ありふれていなければならない物理法則で世界最強 ※完結   作:十二の子

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 大学、後期、終わった。



9 「神はメンデルの法則を知っていたか?」

―*―

 

 「お前達…何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」

 

 筋骨隆々の亜人族は、出会い頭に問いただした。

 

 「あ、あの…私たちは」

 

 「白い髪の兎人族…だと?…貴様ら……報告のあったハウリア族か…亜人族の面汚し共め!長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは! 反逆罪だ! もはや弁明など聞く必要もない! 全員この場で処刑する!」

 

 「え、外交チャンネル皆無?」

 

 問答無用と言わんばかりの亜人の態度に、一石は呆れかえった。

 

 どこかと争うつもりがあるのならば、どうしようもない泥沼戦に陥らないように、最低限、偶発的開戦を防いだり、戦争が大戦争にならないうちに止めたり、外交チャンネルというものは必要である…つまるところ、亜人族の国フェアベルゲンは、国として当然あるべきシステムがない。

 

 頭痛をこらえつつ、一石光は、ハジメが銃片手に亜人を脅しているのを眺め、それから、自分の思考世界へ潜っていった。

 

―*―

 

 …結局、亜人族とはなんであるのか。

 

 王立図書館の資料には、「神に見放されたため魔法を使うことができない『混ざりもの』と書かれていた。

 

 もちろん、そんなデタラメを信じる義理はない。が、一方で問題となるのは、ライセン大渓谷にいた双頭ティラノ「ダイへドア」。

 

 どんな染色体構造なのか考えるだけで吐き気がするが、あのティラノには確かに、卵巣があり、同じ形状のヒナ(?)入り卵があった。つまりは、あの魔物は繁殖で増えている。奇形ではない。

 

 自然界において、どう考えたって、2つ頭がある生物は、自然には種類として確立しない。つまり、人為的な圧が働いて、「ダイへドア」は維持されているー誰が、なんのために?

 

 言うまでもない。やはり…

 

 ならば、亜人族に魔力がないのも、また人為。それどころか、亜人族とは本来…

 

 「なら、こんな人間族が資格者だとでも言うのか!!敵対してはならない強者だと!!」

 

 「そうだ。」

 

 「…正気か、アルフレリック?そこの小僧はまだいい。小さい女は、まあ、人間族に見えないからこれもいいだろう。」

 

 「ジン、もう一人の女も、杖の細工が細かい。上級の魔法師かもしれないよ?」

 

 「…グゼの言う通りだとしよう。だが、最後の一人!お前はなんだ!さっきから話も聞いていないようだし!」

 

 「…光ちゃん、人が話してる時くらい、いい加減聞いてるふりしようよ…」

 

 …はい?聞いてるつもりだけど?

 

 「そんなヤツを資格者だと認める口伝など…」

 

 やはり、人間族、魔人族、亜人族の遺伝子を調べられないのは辛いけれど、私にはPCRシークエンスの仕組みなんてわからないし…

 

 「口伝は口伝だ。」

 

 私自身のやり方で、考えをこねくり回し、どこまでも頭でっかちに考え続けるしかない。

 

 「よろしい、ならば、今、この場で試してやろう!」

 

 …なんか突っ込んできた。

 

 「ん?

 

 ビーーーム。」

 

 「なんだ?避けるのか?卑怯、も、の…うっ…」

 

 …あーあ。

 

 「ごめん、つい、反射で。」

 

 「痛い、いたいっ!」

 

 「…光ちゃん、次から、股間に重粒子線ビームは禁止ね。治すの私だよ?」

 

 「本当にごめんなさい。」

 

 長老衆にドン引きされた気がする…え、受ける臓器と線量と時間によっては死ぬわよ?

 

 「で、ジンさん、言うことは?」

 

 「は、はい、ナマ言ってすんませんでした。言う通りにします。」

 

 「お、おいジンーーーッ!

 

 あ、なんでもない、謝罪するからそれを下げてくれ。」

 

 …ゴク向けたら土下座された…

 

 「納得はされないだろうし、あなた方はフェアベルゲンの法にのっとりハウリアを処刑するつもりでいる。私も、これ以上の無用の争いは避けたい。

 

 アルフレリック、何か方法はないの?」

 

 「…はあ…奴隷であれば、死んだものとして扱うことになっております。死人を罰する法はありませんのでな。」

 

 …奴隷制度を認めない私が、そんな名目上とはいえ奴隷の持ち主に仕立て上げられるなんて…

 

 「…それで手を打っていい?」

 

 「もうそれでいいんじゃないか?一度助けた人を途中で放り出すなんて真似、俺にはできねえよ。」

 

―*―

 

 「…南雲君、なんか、『ヒトツイシを見習え!お前らよりも弱く魔力も持たないアイツは自分を守るために敵の股間を焼いてのけたぞ!それに比べてお前たちはなんだ!敵を倒すこともできない『検閲済み』か!虫一匹仕留められない『検閲済み』か!違うだろう!お前らは今日から生まれ変わり、そしてあの『検閲済み』どもに教えてやるのだ!』とか言ってハウリアを洗脳したそうじゃない。」

 

 「だって、お前の戦い方とハウリアのすべき戦い方って、いっしょだろ?」

 

 「だからって…あんな金的の発展形みたいなことでいちいちそこまで言われるのは心外なんだけど…なんか、シャブ中のヤクザみたいになってたのを見たわよ。」

 

 「それより、ずっと、何を考えているんだ?」

 

 「…生物学はわからないのよ。

 

 ただね、長老衆は失念していたけれど、オルクスの手記によれば、フェアベルゲンの始祖で、口伝を伝える発祥の亜人解放者リュ―ティリス・ハルツィナ女王は、かなり上級の魔法使い。それにそのころの亜人族はほとんどが魔法を使えた。どうして、魔法は失われたと思う?」

 

 「そういうこともあるんじゃないのか?」

 

 「その理由を捜すのが学問なのよ…

 

 私は、魔法が劣性遺伝なのではないかと思っているわ。」

 

 「どういうことだ?」

 

 「私が思うに、エヒトは、高度な遺伝子テクノロジーを持っている。そうでなければ、いくらファンタジーでも、2つ頭は自然淘汰されて根付かないはずよ。

 2つ頭のティラノが、1つ頭に対して優位なのは、弱い相手に対する火力。とすれば、ダイへドアは、亜人族をはじめとする弱い人がイジメられるのを見て喜ぶために種類が維持されているのよ。」

 

 双頭ティラノが、素早く動けて判断を迷うこともないだろう他の生物に対し不利なのに、種類として確立しているのは、誰かが保護しているから。人間が入らないライセン大渓谷にてそれをできるとすれば唯一、エヒト一味でしかありえない。

 

 「なるほど、確かに、手間をかけてまあクソ真面目なクソ共だな。」

 

 「亜人にも、同じようにして、血の苦しみが与えられている。

 

 例えば、ある部族に、優先遺伝子で魔力が失くなる者がいたとする。

 

 魔力が使える者との子供は、双方の遺伝子を受け継ぐけど、使えない遺伝子が優先するから魔法を使えない。その子供も、子供も…魔力を使えない形質は、遺伝子に乗って部族全体を汚染する。

 

 幸い、さげすまれている人間族や魔人族は、亜人族とは交わらなかった。だから、亜人族だけが、魔力を喪失した。」

 

 「待て、一石の説だと、シアはどうなる?」

 

 「魔力を失わせる遺伝子があるから魔法を使えない。だけど、魔法に関する遺伝子自体は残っている。たまたま両方の親から受け継いだ遺伝子に、魔力を失わせる優性遺伝子が含まれていなかったら?先祖返りは起こりうる。

 

 正確には、本来、魔法は使えてしかるものなんでしょうけどね。でなければ魔法のない世界から来た私たちが…いや、もしかしたら、魔法遺伝子を転移の時にエヒトから植え付けられたのかも…」

 

 「なるほど…でも、仮設は仮説だろ?」

 

 証明しなければ、意味はない。

 

 「…え?あなたが日本に帰ったときに、シアの遺伝子を調べればいいんじゃない?ついでに、シアとの子供も魔法が使えることを証明してくれるといいけど、まあ現状証明することは何の役にも立たないわね。」

 

 「…は?子供?いやいやおい待て。」

 

 「え?気づいてないの?あの子きっと」

 

 「ハジメさーん! 私、やりましたよぉー!!というかヒカリさん、気付いても言わないって言ってくれたじゃないですか!」

 

 「あ、ごめんなさい、ついうっかり。」

 

 「うっかりじゃないですよ!せっかくユエさんに勝ったのに、他の人から伝えられたらなんかアレじゃないですかーっ!」

 

 「…マジか、マジでユエに勝ったのか。」

 

 「ヒカリが言う通り、魔法を使う能力は低かった。」

 

 「やはり、魔力がないから魔法を使う能力も進化の中で退化したのね。」

 

 「でも、身体能力に特化してる。バケモノクラス。」

 

 「具体的にどれくらいだ?」

 

 「強化してないハジメの6割、香織の9割くらい。」

 

 一石は「じゃあ私の〇十倍くらいね」と言ったが、皆聞こえないふりをした。

 

 「…もう、ヒカリさんに言われる前に言ってやるです!私はハジメさんのそばにずっといたいんですぅ! ハジメのことがしゅきなんですぅ!だから、旅に付いて行かせてくだしゃい!」

 

 「は?」

 

 「噛んだよね。」

 

 「ん、噛んだ。」

 

 「いやいや待ってくれよ。お前、なんで俺のことを好きになるんだ?」

 

 「もう、ハジメくん、私が好きになった優しくて強いハジメくんを、他の人も好きになっちゃうのは仕方ないよ?

 

 謙遜はダメだよ。きっとシアも、やり方はどうあれ、その優しさに惹かれたんだよ。」

 

 香織がそう言うのならそうなのだろう…と、ハジメは納得してみた。ここで謙遜を続けようものなら、「優しさ」を同じく好きになってくれた香織を、貶めることになるからだ。

 

 「…俺には、香織とユエがいる。それでも、いいのか?というか、香織とユエはいいのか?」

 

 「そんなことは知っています。それでも、私は、何があってもハジメさんのそばにいると、決めているんです。」

 

 「まあ、ハジメくんは譲らないけどね。シアが勝手についてくる分にはいいよ。」

 

 「ん、覚悟するといい。ハジメに浮気なんかさせない。」

 

 途中から出てきたユエがそう言う?と一石は誰にも聞こえないようにつぶやいた。

 

 「…なんかプレッシャーがかかってきた…真面目な話、俺たちの旅に付いてきたら、命が幾つあっても足りないかもしれない。」

 

 「バケモノで良かったですよ。そのおかげであなたたちに付いていくことが出来ますから。」

 

 「俺たちの旅に付いてくるなら家族には二度と会えないかもしれないぞ。それに俺の住んでた世界はお前にとって住みにくい世界だ。」

 

 「それでも…ですよ。それだけの覚悟を私はもう決めているんです。何があってもあなたのそばにいると。」

 

 「…やっぱり、シアが勝ったわね。」

 

 「何の勝敗だ。というか、後ろで手を引いてやがったな!」

 

 「シアの想いが勝つか、恋の障壁が勝つか…恋は障壁があるほど燃えるから、どんな障壁も役に立たないってほうに賭けたのよ。…カム族長と。」

 

 「こらあっ!」

 

 「あ、私も賭けてた。シアに。」

 

 「ん。私も。でも賭け不成立。」

 

 「はあ…外堀も埋められてたか…降参だ。」

 

 シアが、ハジメの胸に飛び込む。香織は早くも、秒数をカウントし始めていた。




 え?メンデルの法則への理解が正確ではない?…私は学部一回生です。
 原作では兎人族の敵となった熊人族ですが、こちらでは一石の容赦のないふるまいに震え上がります。ただ、ハウリアを元通り迎えてはフェアベルゲンの面子はつぶれ世論も納得しないので、結局その後原作通りとなりーしかし、熊人族の襲撃は行われませんでした。

 重粒子線ビーム:魔法がなくても、先進医療においては活用されています。正常な細胞に作用するほどの出力は普通出さないらしいです。
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