ありふれていなければならない物理法則で世界最強 ※完結 作:十二の子
―*―
…なんだ。
「失敗、したのね…」
でも、ここで死ぬのも悪くないわ。
「おっと、死なせないからね。」
「あら、ミレディ。
自由な意思の下に、じゃなかったの?」
「ミレディちゃんの世界が、誰かが創ったモノ、書いたモノだとしても。
ミレディちゃんの自由な意思は、少しも揺らがないよ。
未来は、創れる!」
…そうか、そう言えば、相対性理論も言っているわね…世界は相対的だって。
なら、この世界が、この私が書き加えられた道化で変数だとしても、私はちゃんと考えているし、私はちゃんと生きている。
「それもまた一興、ね。」
まだ、知りたいことも出てきたし。
「あー…っ!やっと、解放されたわ!」
肩の荷が下りた。うん。
知ったことへの責任は、もう、果たそうとした。
でも、どんなに果たそうと頑張っても、私の世界と私を消し去ることは、手に余りました。
だから私は、せめて、近いところで、私に何とかなる範囲で、生きて行こうと思います、まる
「…南雲君たちも、放出されたわね。
これで、神域のエネルギー値も収縮に転じたはずだから、ビッグクランチ起こしてそのうち無くなるわ。」
「これでハッピーエンド、かなぁ?」
「でしょ?
それと言い忘れてたけど、私も翼出せるから。」
「あ、そう?」
無意識領域を縮めて、羽根をっと。
…ん?
…ん!?
「なあ一石、なんか、あの隙間、揺らいでないか?」
「南雲君、さっきまではごめんなさいね。」
「もう気にしてない。裏切ってユエを神にささげたかと思った時はぶっ殺してやると思ったが。」
怖い怖い。
「それにしても揺らいで…
揺らいで…
ねえ、ガタガタうるさいし情報エントロピーがおかしなことになってたから扉閉めたんだけど、向こう側、どうなってたの?」
「使徒がいっぱいいたからつぶした。宇宙になってたな。」
…はい?
「どうやらまだ一波乱…というかまだ、世界を壊さないといけなかったらしいわ。」
「え?」
「だから、あなたが神域でぐちゃぐちゃやったから。
…だから、あの神域が宇宙化して、もしかしたら知的生命体が生まれて、もしかしたらつぶれようとする宇宙を守ろうとして…
…なんてことがあったりすると、アレじゃない?」
「いやいや、ついさっきだぞ?」
…事象の地平面の向こうとこっちで時間を比べても仕方ないでしょ。誰も時間を同期させる観測者はいないのよ?
「それはないにしても、熱的死シナリオにおけるボルツマン脳ってこともあるのよ…
もともと、ムラが多い空間だったし。
でも、神域の法則は微妙に異なるから、向こうがむちゃくちゃやった末に崩壊すると、この世界が危ないのよ。」
「どうすればいい?」
「今から神域に戻るのも非現実的ね。神側も私もいなくなったらビッグバンまっしぐらの不安定さだったから、行ったら100億光年くらいあるかも。」
「それはごめんこうむりたいかな。」
香織、さっきのパンチは効いたわよ。「感情そのもの」で殴られるとは。
…最強の法則は物理でも魔法でも観測でもなく、感情そのものだったとは、ね。
「考えられるとしたら、神域の法則が直で触れた瞬間に、ただでさえ地球よりエネルギー準位の高いトータスの準位が低下する、ありていに言えば、『真空崩壊』して、『法則が全部書き換わる』かしらね。」
「な、なんかヤバそうですぅ…」
「シア、そこで震えると妾支えきれんぞ。」
「ん。黙って座る。
それで、どうすればいい?」
「概念魔法で固定するのよ。
ただ、概念もなにも1から違う世界との接点だから、神言レベルじゃ塵芥でしょうね。」
「どんな概念だ?
…いやもう、言わなくてもわかる。『物理法則』だろ?」
「コングラチュレーション!その通りよ。
魔法のほうは空間側でインフラトンごとどうにかしてくれるはずだから、私たちは物理法則を維持すればいい。たった1プランク時間だけね。
…とっても、困難よ。」
なにせ、暴走して壊れる世界を、安全に壊れさせる…
「何言ってるんだ、一石?
俺に、『できるかできないかではなくて、やらないといけないこと』があるって言ったの、一石じゃないか。」
うっわ天乃河に諭されるなんて。
…やりましょうか。
―*―
幸いに超加速器があることで、「微妙に違う法則を持った宇宙となった神域」が崩壊するまでの猶予がしばらくあると分かった。
「いい?
適用範囲はあの、紫に胎動する、神域があったあたり!
概念魔法の種類は「物理法則」だけど、魔法のほうはそれで何とかなるから心配しないこと!
それじゃあみんな、始めるわよ!」
シアが、オルクスのヒュドラを攻略しに「界穿」で消える。戻ってこれば、概念魔法持ちのハジメ、香織、ユエ、ミレディ、それに「想像の現実化」持ちの一石に加わり、現実固定側が6人になる。
「それと、私の、『想像の現実化』は、みんなの想念によって増強されるはず。頼むわよ!」
誰もが、うなずいた。
世界を守る、最後の戦いが始まった。
―*―
神山のてっぺん、もう教会の加護がないからやたら寒いし空気が薄いところ。
わずか2時間前に世界を消滅させようとしてた人間とは思えないけど。
私は今、世界を救おうとしている。
「香織、ユエ、シア、やるぞ。
ミレディ、一石、いいか?」
私も、うなずく。
「「「「「概念魔法『物理法則』」」」」」
「『想像は現実化している。世界を証明する私の存在こそが、唯一の世界の真理』ー『物理法則』」
ーっ!
来た!
でも、これが、この世界の法則なの!
消えなさい、神域!標準理論の向こう側へ!
「…くぅっ!ハジメくん、肩借りるね!」
「す、すごい魔力持っていかれる…!」
「概念魔法ってみんなこんなのなんですかぁ!?」
「ミレディちゃんもうびっくり!」
私は魔力は要らないって無意識が確信してるから「現実改変に魔力が必要」なんて誤謬関係ないけど、それでも、これだけの集中力を以てして、紫が広がろうとしてるだなんて…!
ピーーッ!
真空崩壊を起こし始めた!?
「誰かが維持をしくじった瞬間に光の速さで全宇宙を汚染するわ!すべてが無に帰す前に、押しやって、消し去るわよ!」
物理法則以外の理を、全否定ー…っ!
ーたくさんの人が、祈ってくれている。
ハウリアが、亜人族や魔人族や王都の民と帝都の姫とその他の人間すべてが。
園部さんが清水君が八重樫さんが天乃河君が坂上君が谷口さんが中村さんが先生がクラスメートが。
ティオがミュウがレミアさんが。
昨日と同じように今日が続き、今日と同じように明日が始まることを、知ってか知らずか、心の底で確信している。
だから、祈ったならば、想像したならば、観測されるならば、それは現実に。
ーなんで、なんでなくならない!?
せいぜいがボルツマン脳が引き起こす他世界侵食!因果律を無視するにしても、これだけの意志力を跳ね返すなんて…
待って?
あの神域宇宙の宇宙構造の因子になりえる、概念魔法をはねのける存在…まさか、エヒト!?
エヒトの情報残骸が、年月の間に揺らぎの中で確率論的に再構築してボルツマン脳化したとでも!?
「おい、ありゃ転移魔法だぞ…!」
「急がないと、詰みだねっ…」
「見るからにヤバいですぅ!」
「ティオ、魔力分けて!」
「うう、ミレディちゃんの身体使徒ボディだからか魔力が少なくなってるよぉ…」
「エヒト…あなたは確かに消したのに、まだ、まだ、バラバラにしてプールに撒いた腕時計がひとりでに元通りになるような確率論を以てしてまで、私たちを苦しめようというの!?」
さすがに、集中力が…
…ダメだと言うの!?絶対の物理法則すら、相対で、消え去るべき時が来たと!?
ー「その通りだ、ヒカリ・ヒトツイシ。
時も空間も、そしてそれを司る法則も、絶対のものはなにもない。
神エヒトが死んだように、自然法則という神にも、死ぬべき時はある。」
だったら、どうすれば…
ー「しかしまあ、いつぞや僕も言ったな。『バット、ユーアー三―、ビカウズユアロールイズマイロール、リレイティブリー!』と。
…時間と空間が、異なる次元が交錯し、真理が明かされる局面において、同じ役割を持つ観測者が現れることがある。
ある時は光と時空の関係を解き明かす天才。
ある時はタイムトラベルを監督する管理官。
またある時は、時空を渡り真理に迫る少女。
あらゆる次元で、あらゆる世界で、誰かが考え、解き明かし、僕が果たしたその役割を果たす。
そのような者たちの存在は、あらゆる次元で、世界で、宇宙で、可能性で、必然であり、そして時空が交錯し法則が揺らぐ時そこにいる。
トリニティ原爆実験の時にも、世界の崩壊を予測する者がいた。だが世界は崩壊していない。
世界は、いつだって、守られてきたのだよ。」
…世界を決める物理法則を物理学者が調べているとともに、物理学者が「見つけた」物理法則によって世界が支えられている…
ー「アルキメデス君が浮力を見つけたから王冠は浮かぶようになり、マゼラン君が世界一周したから地球は丸くなり、ニュートン君がリンゴを落としたから月は落ちなくなり、僕が相対性理論を見つけたから誰も光を追い越せなくなった。
世界はこうして、保たれてきた。」
そうか、物理法則からして異端なことを心の底から信じる観測者が増え過ぎたら、世界は書き換わり、今までの世界は観測を外れて消滅する…だから、物理学者は、「見つける」ことで守ってきた…
「今は、キミこそが僕で、僕の役割はキミの役割だ。
けれどまあ。
僕の信条は、神は無人格であることだ。
だから、キミに力を貸そう。」
私は、その幻聴に従いー
ープレパラートを、叩き割った。
私たちは、私たちが生きる今この世界をー
「「想念魔法ー」」
ー観測し、確定し、そして探求しよう、いつまでも。
「「ー『ありふれていなければならない物理法則で世界永遠』!!」」
ああ、空が、青い。
今まで、ありがとう。すべての探究者たち。
誰かに書かれた世界であることと、その世界の人物に自由意志があることは、実は少しも矛盾しません。なぜならばその人が自由意志でそれを成したと思う限り自由意志に過ぎないし、実際その人が自由意志で決めたことが実際には創作者の意思で行動決定されていても同じことだからです。
エヒトもまた観測者。例え消滅させられていても、バラバラにした腕時計もプールの中で悠久の時を過ごす間に水流だけで組みなおることがあるように、再生し、災いを成したのです。
魔法のある世界にやってきて魔法を極めて神殺しをなした一行が最後に行うのは「物理法則の固定」でした。そして、最後には再びーそれは幻覚か、亡霊か、運命か…
次回で、この2次創作は終了です。