ありがとうございます。
10/9誤字報告ありがとうございます。
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先に言っておきますが、ガリアやロマーニャのウィッチの知り合いなんておりませんよ、大尉。
「わかっている。
まさかカールスラント人が多いなどと言われるとはな。
うーむ、しかしこうも出鼻を挫かれるとは。
…少尉、そこにいたのか」
大尉と俺が呼んだ眼帯の女性は、書類の陰で隠れている俺を見てそう言った。
書類書類書類、書類の山が俺の事務机に束になって置いてあった。
転属先の新設部隊はブラックな職場であった。
現在、俺の戦場は現場ではなく事務机の上となっている。
実戦はウィッチが務めるため、これは役割分担だ。
例えば彼女らの訓練や演習の立案を坂本大尉らが提案する。
それらを書類として作成するのが俺の役目だ。
中間管理職、もしくはその補佐というイメージだが、彼女らの負担を軽減するというのが俺の役割なのだろう。
ただしヴィルケ中佐の仕事は佐官クラスの物なので、迂闊に手伝えない。
彼女の上官の指示書などは見たこともない。
担当するのはあくまで尉官クラスの簡単な書類だけだ。
坂本大尉も直に少佐へと格上げされるらしく、そうなれば手伝える仕事も減るだろう。
そういう補佐役はどこの部隊でもあるらしい。
坂本大尉も本国から何人かの従兵を連れてきている。それと近い認識だ。
様々な国籍が混在するために文学や宗教に一定の知識が求められていた。
俺は大体肩代わりできる。
ストライカーユニットなどは技術者がきちんといるのでそっちに丸投げする。
最終的な確認をするのはヴィルケ中佐だったりする。
で、坂本大尉の他に残っている尉官クラスのウィッチは過半数がちょっっと頭のおかs個性的な子たちなので、全部俺に丸投げされて今に至る。
少量が一気に来るだけでまだ処理できる。
まだな。
それはあの撤退戦の時のような緊急事態ではなく、穏やかな日々が享受できているとみれば良いことなのだろう。
禿げそう。
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第501統合戦闘航空団、ストライクウィッチーズは世界各国から集められたウィッチによる航空部隊だ。
先の撤退戦で各国の優秀なウィッチがブリタニアに集まったことから同国のヒューゴ・ダウディング大将が首相に進言、各国の後押しもあり設立が決定した。
決定したが、設立する前にも後にも問題が起き始めた。
ウィッチの人材不足である。
当初501に集められた約半数は既に他の部隊に取られるかたちで転属させられた。
基地を守る程度ならば十分すぎる戦力だが、目的はガリア奪還である。
いずれはネウロイの巣に攻め入らなければならない。
攻めるためのドリームメンバーを集めたつもりだったらしいが、各国のその人材を抜き取った穴があまりにも大きすぎる。
最近言われたいちゃもんはカールスラント軍人が多すぎる、だ。
お前らが人材取らなかったら偏らなかったんだよな。
結果、ベテラン数名新人数名ということで落ち着いた。
ベテランと一口に言っても中身はネウロイを100機あまり落としたエリート中のエリートだ。
ベテランはいいのだが、問題は新人だ。
人材不足なんで、まず新人を探すところから始めている。
時間がないんだが?
ウィッチの魔法力は20歳を超えると落ちていくらしい。
戦闘隊長の坂本大尉はもうすぐ20歳なんだが?
ガリアに攻め入る前に部隊の解散にならないかなこれ。
俺の実家の資金援助でストライカーユニットの生産は追いつき始めているが、人が足りない。
本人もかなり焦っているそうで各国を練り渡る軍艦に乗船しながら新人を見つけてくるらしい。
ブリタニアやカールスラント人ならば移動を要さずともすぐに見つかるかもしれないが、扶桑(日本)やリベリオン(アメリカ)となると移動だけで1週間以上もかかる。
活気はあるんだが、先行き不安と末期感を俺は感じている。
まぁ安全圏であることには変わりない。
とはいえデスクワークが終わらない。
ワードとエクセルが欲しい。
文章のコピペをさせてくれ。
あとプリンター。
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気が付くと辺りが暗くなり始めていた。
飯を食べるタイミングを失っていた。
夕食を兼ねて遅い昼食を食べに行くか。
と、ドアノブに手を伸ばしたのだが。
ドアの向こうから話し声が聞こえてきた。
どうやらウィッチたちが帰投したらしい。
――時間をずらそう。
仕事で気を紛らわせば空腹も気にならなくなるだろう。
俺はほんの一部を除いてウィッチとは仕事以外の話をしたことはない。
良い印象を抱いている者がいないからに他ならないが、俺自身、あの港での一件を思った以上に引きずっているらしい。
夢に見る程度だからちょっとした戦争ストレス反応だろう。
食欲もあるし不自由とは思ったことはない。
まあこういうのは時間でどうにかなることだ。
さて、終わった書類を片付けておくか。
「少尉、いらっしゃいますか。
土方圭助二等水兵であります」
二等水兵か。
いいぞ。
「失礼致します」
席に座り直してすぐにドアの向こうから声が飛んできた。
許可をして中に入れる。
扶桑皇国の簡易な軍服をきた男性が入室した。
何か用だろうか、と思いそういえば坂本大尉が出国するのだったと思い出す。
「明日午後よりブリタニアを出国いたします。
お忙しいところ申し訳ないのですが、出国の書類を受け取りに参りました」
彼は坂本大尉の数少ない従兵の一人だ。
彼女の書類仕事も受け持っているのもあり俺とはデスクワーク仲間である。
書類はこれだ。
わざわざありがとう。
各国を回って最後に扶桑皇国で補給をしてから帰るのか。
数か月はかかるだろう。
各国のウィッチの引き抜きに色よい返事は聞けているのか?
「…あまり芳しくありません。
軍部からの引き抜きは難しいと既に答えをもらっておりますので。
任意での一般人の選出となると、かなりの日数がかかるはずです。
大尉はご自身の伝手で軍に所属していないウィッチに声をかけるつもりだとか」
彼女の伝手か。
結構な人脈を持ってそうだな、大尉は。
既にクロステルマン中尉を見つけてきた実績付きだ。
しかしこの数か月は大尉にとっても辛い時期だな。
手ぶらで帰ってくることも織り込まなくてはならないか。
無理せず無事に帰ってきてくれ。
「ありがとうございます。少尉もお元気で」
扶桑の菓子土産を期待している、と軽口を言うと彼は苦笑いをして退室していった。
和菓子食いたいなぁ。
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夜が更けた頃、流石に腹の虫がうるさくなり部屋の外に出た。
明かりが灯っていない暗い廊下を歩いて食堂へ。
食堂の電気を点けて調理場の冷蔵庫を開けてみる。
流石に本来の夕食の残りはないか。
調理担当は誰か知らないが結構使い込みやがったな。
食堂はウィッチと整備班が互いに使っている。
食事担当はそれぞれ別々だが、ウィッチたちが作る料理は繊細な女の子料理なのにひきかえ、整備班は男料理しか出た試しがない。
まだまともなのは土方くんの白米とみそ汁の日本食である。
使って怒られないのはたくさんあるジャガイモくらいだろう。
調味料はあるし腹を満たすには十分だ。
ジャガイモを3つ取り出して、一口サイズに切り分ける。
塩を入れて薄く水を張ったフライパンで熱し、ふかし芋にする。
水を捨てた後、細かく切ったオリーブを炒めて油分を出して混ぜ合わせる。
このままだと渋い味になる、のでオリーブを一旦皿に退け、油分と共にバターと塩をジャガイモに絡めた。
これでジャガイモに焼き目を付ければ完成だ。
まぁあり合わせだとこんなもんだろ。
一息をつき、ちょっとした達成感を満たしてテーブルへ運ぼうと後ろを振り向くと、銀髪の少女が立っていた。
おや、リトヴャク中尉、おはようございます。
これから夜間哨戒ですか。
いつもご苦労様です。
あっぶない、心臓が飛び出るかと思った。
「何を作っているの?」
これですか?
夜食のジャーマンポテトです。
カールスラントで結構流行っていた時期があったんですよ、これ。
ジャガイモを見て久々に食べてみようかなと。
もしかして食事はまだですか?
俺の問いかけに彼女は無言でこくりと頷いた。
食べます?
恥ずかしい話ですが、作ったのは良いものの、そこまで食欲がないのを忘れていて。
どう詰め込もうかと考えていたところだったのです。
「…………」
結構長い沈黙の後、彼女は頷いた。
サーニャ・V・リトヴャク中尉。
彼女はオラーシャ(ロシア)のウィッチだ。
固有魔法が感知・探査系ということもあり、また本人が紫外線に弱いということから夜間専門のウィッチ、ナイトウィッチとして昼夜逆転の生活をしてもらっている。
今のところ彼女以外に探査に特化しているウィッチはいないことから、替えの利かない重要な人物として認識している。
ジャーマンポテトを二皿に盛り分けてテーブルに座った彼女の前に差し出した。
向かいの席に座り、薄切りのそれを齧り食べた。
視線を感じて顔を上げる。
目が合うと彼女は視線を逸らした。
馴れ馴れしかっただろうか。
「貴方は」
たどたどしく、彼女は口を開いた。
「ハシでご飯を食べるの?」
ハシ…? ああ箸ですか。
扶桑の食べ方ではありますが、自分もたまたまこういう食べ方が慣れていたのですよ。
ほら、坂本大尉や土方二等水兵が魚料理を振舞った時、みんなの前で使っていたでしょう。
…誰も使えませんでしたが。
「……知らない。
私、昼間は眠っているから」
あっ(察し)
地雷踏み抜いた感あるよね。
いけない。
このままでは確実に夜間飛行に支障が出る。
最終的にバルクホルン大尉にぶん殴られるところまで予想できた。
じゃあみんなを驚かせてやりましょう。
「…驚かせる?」
知っている限りでは女性陣は誰も箸を使えるものがいないのですよ。
だから中尉が巧みに箸を使うことができれば、みんな驚くはずです。
何を隠そう、私もこの使いにくい箸を使えれば優越感に浸れると思ったから頑張って練習して覚えたわけでして。
今ではこれを毎日使っても苦ではありません。
中尉も朝食はみんなと会うのですから、使えたらとても驚かれますよ。
話のタネになること間違いなしです。
「……整備班の男の人たち、オートミールしか食べているところ見たことない」
痛いところを突きますね貴女。
まぁ、男は男、女は女ですからね。
だからこそ私が箸を使えるのに気が付いているのは中尉くらいなものです。
で、どうです?
夜間哨戒まで時間があるのなら今練習してみませんか。
たまにあるんだけど、何をこんな少女に必死に話しているんだと自己嫌悪に陥るよね。
そんな自己嫌悪とは裏腹に彼女は恥ずかしそうに頷いた。
まず、鉛筆持ちをして―――
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教えていて驚いたのだが、中尉は結構物覚えが良かった。
指の使い方に慣れているというか。
確か彼女のパーソナルデータには音楽を勉強して留学までしていたとあった。
俺はピアノやバイオリンは下手糞だがそれと箸の使い方がどこか共通でもしているのだろうか。
今度クルトに聞いてみるか。
なんにせよ、ただ食べるだけの夜食は思いの他盛り上がったと言っておこう。
教え終わってすごい満足感を得て寝た(職務放棄)
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翌日、夜明けと同時に飛び起きて書類仕事に取り掛かった。
朝食の時間になると足早に部屋を出て食堂の端の方に座る。
どうやら今日も男どもはオートミールらしい。
俺の朝飯がコーヒーとオートミールが定番となってしまっていることに一抹の不安を覚えた。
もちろん昼と夜は野郎手製の男料理が振舞われる。
「おお中尉! いつの間に箸の使い方を覚えたんだ。
上手いではないか!」
坂本大尉の声が食堂に響いた。
横目でチラリと覗き見ると、銀髪の少女が大尉に頭を撫でられていた。
恥ずかしそうだが満更でもない笑顔である。
大尉はウィッチの間でも野郎どもの間でも天然ジゴロで通っている。
表裏のない豪快な性格故にか、男女ともに人気は高い。
彼女の場合は姉かそれとも年の開いた従姉みたいな感じだろうか。
話のタネになったようで何よりだ。
「どういうことだッ!これは!!」
調理場の方から怒気の篭った声が聞こえた。
猛烈に嫌な予感がした。
耳を澄ます。
「トゥルーデ? 何をそんなに怒っているの?」
「これが怒らないでいられるか! どういうことだ!
用意していたはずのジャガイモが! 3つも! なくなっている!」
あっ。
今日のウィッチの調理当番、バルクホルン大尉だったのか。
いやーなんかの間違いじゃないっすかね。
ってかあの人毎回ジャガイモしか使ってなくね?
顔を両手で覆って俯いた。
「………」
顔を覆っていてもわかる。
俺にも探査ができるようになったらしい。
俺の隣に何故かリトヴャク中尉が立っているのが手に取るようにわかる。
頼む、何も言わないでくれ。
バルクホルン大尉の拳はめちゃくちゃ痛いんだよ。
わかるだろ?
顔を覆ったまま心の中で彼女に訴えた。
「(指さし)」
「またしてもお前か少尉ッ! 歯を食いしばれェ!!」
書き溜め終了です。
1/29追記 階級について勉強し直してきます。
1/29追記 軍のシステム、並びに階級、他主人公が陸海空どこなのか決められない。宙ぶらりんの状態で進めるのが怖いので付け焼刃でもしっかりと勉強します。
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