ありふれていなければならない物理法則で世界最強 ※完結   作:十二の子

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 大量のGアンド感情反転の回。実際これやられたら後で自殺しますね。


考察:そこで、問われる世界の真理と真価
25 「大樹、ないし心の深奥へ突入せよ」


―*―

 

 ハルツィナ樹海にかつてそびえたっていたのであろう巨樹。

 

 再生魔法や4つの迷宮の証を用いた結果再生されたそれは、見る者の心を否応なしにつかむーまったく、「サンシャイン6・6・6」といい「微笑む王女の矜持」といい、起きること起きることのスケールが大き過ぎはしないだろうか?

 

 「『紡がれた絆の道標』ね…」

 

 「光ちゃん、どうしたの?」

 

 「石板にわざわざ書いてあるってことは、絆を試すような試練があるってことでしょ?」

 

 「どうだろうねぇ?」

 

 ミレディはニヤニヤ笑って見せたが、それ自体、イヤガラセの存在を証明していた。

 

 一石が、人差し指で、天乃河光輝を指さした。

 

 「絆?」

 

 「…私たちで何とかするしかないよね…」

 

 「それで何とかなるかな?いきなり大迷宮に挑戦しようだなんて身の程知らず、プークスクス!」

 

 「そんなわけない!俺たちは絶対に神代魔法を」

 

 「生首見て腰抜かしてた勇者が何言ってるのかしら。私はもう行くわよ。」

 

 根っからの寄生型冒険者である彼女をして、天乃河との絆をでっちあげるくらいなら一人で行こう、そう思わせた。

 

―*―

 

 …まったく、話にならないと言うか、話にならなさすぎると言うか…なんなのよ、天乃河…

 

 南雲君はそれしきの魔物、殴ってペロリと食べちゃうわよ?

 

 「…っと、危ないわね。」

 

 ゴクを抜き撃ちしながら、私は、しみじみ、エヒトが何を考えているかはともかく、天乃河光輝を勇者に選んだことだけは何も考えていなかったのかもしれないと思った。

 

 確かに、聖剣を抜けば、決して魔物を倒せないわけではないし、もちろん本人の身体能力も間に合っている。

 

 …だけど、魔物をなんとか倒すことくらい、私にだってできる。人間族の最高戦力だったら、ハジメと愉快な恋人たちがしているように、アリを踏み潰すように魔物を倒せなくてはならない。

 

 「…香織、魔力の補充、頼める?」

 

 「うん!」

 

 ゴクを投げ渡し、マゴクに持ち替えながら、私はそう考えた。

 

 …って、転移陣!?

 

―*―

 

 「…で、ミレディ、説明してくれる?どうして私、ゴブリンになってるの?」

 

 「なんて言ってるのかわっかんないなー。さては美少女じゃなくなってがっかりしてるんだね、プギャー!」

 

 …なるほど、そう言うこと、そう言うこと。

 

 絆…この迷宮は精神面を試すモノだと。

 

 幸い、ポンポン砲もカール砲もカチューシャも弾薬充分だし、いざとなれば副人格を呼び出せばいい…よくないけど。

 

 「『魔法力場全否定』展開範囲体組織全体。」

 

 「あるえぇっ!」

 

 「ミレディ、ハジメたちは相応に苦労し、勇者は挫折するでしょう。

 

 …私の心も、危ないかもしれない。

 

 私は、決して冷血女ではないけれど。

 

 むしろ、あらゆる選択に後悔してきた。

 

 血を流したことも、放射能を、原爆をもたらしたことも。

 

 だから、精神攻撃なんて受けたら、絶対に保たない。

 

 だけどね。そんな理由で、真理の探究と言う叡智の歩みを止めるわけにはいかないの。

 

 だから、試練を拒否し、お先に行かせてもらうわ。」

 

 「えっ…えー…」

 

―*―

 

 転移陣だけは、否定の技能を使うわけにはいかない。

 

 彼女の技能は、魔法を動かす魔力を伝える力場の存在を否定するものである。であるからには、転移魔法だけ可能にして付随効果は帳消し、とはいかない。

 

 だから、彼女はなぜか、バイオリンが置かれじゅうたんが敷かれた欧風の部屋で、書棚に並んだ本を眺めていた。

 

 「…論文の、原稿?」

 

 一枚、テーブルの上にある、流麗な筆記体で書かれた英文を手に取る。

 

 「…『運動している物体の電気力学について』?」

 

 変な感じがするな、と彼女は窓の外へ目を向ける。

 

 時計塔が、視界の中に入った。低い塔だが、時計盤はかなり大きい。

 

 「おや、キミは誰かな?」

 

 入ってきた、おひげの青年を見て、一石はハッとしたーアルベルト・アインシュタイン!?

 

 「マ、マイネームイズヒカリ・ヒトツイシ」

 

 おろおろ、彼女は英語で応えた。

 

 「ふうむ、キミも、真理の探究者かな?」

 

 論文名と、部屋の様子…間違いなく、1905年、アインシュタインが特殊相対性理論を思いついたころのベルンの彼のアパートである。

 

 「イエス。バット、ワイドゥユーノウアバウトミー?」

 

 「昨日鏡で見た僕と、同じ顔をしているからだよ。」

 

 (…あれ?なぜ、言葉が日本語で聞こえる?

 

 ああ、そうか、「言語理解」ね、なんだ。

 

 …え、「言語理解」って、何?

 

 トータス、技能?あ!)

 

 最も望む世界を見せ誘惑する大迷宮のトラップは、一石光が外国を望んだだけにあっけなく看破されてしまった。

 

 「ねえ、私のこと、どう思う?」

 

 けれど彼女はあえて、抜け出そうとはしない。

 

 「自分がしたこと、していくことは、自分でいつまでも後悔するし、引きずるけど、それでもやるからいいの。

 

 でも、私は、怖い。

 

 このまま、本当に真実が明かされて、全てが終わってしまうかもしれないのが。」

 

 そうして、この光景がしょせん夢幻だとわかっていながらも、助言を求めた。

 

 「キミは、そうやってあがきながらも、真理を求め続けるのだろう?

 

 神に人格はなく、自然法則こそが万象の神だ。僕たち人類は、こうして、その神秘に迫り続けてきた。」

 

 隣に座り、アインシュタインは論文を広げて、ペンを手に取った。

 

 「キミもまた、神秘を知ろうとし、知識を得ようとしている、ただの子供だ。僕と同じ、ね。

 

 僕は弱い力のことすら知らずに一生を終えた。そしてキミはまだ、今の僕より若いのに、4力全てを知っている。知の営みとはこういうものだ。

 

 面白いからと本を読み、面白いからと考えてみて、面白いからみんなにも教える。無邪気なモノだろう?

 

 キミも、童心に帰ればいい。」

 

 「…私、そういうわけにはいかないの。」

 

 「なぜだい?

 

 どこでも、考えることはできる。夢の中だって立派な研究室だ。わずらわされることなく、真理を追えばいい。」

 

 「だけど、私は、知ってしまったわ?」

 

 「状況は状況だ。時には責任より命を優先すべき時もある。

 

 僕は、キミが戦わなくても何とかなる、そう思う。」

 

 「…1度目の大戦であなたは兵役拒否を勧め、2度目の大戦ではあなたは兵役拒否を許さないと言った。

 

 戦中には原爆を勧め、戦後には廃絶を試みた。

 

 私は、あなたの科学者としてストイックに真理を追い続ける姿勢は尊敬するし、すぐに過ちを改める姿勢も見習いたいけど、でも、人格を全肯定する気はないの。」

 

 「ほう?」

 

 ペンが、論文の余白を奔る。

 

 「私は私の路を往くわ。だからもう、誰にも頼らない。

 

 さようなら、私の尊敬するDV男!」

 

 「そうか。」

 

 アインシュタインは、立ち上がり、一文を一石の目の前へ突き付けた。

 

 〈バット、ユーアー三―、ビカウズユアロールイズマイロール、リレイティブリー!〉

 

 そうして、景色が薄れゆくー

 

―*―

 

 どういう意味?

 

 まあいいわ、じっくり考えましょう。とりあえず…南雲君、寝言がうるさいわよ。

 

 「ミレディ…自分の仕掛けた試練で爆睡してどうするのよ…」

 

 「オーくん、あっ、ダメえ…

 

 えへへ、ミレディちゃんの美貌に遂におちたか…」

 

 …幸せそう。

 

 「ポンポン砲の弾は装填よし、と。

 

 台車もスムーズね、油を指した甲斐があったわ。

 

 先に行きましょうか。」

 

 私は、ストイックに真理を追い続ける。でも、無邪気に知りたいと思うから知を求めても、無邪気ではいられない。

 

 …果たさなければ。知ったことによる、責任を。

 

 でなければ、このプレパラートを、世界の真実を求める意思を、遺志を、引き継いだ意味がない。

 

 「…なんか、ネバネバするわね…

 

 それに、むしょうになんというか…」

 

 ムラムラする。ホルモンバランスでもおかしくなったかしら…10時間寝てないものね…

 

 …こういう時は、考え事をするに限るわ。…って前が真っ白で何も見えないじゃないああもう!

 

 「んビー―――ム。」

 

 重粒子線ビームを最大出力で、目の前のスライム(?)だけ焼き払わせてもらう。なんか癌の切除みたいね…っていうか、催淫物質込み?

 

 「…あのハーレム、大丈夫でしょうね。」

 

 特に香織。

 

 …それにしても、そわそわ落ち着かないけど、でも、照射を止めたらあっという間にスライムに埋もれるから手を下げられないし、服に触ってねばねばとろとろを払おうにも取り返しがつかなくなっちゃいそうだし…

 

 ああもう!ベッドで盛ってるハーレムの人たちほど発散できてないのよ!

 

 …でも、同じ基本欲求なら、個体の三大欲求より、種の欲求を満足させなくちゃ…

 

 …知識の欲求…

 

 「で、どういう意味なのかしら。」

 

 ー〈しかし、キミは僕だ。なぜならキミの役割は僕の役割だから、相対的に〉…あれだけは、私の心の代弁ではないと思うのよね。

 

 私の役割?

 

 アインシュタインの役割?

 

 平和を目指すのがアインシュタインの後半生の使命…違う、違うわ。だってあの時のアインシュタインは反戦運動にはまってなかった頃だもの。

 

 じゃあ、役割は「真理の探究者」?それはそうでしょうけど…

 

 文脈的に、私もまた、彼が原爆投下や家族の不幸を、その人格もあって招いたように、私も不幸を招く運命にあると言うこと?

 

 …あってほしくはない。

 

 真理を求めるだけじゃない。

 

 私はちゃんと、その過程で得た知識に対する、責任を果たす。

 

 だから…

 

 …無責任に、悲劇を呼んだりは、しない。

 

 それでも、私が選択せざるを得ないのなら。

 

 私はまた、香織に「生き血をすすって」と頼む、そちらの選択をするだけのこと。

 

 何も、悩むことはないわ。

 

 …なんか、考えてる間に冷めてきちゃったし。

 

 これで最後?

 

 着替えてから、偵察だけしてみるとして。

 

 今頃南雲君たちは後ろで何を…うわ、うっすら炎が見える…

 

 「あ、あの…」

 

 「ミレディ、何しに来たの?」

 

 「ここの迷宮の最終試練、ほんっとうに、ヤバいんだよ…

 

 …ミレディちゃん、ちょっと、隠れていい?」

 

 「バックドアは?」

 

 「ない。」

 

 ない!?

 

 「『お友達から逃げる必要などありません。仲良くなればいいのですわ』って…うう、寒気がするよぉ…」

 

 お、お友達?

 

―*―

 

 転移してみたら、なぜか、光ちゃんとミレディちゃんが座り込んでました。

 

 「…あの、光ちゃん?」

 

 「か、香織?

 

 …今すぐ、キ〇チョーか、アー〇製薬か、フ〇キラーか、何でもいいからホームセンターに言って買い占めてきてくれない?」

 

 「…え、何言ってるの?」

 

 ここ、トータスだよ?

 

 「香織…

 

 …俺も、同意だが、ちょっとスプレーじゃどうにもなりそうにないぞ…」

 

 「ハ、ハジメくん…?うっ」

 

 「ハジメさん、初めて目と耳の良さを後悔したですぅ…」

 

 あ、じかに見ちゃったの?シア、ウサ耳かわいいのにかわいそうに…

 

 ぞ、ぞろぞろ…私にも、羽音が聞こえる…うう…

 

 「香織、ユエ、シア、ティオ…

 

 行くぞ。」

 

 「う、うん…」

 

 「ん…」

 

 「さすがに背筋が凍えるのう…」

 

 そうじゃない人いたら怖いよ?あの大量の黒いのは…

 

 「ひいっ!か、香織…置いてかないでえ…」

 

 「ひ、光ちゃん、苦手?ゴ」

 

 「止めて!昔間違って食べちゃいそうになったの思いだしうぇっ」

 

 余計なこと言わないでよ!

 

―*―

 

 G怖いG怖いG怖い…

 

 ヒトのカタチになって…

 

 こ、こっち来ないで!やあっ!だめっ!

 

 G、じー、ジー…

 

 金色に…

 

 …あれ?

 

 なんで、こんなの、怖いと思ってたの?

 

 かわいらしいじゃない。毛があって、黒光りしてて。

 

 ホモ・サピエンスと違って戦争もしないし殺人もしないし爆弾も落とさない!すばらしきかな3億年の歴史!

 

 ゴキブリ万歳!

 

 こんなにかわいいんだから、食べちゃってもいいくらい…

 

 あーん

 

 ー「お前、いつも黙ってて、なんか考えてるし、面白いのか?」

 

 ー「正直アンタ、何考えてるかわかんないし気味悪いのよ。」

 

 ー「おい、なに喰ったか気づいてねえだろ」

 

 ー「あっはは、いい気味よ!

 

 アンタ今、ゴキブリ食べちゃったのよ!いつもボーとして、あたしたちの相手をしないからこうなるのよ!」

 

 ー「だな!天才の振りしてすまして、コイツ、バッカじゃねえの!ぎゃはは!」

 

 ー「そ、そんなんじゃないわよ!ただ、どうせ消化されちゃえば同じ栄養分だって思っただけ!」

 

 ー「強がりやがって、バッカじゃねえの、バーカバーカ!」

 

 …思い出した。

 

 「嫌いよ。

 

 ゴキブリも、人間の醜さも!」

 

 だから私は、香織が南雲君の話を中学校舎の片隅で八重樫さんにしているのを見て、この人と同じ高校に行くんだと思った。

 

 「蹴飛ばされてる人を、笑うでも、蹴飛ばすでもなく、惚れた、そんな香織を、私はずっと!

 

 尊敬して、目標にしてきた!

 

 一回限りだから、無駄にしないで!

 

 香織、あなたは南雲君が好きなんでしょ!」

 

 「南雲君が、好き…?何言ってるの?こんなに大嫌いで…」

 

 ああ、ゴキブリの海の中にある天使。だから、私は、どんなに香織が、あの小学生と同じ顔を私に向けても、託せる。

 

 「そんなにボヤっとしてると、ユエやシアにとられるわよ!

 

 優しい香織の王子様は!?

 

 笑った顔がちょっとかわいいってのろけてたのは誰!

 

 その感情は、事実をごまかさないわよ!

 

 証明しなきゃわからないの!?証明するまでもないでしょう!

 

 だから、今、あなたのために戦う人のために、これを使いなさい!」

 

 私が嫌いならば、それでもかまわない。

 

 私はそれでも、あなたのようにきれいな心を持てば、アルフレッド・ノーベルにはならないから。

 

 杖を、投げた。

 

―*―

 

 そうだ、私は…

 

 「ハジメくん、大好きだよーっ!」

 

 「ん!?」「香織さん!?」「抜け駆けかの!?」

 

 「ああ、もちろんだ!」

 

 「ありがとう、光ちゃん。」

 

 あの奈落で追いついたんだ。私とハジメくんを引き裂こうだなんてできないし…

 

 「お仕置きだよ。解放者っ!

 

 『縛界鎖』!」

 

 100万度の炎で焼かれればいいんだよ!

 

 「『フュージョンプラズマビーム』!」

 

 「む、負けていられないですぅ!」

 

 「ブレスが無意味に見えるのう!最大出力じゃ!」

 

 「こんなところでアピールしようだなんてずるい。『神罰之焔』!」

 

―*―

 

 空間魔法によって発生させた空間の切れ目は、それ自体が攻撃を可能にする。

 

 しかし、一石光はその上を行った。

 

 光の鎖を生成する「縛光鎖」の空間魔法バージョンで四方に伸ばした空間魔法のチューブに、オルクス大迷宮で回収した人工太陽をつなげた場合?

 

 人工太陽は、夜には月に見える謎性能を持っていたが、確かに核融合の炎を出していた。つまり、空間魔法で昼は太陽、夜は月面につながる球体なのだ。

 

 では、人工太陽を成す空間魔法に、チューブ状の空間魔法をつなげれば?

 

 太陽磁気より圧倒的に弱い地球磁気は、シーリングされていない部分からのプラズマの吹き出しを防げない。結果、チューブから、太陽コロナが噴出することになる。

 

 ゴキブリによって形作られたヒトガタは、四方八方へ照射される100万度からの放射エネルギーをじかに受けて焼き尽くされた。

 

 バラバラに分散させられた数百万匹のゴキブリは、そういうアルゴリズムなのか、上へと集まっていく。

 

 そこへ、ユエがふわり浮かび上がり、彼女が魂魄魔法で認めた者以外は生き残れない超絶的かつ超常的な炎の噴流をぶつけた。

 

 かくて、史上最も大げさな害虫駆除は、終幕となった。




 大迷宮、陥落。

 そもそもアインシュタインは日常会話では英語ではなくドイツ語を使っていたとか突っ込まない(遺言もドイツ語で、看護師はわからなかったとか)。

 残る大迷宮、1つ。
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