ありふれていなければならない物理法則で世界最強 ※完結   作:十二の子

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 ハーメルンでは「天乃河光輝をいたぶると高評価される」向きがあるようで、ここで天乃河が死ぬ2次創作も存在するようです。

 …さて、どうしましょうかね。


30 「コウキ・アマノガワと真なる強さの法則」

―*―

 

 天乃河光輝は、ひしと、輝く聖剣の先を、南雲ハジメに向けていた。その後ろには、真っ黒な虚像天乃河。

 

 南雲ハジメは、その背に八重樫雫を背負い睨み返している。

 

 そして、ノイントに戻ったかのような無表情を天乃河に向ける、ミレディ。

 

 「…せっかく厄介ごとを片付けて帰ってきたのに」

 

 [よりにもよって修羅場とはね。まあ、こんなことだろうと、思っていたけど。]

 

 「この勇者は矛盾が多いものね。」

 

 一石光と虚像の一石光は、交互に喋りながら、2つの天乃河が1つになっていくのを眺めていた。

 

 [さぁ、俺。ヒーロータイムだ。悪者からヒロインたちを助け出そうじゃないか!]

 

 「うるさいっ。お前の指図は受けない。今だけ使ってやるだけだ!南雲を倒した後は、お前の番だということを忘れるなっ」

 

 「その今すらもあり得ないんだけど。」

 

 そして一石光は、流れをぶった切ったー

 

 ー彼女の望むとおりに、世界を変えるため。

 

 「『想像は現実化しうる。世界を証明する私の存在こそが、唯一の世界の真理』」

 

 ーその、概念魔法と言うべきかすら怪しい御業は、情報の解釈をー世界の法則を可能な範囲で書き換える。

 

 天乃河の姿が揺らぎ、0と1のバイナリが、その表面で無数に光る。

 

 そして、左右に割れるようにして、実像と虚像は分離させられた。

 

 「「な、なぜだ!?なぜ融合できない!?」」

 

 「い、今の、概念魔法、でもない、何!?」

 

 「魔力もなしに、何を…」

 

 再び、無数の情報が、書き換えられていく。

 

 確かに天乃河は、その虚像の存在情報を観測しようとしていた。それだけでなく、他のメンバーも。

 

 だが、それは、一石光の観測しない意思に、勝つことはできないー世界を世界たらしめるのが己自身の観測であり解釈だという真理を確信した今、彼女の無意識は世界の改変を邪魔しない。

 

 「『想像は現実化しうる。世界を証明する私の存在こそが、唯一の世界の真理』

 

 だから私は、ネコがいる箱のふたを開けて、天乃河の虚像が存在しない世界を選ぶわ。」

 

 その一言で、あっけなく、虚像天乃河は0と1の光を放ちながら消滅した。

 

 「なっ、なっ」

 

 「一石、お前、どこでそんな力を…」

 

 ハジメをして、目の前で起きたことが信じられずにいる。

 

 そして、そんな状況で、とりあえずと言わんばかりに、天乃河は聖剣を一石に向けた。

 

 「お前さえ…お前さえ裏で手を引いていなければ、全て上手くいってたんだ!香織も雫も、ずっと俺の物だった!この世界を勇者として救うはずだった!それなのにお前が全てを滅茶苦茶にしたんだ!」

 

 「そのことすら…

 

 いいえ、まったくもって反論の余地もないわ。」

 

 一石光とその虚像は、まったく同じしぐさを―両手を広げて見せた。

 

 「でもそれは、あなたが私に認められるに足りないから!

 

 知ろうとする欲望も、知ったことを活かす義務の達成も、すべてがないあなたに、滅茶苦茶にされない権利はない!

 

 あの時、一緒になって奈落の底に飛び降り、魔物をかじって生きながらえると言うことを果たさなかったあなたに、今さら『たら』『れば』を言わせるとでも!?

 

 私の世界の中心は、私よ!あなたじゃない!だから、私たちを認めないあなたを、認める義理はない!」

 

 意識の振れ幅が少し大きければ、一石光はこの時、「天乃河光輝が実在しない世界」のみを観測し、選び取り、世界を改変したかもしれない。

 

 だが、彼女はそれを望まず。

 

 「最初から、間違っていたのは、あなた。」

 

 「何を…っ」

 

 「『想像は現実化しうる。世界を証明する私の存在こそが、唯一の世界の真理』、聖剣のみ重力定数を100倍に。」

 

 「がっ!」

 

 重力を強めたのではなく、定数、法則そのものをいじくるという所業。天乃河の腕が聖剣に釣られ、身体が倒れ伏し、聖剣が柄まで氷の床に埋まる。

 

 「ひ、光ちゃん、なんて無茶苦茶を…」

 

 「まるで、エヒトみたいな…」

 

 ミレディが、ポツリと何事か漏らした。

 

 「それでは、舞台を譲りましょう。

 

 もう一人の私に、ね。」

 

 そして、一石光は、己の虚像を指さした。

 

―*―

 

 力は奪った。

 

 正直、無意識を意識で上回って、世界の在り方を脈絡なく想像することでその通りに改変するのは、精神力、とりわけ想像力を恐ろしく使う。…とっとと、ペンで剣を倒しましょう。

 

 「私の分身は、言葉で人を追い詰める迷宮特製。

 

 今ここにいるという茶番にすら意味を見出していいのなら、それもまた知識欲、真実欲を満たすため。

 

 あなたのおじいちゃんがそうしたように、真実をつまびらかに知ることで、それに対する責任を評決する法廷とすることができる。

 

 どんな場所でも考え、知り、行動を起こすことができるのなら、大迷宮の底もしかり。

 

 さあ、思考実験を始めましょう。」

 

 八重樫さんから、だいたいのことは聞いた。パラメータは充分。

 

 [今回の想定は、3点。

 

 まず『もし天乃河光輝が、間違って香織とともに奈落に落下していたら』

 

 そして『もし香織が、中学の時すでに南雲君を見かけていなかったら』

 

 最後に、『もし天乃河が、香織か八重樫さんに告白していたとしたら』。]

 

 あ、香織と八重樫さんがイヤそうな顔を。

 

 …そしてユエ?どうして、したり顔するの?

 

 [まず第一]

 

 「うるさい!余計なことを!」

 

 「天乃河、被告人は静粛に!」

 

 [あの奈落の底で必要とされた力は、蛮勇ではなかった。

 

 とりわけ、3・3・3の法則に従えば、3週間以内に充分な量を食べなくてはならないけれど、残敵掃討のみを行った場合でも、奈落の底を突破するのに1か月かかり、その間に魔物以外の食糧はない。

 

 さて、魔物の肉を食べなければ奈落の底から脱出できないことが証明された。

 

 では、魔物の肉を食べた場合。

 

 魔物肉を食べることに伴い神経をはじめとした各種器官が異常発生する過程で、体組織の90%以上が損傷する。もちろん、通常の動物には耐えられない。

 

 この現象を防ぐためには、ただ一つの例外を除けば、神水を呑むことで治癒速度を上回らせるしかない。そうでなくとも、神水は、あの迷宮において出現する魔物によって受けるケガを治すのに必要不可欠。

 

 さて、神水の自然湧出量は、決定的に足りなかった。そもそも液体状の神水は持ち運びに適さない。神結晶を得るには、錬成による掘削とその取得を目的としないという偶然の手助けが必要。

 

 つまり、南雲君が落ちていなければ、そしていっしょか先行していなければ、あそこで生き延びることは不可能だった。

 

 そして言わずもがな、奈落の底を香織が生き延びた原動力は、南雲君に追い付き、再び出会うことだった。

 

 よって、結局は南雲君と香織が結ばれる展開は変わらなかった。

 

 そもそも、奈落に落ちた段階で、香織の心はあなたを向いていなかったことが、あなたのすべての勘違い。

 

 まあ、もちろん、香織が一緒に落ちなかった場合は、南雲君が気付くまでに時間がかかり、優先順位が上下したかもしれないけど。]

 

 そしてティオ?何を思ったか知らないけど、例えそうでもあなたの順位は上がらないと思うわよ?

 

 [そもそも、八重樫さんの供述によれば、あなたが聞いていなかっただけで一目ぼれだったのだから、付け入るスキがない。

 

 それならばその時に洗脳したのではないかとの検証をしようにも、香織が初めて南雲君を見かけた時、彼は気づいてすらいなかった。それに同じ高校に行くことになるとその時点で知る由もないのだから、洗脳により好きにさせたと考えることは無意味。]

 

 私としては、例え洗脳であっても幸せならばそれはそれでいいんじゃないかと思うけど。当人が幸せならどこにも矛盾はないし、わざわざ真実を暴いて誰もを不幸にするのは愛や恋の場合褒められたことじゃない。偽りの幸せでも、砕く権利なんか誰にもないのだから。

 

 [そこで2つ目。

 

 もし、一切の南雲君との接点がなければ。]

 

 「そ、そうだ!それなら」

 

 [って言ってるけど、八重樫さん、どう思う?]

 

 「ありえないわ。」

 

 あらばっさり。

 

 [トータスに呼ばれて、普通に鍛錬して、普通に戦争に駆り出されることになり、普通に65層から何とか生還し。

 

 さて、当然オルクス迷宮が訓練場であるからにはまた迷宮を進み、どこかの段階で魔人族に出くわし。

 

 そして、私たちが助けに来なければ、死んでいた、と。]

 

 「そんなことはない!あそこから逆転して」

 

 [仮にそうだとして。

 

 弁護士であるあなたのおじいちゃんなら言ったでしょうね。

 

 戦争への参加をあなたが決めた時点で、どうあがいても殺人教唆だって。

 

 日本へ戻ったときに、どれだけの人が、あなたをヒーローだと認めてくれるかしら?]

 

 もっとも、帰ってから魂魄魔法で聞いてもらっても構わないけど。インフラトンではなく情報次元に直接干渉する神代魔法ならば、もしかしたら可能でしょう。

 

 「っ、でも、でも俺は正しい!」

 

 「[それが何か?]」

 

 [存在する事実はただ、亜人族へのジェノサイドを行っていた国家へ、協力していたというだけ。

 

 残念ながら、何も知らずに戦っていました、では、済まされるわけがない。]

 

 あの時すでに私たちは、等しく血にまみれる運命にあったのだから。

 

 [第一、10万の兵に勇者と聖剣を加えて20万にぶつけたら勝てるほど、世の中は甘くない。

 

 誰一人欠けずに、胸を張って、香織を隣に日本へ凱旋できる…そんなわけはないのよ。]

 

 まあ、どうあがいても戦争に参加した時点で絶望だったということね。

 

 [トータスに召喚された原因からして、勇者が必要だったから。

 

 つまり、他のクラスメートは巻き込まれたに過ぎない。

 

 であればあなたはまず最初に、頭を下げなくてはならなかった。私たちを帰すのは、できるかできないかではなくて、やらないといけないことだった。

 

 そして、あなたはやっぱり、その裏で中村恵理が企むことに気づけなかったでしょう…自分を中心にした痴話げんかで死人を出しちゃ世話ないわよ。誰も奈落に落ちていなかったら、王都ですべてが失われていたわね。]

 

 「そんな、そんなことは…」

 

 [ないというのなら、私は記憶を消したうえで時間を巻き戻す。]

 

 …返事なし、と。それと南雲君、銃口向けないで。

 

 [自信をもって、戻していいとは、戻った場合に香織が死なないと言い切れない、と。

 

 まあハッタリなんだけど。]

 

 …あ、みんな脱力した。

 

 [南雲君がいた結果、香織と八重樫さんが救われた。そのことを否定できないじゃない。

 

 さらにボーナスステージ。

 

 今まであなたは、話し合えば戦いは何とかなると思ってきた。だけど、事ここに及んで南雲君を斬ろうとしている。それは、人間には譲れない時、そして誰かを殺さざるを得ないと思う時があることの証左。

 

 それ自体が自らへの反証だけど。

 

 このさや当てが起きなかった場合、つまり、南雲君がいて香織と八重樫さんが救われておきながら、同時に2人をあなたがモノにできていた唯一の場合。

 

 『もし天乃河が、事態がここまで複雑化する前に、2人を自分のモノにするために告白していたとしたら』]

 

 「そ、そうだ!それだ!」

 

 …コイツ、やはり、致命的に勇者に向いてない。

 

 […無能と呼んだ南雲君に自分の恋人の安否を数か月任せる?

 

 その上、ねえ…まさか、二股したいとこの状況下で叫ぶバカでアホな勇者がいるとは思わなかったわよ。

 

 そもそもにして、2人ともいつまでも隣に、なんてストーカーじみた発想からして、おじいさんが見たら泣くわよ。そんな人に、誰が本当に自分の人生をなげうとうと思うのか…

 

 …いつまでもなんてしょせん幻想になったでしょうね。

 

 そう、その、自分にとって重要な人だからいつまでもいてくれと望む狂執的な心持ち。

 

 同じことを考えた人が、もう一人。]

 

 …後は私がやれと?虚像のクセになんとまあ…

 

 私はゴクを抜き、虚像の私を撃ち抜いた。

 

―*―

 

 「さて、仕切り直しましょう。

 

 あなたの最大の失敗は、そう。

 

 『香織も雫も、ずっと俺の物だった』?

 

 一番、あなたの物でいることを望んでいた中村恵理を、あなたは知らず、がけっぷちへ追いやった。

 

 自分のモノも管理できないのに、何を高望みをしているの?

 

 あなたが果たすべき責任は、ここにはないんじゃないの?

 

 本当に、何もかも失われたの?

 

 治し、そして取り戻し、手に入れられる、手に入れるべきもの。

 

 今南雲君を前にして初めて、、血と反吐と肉片と灰の上に得たいものを得、受け入れる覚悟ができたのなら。

 

 あなたは、まず、もう一度、血と反吐と肉片と灰にまみれ過ぎた彼女を、回収するべきで、それが果たせる責任で、残された選択肢。

 

 でなければ、この失敗を取り返さなければ、また、隣にいるべき人は掌の上から零れ落ちるわよ?

 

 これ以上失ってしまった後で過ちを認めるか、パンドラの箱に残る最後の希望が失われない前に過ちを認め箱を持ち去るか。」

 

 「俺の、最後の、希望…」

 

 「私ならば、この機会、逃せはしないけれどね。」

 

―*―

 

 ディスイズザラストチャンス。

 

 チャンスの神様の後頭部にわざわざ育毛剤をふりかけるような真似をしたのは、きっと。

 

 「ミレディ、何とかして、天乃河の虚像をもう一度作ってあげて。」

 

 「は?

 

 勝手に消しておいて、その言い草は酷いんじゃないかとミレディちゃんは思うんだけどなあー。

 

 もしかして、もうネタ切れ?さんざんミレディちゃんをいじめて来たけど、もうネタ切れ?ぶっざまー!」

 

 「ああはいはい。

 

 …後で土下座でもなんでもするから。」

 

 「…どうしてヒカリは、この勇者モドキに、ヴァンちゃんの魔法を授けさせる必要があると思うわけ?」

 

 …さあ、良心?

 

 「私も失ってはいけないものを失い過ぎたから?

 

 流れた血の量を減らしたいから?

 

 …わかんないけど、ただのワガママよ。」

 

 「…そういう、自由な意思なら、ミレディちゃんもうなずかざるを得ないねえ…それっ!」

 

 あ、出てきた。

 

 あわただしくてよく見てなかったけど、虚像天乃河、グロいわね。

 

 「もう、さらに失わないための力。

 

 さあ、天乃河光輝!

 

 最後に残されたソレを、せめて力強く、握りしめなさい!」

 

 …聖剣は、どちらを向くかしら?

 

 「…香織、今、あの聖剣」

 

 「喋った、よね?」

 

 「認めるとかなんとか言ったわね。」

 

 「ん…道理で魔力があり過ぎると思った。」

 

 「止めたほうがいいですかね?」

 

 「いや、その必要はなさそうじゃぞ。」

 

―*―

 

 [ほう、甘言に乗って妥協するのか?俺。]

 

 「妥協じゃない!」

 

 [いやいや、妥協だろ。香織と雫がどうあがいても手に入りそうにないから手に入りそうな恵理で我慢しようって。

 

 「っ…

 

 だとしても!

 

 まだ手に入るものを手に入れて、何が悪い!

 

 恵理だけは、恵理だけはまだ、俺の手が届くんだぞ!」

 

 [ほう、やっと、醜くなったな、俺。

 

 欲しいものを欲しいって言ってつかみ取る。

 

 まるでヒーローじゃねえ!ヴィランだぞ!]

 

 ー「だが、いい顔だ」

 

 「どいつもこいつも勝手なことを…

 

 俺は、俺は、俺はぁぁっ!」

 

 [おお、強くなったな、俺!

 

 ついに悪の味方になったか?]

 

 「…一石は何もかも間違ってる!アイツが正義だとは絶対思わない!

 

 だけど、俺が恵理のことに早く気づいていればっていうのはそうだった!

 

 時間を巻き戻すのは怖い、ああ、怖いさ!だから俺は、俺は!

 

 これ以上、せめて未来で、誰にも奪わせないぞ!

 

 お前にも!南雲にも!一石にも!この世界にもだ!」

 

 [俺自身納得がいってないくせに!弱いぞ!?]

 

 「納得できるわけないだろ!

 

 うりゃぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 [くっ…

 

 …くっそおぉぉぉっ!!!]

 

 「あっヤバい!障壁!」

 

 「うそ、光輝くんの攻撃なんて鈴には」

 

 「ミレディちゃん防御はにが」

 

 黒と白の光が、すべてを埋め尽くしたー




 天乃河、生きろ。

 生きてないと、中村が不憫すぎる。

 すべての責務を、果たしてこい。

 ーというわけで、心を折り、その中で希望を見出させるやり方を取りました。洗脳だとか言わない。彼の御都合主義的な思考回路なら、「今さら手に入らないことが確定的に明白な香織や雫を無理に奪おうとしてできないより、一石の恩情に甘えて、それができそうかもしれないうちに恵理を手に入れ守り通す」方へうまく誘導すればできそうだし、「恵理の心を壊してしまった責任をとるんだ」と自分の心を納得させれば勇者精神とも折り合いがつくし。

 何より、「すべてを守ることはできないけど、手に入れたいものだけは絶対に守る」。この根性は、クラスメートも世界もどうでもいいと言いながらハーレムメンバーだけは守ろうとするハジメのそれと同じです。一人の人間にできることなんてこれが限度で、だからこそ天乃河にも目覚めさせました。
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