サルでもわかる!軍人の攻略法   作:FNBW

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誤字報告ありがとうございます。


撤退戦、その後

 

穏やかな昼下がり、カモメの鳴き声と船の大きな動力音だけが止めどなく耳に入る。

 

カールスラントとブリタニアの間にある海洋、俺の知る言葉では北海。

船に乗って既に一日が経っていた。

ブリタニアの島を横目に俺の乗る船は西へ向かっている。

 

現在ロンドンへの海路の途中だ。

まもなく船は到着するだろう。

 

俺は人気のない甲板で何をするわけでもなく、たばこを咥えていた。

 

 

結果だけを言うと俺はネウロイを撃滅した。

 

 

狙撃の実戦はなかったがコアまで撃ち抜いたのは偏にウィッチの魔法力と固有魔法のおかげだ。

 

弾道強化という撃った弾丸を加速する魔法を彼女は使用したらしい。

弾丸は逸れることなく真っ直ぐにネウロイに当たる。

数度の試行回数でネウロイのコアを露出させ、撃ち抜いた。

 

翼を一撃で砕いたほどの威力だ、この港に来るまでの消耗がなければ一人でネウロイを倒していただろう。

 

 

コアを砕いたのを見届けてから、

少女は満足そうな顔つきで、

息を引き取った。

 

 

埋葬する前に彼女の持ち物を検めた。

彼女はドッグタグを持っていた。

 

それにはこの港の番地が記されていた。

おそらく彼女の自宅の番地だろう。

本部へネウロイ撃墜の報告と改めて救助要請を送ったのち、その番地へ向かった。

 

立地が悪かったのだろう、酷い有様だった。

港の外れにあったその家はネウロイがやってきた大陸側に位置していた。

 

最初に犠牲になった地域だ。

火の手は上がっていなかったが瘴気により生き残りはいなかった。

 

そこにいたのはおそらく彼女の家族だ。

 

ここに来るまでも足の悪い老人などは道端に死体が散乱している。

彼らも逃げ遅れたに違いなかった。

若い夫婦だけならば逃げられたかもしれないが、結果は全滅だ。

 

家の中にある写真立てには笑顔の少女とそれを囲うように夫婦とその老父母の姿もあった。

 

最初に彼女はここに来たであろう。

 

家族が横たわる姿を見て、我を失ったのかもしれない。

軍規違反までしてここへ駆けつけたのだ。

間に合わなかった虚しさとネウロイへの怒りは計り知れない。

 

簡易であるが埋葬した。

 

それから程なくして港で散り散りになっていた生き残りの兵士と合流し、しばらくの日数の後、ブリタニアから船が到着。

ウィッチ隊の護衛の下、無事に俺たちは帰ることができたわけだ。

 

船に乗ってから偶然乗り合わせた将校からべた褒めされ、勲章の授与が決まったそうな。

権力は確かに欲しかったが、その時は虚しさしか残らなかった。

 

いや違う、虚しさだけでなく腹立たしさも残った。

将校が乗り合わせたのは偶然でもなんでもない。

ダイナモ作戦が成功だったことの証明として、英雄役が必要だったのだろう。

実際、もっとたくさんのネウロイを撃墜したウィッチと比べ俺の戦績は見劣りなんて生易しいものではない。

 

 

――もっと言ってやるならば、この作戦での俺たちの真の役割は犠牲だった。

 

 

あの港はネウロイたちを焚き付けるための撒き餌だった。

俺は司令官からそう聞かされた。

彼はそれを承知でその作戦に就いたのだから、惜しい人を亡くしてしまったと思う。

 

本当に残念だったよ。

 

彼らの思惑と違い、もしくはウィッチたちが奮闘したおかげか、港に来たネウロイは一機だけだったのがそもそもの問題だろう。

犠牲故の撤退戦勝利という台本を俺が余計なことをしたからこうするしかなかった。

必死に戦った彼女らと一緒に勲章を授与など、恨みを買えと言っているようなものだ。

 

船の護衛をしているウィッチとは顔合わせすらしていない。

命を懸けて戦っている彼女らに対して向き合えないからだ。

 

そんなわけでロンドンまでやることもなく、船に揺られながら暇を潰しているわけだ。

 

本日五本目の紙たばこを吸い殻捨てにねじ込んだ。

現代にいた頃よく吸っていたこともあり、紙たばこはやはり吸いやすい。

長く吸うなら葉巻一択だが体に悪すぎる。

健康に少しは配慮(笑)した俺の自信作だ。

専門知識ではなく既存の知識に少し手を加えただけの見た目だけが現代のたばこである。

もちろん現代のよりもマズイ。

ただの気分で吸っているだけだ。

酒に逃げるよりもマシだと思っている。

幸いにも咎める者は誰も居ない。

甲板に寝そべっていても誰にも何も言われないのはむしろ快感さえある。

 

 

「少尉!」

 

 

聞き覚えのある声がして寝たまま顔だけそちらへ向けた。

予想通り新兵が身なりを正してそこに立っていた。

 

 

やぁ。

一日振り。

その後のみんなの調子はどうだ。

 

 

「はっ! 港に詰めていた兵の内、生還者は6名でありました。

負傷者はこの船にて治療中であります」

 

 

そうか。

結構減ってしまったな。

防護服とボンベのことは誰かに言っていたか?

 

 

「いえ、誰も言っておりません」

 

 

まぁ口止めをしても少ししたら上も気が付くだろう。

すぐに問い詰められなければいいだけなんだけど。

ともあれ、ありがとう。

君には色々面倒ごとを押し付けた。

 

 

「いえ、そんなことは。

お役に立てて光栄です。

少尉、実は紹介したい方がおりまして」

 

 

紹介? 生き残りに知り合いでもいたのだろうか。

 

ふと彼の後ろに控えている人物がいることに気が付いた。

カールスラントの軍服を着た女性だった。

 

跳ね起きた。

 

身なりと共に背筋を正す。

同じカールスラントの軍服だが、空軍のものだ。

そして女性とくれば察しはつく。

ウィッチだ。

 

それも階級章は大尉、上官じゃねぇか。

敬礼をする。

 

 

「初めまして少尉。

第3戦闘航空団所属、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケです。

お噂はかねがね聞いております。

お会いできて光栄です」

 

 

とんでもない!

私こそ光栄の極みであります!

第3戦闘航空団の司令官殿でありますね。

ご活躍は私の地域でもよく聞いておりました。

……お二人はもしや。

 

 

「彼とは家が近いこともあり、また互いの家が音楽に精通していたため懇意にしておりました。

この度は、彼の生還までを導いて下さり、本当にありがとうございました」

 

 

懇意か。

まだ籍を入れてないと言っていたが、最前線で戦うウィッチだけでなく、まだ若いからだろうか。

深くは踏み込まないようにしよう。

 

 

「あの状況で船を送り出し、かつ、兵士に生存者を残せたのは見事の一言では言い表せません。

失礼ですが、今回の作戦指揮は亡くなった司令官が指示したものなのでしょうか」

 

 

いえ、我が隊の司令官は港へのネウロイ襲来時の先制攻撃で殉職致しました。

作戦本部に指示を仰ぎ、現場指揮を任されてからは私の指揮であります。

 

 

「…そう、ですか。

いえ、彼とはあまり面識はないのですが、誇りあるカールスラント軍人としての責務を全うする方だと聞かされておりました。

とても残念です」

 

 

私も同じ気持ちであります。

 

 

「話は変わりますが」

 

 

――資金繰りの話でありますね。

援助というかたちで協力致しましょう。

 

 

「……ご存じでしたか」

 

 

トレヴァー・マロニー中将の態度が露骨すぎました。

あれだけべた褒めされたのですから流石に察しますよ。

私に近づいてくる人は大抵そんなものですし。

私としても戦力の要であるウィッチ隊に我が家が貢献できるのは一族の誇りとなりましょう。

 

ただ一つ言うならば、私は家督を継いでいるわけではありません。

軍属に身を置いている現在は家督を継ぐつもりもありません。

祖父や兄弟が生きているうちは融通できるでしょうが、もしも何らかの事情が起きれば確実に援助は打ち切らせていただきます。

 

 

「なるほど、中将に報告しておきます」

 

 

立ち話で申し訳なかったが、周りに人はいない。

 

詳しい話を聞くとウィッチを中心とした新設部隊を設立する予定らしい。

もちろん軍内部の資金を使うのが当たり前であるが、援助があれば盤石なものとなるらしい。

 

実家の金も無限ではない。

それどころか大陸から撤退した今、供給も何もかも止まっている。

祖父の手元にあるのは生き残った技術者と経営のノウハウだけだ。

あの人ならばそれでもまた盛り返すだろうが、数年は要する。

 

軍が望んでいるのは金だけでなく嗜好品もだろう。

生産が始まり次第優先的に軍へ引き渡すことになりそうだ。

 

収入がゼロに近い状況で融資を頼むことを理解してほしいと重ねて伝えた。

俺が生きている前提で、祖父には話を既にしてある。

戦争の都合で無理やりに資金を奪うか、援助するかの二択になっていたと思う。

 

どうせなら恩着せがましくくれてやるだけだ。

 

家族の絶対的な安全を保障してもらいながら。

 

 

 

話は全部済んだ。

 

援助が止まる可能性があるのなら彼らは喜んで味方となってくれるだろう。

俺自身の保身も確実なものとなった。

 

特別に何かを言ったわけではないが、俺が殉職すれば援助は止まると誰が見てもわかるだろう。

 

あとはなるようになる。

ああ、だけど、もう家族には会えないかもな。

 

 

 

 

 

――そういえば。

 

 

「はい? 何かありましたか少尉」

 

 

ガールフレンドが去ってから新兵はすることがないのか隣に腰を下ろした。

たばこくらいやろうかと思ったが音楽に携わるものなら肺を傷つけるたばこはよろしくない。

 

若干の気まずさを振り払うべく話題を切り出した。

 

 

お前はこれからどうする。

まだ戦場に出向くのか。

ブリタニアにいる間は安全かもしれないが、それも数年だろう。

音楽家の道に戻る気はないのか。

 

 

「私はきちんとした音楽家ではありませんでしたし、

再び音楽の道を歩むのは彼女と共にするつもりです。

それに私は前線へは出ません」

 

 

前線に出ない?

そんなことが可能なのか。

 

 

「もちろん有事には出ざるを得ませんが、元々私は技術者志望だったのです。

ブリタニアでこれから新設される最前線の部隊の整備班に配属されるように取り計らってもらいました」

 

 

なるほどな。

羨ましいじゃないか、未来の奥さんと一緒の職場だなんて。

 

 

「少尉もおそらくその部隊のどこかに転属になるはずですよ」

 

 

俺が? ウィッチ中心の部隊に?

どの面下げて歩けばいいんだよ。

お前も知ってるだろう。

俺があの港でやったのは人の尊厳を損なう行動だ。

同じ人間を電池みたいに消費したんだ。

正直、思い出すだけで気分が悪くなる。

 

でもまぁ、配属されるとすればそこが一番無難かもな。

逃げられない最前線で、かつ一番の安全地帯だ。

ロンドンあたりに身を置くと思っていたが。

まぁどちらにせよ、俺に選択権はないか。

 

 

 

汽笛の音が鳴った。

 

超うるさい。

 

もしかするともう到着するのだろうか。

 

授与式には出なくてはいけないが、胃が痛む。

 

願わくば新設部隊に面倒な奴がいないことを願う。

 

頭の固い脳筋とか、融通の利かない奴とか、そのどちらも俺のスタンスとは相性が悪い。

 

相性が悪ければ避けるのが俺の処世術なのだが、長い期間共にするならば苦痛でしかないだろう。

 

不安で胃が痛む。

 

いやこれ多分たばこの吸い過ぎで胃が

 




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