ありふれていなければならない物理法則で世界最強 ※完結   作:十二の子

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 ライセン編スタートです。
 戦闘行為、それも異世界でのことでありますから、多少のエグいことは行われます(特定の人種=亜人族へのジェノサイドじみた扱い、大勢力=神の肩入れ下で緊張下の2大勢力=人間と魔人など)。最初の最初にハイリヒ王国をイスラエル、トータス全体を中東に例えた(これも語弊がありますが)ことを思い出してー
ーここから先は、容赦のない紛争地帯であるかもしれません。


方法:神代魔法と、再会への道筋
8 「子曰く、人に貴賤貧富の別なし」


―*―

 「…そんなことだろうとは思ったけど!」

 

 真っ暗な洞窟の天井を見上げ、一石光は叫んだ。

 

 「…ヒカリちゃん、解放者の住処なんだから、隠すのは当たり前じゃない?」

 

 「ビタミンDが足りなくなってホネがポキンといったらどうするのよ。」

 

 「…一石、その…」

 

 「私は再生で治るし、ハジメと香織はそんなにヤワじゃない。」

 

 なんともごもっともな話で、一石はうなだれた。

 

―*―

 

 「戻ってきたのか、やっと。」

 

 「ん」

 

 ハジメが呟き、ユエが答える。香織は感無量でお日様を見上げ、一石は両腕をいっぱいに広げて身体を反り返らせる。

 

 「よっしゃぁああーー!! 戻ってきたぞぉおおおおおっ!!」

 

 そして、広げた両腕を縮め、耳をふさいだ。

 

 一石は先手先手で動く人柄なので、他の3人は「思う存分叫んでくれっていうメッセージか」ととらえた。

 

 一石が、指輪になっている「魔晶石」を黙って差し出す。香織が、歓喜の叫びを上げながら魔力を注ぎ込む。

 

 「さて、と。」

 

 「…不粋なやつら。」

 

 「でも、ずいぶんと気配が弱くない?」

 

 「それだけ俺たちが強くなったってことだ。」

 

 ガシャン。

 

 ボンボンボンボンボンボンボンボン!

 

 いつの間にか現れ、今にも襲い掛かろうとしていた魔物たちが、血しぶきを上げた、というより、血しぶきに変わった。

 

 「南雲君、コレ、すごいわね…」

 

 「ん、ハジメはアーティファクトの天才だから。」

 

 ボンボンボンボンボンボンボンボン!

 

 「故障癖があるかもしれないから心配したんだがな。」

 

 「壊れてもハジメくんなら直せるんだよね?」

 

 「もちろん。」

 

 上下2段に4つずつ重心が並び、両側をドラム型の弾倉が回転する。秒に数発吐き出される砲弾の反動を、台車がしっかり受け止めていた。

 

 8連装機関砲「ポンポン砲(らしきモノ)」は、直径40ミリの銃弾(炸裂弾)で魔物を引き裂いた。オリジナルは故障や連射性能、飛距離に問題があったが、魔法で動き本格対空戦を想定しないならばそれらは特段問題ではない。

 

 「ありがとう。これで最低限、身を守れるわ。」

 

 「そりゃどうも。」

 

 他にもいろいろと作っていたので、ハジメは「身を守れる」どころではないと思ったが、言及すれば自画自賛になりかねないのでせずに、地面に手を触れて錬成をした。

 

 作り出されましたるは4輪駆動の4座席荷台付きトラック。荷台に200㎏以上あるポンポン砲を乗せればあら不思議、地球では武装勢力に愛用される即席戦闘車両、いわゆる「テクニカル」の完成である。

 

 「さあ、行くぞ!」

 

 「ここがライセン大渓谷であるからには、西が砂漠、東が樹海よね。どっち?」

 

 「もちろん東!」

 

 ハジメが運転席に座り、香織が助手席、ユエが後部座席。一石は荷台で機関砲座にとりつき、テクニカルは枯れはてた渓谷を疾走していった。

 

―*―

 

 グルガアアアアアアア!!!

 

 「射撃用意…いえ、待って。」

 

 「ひいい!お助けをー!!」

 

 「…なんだあれ。」

 

 「ハジメくん、ああいうの、好きだったよね?」

 

 「…ハジメ」

 

 ユエのジト目が、ハジメに突き刺さる。香織も、顔は笑っているが声が笑っていない。

 

 泣き叫びながら、頭が二つあるティラノサウルスのような魔物から逃げ惑う、ウサ耳の露出が多い少女。

 

 「兎人族…?でも、亜人が樹海から出てくるのは奴隷としてだし、ここは本来処刑場…」

 

 「じゃあ、悪ウサギ?」

 

 「ハジメくん、どうする?」

 

 「どうしようか…」

 

 ハジメ的には助けるつもりはなかったが、香織に言われてはどうしようもない。これは、自動発生ではない魔物全てが倒されてから後を追ってきた香織には、まだまだ非情さが足りないと言うことでもある。

 

 と、ウサ耳が猛然とテクニカルへと走ってくる。

 

 「やっどみづけまじだよおー!だずげでぐだざいーっ!死んじゃう!たすけっ、おねがいじまずうーっ!」

 

 「南雲君、射撃許可を。あの魔物は解剖したいわ。」

 

 「…香織、治癒を。助けるぞ。」

 

 「うん!」

 

 キキ―っとテクニカルが停車し。

 

 ボン!

 

 ポンポン砲が、火を噴いた。

 

 脚を吹き飛ばされた双頭ティラノは、バタンと倒れる。

 

 もがく魔物。ユエが魔法で氷漬けにした。

 

 「し、死んでます……そんな、ダイヘドアが二撃なんて…」

 

 「ユエ、首の付け根からこう、胴体を縦に真っ二つに…いける?」

 

 「余裕。『風刃』」

 

 魔力が10分の1まで低減されるライセン大渓谷にあってなお、ユエは魔法だけでダイへドアといわれるらしいそれを、フリーズドライ&2枚おろしにした。

 

 「結合双生児か、あるいは…どっちの脳の命令が優先されるのかしら…」

 

 「…ひい、あの人、神経鉄なんですか…?」

 

 「…そうかもな。」

 

 「あなた、名前はなんて言うのかな?それと、どうしてこんなところに?」

 

 「あ、あの、治癒までしていただき、ありがとうございます!私は兎人族ハウリアの一人、シアと言いますです! とりあえず私の仲間も助けてください!」

 

 「…はあ?」

 

 「…ごめんハジメくん、思ったよりややこしいことになりそう…」

 

 「あ、ユエ、ダイへドアの頭も、おろしちゃってもらえる?」

 

 「ん、絵面が猟奇的。」

 

―*―

 

 「なるほど、未来が見える固有魔法で、一族ともども追い出されちゃった、と…」

 

 「ヒカリとは正反対。」

 

 「なんか呼んだ?」

 

 「呼んでないぞ。コイツと真逆、魔力を持ってる亜人族と、魔力を持たない転移者って話だ。」

 

 …あっ、そう。

 

 それにしても、あの頭、結合双生児にしてはしっかりつながっていたわね…「もともとそういう種類」であるかのように。でも、結合双生児は奇形であっても遺伝じゃないし、突然変異でああなったとしても次代に引き継がれるわけが…

 

 「おーい、樹海の案内人が手に入ったぞ。…ってまた聞いちゃいない…」

 

 「あれで警戒は出来るんだから、ヒカリもたいがいバケモノ。」

 

 …そもそもこの魔物の谷で、あのような形状が有利に働くとは思い難い。頭2つなんてどう考えても不便だし、脳みそが両方同じ大きさだったからには独立意思。ということは左右で判断が別れたら動けないわけで、そりゃあ攻撃力は2倍でしょうけど…

 

 「…ねえ、魔物が強くて、一番困ってきたのは?」

 

 「…私たち、弱い亜人族です…ヒカリさん、それがどうかしましたか…?」

 

 「いいえ、やっぱりエヒトはクソ真面目なクソだって話よ。」

 

 「光ちゃん、女の子がクソとか言っちゃダメだよ!」

 

 …今さら…

 

 「そんなの分かり切ってると思うが?」

 

 「…後で話すわ。それより、そろそろじゃない?」

 

 「知ってる。」

 

 「あ、そうでした!皆のいる場所です!」

 

 「砲座、準備よし!」

 

 「いや一石、俺たちも、そろそろ戦いたい。」

 

 「わかったわ。なんか飛んでるみたいだけど、いけそう?」

 

 「もちろん。さて、と…

 

 吹っ飛べ残念ウサギ!」

 

 シア・ハウリア、この短時間であなたいったい何をしたの…

 

―*―

 

 「いやはや、ハジメ殿、香織殿、ユエ殿、光殿。娘のみならず一族までもお助けいただき、何とお礼を申し上げたらよいか…父として、族長として、深く感謝いたします。」

 

 「それについては樹海の案内ってことで話は付いてる。」

 

 「そうでしたな。」

 

 「…ところで、カム・ハウリア族長、聞きたいんだけど、私たちを恐れないの?」

 

 「何を言います。シアが信頼する相手です。信頼しない理由がございません。」

 

 …いやいっぱいあるけど。

 

 とりあえず、南雲君がトラックをしまいたそうにしているので、宝物庫にポンポン砲を戻す。…もうすぐ、渓谷は終わりらしい。

 

 朝に大迷宮、昼に渓谷、夜には樹海。旅というのはこういうものなのね。

 

―*―

 

「おいおい、マジかよ。生き残ってやがったのか。隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁーこりゃあ、いい土産ができそうだ。」

 

 渓谷を登ったうえでは、30人ほどの帝国軍が待ち構えていた。暇なの?

 

 「小隊長! 白髪の兎人もいますよ! 隊長が欲しがってましたよね?」

 

 「おお、ますますツイテルな。年寄りは別にいいが、あれは絶対殺すなよ?」

 

 …待ちなさい。まだまだ兎人族については知りたいことが…というかだいぶ無茶言ってない?

 

 「おい、お前らは…人間、か?なんで渓谷から…」

 

 「おおかた奴隷商だろう。後ろの女なんか、質屋のおばちゃんそっくりだ。ケチな顔してやがる。」

 

 …は? 

 

 「とりあえず、まあ、全部、国で引き取るから置いてけ。」

 

 「断る。」

 

 「は?聞き間違いだよな?俺たちが誰だかわかって」

 

 「ハジメくんは、断る、って言ったのよ。」

 

 「あきらめてとっとと帰るべき。」

 

 「あぁーなるほど、よぉーくわかった。てめぇらがただの世間知らずの糞ガキだってことがな。ちょいと世の中の厳しさってヤツを教えてやる。

 くっくっく、そっちの嬢ちゃんたちはえらいべっぴんじゃねぇか。真ん中の奴、四肢を切り落とした後、てめぇの女を目の前で犯して、奴隷商に売っぱらってやるよ」

 

 ユエが、珍しく感情をー嫌悪感をはっきりと表情に見せる。

 

 香織の表情が抜け落ち、背中に幻視された般若を見て、南雲君が怒りを引っ込めた。

 

 顔をうつ向かせ、2人が歩き出す…前に、右手に杖を持って、私は、歩き出していた。

 

 「…みんな、待って。」

 

 「ん…」

 

 「ダメ。私、あの人たち許せない。」

 

 「…だからこそよ。」

 

 自分の怒りを理由にして、「人を殺せる心の強さを手に入れられたか」を確かめようとするのは、止めなさい。戦争に直面した時に、怒りなく殺せるかどうかとは、別問題よ。

 

 「防御魔法をお願い。」

 

 「あ、うん…え?」

 

 ヒーラーはいないと思われ…

 

 「すみません、当方もいろいろと慌てておりまして、手違いがあったようで。」

 

 「なんだ女。今さら命乞いか?」

 

 「いえいえ、ただ、当方としても、こちらの兎人族奴隷は渓谷まで苦労して手に入れたものでして。

 

 それというのも、ハイリヒ王国で召喚されました『勇者』が、できるだけ美しい亜人族を見てみたいと仰せなのです。

 

 ほら、英雄色を好むと申しますでしょう?」

 

 「へえ、で、その勇者、が?」

 

 「はい。なんでも物好きで、仲間も大所帯にもあらせられますれば、一族まとめて、あらゆる手を使って入手せよとのこと。それで、密命を受けておりまして。

 

 しかし亜人族もむさくるしく、酔狂には応えられず。どうしようかと思っていたところ、渓谷の底に、要望通りの兎人を見つけまして。」

 

 「ふむ…わかった。勅許はあるのか?」

 

 「ございません。なにぶん外聞が悪くございまして…」

 

 …騙されてる騙されてる。こいつら、バカね。

 

 「そうか、しかし…」

 

 「小隊長閣下は、おそれながら、王国と教会相手に、帝国が武力衝突を引き起こそうとのお考えですか?」

 

 「いやいやそんなめっそうもない。失礼しました。」

 

 「では、残りの奴隷を引き渡していただけますか?」

 

 「あいやしかし、奴隷として売れない亜人は処分したのでありまして…」

 

 下手に出てきた…まったく。

 

 「わかったわ。遺品だけでも、即刻、すぐに、なんとしても、あらゆる限り、持ってきなさい。」

 

 「はっ!ただちに!」

 

 …早い早い。

 

 「これで全部ですね?」

 

 「全部であります。また、生き残りの兎人族もお連れ致しました、勇者の御用達様!」

 

 「では、ただちに帰還してください。

 

 …ああそれから、勇者様の国では、資格のない者が奴隷を扱うと天罰が下るそうで。

 

 では、皇帝陛下によろしく。今後も、ヒカリ・ヒトツイシをごひいきに。」

 

 「ところで、少し、吐き気がするのですが、そちらの女性はヒーラーとお見受けし…」

 

 やはりヒーラーはいない、よし。

 

 「軍人ならば気合で何とかしなさい!」

 

―*―

 

 「…ヒカリ、私は、あの結末は不満。」

 

 「私も、ハジメくんを殺すって言った人を、無罪放免はあり得ないと思うかな。」

 

 「それに、ヒカリさん、私たちのことを奴隷だって…

 兎人族だししかたないけど、でも、仲間だって思ったのに…」

 

 …いやいや、魔力を持たない私は、あなたより弱いわよ。

 

 「大丈夫。私は、ハウリアを奴隷とは思っちゃいないし、奴隷制度も嫌いよ。

 

 そもそも、アインシュタインも『ユダヤ人が他の民族より優れているとは思えない』と言った通り、人種が他の人種を差別することに、特段、合理的な理由は見当たらないわ。

 

 私の見立てでは、亜人族は人間族と本質的に極めて近縁ね。

 

 それに、確かに私の頭は勇者にされても奴隷にされてもはたらくけれど、犯されるのはごめんよ。まして、香織がなんて。」

 

 香織はやはり、ハジメの隣が一番似合う。

 

 「…え、でも、じゃあ、なんで?」

 

 「防御は、張ってくれたわよね?」

 

 「あ、うん…」

 

 「…一石も、結構エグいことをするな。マッドサイエンティストなんじゃないのか?青い光が見えたぞ。」

 

 「…これで、帝国軍が急性放射線障害で苦しんで悲惨に死んだら、帝国は天罰を恐れて奴隷の扱いを止めるかもしれない。体内除染は出来ないから治癒魔法も白血病を誘発して苦しみを長引かせるだけだろうし、そうなれば、最低でもすでに売られたハウリアを買い戻して天之河のところに送るくらいはするんじゃないかしら?」

 

 「え…」

 

 「原爆は絶対作らないって言いながらプルトニウムを生成魔法で作ってほしいって言われたときに、こうなる気はしたんだよなあ…」

 

 「えっと、皆さんすさまじくひいてらっしゃいますけど、そんなヤバそうなことして、良かったんですか…?もしかしたら、いい人だって…」

 

 「いや、一石の判断は正しい。

 

 一度敵意を向けたんだ。殺されても仕方がない。その上で、最上の効果を得た。俺たちが怒りに駆られて殺すよりも、な。」

 

 そこまで、評価されることではない。もし反省の色を見せたら、私は除染処置を取るつもりがあった。…わざわざ、申告することでもないが。

 

 「ん、ハジメの言う通り。助けられたんだから、それで文句を言うのは間違ってる。」

 

 擁護される、べきではない。

 

 「でも光ちゃん、ハウリアたちが気付かないように、心の中に留めておくつもりだったでしょ。私にすら隠して。

 

 なんでもかんでも、抱え込んだら、寂しいよ?」

 

 私はただ、個人的に理由のなかった私が、アインシュタインの跡を継ぐ者としての禁忌を冒してもなお、香織たちのために行動できるか…魔法を否定した私が、この世界で生きると言うことまで否定してしまうのか、この世界で戦っていけるのか…

 

 「袖すりあうも他生の縁。同じ特殊な事情の下にあって、出くわしたんだから、あなたの家族を救うくらいのことはしてもいいじゃない。」

 

 キョトンと、シアは首をかしげ。

 

 それから、こちらの事情を尋ねてきた。

 

 一人一人が答え、やがて、シアが号泣し。

 

 …友達の次は、仲間が、できたか。

 

 こんな偽善まみれの私を、それでも仲間だと言ってくれるのなら。

 

 私は、何だって。




 アルセーヌ・ルパンシリーズに「三十三棺桶島」というのがありましたね。一石の杖は宝物庫の収納場所であるとともに、そこに出てくる杖(でしたよね?)です。…放射能兵器など使って申し訳ありません。一応、まき散らしてはいないので汚染はほとんどないし、体内被曝が進む前に治癒すれば治る…ということだと思います(それでもなお禁じ手、ジョーカーと思われますが。アレクサンドラ・リトビネンコの2の舞が続発しそうなやり方ではあります。不快に思われたら本当に申し訳ありません。さらに原作ハジメは曲がりなりにも理由がありましたが、今回の一石には理由が希薄です。自分の身を守るだけなら自衛に留めてハジメに任せても良かったし、人権意識を以てするにもやり過ぎ…ですがこれは、ハジメたちのために一線を超えられるかという禊であり、同時に香織の手を汚させたくないからでもありました。

 …ところで、多頭の種って本当どうなってるんでしょうね?ジヘッドやサザンドラなんか明らかに「頭同士で意思が対立することがある」って書かれてますけど、それ、体内恒常性の観点からは致命的じゃないですか?例えば、血圧が少し下がったときに両方の脳が血圧を上げるホルモンを出したら、通常動物の2倍量…心臓止まると思います。
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