの服をひらひらと泳がせるさまは、前にもまして客たちの目をひきつけた。

 

 ハジメが、一瞬、目をつぶる。

 

 「リリアーナ姫、これが、覇道を以てあなたを王道へ押し上げる一助よ。」

 

 手をつなぎ、踊りながら、右手の中のボタンを、誰にも気づかれぬように受け渡す。

 

 「あなたは、絶対に後悔する。私がしたように。

 

 それでも、あなたは誰かを、誰もを救いたい?」

 

 それは、禁断の果実。

 

 「はい。

 

 私は、リリアーナ・ハイリヒ、弱い民を扶けてこその王族なのですから。」

 

 会話もまた、音楽と喧騒に紛れて交わされた。

 

 「ノーブレス・オブリージュ、ね。

 

 いいわ、後悔し、呪われ、そしておびえなさい。その限りにおいて、神は誰一人祝福しなくても、地獄と、地獄の上にそびえる平和が、あなたたちを祝福するわ。」

 

 「コホン」

 

 ガハルド皇帝の空咳で、2人は離れた。

 

 「パーティーはまだまだ始まったばかりだ。今宵は、大いに食べ、大いに飲み、大いに踊って心ゆくまで楽しんでくれ。それが、息子と義理の娘の門出に対する何よりの祝福となる。さぁ、杯を掲げろ!」

 

 貴族が、令嬢が、グラスを掲げる。

 

 「この婚姻により人間族の結束はより強固となった!恐れるものなど何もない!我等、人間族に栄光あれ!」

 

 「「「「「「「栄光あれ!!」」」」」」」

 

 「そして、祝福あらんことを!」

 

 唇の端を思い切り歪めた一石が、グラスを放り投げー

 

 ー帝城は、闇に包まれた。

 

―*―

 

 …ああ、帝城が、血にまみれていきます。

 

 私は、まだまだ、青二才だったのですね。

 

 …皆様を、勇者だからと戦争にほうりこもうだなんて。

 

 守られている私ですら、怖いのに。

 

 でも。

 

 …ああ、首がまた一つ、飛んでいます。

 

 「この死体を死体ではなく数と数えられなくては、王様は務まらんのだ、娘よ。」…でしたね、お父様。

 

 私は、そうはなれそうもないけど。

 

 騎士や兵士の死体が並び、美しい森が焼かれ、犬人族が蹴り飛ばされ、首が積まれ…そうしないためなら、私は。

 

 カムさん、もう、いいのです。

 

 「止めてください!」

 

 「ヒカリ・ヒトツイシが、姫殿下の名において命ずる!総員、剣を引け!」

 

 ありがとうございます、ヒカリさん。

 

 「おい、何のつもりだ、姫さんに、会おうとしてくれなかった謎女?こっちは真剣な戦いの最中だってのに。」

 

 「そうです、姐御。その皇帝に、我らが狩られるだけの弱者ではないと」

 

 「弱者と強者、そんなくっだらないことを示して、何がしたいの?

 

 自分が弱者でないことにこだわるのは、『他人より強い』ことにしか自分の価値を見出せないから、自分に、矜持がないから。

 

 自分の強さを示さなければ満足できない、確認しあっていなければ安心できない、そんな心の小さい弱者どもに、あなたたちはいつ成り下がったの!?」

 

 「はっ、すみません、ボス!ですが」

 

 「こんな弱者どもより、強い人間を、私は、いくらでも知っている。

 

 自分より弱い者をこうしていたぶることでしか強さを証明できない弱者は、そこのへなちょこ皇子でも斬り捨てて安堵していなさい!」

 

 …いつもより、気が立っていらっしゃいますか?

 

 それも、罪の重さ…私が、ふがいないから…

 

 「リリアーナ姫、あなたは、ここの弱者どもとは、違うわよね?」

 

 「はい。

 

 …ヒカリ様、お借りします。」

 

 「おい、おいおいおい…姫さんが、直々に、戦おうって言うのか?」

 

 「この国は、実力を示せば、それに見合ったものを、という国でしたよね?

 

 私があなたに実力を示したなら、皇帝陛下、どう、なりますか?」

 

 「どうもこうもあるか。万が一にも俺を倒す奴がいたら、そうだな、そいつが次の皇帝だろう。」

 

 「ならば、私も、この国を、人間族を、変えたい。」

 

 「いってらっしゃい、姫。」

 

 「はい。

 

 …ガハルド陛下、決闘を申し込みます。」

 

 音が、遠くなった。

 

 私は、信じられないことに、皇帝陛下と向き合っている。

 

 …しっかりするのよリリアーナ!あなたの肩に、王国と、すべてのか弱い人々、救うべき人々が載っているのだから!

 

 「ちょっ、リリィ!?」

 

 「リリィ、ダメだ!

 

 くそ、一石、やっぱりお前、洗脳を!」

 

 「…ハジメくん、これ…」

 

 「あれだけ覚悟してるんだ。シアも、待て。」

 

 「お、いい目つきだ。

 

 …斬っちまっても、後で文句言うなよ?」

 

 「はい。陛下こそ、後で泣き言は」

 

 「言うかそんなもん。

 

 じゃあ、手加減なしで、いくぜ!」

 

 圧が、すごい…

 

 …でも、立つのよ、リリアーナ…

 

 「行くぞおらぁっ!」

 

 「行きますよ!御覚悟!」

 

 私は、左手に、力を込めたのですー

 

―*―

 

 ピカーーーッ!

 

 ドォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!

 

―*―

 

 ーそれは、夜空に浮かぶ太陽だった。

 

 誰もが、窓の外、帝城北方面、草原がある方を見た。

 

 巨大な火の玉が、膨れ上がり、衝撃波が城下を走り抜けて窓をビリビリ震わせる。

 

 令嬢たちが、へなへな倒れこんだ。

 

 「神よ…ああ神よ…」

 

 誰かが呟く。

 

 生成魔法の利点は、生産するのに気が遠くなるほどの手間が必要な物質を、ノーコストで作り出せること。そして、錬成魔法の利点は、イメージ通りに完成する以上作業誤差があり得ないこと。そしてまた思考系の技能は、超常的な計算速度をもたらした。

 

 6㎏の球状プルトニウムを、数ミリ秒の誤差すらなく一点に爆縮レンズにより圧縮した結果、それらは臨界に到達、連鎖核分裂を起こす。

 

 ーインプロ―ジョン式プルトニウム原子爆弾「微笑む王女の矜持」。

 

 推定核出力12キロトン。

 

 それは、トータスに、神の火が灯された瞬間だった。

 

―*―

 

 お日様?

 

 天のいびき?

 

 「…ひ、姫さんが、これを、か?」

 

 「は、はい…

 

 …私も、使うのは初めてです。」

 

 まさか、これほどとは…

 

 「もしこれが、帝城のてっぺんに在ったら、帝都の中はともかく、どこまで焼けるかしら。…リリアーナ姫、100個もあればトータスからヒトが消えるから、絶対ダメよ?」

 

 そ、そうですね…

 

 まさか、これほどのものを、これほどのものを、この世界に生み出して、使ってしまったなんて。

 

 「ああそれと、アレ、兎人族奴隷をさらおうとした帝国兵への『天罰』と同じ効果を、爆発があったところに近づくか爆発の数日以内に降った雨をかぶるだけでもたらすから、1時間以内に治癒魔法をもたらさないと悲惨なことになるわ。」

 

 「…ああ、すぐに指示を出す。

 

 姫さん、確かに、お前さんは強者だ。

 

 いくら俺たちが1軍の中で俺が強いお前が強いとやっても、軍まるごと吹き飛ばされちゃ話にならん。

 

 俺は降りる。好きにしろ。

 

 そうだ、バイアス…」

 

 「父上!俺は、納得しないぞ!他人の力に頼るなんて!」

 

 「…俺たちの心は、確かに弱かったかもしれん。一人で強くなろうと剣を振るい続けた結果がこれだ。貴様、あの火の玉に勝てるか?

 

 勝てるなら、それもいいが。

 

 ここで俺らがハウリアに殺されて、帝国が復讐を誓ったとして、帝国が消滅しましたではどうにもなるまい。」

 

 …ここまで、弱るのですね、あの皇帝陛下が…

 

 「うるさい!

 

 もういい、俺が、貴様らも父上も倒し、皇帝としてぇっ!」

 

 っ!?

 

 私は、無我夢中で剣を振るいました。

 

 「ぐ、ぁ

 

 ひ、え、な、ささっ

 

 げぇっ!ほっほっ!」

 

 吐き出されたこれは…赤い

 

 血

 

 剣が、首筋に、突き刺さって…

 

 「だ、ずげ…」

 

 すみませんー

 

 「ー私が救いたい人間に、あなたは、入れられないのです。」

 

 私は、剣に思いきり力を込め、その首を落としたのです。

 

―*―

 

 「王国の姫が、皇帝陛下を下した」

 

 ニュースは夜のうちに帝都を駆け巡った(「雨が降ったら外出禁止」「体調の異変があったら軍に報告」「北門より北立ち入り禁止」の命令と共に)。

 

 核実験「スマイル・オブ・ノーブレス・オブリージュ」を見逃した人間など、牢屋の中にいた亜人族くらいである。誰一人、疑いようもないーあれがリリアーナ姫によってなされたのなら、そりゃあリリアーナ姫は絶対的強者にして皇帝に足ると、誰もが思った。

 

 王国大使館はまったく蚊帳の外だったために、朝になり姫の命令で「帝国を王国により保障占領すること」という検討事案を押し付けられ愕然震え上がった。

 

 さいわい、すべての門は熊人族総出で封鎖され、また主要な軍事施設がハウリアの破壊工作を受けていた今となっては、さほど帝都の占領は大したことではないかに思われるーが、しかし、広大な領土までは手が回りそうにない。そもそも王国も魔人族侵攻後で人材は払底していた。

 

 ちょうどいいタイミングで、いやいや帝冠をかぶった帝城のリリアーナ姫から「亜人奴隷の即時解放」という勅令が発され、王国は最後の手段として、帝国内にいくらでもあふれている解放奴隷を取り立てて占領官にすることを思いついた。

 

 もちろん、昨日まで蹴飛ばしていた者たちの大昇格に反乱を起こしそうな者たちもいたが、ガハルド前皇帝は呆けているしバイアス皇子は姫自ら成敗されてしまったと言うし、それに大地をえぐり天にも届く雲を生み出し爆風を吹き果てさせる火の玉に対し剣で立ち向かおうとか考えるほどにはバカではない。

 

 かくて、着実にヘルシャー帝国は「ハイリヒ=ヘルシャー二重帝国」への道を歩み、フェアベルゲンも満足したというか原爆に気おされたので、人間族との関係をやり直すのに前向きになった。

 

 リリアーナ姫が積み重なる2国分の書類に泣くようになったのは、言うまでもない。




 オリヒロは、ハジメやシアやハウリアが何かしかけていることを知っていました。その上でその企画に被せて来たのです。

 コードネームの由来は「微笑むブッダ」です。初めて実験した原爆にそんな名前を付けようとは、正直当時のインド政府の正気を疑います。
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