ありふれていなければならない物理法則で世界最強 ※完結 作:十二の子
×物理学基礎論。
―*―
「…これはすごいわね。」
一石光は、巨大な獣のホネを見て、興奮を表情に出しつつ、ホネについた肉のスジをはぎ取った。
「いい具合に燻製になってるわ。」
白崎香織が、辺りを警戒しながら、足元にあった金属の筒を拾った。
「コレ、なに?」
「…薬莢。そういうことね。
もうここに用はないわ。動くわよ。」
一石は、はぎ取った肉をスカートのポケットに突っ込み、歩き出した。
―*―
…上がれないからいくつもの階層を降りてみたけれど、どこも、破壊、破壊、破壊で、ホネが散らかっていた。
ありがたい反面、「歩く樹」が数本しかなかったのは恨む。庭の柿の木だって冬鳥のために残すのに、あんなおいしいモノを狩りつくすなんて。
とにかくも、私たちは、南雲君のおかげで、無事に地下へ地下へと降りていくことができる。きっと、新しい力だけでは、どうにもならなかっただろう。
私は、後ろを振り返った。
白崎香織ー私が巻き込んでしまった人は、今も、私を守ってくれている。黒髪は銀髪へ、背は高くなり胸も…全体的に、日本人から西洋人に変わってしまってまで。
戦術もそうだ。白崎さんが魔物を食べることで得た「纏雷」に、頼っている。使い方を考えるだけの私は、頭でっかちなまま、なんの役にも立ちはしない。
…なぜ、白崎さんは魔物を食べることで次々と魔法を得ているのに、私には得られない?
私だって、あの、絶叫してのたうち回るほどの苦しみを、味わわなければならないのに。
なぜ、なぜなの?アインシュタイン。
魔法って何?そもそも、「魔力」が伝わるものであるからには、空間に何らかの媒体が…
ダメ、ダメよ私。それは光のエーテル仮説に逆戻りだわ。まず魔力の正体が粒子なのかどうなのか…うーん…
「ハジメくん、まだかな…大丈夫かな…」
「きっと無事よ。そこそこに散らかる痕跡は、銃火器のモノとしか思われないわ。それに途中の広間。崩れた岩と何かの外骨格は、確実に、錬成魔法によるもの…QEDとまでは言えないけど。」
問題は、見つけた足跡が、途中から小ぶりなモノが加わった2つになっていること…出会ったら叱り飛ばしましょう!
―*―
正の字19個と、4本の棒。
99階層を意味するしるしを描き、一石は座り込んだ。
「…え?」
空薬莢が転がっている。火薬はまだ、湿っていない!
「…白崎さん、急ぐわよ。」
「なんで?」
「これ見て。
この下の第100層は、たぶん強い。そしてそこか、その向こうに、南雲君はいる!近い!」
「うん、わかったけど、でも…」
「ええ、私たちは、錬成師ではない。武器もない。
…きっと、二撃目はないわ。」
魔法を撃ち合ったとする。その時に仕留められなかったならば、戦闘要員が1対1の状況では、魔法に長けた魔物のほうが連射速度が速く、撃ち負ける。
「一撃で…ってこと?」
「そう…だから、少しの間、私に猶予と、力をくれるかしら。」
「もう…友達なんだから、遠慮することはないのに。」
「…友、達?
私を、そう思って、くれるの?」
「違うの?私は、そうだって思ってるよ?」
「でも、私は、これまでも、これからも、白崎さんに迷惑を…」
「ううん、迷惑とか、そんなんじゃないの。
友達だから。」
ああ、そうか、これが友達なのか…一石は感動した。
いつだって、理詰めで物事を考える彼女は、途中でうっとうしがられ、仲良くなることをあきらめられ、見捨てられていた。それは、「口は突っ込むけど実際に出せる力は何もない」という彼女の在り方が、「出来もしないくせに生意気な」と思われたからでもある。
そしていつしか、一石光も、あきらめていた。オーダーを出す以上の関係ではありえないと、他人とはギブアンドテイクでしか関われないと。だからこそ頼り切っていた香織に対し、今でも生き血を差し出したいくらいの申し訳なさに駆られていた。
だから…
…極限状態で2週間弱。それでもなお、友達だと、迷惑を許してくれると、そう言ってくれた。
一石は、すがりつきたい衝動を抑え、設計図を頭の中に引きなおした。
「…これならいけるはず。
白崎さん、『錬成』を、この設計図でお願い。」
一体成型された多重巻きコイル、流体を流すパイプ、鉄の芯…そういったものを、一石が鮮やかに地面へ描いていき、50階層の広間で見つけた外骨格を食べて得た錬成魔法を使って香織が作っていく。
「後は、これで…」
2本のレールの間に、火薬鉱石を詰めた空薬莢を挟み。
「行くわよ、マイフレンド!」
「うん!」
2人は、高らかに、100層の岩戸を引き開けた。
―*―
魔法陣とともに、何かが、現れようとする。
「『纏雷』、今っ!てえーっ!」
レンズを備えた照準器を覗き込んでいた一石が、叫んだ。
香織が杖を振るい、スパークとともに、コイルに高圧電流が流れ。
「爆縮、今!」
ガッ!
爆轟の音が、くぐもる。
コイルを包む鉄パイプの内壁に塗られた火薬が、コイルを瞬間的に圧縮し、コイル軸方向に発生していた磁力線を押しつぶし。
強力な磁場は、そのまま、発電機に作用して大電圧大電流を生み出す。いわゆる「磁束圧縮ジェネレーター」だ。
パイプの中を冷却の魔法で流されていた液体アルゴンにより、超電導状態となってもう一つのコイルを流れるそれなりに強力な電流が生み出す磁場と、爆薬発電機の電流が直交し。
フレミング左手の法則に従い、交点上にあった空薬莢が、レールガン銃弾となって飛び出した。
衝撃波が、装置を破壊する。
電流が、火薬に着火し。
マッハ15の速度がもたらす摩擦で薬莢は蒸発し。
出現したばかりのヒュドラは、体内をズタズタにしてから貫通する寸前で爆発した火薬によって、胴体を一瞬膨らませたのち、ドシンと倒れこんだ。
「『縛光鎖』」
「『ニュートンの粘性流体の法則』」
あわれ、6つの首が落ち、7つ目の首も血圧が足りず血流が停止して涙と共に倒れた。…お気の毒に。巨大な首7つに酸素をいきわたらせるのには、魔法がなくては瞬時に脳死確定である。
「さあ、行きましょう。101層ではなさそうよ。」
―*―
「ふふ、ハジメ…」
天蓋付きのベッドの上で、全裸で横たわる意識のない青年。それを覗き込むように、少女が舌なめずりしている。
少女の手が、ハジメの首筋の噛み痕をなぞり…
「ストオォーーップ!!」
「そこまでっ!」
2人の少女の、叫び声が響いた。
「ん…!?」
青年ー南雲ハジメは、目を開けた瞬間に漂う修羅場感に、震え上がった。
はい、ギリギリゴール!というか、オルクス大迷宮RTAみたいになってて震える…
錬成は香織が例のサソリモドキの残骸の残りから得ています。ハジメほど使い勝手は良くないです(天職ではないので)。
磁束圧縮ジェネレーターは、ソ連が誇る叡智です(今は西側にもありますが)。レールガンのような高電圧を必要とする兵器に使用される計画だったようです(アメリカのSDIとか)。
やっぱりハジメ×香織推しなのですが、ハジメがいったん非情に堕ちてしまわないとシアを見捨てたりしてくれないし、ユエの立ち位置も怪しくなるし云々で、結局タイミングはこうなりました(おかげで香織さん御一行には残敵処分&死肉あさりみたいなことをさせてしまい申し訳ありません。)。でもコレで、香織も原作ハジメに準ずるくらいの強さになってくれたのでは?(ハジメに対し物理7割、魔法9割くらいを想定しています。先駆者のみなさんほど才能がないので、ステータスプレートは考えません。)
だんだん投稿時間が遅くなっていますが、実はライセン編まで書き終わっています。単純に投稿処理は課題とか終わってからしているだけ…うう。