ありふれていなければならない物理法則で世界最強 ※完結 作:十二の子
―*―
シュネー雪原。
大陸南東部にある、白銀の世界で、年中雪が降り積もるすさまじいところである。その奥に、凍結した峡谷が、「氷雪洞窟」なる大迷宮として存在する。
もちろん、普通ならば迷宮へ行くまでに八甲田山雪中行軍もかくやの惨事を引き起こすこと必定なのだろう。が、雪が降り積もりまっ平な平原であると人工衛星の合成開口レーダーが教えてくれた今となっては、エクラノプランに飛べと言っているようなものである。
雪を後ろへ巻き上げながら、100メートル級の怪物機が雪原のすぐ上を滑っていく。
そろそろ峡谷だという段になって、太い胴体の上、軸線上に3つに並んだ土管のような物体から、煙で吹雪を灰色に汚しながら、ミサイルが発射されていった。
ミサイルは、凍てつく峡谷に上空から入り込み、そして峡谷の内部、大迷宮の屋根を吹き飛ばしてくぐもった音を立てる。
「よし、行くぞ!」
ハジメが、雪の結晶型の防寒アーティファクトを配りながら立ち上がった。
後部ハッチが開き、吹雪が吹き込む。
峡谷の底、煙が上がるのははるか真下ー勇者たちにすら劣る身体能力の一石は、青ざめた。
―*―
広がる、氷のミラーでできた迷路。
その入り口に、南雲ハジメ、白崎香織、ユエ、シア・ハウリア、ティオ・クラルス、一石光、そして天乃河光輝、八重樫雫、坂上龍太郎、谷口鈴。この10人の挑戦者が、ある者は最後の神代魔法を手に入れるため、ある者は最初の神代魔法を手に入れるため、大迷宮の作り主の一人であるミレディ・ライセンに見守られつつ、立っていた。
ーもっとも、当のミレディは、せっかくの大迷宮の試練のうちいくつかを「爆撃で天井をぶち抜きショートカットルートをつくる」などという邪道で突破され涙目だったが。その上迷路も「導越の羅針盤」のせいで意味を成していないし。
「こんなはずじゃなかったのにぃ…」
ライセンでも結局迷路状の迷宮は攻略せず、ラスボスであるミレディ本人を外へ引き出した。解放者の迷路は不憫な目にあう運命なのかもしれない。
「どうせいやらしい仕組みは他にも無数にあるんだからいいんですぅ。」
「この雪だって、触れただけで凍り付くような代物みたいだからな。」
「…ってコレ、雪じゃなくて、ドライアイスじゃない…」
オイミャコン村ではあるまいに、気温がCO2の凝華温度を下回るなど、正気とは思えなかった。
そして、頭の痛いことに、後ろからいくつもの人型実体が迫ってきている。
ガタリと、いくつもの機関砲が並べられた。
カタカタと連射音がすべての音をかき消すも、フロストゾンビと言うべきナニカは、再生でもしているのか、かえって増えている。
誰ともなく、連射状態の機関砲を台車に載せ引きずりながら、走り出した。
―*―
行きついた先は、氷でできた半球状のドーム。
どうやら、その向こうに、フロストゾンビを動かすコントローラーがあるらしいーが、その前に、上下前後左右から無数に現れた氷の魔物をどうにかしなければならない。
「天乃河君、坂上君、こういうわけだから。
…私がわざわざ65階層に再挑戦させてあげた分、強くなってくれたのよね?ちょっと、あのカメさん倒してくれる?」
一石は、氷壁が変形して現れたフロストタートルを指さした。
「え、は?な、なんで俺?」
「何でって…戦いに来たのに、戦えって言われて、何でって…」
絶句しつつ、一石は自らもポンポン砲に徹甲榴弾を装填し、向かっていく。
「南雲君、香織、雪人形を止めてくるわ。」
「おう!」
「気を付けてね!」
そのまま、弾倉をカラカラ回転させ、着実に魔物の群れをかき分けていく一石の背中を見て、天乃河は呟いた。
「アイツにできるなら、俺にだって…
…俺にだってやれる!絶対に倒して見せる!」
「その意気だぜ光輝!俺も手伝うからな!」
「防御は任せて!全部、防いでみせるよ!」
そして、彼らが苦戦を始めたその前で。
ハジメは銃砲弾の雨を降らせ。
香織は磁束爆縮ジェネレーターを生成・錬成魔法で修理しながらレールガン攻撃を連発し、氷の魔物を数十体ずつ串刺しに倒し。
ユエとティオは豪炎で魔物を昇華させていき。
シアが、重力を上乗せしたドリュッケンで魔物を氷の結晶へと還元していく。
台風の目のごとく平穏の中にあるミレディは、ヒビがやっと入り始めた天乃河らのフロストタートルの姿を見て、どうしたものかと首をひねった。
「1体に時間がかかり過ぎかな?」
「龍太郎!雫!下がれ!行くぞ、化け物!〝神威〟!!」
聖剣から、純白の砲撃が放たれる。
ヒビが目に見えるようになり、魔石にまでヒビが伝わっていく。
フロストタートルが絶叫し。
「このまま消えてくれぇ!!俺は、俺にはっ!力が必要なんだぁああああ!!!」
「…こんなふざけきった力!『魔法力場全否定』!」
ーどちらが、早かっただろうか?
スイッチが切れたようにへたり込もうとしたフロストタートルが、完全に砕け散り、爆散する。
ほぼ同時に、ドームの中央で両手を広げた一石を基点とした広範囲にわたり魔力の伝播が成されなくなったことで、全ての魔物が身体を維持できず氷塊と化して砕け散り始めた。
急に力が失われ、倒れこむ天乃河、坂上、谷口。雫のみが、剣をささえになんとか立っている。
「おい、一石、なんてことするんだ!俺が倒せてないことになったら、迷宮に認められないじゃないか!」
「どうせ大筋と関係ないチュートリアルでガタガタ言わないの。」
息1つ切らさない一石の様子を見て、天乃河は表情を暗くした。
ただ、一石の表情も、同様に、優れない。
(今まで、イメージ力によって魔法が成されるのは、脳が伝播子を発散させるからだと思ってきた。
だけど、一定範囲の法則をトータスのそれから地球のそれに変える私の技能において、伝播子が使われることはあり得ない。
…じゃあ、何物にも伝達されないイメージを、現実のものとしているのは、いったい何?)
―*―
ドームを抜けた先の通路では、しばらく、弱い魔物の急襲や氷壁に隠されたトラップが乱立する中を進むこととなった。
もっとも、今さら、ハジメたちがそんなものに引っかかるはずもない。
これくらいはなんとかするだろう、というかできなきゃ笑う、くらいの心持で天乃河のほうへ意図的に魔物を取りこぼしていきながら、ハジメたちは進み、そして、4つのカギ穴のある扉へたどり着いた。
ハジメとしてはまだ進めると思ったが、同行者たちはそうも限らないだろうしと、コタツを取り出しまったりしていた。
一石に至っては、つっぷし熟睡している。ロングスリーパーにはつらい道のりだったらしい。
「…ふーん、なるほどな。」
眼帯の奥で義眼をチカチカと瞬かせ。
「香織、キーのありかがわかったぞ。」
「どうするの?」
「ここはやっぱり…」
パタッと倒れるようにして、ハジメが香織の膝に転がった。ユエもシアもティオも、暖かいものを見るまなざし。
だが天乃河だけは、歯ぎしりせんばかりの表情をしていた。
(なんで、なんで、あんなに香織は幸せそうに南雲の髪を撫でているんだ…)
「光輝、顔がさっきから暗いけど、大丈夫?」
「あ、ああ、雫、大丈夫だ。」
「…そう…」
「『サンシャイン6・6・6+』照射。」
「ん、『界穿』」
ユエが作り出した空間のゲートの向こうの魔物が、不可視の高エネルギー光線を受けて蒸発させられ、キーだけが回収された。ミレディが「うそん」と呟きつつ、シアと鍋の中の肉を奪い合う。
同様のことが、2回繰り返される。
「…ビームも撃ち止めか。
天乃河、行ってくるか?」
開いた口が塞がらないでいる天乃河らに、起き上がってミカンの皮をむきながら、ハジメは問いかけた。
フロストゾンビってSCPっぽくありません?迷宮による制御が暴走したらKeterシナリオですよね。
※「サンシャイン6・6・6+」:発電衛星は常に昼半球にいる軌道だが、それでは常に全球を攻撃範囲に収めつつ一点を集中攻撃できるようにもしたい攻撃衛星や、常に偵察を行う通信・偵察・蓄電衛星とうまくかみ合わず無駄と攻撃不能時間・域が生まれるため、反射衛星などを投入して対応したシステム。ビーム波長にもこだわっているので氷を貫通できた。