ウタウタイの兄   作:詞(みょん)

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 裏の事情を知っている者として、軽く話をすることになった。

 といっても昼休みに時間を取るわけにもいかず、放課後になるのを待ってからオカルト研究部の部室へと俺は向かった。

 

「あ、ロク君!」

「こんにちは……」

「ありがとう。よく来てくれたね神里君」

 

 部室には兵藤やグレモリー先輩たちはもちろん、セラさんやグレモリー先輩のお兄さんの姿もあった。そして、ここに訪れたのは俺一人ではなく母さんも一緒だ。

 

「ふ~ん? まさかここまで六花の周りに人ならざる者が集まることになるなんてね」

 

 本来ならば、こういう場に俺だけが来ることはないんだろう。

 グレモリー先輩たちや信頼しているし、ずっと交流のあったセラさんも居ることから安心出来る場だと分かるのも大きい。

 まあ母さんもある程度は裏のことに精通していることは知っていたけど、まさかこの場に堂々と着いてくるとは思わなかったが。

 

「神里のお母さんめっちゃ美人だな……教室で見た時も思ったけど」

「だろ? でもお前んとこの両親も素敵な人たちだったじゃないか」

「へへっ、だろ?」

 

 実は授業参観の時、兵藤の両親も来ていた。

 主に兵藤よりアーシアさんの方をビデオに撮っていたが、雰囲気からでも良い人たちなのは伝わっていたので、それならば変態とはいえ兵藤が良い奴に育ったのも頷ける。

 

「ロク君の……えっと、六花君のお母様! 初めまして、私は――」

 

 その時、セラさんが緊張した様子で母さんに声を掛けた。

 俺もスリイもセラさんとは仲が良いと自覚しているが、反対にセラさんもそう思ってくれているからこその反応だろうか。

 セラさんが更に言葉を続けようとした時、母さんがいきなりポーズを決めた。

 

「母さん?」

「お母様……?」

 

 俺やセラさんだけでなく、他のみんなも母さんに注目だ。

 母さんはそれっぽい雰囲気を醸し出すようにしながら、いきなり呪文のようなものを唱え始めた。

 

「黄昏よりも昏きもの 血の流れより紅きもの

時の流れに埋れし 偉大な汝の名において

我ここに 闇に誓わん

我等が前に立ち塞がりし すべての愚かなるものに

我と汝が力もて 等しく滅びを与えんことを! ドラグスレイブ!!」

 

 ……母さん?

 母さんがどんな意図を持ってそんなことを言いだしたのかは分からないが、セラさんだけは瞳をキラキラさせていた。

 

「……コホン、私も昔はやっぱりそういうのを見ていたからね。ちょっと幼い頃の血が叫んでしまったわ。セラフォルーさんだったかしら? 六花とスリイちゃんがお世話になっているみたいね」

「い、いえいえ! ネットでの繋がりではあるんですけど、私の方がいつもお世話になっているというか! いつも二人と話をする時は楽しくさせていただいています!」

「そう言ってくれると嬉しいわ。まだ詳しく話は聞いてないのだけど、セラフォルーさんはきっと重要な立場に居る方なんでしょうけど、これからも息子たちと仲良くしてもらえるかしら?」

「あ……はい!」

「ふふっ、可愛い魔女っ子さん衣装も気になってたのよね。私も夫の要望で時々エルフのコスプレをすることがあるの。ねえセラフォルーさん、今度の夏コミとか一緒に行ってみない?」

「行きたいです! あ、でもでも! さっきの呪文の詠唱とかすっごくかっこ良くて、あれは何のアニメなんでしょうか! 教えていただけますか!?」

「もちろんよ!!」

 

 俺たちを置いてけぼりにして、母さんとセラフォルーさんが止まらない。

 ただ俺としては楽しそうな母さんの様子も見れるし、悪魔側の人たちからすればセラさんの姿が新鮮なのか物珍しそうに見つめている。

 

「セラフォルー……ふふっ、楽しそうで良いわね」

「グレイフィアもあんなところは見たことがないのかい?」

「そうですね……少なくともあんな風に誰かに甘えるような仕草は見たことがないかと。それに語尾に☆が見えないのも珍しく緊張している証でしょうし」

「星……?」

 

 これ、ちょっとトイレに行ってきても良いか?

 なんて言いたくなるほどに会話が止まってしまったわけだが、流石に現状を思い出して二人とも止まってくれた。

 そしてついに、自己紹介をしてくれることに。

 

「サーゼクス・ルシファー、魔王の一人を務めさせてもらっているよ」

「セラフォルー・レヴィアタン☆。私も魔王の一人を務めてるよ」

「改めて神里六花です」

 

 魔王って何人も居るのか、なんて気になったけど今は良い。

 こうして自己紹介を終えたことでサーゼクスさんから話がされた――ずっと前からこの街を管理するにあたって気になっていた俺と、そして妹たちについてだ。

 

「私たちは、今まで当たり前のようにこの街を管理していた。だがここ最近、リアスと話すことが増えてね――元々は人間が住んでいた街に、裏の事情を知っているからという理由で私たち悪魔が、全てをコントロールをしようとするのは傲慢ではないかとね」

「……………」

「いやはや確かに、ハッとさせられたよ。管理とは言っても人間たちの統制を取ろうというつもりはないし、あまりに深く干渉するつもりもない……だが、何かが起こればそれを調査するために実力行使に出ていたことがあるのもまた事実だ。私も、リアスや妻に頬が腫れるほど殴られて理解した頭の固さなのが申し訳ないよ」

「……大丈夫でしたか?」

「心配してくれるのかい?」

「それはまあ」

 

 なんというか、サーゼクスさんも苦労してんだなって思った。

 ただこうして会話を聞いていると彼ら悪魔は決して分かり合えない存在ではなく、ちゃんと言葉を交わすことで理解し合える存在なのは理解した――というより、グレモリー先輩たちを見ていればそんなことはすぐに分かる。

 隣に座る母さんはジッと話を聞くだけで何も言わないが、それはきっと俺の言葉を待っているからなんだと思う。

 

「そうは思っても、俺の周りに居てくれる妹たち……その強大な力が、もしかしたらこの街そのものだけでなく、グレモリー先輩たちに向かう可能性が否定出来ないから心配してたってことですよね要は」

「そういうことだ。後はまあ……怒らないでもらえると助かるんだが」

「なんです?」

「単純な興味もあったかな」

 

 バシッと、グレモリー先輩とメイドさんがサーゼクスさんを叩いた。

 結構な威力だったし頭から煙が出てるけど、俺はそれを気にしないように努めて言葉を続けた。

 

「俺は……俺たちはただ、平穏に暮らせれば良いと思っているだけです。確かに妹たちは強大な力を持っていますし、何となくですがまだ底の見えない何かを宿していることも理解しています――でも、たとえどんな力を持っていたとしても、彼女たちは俺にとって大切な妹たちなんです。俺たちはあなたたちに敵対はしないし、この街に何かをしようとも思ったことはないです。ただずっと、家族で平穏に過ごせればそれで――」

「分かった。それだけで十分だよ」

「え?」

 

 途中でサーゼクスさんが遮った。

 最初から彼は決してこちらを警戒していた素振りはない笑顔だったが、更にその笑顔に親しみが現れたかのようだ。

 

「今までのことは、心から謝罪をしよう――本当に申し訳なかった」

 

 サーゼクスさんが頭を下げたので、俺はすぐに大丈夫だからと伝えた。

 

「謝ることは大事だからね。それに神里君……六花君と呼んでも良いかい?」

「あ、はい」

「六花君の妹たちを想う気持ちに嘘はないと確信を持てた。今回に関してはそれが一番大きいかもしれないね。私もまた大切な妹を持つ側だ――君の言葉には、全面的に同意しかない」

「っ!!」

 

 あ、そうか。

 何だかんだ忘れたけどサーゼクスさんの妹はグレモリーさんだ。

 

「隣で聞いてるだけだったけど、私も同じ! ソーナちゃんは大切な妹だしね!」

 

 あ~。

 よくよく考えたらみんな妹持ちか……あれ、なんだかそう思った瞬間に一気に親近感のようなものが沸いてきたぞ。

 

「妹って……最高なんすよ」

「妹は最高だね」

「妹は最高だよね!!」

 

 その後、俺たちだけで盛り上がって怒られたのは言うまでもなかった。

 

 

▼▽

 

 

「六花があんな風に育って私は感動だわ……っ!」

「いやいや、妹のことを考えてただけだって」

 

 全部が終わった後、俺と母さんは帰路に就いた。

 結局何か政治的な話をするわけでもなかったが、終わり方としては最高にベストな形で話は終わったと思う。

 俺の気持ちや、どう在りたいかを伝えたことで、悪魔側のサーゼクスさんたちはそれを尊重してくれるということなので、心強い味方になってくれたのは間違いないだろう。

 

「それに、今日はもっと賑やかになりそうだしね」

「あ、あの……本当に良かったのでしょうか」

 

 ちなみに、この場に居るのは俺と母さんだけじゃない。

 相変わらずの魔女っ子衣装をしたセラさんも一緒だ。だってほら、せっかくだしスリイと会わせてあげたいじゃん?

 

「セラさんこそ良かったんですか? 魔王として忙しかったりするんじゃ?」

「ううん、直近の仕事は終わらせたからね! 今日明日はソーナちゃんの所にお邪魔するつもりだったけど……せっかくアリーシュさんにお誘いをもらったから」

「スリイちゃんに会わせてあげたかったのはもちろんだけど、やっぱり魔王と交友を深めるのはこれから先に繋がりそうじゃない?」

「あ、やっぱそういうのがあったんだ」

 

 ということで、セラさんを連れて帰宅だ。

 だが当然のように莫大な魔力を持つセラさんを連れてきたことで、玄関には既に臨戦態勢のゼロとワンが控えていた。

 二人とも表情は険しかったが、俺と母さんの様子を見たことですぐ武器を仕舞う。

 

「二人とも、すっごく強そうだねぇ」

「誰だこいつは」

「魔女っ子……悪くないコスプレだな」

 

 ワン?

 ボソッと聞こえた呟きが気になったが、騒ぎを聞きつけて他の妹たちもなんだなんだと顔を見せた。

 本来ならこういうことがあってもあまり顔を出さないスリイもちょうど出てきたため、すぐにセラさんと出会うことに。

 

「誰……?」

「あ、その声はサンちゃん!?」

「……え?」

 

 ビューンと凄い勢いでスリイに飛びついたセラさん。

 スリイは困惑しながらもすぐにセラさんに気付いたらしく、俺たち以外の相手を前にして初めて年相応の笑みを浮かべるのだった。




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