ありふれていなければならない物理法則で世界最強 ※完結 作:十二の子
―*―
コンコン
それは、南雲ハジメが、自分の能力の役に立たなさに落ち込みつつも、王立図書館から借りてきた魔物図鑑をベッドの上で読んでいる時だった。
「南雲くん、起きてる?白崎です。ちょっといいかな?」
すでに時間は深夜。なぜ?と思ったハジメが開けようとする前に、ドアが勢いよく開けられ。
「早く寝たいから手早く…とは言えないわね。」
くふっと笑う一石光の顔を見て、ハジメは嫌な予感にとらわれ、そして。
一石と入れ替わりに入ってきた白崎香織の姿ー身体のラインがわかるほどの、純白のネグリジェにカーディガンだけのいでたちーを見て、自分の予感が正しかったことに気が付いた。
―*―
…さて、と。忙しいんだけど、でも、見過ごすわけにもいかないわよね…
シャッター音が聞こえないように…
カシャッ
―*―
「え〜と白崎さんどうしたの?何かあったの?」
なんとか平静を装いつつ、ハジメは窓際のテーブルに香織を座らせ、お茶を準備した。
一方で香織もまた、内心では混乱していた。突然、光が引っ張ってきたので、言いたいことがまとまっていなかったのだ。
「えーっと…」
「…もしかして、一石さんに無理やり連れてこられた?」
「うん…」
しばし、気まずい空気が流れる。
「南雲くんも、不安?」
「…まあ、ね…」
いきなり異世界トータスに連れてこられて。
「でも、きっと大丈夫だよ。」
「…南雲くんは、戦うの?」
「僕なんか戦力にならないと思うけど、ね。」
「…私は、南雲くんに、戦ってほしくない。」
「え?」
さては足手まといなのかと、ハジメは頭をがっくりさせた。
「…覚えてるかな?私が、南雲くんをはじめて見た時のこと。」
そんなハジメの内心に気づくことなく、香織は話し始め。
「その時、南雲くん、土下座してたの。」
「えっ」
それは、ハジメも忘れていたような話だった…不良に絡まれていた老婆と子供を、ハジメは土下座することで助けたのだった。そして香織は、そんなハジメに、心打たれた。
「強い人が暴力で解決するのは簡単だよね。光輝くんとかよくトラブルに
飛び込んで相手の人を倒してるし…
でも弱くても他の人のために立ち向かえる人は
そんないないと思う。実際あの時私、自分が弱いからって言い訳して動けなかった。
だからあの時に動いた南雲くんは私の中で一番強くて優しい人なんだ。高校に入って南雲くん見つけたとき嬉しかったの。だからすぐに話しかけたの。
だから、私は…」
―*―
「戦ってほしく、ないの。
きっと戦ったら、変わっちゃうから。」
…そう考える時点で、誰しも、変化することを逃れられない。
「…そんなこと言っても、どうしようもないけど、でも…
南雲くん、ちゃんと帰ってきて、くれるよね?」
「…大丈夫だよ。きっと僕なんかが戦うことにはならないし。」
「でも…」
「それでも不安なら守ってくれないかな?」
…なんだ、言い出す手間が省けたじゃない。
設計図も描けたし、立ち聞きもなんだから戻って寝るわ。
…絶対、帰ってきなさいよ。
―*―
「私が、絶対、守るから。」
「ありがとう、白崎さん。」
ハジメは、内心、守られる側になったことへの恥ずかしさを感じつつも頭を下げた。
「絶対、いっしょに、帰ろうね。」
それでも、思いは変わらず。
この世界を救うのではない。
地球に、必ず帰るのだ。
すでに、2人の意思は、勇者天之河や一石とは乖離しつつあった。
「…じゃあ、そろそろ戻るね。」
香織は立ち上がり、微笑み、ドアを開け、歩き出しー
-盛大にずっこけた。
…ハジメは、スカートの中を見てしまう前に、顔をそむけた。
「いたたた…あれ?なに、この紙…」
「設計図、と…
『これを作って下さい。最後のピースを埋めます。私はアインシュタインにならってロングスリーパーなので、10時間以上してから起こして下さい。 一石光』…」
ハジメと香織は、顔を見合わせ、苦笑した。
―*―
「南雲君いる?」
今日も今日とて訓練を欠席し図書館にこもっていた一石は、訓練が終わったであろう頃合いを見計らって出ていったにもかかわらずハジメが見当たらないことを不思議に思い、手当たり次第に捜していた。
「あれ?南雲くんいないの?」
「いっしょに捜しましょうか?」
「ああ白崎さん八重樫さんありがとう。あと捜してないところは訓練場くらいだけど、訓練は終わったし、入れ違いかしら。」
「…一石さん知らないの?」
「何を?」
「南雲君いつも、訓練場のすみで自主練を…」
「あんのバカっ!」
一石は、それを聞くなり駆けだした。
(南雲君を恨むグループは厳然と存在するのに、一人で訓練だなんて!事故だって偽られたら…っ!)
ドンッ!
(間に合わなかったっ!)
「何してるの!檜山ぁっ!」
その叫びで、訓練場の片隅でハジメに対して魔法をぶつけていた檜山ら4人組は、振り向き、下卑た笑いを浮かべた。
「あん?南雲よりも戦えない一石じゃないかぁ!ここに風撃を望む“風球”」
「っ」
一石は、足元で起きた小さな爆発に弾き飛ばされた。
―*―
…スカートのポケットに手を伸ばせれば…
「ここに焼撃を」
…あんな、エネルギー保存則を無視した熱エネルギーの塊なんかに…神様なんてありえない存在のせいで…
「望む、炎球!」
アリストテレス以来の人類の叡智を、汚されてなるものかっ!
「『熱量保存の法則』っ!」
私は、だから叫んだ。
炎球は、私の目の前で、パッと、消滅した。
―*―
駆けつけてきた香織と八重樫雫が、何事かと瞠目しながらもハジメに駆け寄り、治癒魔法を行使する。
「一体これはなにが…?」
「おいおい、なんかやべえことになってねえか?」
さらに、聞きつけて現れた天之河光輝と坂上龍太郎も、倒れるハジメとその周りの幼なじみ2人、そしてしりもちをついて震えながら一石に次々魔法を当てる檜山たち4人を見ることとなった。
「あ、天之河、コイツやべえよ。魔法が、まったく効かねえ!バケモンだ!」
「魔人族かもしれねえ!」
失礼な。一石は顔をしかめ、スカートのポケットに入れていた手を出そうとしたその時。
「動くな一石!」
天之河の聖剣が、一石の背後に突き付けられた。
「…まさか、檜山の言葉を真に受けたの?
…私は、そこの南雲君を檜山たちがイジメているのを見て、止めに入っただけよ。」
「檜山、そうなのか?」
「違う!俺はただ訓練をつけようと思って…そしたら訓練に来ないヤツの化けの皮がはがれたんだよ!」
「そうか…俺も、『ままごとに過ぎない』とか言って来ない奴だから、うすうす怪しいと思ってたんだ。
そこを動くなよ一石。手を挙げろ。」
「はいはい。」
一石は、スマホをポケットから出し、掲げた。
「この写真を見ても、そんな世迷言を?」
「写真ってただの檜山の写真じゃないか?」
「白崎さんの後を夜な夜なつける檜山。今なら南雲への恨み言の音声データ付き。」
「…え、いや、でも、それは…」
檜山は、青ざめる。そして香織は、真っ白に表情が抜け落ちた。…初日に一石に連れられて以来、ついつい香織は毎晩ハジメの部屋を訪れていたからだ。
天之河は一方で、ハジメと香織と檜山の関係が理解できず、フリーズしていた。
(まさか檜山が、香織のストーカー?でも、そんな、じゃあ、守って?だったら、南雲は香織を…)
「やっぱり許せな」
「『ニュートンの万有引力の法則』!」
―*―
説明責任は果たした。
どうやら私の技能が、「物理法則に反する魔法を全否定」し「物理法則に従う事象に切り替えさせる」モノだということもわかった。
天之河の聖剣が、自分にバフを相手にデバフをかけることは聞いている。であるのならば、身体能力もブーストされているのだろう。それを無効化すれば、剣の重さを支えきれなくなる。
「…さよなら。南雲君、準備は終わっているのよね?先に組み立てておくわ。」
「ま、待て一石…くそっ抜けないっ!おい一石!なんとかしろ!」
なんとかしろって言われてなんとかする試しある?
―*―
…結局、無意味なことで時間をつぶさせられた。官僚機構め。危うくスマホをとられるところだった…
「…南雲君、コレ、%単位の精度はあるのよね?」
「うん。」
「少なくとも、測定できる範囲では、光の速さも地球といっしょ…何か見落としているのでなければ、プランク定数もいっしょで、物理法則はすべて…」
「そりゃそうでしょ、一石さん。」
「…なに?天之河に『一石と南雲は香織と雫に近づくな』って言われて、落ち込んでる?」
「え…?」
無自覚…
「私の技能の効果と言い、この世界は私たちの世界と同じ法則で動いていて、にもかかわらず魔法だけが浮いた存在として実在する…魔力ってなに?魔法ってなに?」
それでも、解明への手掛かりはある。
「唯一神」エヒト。
いつか必ず、すべての法則の由来に、私は、たどり着いて見せる。
※フィゾーの実験:光速度測定の実験。
光速度を用いなければ定義できないいくつかの概念が存在します。ブラックホール=事象の地平面もその一つ。またE=mc^2のような最重要公式が機能しており、魔法さえなければ地球と同じ法則でトータス世界が動いていることを確認したことで、一石光はこの先、理論を打ち立てていくことになるのです(よね?なにぶん思考実験なので…)。
2018/08/18改稿