転生中世英国貴族は救いを望む(仮題)   作:これこん

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この小説は作者の貧弱な歴史知識を用いて書かれているため、時代的におかしい点があるかもしれません。予めご了承ください。



第一話

心地よい風の吹く春のある日。石造の屋敷の一室に数人の男の姿がある。

この部屋には所狭しと本やら書類やらが置かれており、およそ八畳ほどと推測される間取りも相まって大変窮屈そうな印象だ。

窓は一つあり、そこからは青々とした森などの自然物に加え倉庫や畑、民家など人工物も見える。

 

部屋の中央には大の大人が2人ほど寝そべられる大きさの机があり、男たちはその机を囲んで各々の仕事をしていた。

その内容は税の記帳書、農作物の状況、野盗の出没報告など様々だ。

 

その中で一人、明らかに年若いと思われる男がいる。黒髪の青年だ。

この青年は三十代から四十代あたりの大人達に混じっていることからかやけに目立つが、その仕事ぶりは周囲と比較しても遜色ない。流れるように業務をこなしている。

 

彼らの間に流れるのは沈黙。

これは決して互いの仲が悪いというとかそういう問題ではなく、ただ単に仕事に集中する人間がこの部屋に集まったからに過ぎない。

とはいえ、現在の部屋の雰囲気が良いとは決して言えないが。かなり空気は重い。

彼らの顔を見てみれば皆が無表情で取り組んでいる。もしこの部屋に歳が片手で足りるような子供が踏み入れば、雰囲気にのまれ泣き出してしまうのではないだろうか。

 

彼らが仕事を開始したのは朝のまだ早い時間帯だった。そして今はすでに昼前。その間休憩を何度か挟んだとはいえ、そろそろ気力的には疲労しているだろう。

そんな時青年が口を開いた。

 

「───そろそろ良い頃合いだろう。皆、ご苦労だった」

 

どうやらこれで終わりらしい。各々は手を止め、荷物を片付け始める。

先程の発言から、この青年がこの部屋の中で一番上の立場らしい。

 

次々と退席する男達からのお疲れ様でした、という類の言葉に返答しながらその背中を見送る青年。

最後の一人が出て行くのを確認し、椅子に座りながら体を伸ばす。そして自分の担当した書類やらを片付けたら席を立ち部屋から出る。

最後に部屋の鍵を閉めたら石造の廊下をカツカツ、と音を立てながら歩く。

重い雰囲気から解放されたからか、その顔は何処か柔らかい表情になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然だが…私は中世に転生した元日本人であり現在はイングランドで貴族をしている、と言われたらどうだろうか?

私の前世は日本の可もなく不可もなしといった大学生であり、気づいたら中世イングランドにいたのだ。しかも百年戦争期の。

 

いや、確かに私はこの国で生まれ育った人間であるため『気づいたら中世イングランドにいた』という表現は正しくないか。『なんの前触れも無く前世の記憶を思い出した』に訂正しよう。

まぁ、どちらでも大差はないが。

 

そんなこんなで記憶を思い出した訳だが、中世世界を楽しもうとはどう転んでもならなかった。そうであったらどんなに良かったことか。

まず国内が大分不安定だ。

後の世で“百年戦争”と呼ばれる断続的な争いの最中だということは既に述べたが、その他にも数十年前に猛威を振るった黒死病に、度々国内で起こる反乱…そして歴史が変わらなければの話だが、数十年後には王権争いの内戦である“薔薇戦争”も起こる予定というお先真っ暗な状況である。

 

百年戦争はフランス内で行われているので私たちの領土が害されることは無いが、問題は将来起こる予定の内戦だ。

私の記憶が正しければだが、あれは30年ほど続いたドロドロの内戦だったはずだ。間違いなく領内に損害が出るだろう。もしかしたら家族が死ぬかもしれない。

 

そして衛生観念が最悪である。かつて産業革命期のロンドンの衛生状況は最悪だったと聞いたことがあったが、この時代の衛生も大概だ。

古代から進歩していないのでは無いだろうか。それくらい凄まじい。

母が私を出産した際に立ち会ったという産婆の着ていた服に血やら何やらの液体の汚れが蓄積されたままだったと知った時は思わず変な声が出てしまったものだ。生きていて本当に良かった。

 

さらに治安がすこぶる悪い。

野盗、傭兵かぶれなどが多すぎるため時々私兵を率いて討伐に行かねば領民の平和が脅かされるほどには悪い。

 

食料問題も芳しくない。

この時代は作物の品種改良も農作技術も発展途上であるため、異常気象一発で飢える民が大量に出てしまう。

 

…つまり病で死ぬか、野盗に襲われて死ぬか、栄養失調で死ぬか、偶に宗教関係で死ぬかのどれかが主な死因だ。天寿を全うできる者などどれほどいるのだろうか?

聞くところによれば私たちの領土は大分マシらしいのだが、それでも十分魔境であることに変わりはない。

 

山ほど抱えている問題に加え近い将来確定している更なる混乱から生き残るためにはどうしたら良いのだろうか、と考えるのだが、やるべきことは決まっている。

私に出来ることは現領主である父と生まれつき病弱な嫡男の兄をできる限り支え、最悪の結果を防ぐことに己の全てを捧げることのみだ。

 

一時期薔薇戦争は起きないのでは、歴史は変わるのでは、との考えを持ったこともあったがどうやらその考えは甘かったらしい。

今でこそまだ均衡を保ってはいるが、もしも大陸における戦況がひっくり返りでもしたらどうだろうか?ましてや、もし敗れでもしたら?

その際は不満を溜め込んだ貴族が反旗を翻し、戦火がブリテン島を包むだろう。

 

現在の国王ヘンリー陛下は確かに優秀だ。

大陸におけるフランスに対する優位を築いたし、まだ若いことからも彼がいる間は大丈夫だろうな、という感じはする。

しかし何が起こるのか分からないのもまた人生。残念なことに私はここら辺の歴史は良く知らないので予測が出来ないのが悔やまれる。

 

なので現状できうる限りの準備をしておく必要があるのだ。

 

───そういう経緯を経て、私は現在教育漬けの日々を送っている。

 

朝起きたら乗馬に剣術指南、偶に走り込み。

その後軽く食事を摂ったら勉強を始める。神学に礼節や優雅な振る舞いの練習、兵法など様々なことをしていたが、最近は父に認められ始めたのかそれなりに仕事に参加できるようになってきている。

 

結果、一人称が『俺』から『私』に変わったりした等ちょっとした変化はあったもののおかげで随分と体力や教養が身についた。

 

以前『何故こんなに頑張るのですか?』と聞かれたことがあったが、そんなの決まっている。

 

────生き残りたいから、だ。それもみんなでこの乱世を。

 

一応働かないで生きてゆくというのも可能だろう。事実、私の家はそれができる程裕福だ。

今の時代はちょっとしたことでも死に繋がるため、活発に活動するということは道半ばで斃れる可能性が増すことも意味する。

 

しかしながら『金持ちなだけの怠け者』というレッテルを貼られてしまうのは私にとっても、家にとっても良いものでは決してない。私のためにも、守りたい大切な家族のためにもならないのだ。

 

よって私はその選択肢はないものとして扱った。やはり自分の未来は自分の手で掴むのが良いだろう。

 

 

 

───さて、私が前世の記憶を得てもう10年以上が経過した。

 

三子の魂百までというべきだろうか。

何度か試みたものの、結局私は前世からの倫理観や価値観を捨てることはできなかった。

殺人や略奪は勿論のこと、異端だとか悪魔やらの過激な宗教まわりも余り好ましくない。仕方ないことだと割り切っているものの、やはり少なくない嫌悪感を持ってしまうのだ。

 

一方で、もう長くなった中世の暮らしにより気づけば私は従順な教徒の一人になっていた。

やはり心の拠り所があるだけで人は心が安定するものだ。己の身をもって体感した。

 

前世を思い出して現状に絶望した日も、初めて目の前で人が死ぬのを見た日も、予想以上に辛い訓練と勉強から逃げ出したいと思った日も毎日教会に通っていたのだが、気づいたら立派な信仰心が芽生えていた。少なくとも熱心な信者の友が多数生まれた程には。

 

勿論異端を見つけたら殺意が芽生えるほどの狂信者になるつもりは毛頭ないので安心して欲しい。

 

さて、話は変わる。

私の任されている仕事に関してだが、こちらの方は予想に反して順調だ。

税の領収書の確認をしたり領内に異常があれば駆けつけるといったことが現在の主な業務だが、大分要領を掴んできた。

領民との信頼関係も徐々に築けている。私の評判は『気さくな領主の息子』といったところだろうか?

何はともあれ嫌われないのならばそれが良い。最期が農民の反乱でした、では死んでも死にきれない。是非とも彼らとは良い関係を続けていきたいものだ。

 

 

 

 

 

 

────最後に一つ

 

私の今世の名はオーバ・アリックスという。

とある貴族の次男だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

とある日の昼下がり。

私が家に出入りしている若い騎士と剣の打ち合いをしていた時、突如訪問者が現れた。

やってきたのは見覚えのある、屋敷の使用人の一人である。

 

 

「────失礼致します。当主様があなた様の事をお呼びです」

「父上が?私に何の用だと言っていた?」

「…そこまではお聞きしておりません。ただ、急ぎの用であることは確かです」

 

突然の出来事に全容が掴めていないが、急ぎの用だというのならすぐに行かねば。

鍛錬はまだ途中で不完全燃焼だが、この際仕方ない。

 

「…そうか、承知した」

 

服装を整え、駆け足で屋敷に戻る。

しかし、一体私に何の用なのだろうか?最近の領内は比較的安定していたはずなので一刻を争う事態はないはずだが、果たして。

 

 

 

 

 

 

屋敷に戻り父の執務室の前まで来た。

右手でドアを3回ノックし中に入るとそこには椅子に座る父の姿が。

 

「────来たか」

「それで、話とは何でしょうか?」

 

父と向かい合う。心なしか元気がなさそうに見えるのは今回の件と関係しているのだろうか。

まぁ、父の様子を見て大体理解した。どうやら面倒ごとに巻き込まれるようだ。

 

「それで話というのはだな…大陸の援軍に来いという王家からの命令が来て、お前を行かせることになった」

 

なるほど、話の全容が見えてきた。

兵を率いて大陸に渡れという命令を無視することはできないが、かと言って父は領地経営の要でありそれなりの歳。近頃は日常生活に関わる不調も多くなっているため長旅は体に障る。

体の弱い兄はもしものことがあれば家の存続に関わる。家臣だけに行かせるのでも良いが当主の一族が出ないのは何かと不都合である、ということで私なのだろう。

この時代の平均寿命を考えれば十代の私でももう立派な大人だ。このくらいの歳で兵を率いる人間などごまんといる。

父は負い目を多少感じているらしいが、仕方のないことだ。そもそも私は何でもするつもりでいるので問題ない。

 

「…分かりました、父上。役目を果たせるかは分かりませぬが全霊をかけて受けましょう」

「…そうか、すまぬな」

「お気になさらず。父上」

 

さて、出兵ということは少なからず死ぬ可能性があるわけだが、流石に大陸のイングランド勢力は我々を激戦区に送るような切羽詰まった状態ではないだろう。

…もしそうだったら本格的に死を覚悟するが果たしてどうなのか。少なくとも今現在は劣勢であるという情報は入ってきていない。

 

「ところで父上。私が兵を率いるのであれば、詳細を教えて欲しいのですが…」

「あぁ分かった。とりあえずそこに座れ」

 

そう言って父が指さしたのは一つの椅子。

私はそこに座ると、父とこれからの日程や連れて行く兵数について話し合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

父の話から分かったが、今回の出兵には思った以上の兵力が割かれるらしい。これは上からの命令なのか、父の王家に恩を売るという意思の現れなのかは定かでないが私の立場は人質みたいなものだろう。

私の家はそれなりに力を持っているし兵もいる。国王不在の本国で反乱を起こされたら無傷ではすまないと考えているのだろうか。

こうして援軍に兵を割かせることで力を削ぎ、実子である私を反乱させないよう人質として手の届くところに置くのが目的か。

 

いずれにせよ海を渡りフランスに行けば帰ってくるのは何年後になるのだろう?

あと数年でこの戦争が終わるとは到底思えないし、もしかしたら帰ってくる頃にはおじさんと呼ばれる歳になっているかもしれない。それか既に死んでいるか。

 

すぐに人が死ぬこの時代で私が死を身近に感じるのはもっと後だと思っていたが、案外早くその時が来た。

とりあえず私が願うのはいずれ再会するその時には今と同じように、生きた状態で話せることのみだ。

 

「────父上、生きて再びお会いしましょうぞ」

 

私の声が部屋の中にやけに響いたように感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

あれから三ヶ月後、私は大陸のイングランド勢力の都市の一つに到着した。

連れてきた兵力はおよそ七百。私たちの領内のみならず、周辺から集めてきた傭兵達が半数以上を占める。

賃金はしっかり払っているし、略奪、殺戮は一発で処刑という取り決めをしたので罪なき人々には刃を向けない…はずだ。

 

これを決めた際、『流石に厳しすぎないか?』という意見があったのだが、私からしてみれば戦闘力を持たない人々に手を出した時点でもうアウトである。『略奪は士気の維持に不可欠だ』とも言われたが、賃金はブリテンで多めに払っているため許さない。そしてこれからもきちんと払う予定だ。

 

それでも不満を滲ませていた連中とは一対一で話し合い説得した。全員と話し終えるのに数日かかってしまったが、規律のためなら安いものである。

 

『軍隊持ってきておいて何言ってんだ』とフランス人からは非難が飛んできそうだが、私とてお人好しなだけでこの時代を生き残れるとは微塵も思っていない。手を汚す覚悟もしている。

 

だが、一方的な蹂躙には肯定できない。それをしてしまえば人としての致命的な何かが終わってしまうと確信できる。

まぁ、一言で片付けてしまえば私の下らない意地になるのだが、それくらいの理性を保っても別に良いだろう。

 

 

 

 

 

 

そしてまた一月経った。現在フランス領を行軍中だ。

ここまでで数十程の規模の集団とは戦闘を行なったが、大規模な軍隊は見たことない。運が良いだけか、果たして。

 

私は兵法を一通り学んでいるし、技量も一兵士として申し分ない程度だとは自覚している。10年以上血反吐を吐いて訓練したのに人並み以下だったら自身の不甲斐なさに絶望していたことだろう。

そして救いを求めて神に祈る時間が増えるだろうな、と予想できる。

 

大陸に出てくる前家族にはもし私が死んでも気にしないでくれ、と言っておいた。

戦場に身を置いてただで帰れると思うほど能天気ではない。私達はこれから人を殺すのだ。部下も、敵も。

 

…気づいたら空模様が悪くなり始めている。近いうちに雨が降り始めるだろう。

予定よりも早めに野営の準備をするか、と考え口を開き部下に伝える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

予想以上に雨が強い。やはり判断は正しかったようだ、と轟々と音を鳴らしながら大粒の雨が地面を打ちつける光景を見ながらそう考える。

当然のことながら視界がすこぶる悪い。雨音以外はほとんど聞こえない。こんな時に奇襲を仕掛けられたらひとたまりも無いだろう。

 

念のため兵を密集させ不測の事態に備えさせておいた。一人一人の練度は高いためそうそう壊滅はしないと信じたいが果たしてそうなったらどうなることやら。

とりあえず何事もないように神に祈っておいた。信仰というのは気持ちを落ち着かせるのに本当に便利だ。

 

────しかしながら悪い予感というものはよく当たるようで、その時はすぐにやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────指揮権は今から君のものだ!だが私は死なん!必ず戻ってくる!」

 

1人の部下にそう叫ぶ。雨音で声が届くか不安だったが、彼の反応を見る限り聴こえているようでひとまずよかった。

それだけ確認したらすぐさま馬を走らせ追いかけてくる者たちから距離をとる。

歩兵だけならよかったが、馬に乗っている者もしばしば見受けられたため撒くのはそれなりに骨が折れた。

 

私達を襲った集団の正体は脱走兵か、野盗かそこら辺だろう。認識した限りでは数十ほどの規模。

フランス貴族の率いる軍隊の数ではなかった。もしくは軍の斥候か別動隊か。

 

雨で視界が悪かったのと、兵を密集させていたことで私たちの数が少ないと踏んだから奇襲を行ったのだろう。

しかしながら数は圧倒的に私たちの方が上。当初は圧されたものの反撃に出るまでそう時間はかからなかった。

 

…振り返りはここまでにして、まずは生き残ることを考えなければ。

馬を駆けさせながら右脇腹に片手を当てる。

 

(…かなり痛いな、この傷は)

 

先程の戦闘で一発攻撃を受けた。そして生まれたのはこの傷口だ。

すぐに命に関わる、という訳では無さそうだがこのまま何もしなければ失血で死ぬだろう。傷口を焼いて塞ぎたいが天気はこの大雨だ。火など起こせない。

 

どこかに農村か、雨に当たらない洞窟でもあれば───

 

そんなことを考えながら、どれほどの時間を走っただろうか。

認知できる範囲が大変狭いこの状況では方向感覚がおかしくなり、現在地が分からなくなる。少なくとも十数キロは走ったような感覚だ。

その時、いきなりふわっとした浮遊感に襲われた。

 

(───っ⁉︎)

 

一瞬混乱するも、これが何なのかすぐに理解した。

 

落下したのだ。恐らく崖だろう。踏み外してしまったのか。

やってしまったと気づくももう遅い。体を襲う幾つもの衝撃に悶絶し、馬の断末魔を聴いた。

 

「がっ…‼︎」

 

もう自分にできることはない。死なないように心の中で祈る。

少し経ったら、衝撃はぴたりと止まった。

 

(なんとか…生きてはいる、のか…?)

 

目を開けると、ぼんやりと光が見える。

集落があるのだろうか。全身の痛みを堪えながら足を引き摺るようにして光に向かって歩き出す。

 

(ああ…頭がぼうっとしてきた…)

 

血を失いすぎたのだろう。まずい。そろそろ傷を焼かなければ本当に死ぬ。

光のもとまで歩くと、やはりそこには農村があった。私が着ていた服はもう脱ぎ捨てているから、軍の関係者だとは分からないだろう。村人達には遭難者とでも言おうか。

 

ふらふらとしながら一つの家の前まで歩くと、扉を叩く。

暫くしたら一人の男性が出てきた。

 

「…夜中に突然すまない。火を貸してもらえないだろうか?」

 

男性が私をギョッとした目で見た。

その目からは恐怖の感情が読み取れ、なんだか震えている。

 

…あぁ、私としたことがうっかりしていた。

土砂降りの中血だらけの男が訪ねてきたら誰でも怖いだろう、と今更気づいた。やはり頭が働いていないのか。

この人には悪いことをしたな。

 

「……すまない……怪しいものでは無い…の…だ」

 

そこまで口にしたところで私の視界はかすみ、体に力が入らなくなる。

 

そのまま前方に倒れ込み私は気を失った。

 

 

 

 




見てくださりありがとうございました。

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