ありふれていなければならない物理法則で世界最強 ※完結 作:十二の子
―*―
「神域」。
それは、創世神ともいわれるエヒトが、普段いるとされる空間である。
その正体は、トータス宇宙の子宇宙的な空間であるーインフレーションがきれいに終わらなかったトータス宇宙では、インフレーションの際に生成された子宇宙との情報的連絡が、絶たれてはいなかった。
そして、そんな空間の中で、一石光は目を覚ました。
「よくやるね、ボク、びっくりだよ。」
中村恵理に、顔を覗き込まれながら。
「光輝くん以外はゴミクズだと思ってたけど、撤回するよ。
まったく、すごいゴミクズだね。」
「お褒めの言葉をありがとう。
ところで、ちょっと具合がおかしいんだけど」
「ああ、使徒の人格だけ神域についてきたら危ないって、人格を融合させたらしいよ?難しくてよくわからなかったけど。」
「簡単に言えば、二重人格が、キャラの使い分けになったってことね。
ああ、ところで中村恵理。」
「何?まだ、ボクの邪魔を?」
「いいえ。むしろ逆よ。
私は、あるべきものをあるべき場所に戻して、あまねく人に幸せになってもらえるなら、そっちの方がいいの。もちろん、わざわざボランティアするかは検討の余地だけど。」
「…はっきり言って。」
「わかったわ。
今すぐ、荷物をまとめて地球に帰れる準備をしなさい。
あなたのたった一つの宝物は、すでに、あなたをたった一つ最後に残された宝物だと気づいているから。」
「え…?」
「神の使徒に会っているのなら、あなたなりに、天乃河君を守る意図があったんでしょ?」
「それは…まあ…どう見たって光輝くんがボクと生き残れそうになかったし…」
「命がけでここまで守り抜いてきたものがあるのなら、しょせん似た者同士、命がけで守り抜いてもらえるわよ。
じゃあ。」
「…一石…」
―*―
「それで、あなたは何を見せてくれるの?」
極彩色。まともじゃないこの世界で、すでに私自身の存在もおそらくは怪しいでしょう。
では、リスクをそれぞれが負って、何を見せてくれるのかしら?
「そうだな…
しかし、貴様らの世界は我がトータスよりも上位の世界なのだ。その上で、面白いことを語れるとは思わんぞ。」
「なるほど、エネルギー準位が違うのね。
でも、きっとそれは、叡智の蓄積には関係ないと思うわ。
できれば、頭の中を全部見せてくれると助かるんだけど。」
「それは困るのでな…よし、それじゃあ、こうしよう。」
ユエーの姿をしたエヒトは、私の額に手を触れた。
変成魔法にもさらに勝る知識量が、私の脳内に入ってくるのがわかる。…ああ、知識欲が満たされるわ…
…
…
「そういうこと。」
「これで、全て知ったか?」
「いえ、ちょっと、2,3、考えることがあるわ。」
…この世界は、誰かの観測によって存在を立証されている。
この世界の法則は、つまるところ、その誰かの都合によって存在する。
それは、その「誰か」が知る法則、もっと言えば、その誰かの世界の法則が同じだからであり、そして私たちの思考回路がその誰かの模倣であるからだと考えていた。
では、なぜ、この世界の法則はかくのごとくで、この世界は存在するのか。
エヒト、否、エヒトルジュエの魔法の知識は、すべて、私のインフラトン理論と創造現実化世界理論に沿っている。
それはいい。
それとは別のー
ーこの世界の、記憶。
あまりにも、出来過ぎていて、それでいて、スキがなく。
エヒトに関する歴史をたどる限り。
そして、何よりも。
欠けた情報が、多すぎる。
エヒトは、確かに人間だった。
人間が、ある日天から知識を与えられ、ついに、神と呼ばれるべき権能を得て引きこもる情報体にまで昇格し、そしてついに依り代を得た、それだけのものだった。
では、どこから知識は降ってきたのか?
思い付き。
そう、思弁を重ねたわけではなく、思い付きだった。
「屈辱だと思うけど。
エヒト、再生魔法とかなんやかんやで、情報次元の、あなたが神格に至ったまでのログの確認をさせてもらえる?」
「ぐぬぬ…わかった。」
前にもまして膨大な…これ、物理脳だったら最大収容ビット数上回って脳波がピー言いそうね…
…
…
…情報は、みだりに増えることがない。
情報エントロピーの問題を持ち出すまでもないが、ブラックホール情報パラドクス問題を持ち出すまでもなく、量子状態に関する情報は増えることはなく、常にある情報によって次の情報へ変化していく。
量子情報、空間情報とはそういうもので、それを裏打ちするのがインフラトンだったはず。
別の世界から情報を持ち込んだ私たちの転移はともかく。
エヒトが神格に至るまでに、情報の量が増加し、因果律が完全に破綻している。
ー無から有が生まれるはずがない。
唯一、外部の観測者がこの情報を、書き加えた。
なんのために?
…やはり、理論的に説明するには、この世界は少々の問題がある。
それならば、それは、外部観測者の都合。
では、なぜ?
これではまるで、エヒトの興亡のみにしかこの世界の意味がないかのような…
あ。
もしかして。
これだけの情報があれば、この世界を、わけても私たちが転移する情報を創造した観測者の思考を、模倣することができる。
「どうしたのだ、アンチテーゼ。」
そして、その目的を、逆説的にたどることすら。
「アンチテーゼ、ね。
…そうね、私って、もともとは『魔法と言う、万物の理論によって説明できない現象』への、アンチテーゼだったのよね。」
ーそうか、そういうことか。
これが、天啓。
「何に気づいたか知らんが、気は済んだか?」
…しかも、観測者の思考回路は、まったく違うモノがいくつも想定される。二重人格じゃないとすれば、南雲君の言っていた通り。
「ええ。」
パチン。
「今、ストレンジレットも崩壊させたわ。
もう、私は、万象の訳を知った。」
「では、消えてもらおう、アンチテーゼ。
エヒトルジュエの名において命ずるー『消滅せよ』」
終わり、なのね…もう。
私は、終わりになる、べきなのね。
エヒトくんったらサービス精神旺盛。「どうせ殺すし余興」くらいのつもりでしょうね。
さて、すでに、一石光が気が付いたことについて、気が付かれた方もいるかと存じます(章タイトルが大きなヒントか?)。
そして、物語は原作を逸脱し、クライマックスへ!