ありふれていなければならない物理法則で世界最強 ※完結   作:十二の子

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 今や、エヒトルジュエは死んだ。

 新たな神域で、最後の戦いが始まる。


36 「真理は1ページごとに希望を否定し万象を肯定する」

―*―

 

 「来るぞ」

 

 日の出とともに明るくなり始めた世界が、急速に、赤黒くなった。

 

 神山の上空に、黒よりもなお黒い黒が現出する。

 

 アインシュタイン=ローゼンの橋。事象の地平面であり、宇宙と子宇宙を物理法則にのっとってつなぐワームホール。その両端はブラックホールであり、光が吸い込まれ波長がゆがみ空間すらもねじ曲がって鳴動する。

 

 空に、真円形の暗黒が姿を現し、そこから光の柱=ホーキング輻射が神山を照らし、ブラックホール情報パラドクスを解決するカタチで、ホーキング輻射に含まれる神の使徒の情報が再生され、物質となって次々に顕現する。

 

 「一石、使徒も使うのか…手段を選んでねえな。

 

 さて。

 

 存分に食らって逝け。」

 

 その一言とともに、神山を標的としていた加速器の1つが、ほぼ光速の陽子ビーム数京個を発射した。

 

 あるソ連科学者が誤って加速器の陽子ビームを頭に直撃させてしまった時、針路上の脳組織は焼け、千個の太陽よりなお明るい光を見たという(もっとも被曝範囲が細かったので彼は今もなお生きている)。加速器のビームが直撃するとはそういうことで、しかも使徒たちが浴びたそれは不幸なソ連人とは桁が違う。

 

 無数の神の使徒は、存在を裏打ちする構成情報をインフラトン場からたたき出され、あわれ、消滅させられた。空間が白熱し、膨大な魔力がバーストする。

 

 直後、黒い穴が、収縮し、虹色の光の輪を形作る。

 

 カー・ホワイトホール。その輪の内側は、事象の地平面ではなく露出特異点を形成し、さらにカー・ブラックホールと異なり計算上の解でしかないホワイトホールの概念は破綻なく質量体が通過することを可能にする(単純に、別宇宙への出入り口がこのカタチを取りえただけである。これがエヒトなら扉だったりしたかもしれないが、新たな神域の主は変なこだわりがあった)。

 

 説明されずとも、それが「神域」にいまや唯一君臨する「無神論者」へたどり着く路であろうと誰もが理解した。

 

 ハジメが飛び立とうとしたとき、清水幸利が、ハジメを呼び止めた。

 

 「南雲。

 

 一石をぶん殴る役目、俺にさせてもらえないか?」

 

 「なんでだ?」

 

 「…俺は、ウルで言われたんだ。

 

 『次私がやらかした時は、いっしょに撃たれるのではなく、撃ちなさい。そうでなければ、ロクでもないことをする。』って。

 

 俺は、はじめて才能を認めてくれた一石が、好きだ。だから、あいつとの約束は、果たしたい。」

 

 「はあ…

 

 …行って来い。でも、待たないからな。」

 

 「ああ、ありがとう、南雲!」

 

 「ティオ、乗せて行ってやれ!」

 

 「合点承知!」

 

 かつて、自分を洗脳した清水を乗せて。

 

 黒龍となったティオが飛び立とうとしたとき、園部が、天乃河と中村が、飛び乗った。

 

 「あたしも、このままにしておけないから。」

 

 「一度はアイツに勝たせろ。」

 

 「勝てるか勝てないかじゃなくて、ボクの気が収まらないんだよね。」

 

 誰もが、何らかの形で一石光に救われている者どうし。

 

 使徒が存在を消滅させられていく粒子ビームが奔る中で、黒龍は宙へと駆けあがっていった。

 

―*―

 

 せっかく、破綻のない理論上存在を持ち出したって言うのに、南雲君より先に来てしまうなんて。

 

 …でもまあ、謝っておかないといけないし。

 

 せめて、私が存在する意味を確定させてからでも、世界を滅ぼすには遅くない。

 

 しょせん、自己満足に過ぎないこんな結末なら、それも悪くない。

 

 ハロー、マイ、ワールド!

 

―*―

 

 距離感を喪失した、まったく真っ白な空間。

 

 本来はエヒトルジュエの認めた者しか通れないのだろう扉も、開け放たれている。それどころか、外部では無為に消滅と発生を繰り返す使徒の姿もなく、神域は完全に空っぽであるー新たな主の意図が透けて見える。

 

 「いらっしゃい、みんな。

 

 まさか、旅の行く末がこんな場末とは、最初にトータスに到着した時は思わなかったわよね?

 

 私はそう、希望に、満ち溢れていたわ。」

 

 後ろから、一石光の声がする。

 

 「希望に?」

 

 びっくりして、園部優花は聞き返した。

 

 「そう。

 

 あの頃の私が聞いたら否定するでしょうけどね。

 

 ステータスプレートがこんなになってしまった私からすれば、言うことはないわ。」

 

 一石光は、ステータスプレートを、白亜の玉座の上から投げた。

 

 一石 光 17歳 女 レベル:??? ランク:金

 

  天職:無神論者

 

  筋力:可変

 

  体力:可変

 

  耐性:可変

 

  敏捷:可変

 

  魔力:可変

 

  魔耐:可変

 

  技能:思考最適化[+並列思考処理][+瞬考][+超速演算]・超視力[+精密座標把握]・余剰意識領域活用[+他者思考模倣]・真理の確信[+想像の現実化]・言語理解

 

 「おいおいおい…『想像の現実化』ってなんだよ…」

 

 「もちろん、私の無意識が許す範囲の話ではあるけれど、その中で、意識によって世界を回転させる技能よ。概念魔法のさらに上にある何かね。」

 

 これはまったくふざけ切っている、勝てないわけだ、と、天乃河光輝は納得せざるを得なかった。

 

 中村恵理は、言われたとおりにユエを連れて神域から逃げた過去の自分を褒めた。

 

 「あの頃の私は、万象の真理を解き明かし、世界の存在理由にたどり着くことを、人類の至上命題と疑わなかったし、使命感に燃えていたし、他の世界の理を知って干渉できるエヒトという存在が私にさらなる叡智を加え、すべてが明らかになる大きなヒントが得られると信じて疑わなかった。

 

 だけど。

 

 まず、この世界の存在は、誰かの観測によって成立することがわかって。

 

 その誰かに納得しやすいから世界がこのようなカタチであることがわかって。

 

 その誰かの思考を模倣してみた時の、私の絶望は、きっと、誰にも分らないと思うの。

 

 観測者は、2人いた。

 

 まず初めに1つの世界が存在を保証された。それは、『南雲ハジメらの1クラスが異世界に召喚され、悪神から世界を救う』世界。

 

 そして、そこへ、もう一人の観測者が、私と言う異質な存在を加えた。

 

 何を考えて、2人の観測者は、それぞれ、そんな世界を存在たらしめようとしたのか。

 

 この世界の存在と、エヒトを巡る次第から、『他者思考模倣』で解析した。」

 

 「それで、どうだったのさ。」

 

 「…清水君、あなた、オタクよね?」

 

 「あ、ああ…なんで?」

 

 「『2次創作』って、知ってる?」

 

 「もちろん。それがどうし…

 

 …あ、ああ!まさか!くそおぉっ!!」

 

 清水が、絶叫しながら、膝をついた。

 

 「し、清水?どうしたんだ?

 

 おい、一石、お前、清水に何を」

 

 「天乃河、違う、違うんだ。

 

 2次創作ってのはな。

 

 『アニメとかラノベとかの作品に、設定を加えたりして、改変する事』なんだよっ!」

 

 その一言で、全員に平等に、衝撃が走った。

 

 「ボクたちが、創作…?」

 

 「嘘だろ、おい!」

 

 「あたし…あたし!」

 

 ひとしきり落ち着いたのを見て、やっと一石は、再び口を開く。

 

 「別に、この世界が誰かの創作であることそれ自体は、まだ『水槽の脳』でないだけマシよ。創作する世界と創作された世界を区別する方法があるわけでもなし。

 

 ただ、ね。

 

 最初にこの世界の存在を保証した観測者の思考を模倣する限り。

 

 この世界に本来私はおらず、本当ならば、内部的にこの世界を観測し保証するのは、主人公だった。

 

 でも、私は、思考実験的に、第二の観測者によって不当に加えられた。

 

 だから私は、この世界のエヒトと南雲君たちにまつわる本筋から第一観測者の思考を模倣することで、原作世界の様子を推察した。

 

 その結果、本来あるべき歴史は、第二観測者の『一石光という存在を加えたらどうなるのか』という思考実験で大きく歪められていたことが分かった。…実験を行った第二の観測者は、よほど陰惨か無邪気かどちらかね。

 

 そうして、私が加えられたことで、結果的には私は、本当は幸せであるべき人たちの幸せを奪ってしまった。

 

 例えば、ユエは本来、ハジメの一番になるはずだった。

 

 例えば、園部さんは南雲君を好きになれるはずだった。

 

 もちろん、代わりに、正史よりも幸せになれた人だって多い。少なくとも私は、私が幸福の総量を減らしたことはないと確信できるわ。

 

 でも、それでも。

 

 すべては、私がもたらした幸せを正当化してはくれない。

 

 すべては、私の存在を正当化してはくれない。

 

 すべては、私の世界の存在を、正当化してはくれない。

 

 私は確かに、私の世界を存在させ観測したことで、あるべき幸せを奪い、世界のカタチを歪めた。

 

 だから、私は、この世界を壊す。

 

 そうすれば、あるべき姿の世界だけが残るから。

 

 でも、私が私の世界を消すには、私はこの世界の観測を止め、『私が存在しない本来の世界』を観測しなくちゃいけない。観測者が自己の存在を否定することは因果上の矛盾だからできないの。もちろん、私が自殺しても、私が過去に存在した事実まではどうにもならないし。

 

 だから代わりに、私は、この証明に、私史上最後の実験を以て実証にすることにした。」

 

―*―

 

 2次観測者が、1人とは限らない。

 

 その仮定をもとに、私は情報次元へ探りを入れ、そして予想通り、無数の2次創作世界が情報次元では多方向ホログラフィック、同一存在に帰着する関係としてつながっていることを探知した。

 

 そのどの世界でも、『南雲ハジメ』は主人公で、ハーレムを築いていた。

 

 つまるところ、それらが、この世界の本来の存在意義で、真理だ。

 

 だとしたら、私がいる世界という絶望も、それらの情報を喪失することによって論理意義を失い、破綻する。

 

 「主人公を消滅させしめることで、この世界は、なかったことになる。

 

 そうすれば、あるべき世界へと再編され、あるべき幸せ、あるべき未来が守られる。

 

 私が成したいのは、まさにそれ。そのためにこそ、この歪んだ世界は滅ぼされるべき。

 

 でもね。

 

 本来。

 

 清水幸利、あなたは、ウルで死んだ。

 

 中村恵理、あなたは、神域で谷口鈴に敗北、消滅した。

 

 だから。

 

 正史では死ぬはずだったあなたたち2人を幸せの段階へと引き上げ、天乃河君、あなたに、最初から掌の中にあったのにつかめないでいた中村恵理という幸せをつかめさせられたのなら、それが唯一の、私の存在意義だったの。」

 

 「ま、待って!

 

 あたしにはよくわかんないけど、思いつめ過ぎなんじゃないの!?」

 

 「園部さん、その通りよ。

 

 でもね。

 

 思いつめてでも、世界はあるべき姿に戻されるべきだと、私は思う。だって、私は茶番の存在、本来あり得ない変数だから。

 

 清水君、あなたは私が好きみたいだし、本当は死んでたはずの人物でもあるから、ここに来るまでは手加減した。

 

 でも、この世界は、茶番の上にも茶番なの。

 

 だから私は、主人公を消し去ることで、この世界を消滅させて証明に変える。

 

 ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。

 

 南雲君に教えて。

 

 無神論者である私が神の玉座から降りるため、撃たれに来てください…って。

 

 『想像は現実化しうる。世界を証明する私の存在こそが、唯一の世界の真理』。帰って、せめて最期のひと時に、平穏を。」




 これが、「私たちは、改変された物語にいる」が、一石光のたどり着いた「万象の真理」です。…察していた方も多いでしょう。そして法則の理由は「それが観測者に理解しやすい『脈絡』だから」です(決して、観測者の世界の法則だからではないです)。

 そんなメタフィクショナルな真理でいいのか、とあっけなく思った方も多いでしょうし、ガッカリされた方もいらっしゃるでしょう。それについては最終話で少し補足しますので、それをばどんでん返しと思っていただければ幸いです(ただ、ありふれ世界の「真理」について皆さん、ご存じでしたよね?)。
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