ありふれていなければならない物理法則で世界最強 ※完結   作:十二の子

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33 「エヒトルジュエに対する万象の存在証明」

―*―

 

 光の柱は、移動し、ユエを包む。

 

 情報という観点から見れば、それは、巨大な、そして異常な、「反映する物を持たない情報」が、ユエの構成情報にアクセスし、ユエを実体にしようとする状態だった。

 

 ここにおいて一石が「インフラトン場全否定」を用いれば、物質世界に露出したインフラトンは相転移を起こし、それなりのエネルギーを対価にエヒトの情報をエントロピーを無視し消失させたかもしれないーが、彼女はそれをせず。

 

 そして、ユエが、手刀で、ハジメと香織の胴を貫く。

 

 「さて…

 

 …貴様らも問題だが、まずは、アンチテーゼ、貴様は知り過ぎた。」

 

 「ユ、エ…」

 

 「エヒト…なのか…」

 

 ドタっと、ハジメと香織が崩れ落ちる。

 

 「エヒトの名において命ずるー『動くな』」

 

 そして、その場にいた全員が、ユエの、否、エヒトの、たった一言によって、口を開こうとしたまま硬直させられた。

 

 「なかなか興味深いやつだったが、しかし、好奇心は猫をも殺すのだぞ?世界をゆるがせにしたのはやり過ぎたな。

 

 エヒトの名において命ずるー『ここで死ね』」

 

 一石は、右手に握ったゴクの銃口を右のこめかみに突き付けー

 

 ー引き金を引いた。

 

 左のこめかみから、脳漿と血液が醜く飛び散った。

 

 「ふむ、あっけない。もう少し手ごたえがあるかと思ったが。」

 

 誰もが、言葉もない。

 

 「こんなやつらに油断のしすぎだ、アルヴヘイト。」

 

 もはやぶよぶよのかたまりでしかないアルヴヘイトが、ユエの手をかざされ、もとの美丈夫へ戻っていく。

 

 「め、めっぞもごさせ。このよなじったいをびせてしまい、ゴホ、見せてしまい、申し訳ありませんでした、我が主。」

 

 「よい。久しぶりの戦闘であったからな。それに、イレギュラーやアンチテーゼの力も異常だ。仕方のないことと割り切ろうではないか。」

 

 「寛大なご配慮、心より感謝申し上げます!」

 

 「おや、健気なことだな。

 

 もう一度、エヒトの名において命ずるー『動くな』」

 

 檻の中から攻撃を加えようとしていた清水の目が、血走ったモノからヘビににらまれたカエルのそれになったまま、硬直させられた。

 

―*―

 

 ー再起動。

 

 「やはり、ユエの天職『神子』と、封印された意味は、エヒトの依り代だったのですね。」

 

 「何?

 

 アンチテーゼ、死にぞこなったか。」

 

 そう、死にぞこないました。それも、再び。

 

 「『生成』」

 

 「貴様、何をした?」

 

 「私の目的が、最初から、『神格との直接交渉権』であったこと、皆さんお忘れのようでしたが。」

 

 「なっ、一石お前やっぱり裏切ったのか!」

 

 「天乃河君、だから私はあなたに『すべて滅茶苦茶にした』と言われた時、これからそうすると確信したうえで、否定しなかったのですよ?」

 

 まあ、エヒトの御業を前に口を動かせるとは、そうとうな正義感がまだ生きているのですね。

 

 「エヒト神が下りるとしたらユエ。その条件は、アルヴヘイトと使徒が蹂躙され、盤上がひっくり返された時。

 

 そしてあなたは、その通り、今ここに現れました。」

 

 あ、南雲君と香織が、にらみ殺そうとしてきています。…すべて読んでいてその上であえて踊らされてきたのですから、裏切りと取られても当たり前でしょうね。

 

 「ほう。そして、死ぬ瞬間に読み込んでおいた使徒の人格で再生魔法を行使したわけか。

 

 だが、貴様に話すことなど何もない。この世界は我の世界であり、貴様の世界ではないのだからな。

 

 そして、貴様らが来た世界も、今にそうなる。」

 

 おもちゃを見つけた子供の目…

 

 くふっ。

 

 「ユエの身体で、物質世界への干渉権を得て、トータスの次は地球で遊ぼう、と?」

 

 「その通りだ。だが、アンチテーゼ、ここで排除される貴様には阻めまい。」

 

 「ええ。

 

 確かに、あなたの行動は阻めないですけど。

 

 でも、あなたも、私の要求を拒めません。」

 

 「大した自信だ。しかしそれもこれまで。

 

 エヒトの名におい」

 

 「時に、『ストレンジレット』というものを、知っていますか?」

 

 「なんだそれは?」

 

 「先ほど、生成魔法で作り出し、この空間のどこかに存在させている素粒子です。

 

 サイズはたった5,6フェムトメートル。

 

 わかりますか?もし、私が死んだら、1プランク時間5.391×10の-44乗秒以内にトンネル効果を起こし、存在位置があっという間にシュレディンガー方程式的未確定になるサイズです。

 

 あなたが私を殺すか、要求を呑まないか、あるいは自我を奪うかした瞬間に、私が観測により位置情報を確定させている1素粒子は、デッドマンスイッチ的に解放され、もう誰にも捕捉できなくなります。」

 

 「それが、どうした?」

 

 「ストレンジレットの別名、御存じでないでしょうね。

 

 『終末粒子』…ストレンジレットは、アップクォークとダウンクォークだけの原子核よりも安定な、ストレンジクォークを含む粒子体にして、触れた通常の物質をストレンジレットに転換する触媒になる物質なのですよ。」

 

 あ…さすが神格。みんなポカンとしているのに、慌てましたね。

 

 「私がコントロールを失わせた瞬間、ストレンジレットは運動し、衝突したすべての物質をストレンジレットに転換させながらエネルギーを発生させ、最終的には、トータスの全ての原子核が転換され、トータスは熱いストレンジ物質の塊へと変貌します。

 

 あなたが別の世界に言ったにしても、そのゲートは空気に混入したストレンジレットが向こうへ転移することを防げません。」

 

 例え何らかの防壁を施したところで、トンネル効果ー素粒子は小さければ小さいほど同じエネルギー準位であれば障壁をすり抜ける可能性があります。ゲートにおいてストレンジレットのトンネル効果転移が全く起きない確率が有意にあるなら、トンネル効果利用の量子コンピューターなんか誰も考えないでしょう。

 

 今でこそ、量子テレポーテーションによりストレンジレットの位置を固定していますが…

 

 「残念ながらすでに、私の要求を断った場合、あなたの逃げ道は、数秒で真っ赤な巨大粒子に変わる世界しかないのですよ?

 

 さあ、すべてが意味を失くした後で後悔するか、物事に意味を見出せるうちに要求をすべて呑むか、好きな方を選んでください。」

 

 「…よかろう。要求を聞こう。」

 

 よし。

 

 「私は、ただ、知りたいのです!

 

 この世界の真理!

 

 我らが万象の理論!

 

 では!如何なる理由がそれらを定め!そして、我らを用意したのか!

 

 ですからー

 

 ーあなたが知るすべてを、私に教えて下さい。」

 

 「すでに、知り過ぎだ。『神言』の正体にまで気づいた貴様に、これ以上のことを」

 

 「知ることができるのなら、この命、対価に捧げても構いません。」

 

 「…ふむ。

 

 アルヴヘイト、イレギュラーを代わりに始末せよ。

 

 我は、この小娘にいろいろと教えつつ、魂をこの身体に固定し、再び舞い戻ろうぞ。」

 

 「は、はっ!お任せください!」

 

 「では、行こうか。ついて来い。

 

 …その、ストレンジレットとやらは、神域からでもコントロールできるのか?」

 

 「もちろん。すべてを教えてもらった暁には、励起ハイペロン核子にして核崩壊させますので。」

 

 重力魔法で消去する手もあったけど、ブラックホールの情報エントロピー問題ってことでホログラフィックな情報次元的に残るんですよね…まあいくらでも手はあるし。

 

 「はい、参りましょう。」

 

 知の巨人の、肩の上へ。




 アンチテーゼ:「魔法」という体系そのものへのアンチテーゼ的存在です。

 このエヒトへの自爆的脅迫展開は、割と最初の方から「こうしたいな」と思ってきました。だからこそここにたどり着いてくれてうれしいです。

 ストレンジレットに「終末粒子」なんてあだ名はないです。すべての物質を膨大な熱エネルギーを放出しながらストレンジレットに変え、しかも反物質と違って全量が増えていくと聞けば危険極まりますが、実際には重力の作用を受けるので、他の星に飛び散ることはあまりないでしょう(もっとも地球をサッカーコート並みに縮めることはできますが)。一方でインフレーション前に宇宙を満たしたインフラトンは正真正銘の「創世粒子」ですが、最近の日本人は外国用語をカタカナ語で受容するのでそんなかっこいい名前では呼ばれません。

 一石がエヒトを脅し、これで逆転ーと思ったハジメたちの如何に絶望したことか。しかし彼女は、まったく違うモノを見ていてー

 ー次回、あらゆる真実が明かされる!
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