サルでもわかる!軍人の攻略法   作:FNBW

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ダイナモ作戦、あるいは撤退戦

 

『今日は良い戦死日和だ』

 

そう言っていた部下はレーザーで蒸発した。

 

『海上への撤退戦だから無理をしなくてもいい』

 

そう言っていた部下は瘴気を吸って窒息死した。

 

 

今日この日この時、俺たちカールスラント軍人には役目があった。

非戦闘員が逃げるまでの時間を稼ぐこと、ただそれだけ。

元々は楽な仕事のはずだった。

 

実際、ここから一番近い別の港では何事もなくブリタニアかノイエ・カールスラントへの出港準備が進められていることだろう。

 

この日、俺たちは自分の国を棄て、ブリタニアへと逃げる手筈だった。

敵は人類の予想を遥かに超える勢力だった、その証明がこれなのだろう。

 

たった一機の黒いそれは夕焼け空の太陽を背にしてやってきた。

ネウロイと呼称された敵は港を地獄に変えた。

元居た俺の時代から更に進歩、否、飛躍したようなレーザー武器は建物や船を焼き尽くし、人を蒸発させた。

 

発見からここへの到着まである程度の猶予があった。

民間人を中心とした非戦闘員は船に押し込まれて緊急出港。

俺たちはその足止めをしている。

 

目の前の港が赤く燃えている。

おまけとばかりにまき散らされる瘴気は吸うだけで死に至る、吸わずとも肌に触れるだけで有害だ。

ネウロイの通過した場所は人が住めず、生き物が死に絶える所以がこれなのだろう。

 

 

1940年代の今、人類に為す術はほとんどない。

 

 

遠くで汽笛の音が鳴った。

俺の乗るはずだった最後の船は既に指先程度の大きさだった。

日の出と共に出港するつもりだったが、ネウロイが襲来したと報を受けて出港を早めた。

 

今回のネウロイは海を越えられないらしい。

海上に逃げるのは最も有効な手段だ。

どれだけの非戦闘員が乗れただろうか。

家族も乗れていると嬉しいな、と船を見ながら思った。

 

 

 

20年ほど昔の話をしよう。

どこにでもいるサラリーマンでちょっとばかりオタクな俺は、寝て起きたら転生していた。

最初は頭が追い付かなかったが、日が経つに連れて自身が転生したことを理解した。

 

物心ついた時は大体1920年代で、俺の居た現代から一世紀近くも離れていたことに絶望した。

 

幸いにも、というか、幸運にも生まれた家は素晴らしいの一言だった。

主に嗜好品を取り扱う大きな家だったのだ。

たばこや茶菓子、コーヒーといった嗜好品の数々を取り扱っていた。

あくまで生産ではなく取り扱いだというのは、それらのメーカーや工場を取り纏めるオーナーだということだ。

まだ飽食の時代ではないが、それでも娯楽と共に上流階級から重要視されている嗜好品は飛ぶように売れ、祖父は朝から晩まで酒や肉を嗜んでいた。

 

この時代で上流貴族に次ぐ、超絶金持ちである。

 

勝ち組、人生SSRとバブバブ舞い上がっていた赤ちゃんである俺であるが、立ち歩けるくらいで親父が暗殺されました。

富裕層にはこれは付き物であると祖父は笑っていましたが目が笑ってなかった。

抗争や利権問題など、これ以上ないくらいの社会の闇の部分を意識のある赤ん坊の俺は全部聞き続けて悟りを得た。

 

家督を継ぐのは辞めよう、と。

 

幸いにも子宝には恵まれたらしく弟と妹が一人ずつできていた。

長男だが耐えられないので次男や長女に任せるわ。

 

話せるくらいの年になって黙々と知識と肉体を鍛えた。

現代の知識による俺Tueeeeは散々俺を調子づかせたがマジで無理、死と隣り合わせの人生は嫌だわ。

そして兄弟三人ということで次代の家督争いがまことしやかに囁かれるようになり、10歳の誕生日に逃げる口実として軍人になると祖父に相談した。

 

なぜ軍人なのかというとこの時代、貴族階級と軍人くらいしか位の高いものがないからだ。

貴族も社会が移り変わり表面上はなくなってはいるものの、実際のところは尾ひれ背びれを引きまくっているのは親父暗殺の件で俺は知っている。

 

身を守る術を合法的に学ぶというのもあるが主に権力が欲しいのよ。

国が国というのもあるだろう。

下手に一般人でいるよりも軍人でいる方が後に生存へ繋がる。

 

祖父は笑って許してくれたが悲しそうだった。すまんな、変な孫で。

翌年から金の力にものを言わせて上流階級の士官学校へ放り込まれた。

士官学校の一年目はとにかく貴族階級の連中と話を合わせるので精一杯だったと言っておこう。

 

 

しかし帝政カールスラントか、いつドイツとかナチスに変わるんだろうな。

 

 

 

 

過去に転生したと思ったら異世界だった件について。

 

違和感は国の名前もそうだが、まずさ、母上がパンツ丸出しで歩き回ってたんだよね。

家の中ならまぁ前世の親父が風呂上りにパンツ一丁で歩きまわってたから、そこまで違和感はなかった、いやあったけどなんとか納得した。

でもそのまま外出歩いたてたら、アカン母上乱心してるやんって思うよね。

まさか親父が死んだショックで心を失ったのかと真顔になっていた。

女性は大半その恰好がフォーマルだと知ったのはそれから間もなくだった。

 

パンツじゃなくてズボン? なるほど(思考放棄)

 

流行のファッションとか中世の度し難い風習でも残っているんだと思いながらも日常生活を続け、慣れ始めた。

いや、やっぱ無理、学校に通っていても女の子とすれ違う度にガン見してしまうくらいには精神衛生上悪かったと言っておこう。

 

士官学校は大半が野郎どもだったのと、それどころではないくらいに面倒な場所だったのでしばらくは忘れられていた。

月日の経過と慣れで成人する頃には違和感なんてなくなるだろうと割り切っていた。

 

それから月日は流れ1939年、世界各地にネウロイが現れた。

この世界が元居た世界と違うのだと思い知らされる。

ここは元の世界に酷似した異世界なのだと。

 

逃げる最中にネウロイを生で見たが、あんな逆の意味で時代錯誤な武装をした勢力なんてこの時代にはありえない。

現代を超えているだろう。

 

ネウロイはそれまでいがみ合っていた国々を瞬く間に壊滅し、人類は共通の敵に手を取り合った。

国の名前が違うがナチスドイツが欧州各地と手を取り合うとかありえない展開で付いていけない。

 

極めつけはウィッチの存在だ。

 

そのまま訳して魔女だ。

この世界、なんと魔法が存在した(女性限定らしいが)

重火器の効きが悪いネウロイはウィッチの魔法力を付与した攻撃なら再生が遅れる。

 

ネウロイは内部のどこかにあるコアを破壊するまで再生し続ける。

故に瞬間火力だけではどうにもならない問題がウィッチにより解消された。

しかしウィッチは元々隠匿された存在らしい、数があまりにも少なすぎた。

対してネウロイは数不明、そもそも生物かどうかも怪しい。

 

コアがあるだけの無人機だというのが俺の所感だが、もしもそうならば消耗戦になれば負けるのはウィッチで人類だ。

 

 

 

 

結果、負け始めたのは人類だった。

撤退に次ぐ撤退。

今日まで生き残れたのは運によるところが大きいだろう。

否、階級が俺を守ってくれていた。

 

士官学校を卒業して晴れて軍人、とはいかなかった。

ネウロイにより軍の人員不足が卒業を早めた。

金の力で貴族階級と同じエリートコースに入ったおかげで少尉での入隊となった。

 

純粋な貴族階級の奴ら? 俺が媚び諂った奴らはだいたい田舎に帰ったよ。

ネウロイが侵攻したせいで貴族も平民もクソもなくなったのはいい気味だが死んでほしいとまでは思ってない。

いややっぱ逃げた奴は死んでくれ。

 

あと親父を殺した奴はたとえ便所に隠れていても息の根を止めてやるからな。

 

ズボン(パンツ)は世界共通でした。

 

 

 

ともあれ、今回の撤退作戦、ダイナモ作戦だったか、その作戦が始まってついに運が底をついたらしい。

昨日までゲラゲラ笑っていた同じ部隊の男どもはほとんど死んだ。

逃げるために車を手配してくれた友人は車ごとレーザーで蒸発。

 

この港の作戦指揮を執った司令官は不幸にも作戦の最初に殉職した。

その代わりに俺が作戦本部からの指示で昇進して現場を取り仕切ることになったわけだ。

 

その時にはもうほとんど動ける人間は残っていなかったが。

何度目かの攻撃がネウロイのレーザーで黙らされた。

 

だがもう大丈夫だ。

 

船が離れればこのネウロイは攻撃対象がなくなり巣に帰る。

通信機でやり過ごすように指示を出した。

司令部から出よう。

 

 

「ゲホッゲホ! 少尉! 生きておりますか!?」

 

 

まだボンベ持ってない兵士が生きていたのか。

別部隊の新兵くん。

名前なんだったかな。

まぁ名前なんて今はいいか。

 

 

悪いけどこの防護服を着させてくれ。

今付けているガスマスクも君の分はある。

 

 

「これは…まさか少尉が作ったのでありますか!?」

 

 

そうだけど瘴気に対してどこまで有効かわからないけどね。

 

 

「見たこともない形です。一体どこでこれを?」

 

 

ドクターストーン見て覚えてた。

げふん、まぁ日ごろの準備が良かっただけだよ。

上の連中は支給されてるけど、俺たちにはもらえなかったからさ。自作した。

俺の指示に従った他の兵士にも配ったけど、確か君は別部隊だったよね。

俺の出した指示は終了した。

あのネウロイは海洋を渡れない、もう船を追いかけることはできない。

生き残りには隠れてやり過ごすように伝えたよ。

 

 

「ネウロイを倒さなくても良いのですか? 当初の指示は撃滅でした。

…できるとは思っておりませんが」

 

 

生き残ることの方が大事だよ。

俺らの任務は非戦闘員を無事に船に乗せて出港させることだから。

でも俺の指示のせいで結構な兵士が死んでしまったな。

戦力の逐次投入からの全滅よりマシだろうけど。

胃が痛い。

 

 

生き残った兵士に俺の出した指示は二つ。

攻撃をせずにネウロイから身を隠すこと。

 

もしもネウロイが船を攻撃するために港を出そうになれば、あらゆる手段を行使して注意を引き付けること。

 

港を出ようとしたネウロイは進路を戻し、生き残りを殲滅した。

それを何度か繰り返し、今に至る。

防護服とボンベにより瘴気ではすぐに死なないことは相手には伝わっていないらしい。

 

司令部とは名ばかりの詰所の通信室から外に出て空を見上げる。

ネウロイはゆっくりと港の外周を旋回している。

ネウロイがこの地域を離脱した後招集をかけるか。

 

今この状況で最悪なのは別のネウロイがやってきて俺たちが逃げられないことだ。

ガスボンベも防護服も完璧とはとても言えない。

もしかすると既に使用者が死んでいる可能性も十分にある。

 

ネウロイにここに長時間居座られると困る。

 

 

――さて、これからどうしようか。

 

 

車を用意してもらっていたがレーザー兵器によりご覧の有様だ。

徒歩で移動するか。

きっとこの港の資源を回収するために他のネウロイがやってくるはずだ。

移動はできるだけ速い乗り物の方がいいのだが、仕方がない。

 

 

「あの、私の車がもしかしたら生きているかもしれません。軍用ではないのですが」

 

 

おお、そいつはいい。

助かったよ。

もしかしてこの港の出身かな?

 

 

「いえ…少し…用事がありまして」

 

 

歯切れが悪いな、追及は必要ならするが、今じゃない。

だんだんと思い出してきた。

彼は確か元音楽家だったな。

そのまま音楽の道でも食っていけた稀有な才覚の持ち主だと聞かされていた。

人手不足もあったが彼は自分から兵士に志願したらしい。

 

 

「港から少し離れています。

急ぎ移動しましょう」

 

 

重い防護服とガスマスク装備一式を背負いながら火の海の港を移動した。

恐ろしいほどに静かだった。

火の手が回っているのもあるだろうが、それ以上に瘴気による死者が多すぎる。

手製のボンベもあるが長くいるべきではない。

 

 

どごん、という独特の銃声が港に響いた。

 

 

新兵の背を押して物陰に全身を隠した。

結構な口径の音だ。

 

 

対戦車ライフルか?

なんて無謀な。

 

 

「違います…あれは…ウィッチ!」

 

 

黒煙の昇る港の夕空に誰かが飛んでいた。

ここからではウィッチの姿を見定めることができないが、上空に漂うネウロイの右翼が崩れていた。

 

再生は遅い。

 

 

「まさか!? いや、来られるはずがない」

 

 

ウィッチは一人だった。

 

おかしい、カールスラントだけでなく、どの国でも必ず編隊を組んで来るはずだ。

一人で来るはずがない。

 

思考を巡らせているとまた重い銃声が響いた。

ウィッチの仕様武器はおそらく対戦車ライフル。

巨大なネウロイに有効打になりえる強力な武器だ。

 

だが空中では狙いはうまく定まらない。

数発撃って後退し、瓦礫と建物に身を隠しながら飛行を続けながらおそらく次弾装填している。

手慣れた動きだ。

先行して来たのか?

 

 

「少尉、我々は…」

 

 

新兵の声で我に返った。

俺たちにできることは一つもない。

彼女が少しでも長く戦闘している間に逃げなければ。

 

銃声とネウロイのレーザーによる爆音の中、俺と新兵は走った。

少し離れたところに白い車が置いてあった。

 

二人乗りの小型車だ。

 

 

「良かった、無事だ…これからどうされますか」

 

 

海岸沿いに南下する。

安全な海路ではないぶん運が必要になるが海が近いならネウロイとの遭遇も多くはないはずだ。

 

 

「了解しました……あっ」

 

 

助手席に座ろうとすると箱が置いてあった。

爆発の影響で倒れたのか箱は半開きになっていて中身が見えている。

女性の着るような衣類、ドレスだった。

 

先程歯切れが悪かった理由は、これか。

 

 

「す、すみません少尉。すぐに捨てます」

 

 

いや、いいよ。

トランクにでも乗せておけばいい。

それよりもこのあたりの地理には詳しいか?

 

 

「わかります。ですがこの大陸はもうどこにも」

 

 

だからこそブリタニア(イギリス)に逃げるって作戦だったんだよな。

まぁなるようになるか。

あのネウロイは―――

 

 

あのウィッチとネウロイの戦いはどうなっているのか。

確認しようと上空を見上げた。

 

ちょうどウィッチのストライカーユニットが爆散した瞬間だった。

 

ストライカーユニットはいわばこの世界での魔女の箒にあたる。

足に装着する立ち型のそれで空を移動しながら攻撃するのだ。

 

 

片足ならば熟練のウィッチならばまだ飛行可能だろう。

 

――だが彼女は二つとも壊れた。

 

これも通常ならば他のウィッチがカバーに入る。

 

――だが彼女は一人だった。

 

 

ネウロイの真下に彼女は堕ちた。

その瞬間はここからでは見えなかったが。

 

生きている可能性は極めて低い。

 

 

「なんてことだ…! まだ若い女の子だぞ!?」

 

 

すぐに新兵を車から出してその陰に身を隠した。

動いているものがなくなったのだ。

すぐに索敵が開始される。

今車を出せば気付かれる可能性が高い。

 

車の窓を通してネウロイを目視する。

ウィッチを倒したからなのか、しばらく港を旋回している。

濃い瘴気が再び周りに散布される。

 

 

「少尉」

 

 

車はまだ使えない。

新兵、俺はこれから軍の詰所に戻る。

まだ通信が生きていれば、ブリタニアかどこかに繋がるだろう。

お前は、瘴気の届かない西の丘に移動しておけ。

崖の方な。

目立つなよ。

 

 

「…了解しました」

 

 

…ああそうだ。

さっきのドレス、嫁さんの?

 

 

「いえ、彼女とはまだ籍を入れていません」

 

 

そうか。

それくらいなら持ち歩けるだろう。

くれぐれも無謀な攻撃はするなよ。

俺たちの攻撃は陽動くらいにしか意味がないんだ。

じゃあ後で。

 

 

「ご武運を」

 

 

 

 

詰所では替えのボンベをまず最初に手に入れた。

倒壊していればその時点で詰みだったが運が良かった。

 

次に通信機器だが、ぶっ壊れてたんで直した。

紙に書かれた通りの手順で連絡。

救援が来るのはどれだけ早くても数日は要するだろう、こちらに迎えを寄越すならば。

 

次に港に救援に来た僚機なしのウィッチがネウロイと交戦し戦死したと伝えた。

 

ジャミングでもされているのか、無線の先からの音声はない。

通っているかわからないが言うだけのことはすべて伝えたはずだ。

 

一応同じ内容を適当にラジオとかで流しておこう。

放送局作るのやってみたかったんだよね俺。

既存の放送局に割り込むことになるけど、緊急事態だし許してよね。

 

残りのボンベを外に出して火の手が回っていない道路に置いた。

気が付いた生き残りが使うことを祈る。

双眼鏡も探し出し紐を首にかける。

 

上空のネウロイはまだ旋回している。

 

 

まだ俺にはやるべきことがある。

 

このままでは俺たち生き残りは帰ることができないから。

 

 

 

 

ウィッチが墜落した場所は特に倒壊が酷かった。

元々は劇場だったのか扇状の会場は所々燃えていて現在進行形で崩れ始めている。

レーザーで屋根が吹き飛んだのが良い方向に動いたらしいが、いつ完全に崩れるかわからない。

 

劇場の端に血塗れの瓦礫があった。

その地面は血溜まりができている。

手を合わせて拝み、瓦礫を退ける。

目的の物はすぐに見つかった。

 

ボーイズMk.I対装甲ライフル。

 

魔法力が付与されていた故にか、銃身は曲がっておらず未だ無傷のそれを持ち。

 

 

「待って」

 

 

鈴のような声が聞こえた。

劇場の座席の隙間に誰かが倒れていた。

 

ありえない。

10階の高さは超えていた。

 

 

「私はどのくらい…?」

 

 

貴女が堕ちてからまだ十数分と経っていません。

…戦えますか?

 

 

「うん……私の故郷…だから」

 

 

やはりか。

 

服を見ればガリア空軍のものだった。

武器が他国の物だが、支給されたか無断で持ち出したか。

 

独断先行と軍規違反。

だがそのおかげで可能性がある。

 

――その体が五体満足であったならば。

 

 

「体が…動かない…?」

 

 

致命傷だ。

なぜ生きているかわからない。

 

片手と下半身がひしゃげている。

目を覆いたくなるような有様だった。

 

処置の心得はあるが、こうなっては。

 

 

「あのネウロイはどこ?」

 

 

まだ港を旋回しています。

 

 

「西に丘があるの、私を連れて行って」

 

 

その言葉に背筋が凍った。

 

こんな姿になってもまだ彼女は戦うつもりだ。

遺体の身元を確認するくらいのつもりだったが、予想外にもほどがある。

 

尊敬の念しか起きない。

 

彼女の体を背に乗せてロープで括りつけた。

血は驚くほどに出ていない。

もしかすると彼女の魔法力の恩恵かもしれない。

 

…この状況でライフル持つのか。

 

四の五の言っていられない。

 

 

「ライフルは私が持つ。まだ魔法力は残っているから」

 

彼女がライフルを持つとすんなりと持ち上がり、俺には重さがかからなかった。

これも魔法力の恩恵だろうか。

 

ウィッチの魔法力は瘴気にも耐性がある。

この瘴気の充満した劇場でも生きていたのはその為だろう。

 

残ったボンベは破棄するしかないが急いで丘へ向かおう。

 

 

 

「少尉! その子は!?」

 

ウィッチだ。

これから狙撃する。

彼女の願いだ。

付き合うなら観測手になってくれ。

どこに当たったかを言うだけで十分だ。

 

 

丘へはすぐについた。それほど距離が離れていないが時間は要した。

 

想像以上の傷を負っている彼女を担いで走るのは心が痛かったが時間が残されていないのも確かだった。

 

そういえば名前を聞いていなかった。

 

それも後でいい。

 

 

「少尉さん…?」

 

 

今のご時世、階級なんて飾りだよ。

この武器の有効射程を教えてくれないか。

 

 

「300ヤード(約270メートル)」

 

 

港の上空を飛んでいるネウロイまでは2キロは離れている。

 

届くかもしれないがコアを抜くほどの威力は発揮できない。

 

 

「私の魔法力と、固有魔法でまだ有効範囲内」

 

 

いや、それでも難しい。

一流のスナイパーでも難しい距離だ。

 

 

「ごめんなさい…私が…こんなだから」

 

 

俺が狙撃しなくてはならない。

彼女の体から血塗れの弾薬を取り出す。

弾は既に装填されていたが多ければ多いほどいい。

 

弾丸を地面に並べる。

 

 

新兵、答えを聞いてない。

このまま離脱してくれても構わない。

この狙撃は彼女の願いで俺の自己満足だ。

もしかするとレーザーで一緒にお陀仏になるかもしれない。

 

 

「いえ、やります。やらせてください!」

 

 

双眼鏡を新兵に投げ渡した。

彼女を背中に縛り付けたまま、ライフルを構える。

撃ち方は一通り習ってはいるが。

 

当たる気がしない。

 

トライアンドエラーが前提だ。

 

弾はあるが。

 

 

――魔法力がなくなれば彼女はすぐにでも死ぬだろう。

 

 

青白い光が銃身を覆った。

 

 

 

 

ダイナモ作戦は当初の予定とは大きく異なり、しかし、成功に終わった。

ネウロイを引き付けるため、犠牲となるはずだった部隊は一部生還を果たした。

最小限の犠牲で多くの命を救うはずであった作戦は、結果的に当初よりも多くの犠牲を払うこととなった。

しかしそれを知る者は一部将校のみである。

 

 

 




見切り発車です

1/29 士官学校並びに階級の修正

2/2 ズボン描写追加

以前感想をもらっていたのに見逃していました。すみません、ありがとうございます。


7/26 改行を削減、修正

感想とメッセージありがとうございました。

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