サルでもわかる!軍人の攻略法   作:FNBW

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誤字報告ありがとうございます。
参考資料やページの案内本当にありがとうございます。



501部隊での日々7

 

その日の夕方、医務室。

 

体を動かせるくらいには回復したが、気分は最悪だった。

頭痛が酷いし、食欲も出ない。

 

バルクホルン大尉に医務室に運んでもらったがもしも彼女が来なければ夜まであの場で倒れていたかもしれない。

彼女は訓練があるためすぐに医務室を出て行ったが何度感謝しても足りないくらいだった。

 

原因不明の病気の可能性があるのではないか、と医務官のおばちゃんに真面目に話した。

違うとは思うがもしも万が一にでも感染する類であれば取り返しがつかない。

 

彼女はすぐにはそれを否定しなかったが、

貴方が感染源でそれが感染する類のものならばもう既に基地内ほぼ全員に拡散が終わっている、と言われた。

 

過労では?と真面目に返された。

 

同様の症状の人間がいない、近辺にも流行している病気は聞かない。

ここ十数年で流行した病気はスペインかぜだ。

 

感染経路ならば飛沫以外にもあるのだが、どれも考えられる可能性として薄いらしい。そもそも発熱はしていないし。

海と面していることもあり、基地内の衛生は高い水準を保たなくてはならない。建前上は。

何よりも仮に病気であれば発生源からして俺が第一号なのは疑問が出るそうだ。

 

マロニー大将の一件以来、基地から出なくなった。元々ほとんど出ていなかったが。

あれ以来髪は伸びたら基地内の経験者に切ってもらっているので外に出る理由もなくなった。

 

食べ物も基地内の野郎どもとは全く同じだ。

先日に病気かどうかは診断済み、残る原因は何かという話になっている。

 

ただ持病は別である。これは感染することはないかもしれないが。

白血病など癌ならばこの時代であれば死を免れないだろう。現代でも難しいものだ。

 

俺自身医学や病気には欠片も詳しくないが、少なくともこの時代は現代に比べ病気にかかれば死ぬ可能性が高いことは理解しているつもりだ。

今後の俺の体調次第で休職届を出して軍病院へ移動するか否かを決めるらしい。

 

それをこれからヴィルケ中佐と判断する、と彼女は付け加えた。

 

 

ただ、俺のこれは病気ではないと思っている。

夢とこの倦怠感に関係がないとは、とても思えなかった。

 

去年までは戦闘ストレス反応だと考えていた。

撤退戦の時期だというのは夢を抜きにしても意識せずにはいられないこともあった。

 

だから夢はあの少女に対する罪悪感が見せる妄想や幻覚の類なのだと。

去年までの体の怠さは心因的なものであると疑わなかった。

 

夢に出る会ったことのない人物、風景、少女の感情。

目を覚まして自分が自分であると自覚する度に吐き気が込み上げた。

 

 

少なくともここは俺のいた現代とは違う。似ているだけだ。

魔法があるのだから、こんな現象もあり得るのかもしれない。

 

ウィッチについてを調べ、考え方を変えなければならないと思った。

今まで俺の知るウィッチとはストライカーユニットで空を飛び、銃器に魔法力を纏い攻撃する。

そのような認識でしかなかった。

大半の人間がそうかもしれない。

 

ただウィッチはそれ以外にもできることがある。

ルッキーニ少尉たちが誰かに霊を憑依させたりするのも固有魔法とは別に為せる魔女としての力なのだろう。

 

同様にあの少女が死んでからも俺に干渉しているのではないか、そう考えた。

来年はこれ以上になる可能性がある。

 

 

どうにか解決策を見出さなければ、自分の命に係わるかもしれない。

 

 

 

夜。

 

ヴィルケ中佐と坂本少佐が来た。

俺は彼女らが入室してすぐに謝った。

軍務を休んでしまったこと、体調の管理ができていなかったこと。

様々な言葉が思い浮かんだが、まず最初に出たのはそれだった。

 

彼女らは互いに顔を見合わせてから気にするな、と言った。

中佐は俺に負担をかけ過ぎた、と言った。

彼女らは俺が倒れたのは過労だと思っているらしい。

 

違う、と言うために口を開いた。

 

しかしそれを言ってしまえば夢のことを話さなくてはならなくなる。

彼女らのことだ、妄想だと笑うことはないだろう。

 

ないだろうが。

 

話せばもしかすると俺は501を出ていくことになるかもしれない。

 

彼女らと違って俺の代わりなどそれこそ整備中隊の倍率よりも遥かに高いのだから。

病とは異なる何かを抱えている。

それだけで十分切られる要因になり得るかもしれない。

 

もっと言うなら俺という存在がなくともこの部隊が存続していくことはできるだろう。

援助ももう大半が支払い終えているし、実家の嗜好品の流通も安定している。

 

俺の価値は既になくなっている。

それでも俺がここにいられるのはヴィルケ中佐との縁だろう。

援助の義理と言っていいのかもしれない。

 

これ以上俺が切り捨てられる理由を作ってはならない。

俺がガリア奪還に関われる最前線の部隊はここ以外にない。

だからこそ日夜軍務に励んでいるのだから。

 

ただ、これが原因で休むことになっている。軍務に支障が出たということだ。

話さないで済むラインは既に超えている。

 

 

だが、二人の見解は過労だった。

 

俺は口を閉じた。

 

 

 

翌日、やはり起きると同時に強い倦怠感が出た。

 

夢ではあの少女が幸せそうに笑っている。

昨日の夢でわかったことだが、少女の父は戦争で足を患い、母は子を身籠っていたらしい。

埋葬した時の彼らの体つきと一致していた。

だから逃げ遅れたのだろう。

老夫婦を置いて自分たちだけが助かるような冷めた関係でもなかったのもあるだろうが、どうあっても彼らは助からなかった。

それとは別にもしかするとあの少女は何年も訓練を積んでいたわけではないのかもしれない。

 

ともあれ、今日もあまり動けそうにない。

ヴィルケ中佐から今日も休みをもらい、体を癒すことに専念させてもらっているが早く復帰しなければ。

自室に帰って来ているが今日は横になったまま一日を過ごすことになるかもしれない。

 

 

扉がノックされたのは昼を過ぎてしばらく経ってからだった。

どうぞ、と声をかける。

 

 

「お邪魔します」

 

 

入ってきたのは宮藤軍曹だった。

何か用だろうか、と思ったが手に持っているトレーが見えた。

 

 

「あの、おかゆです。

もし良かったらどうぞ。

ここに置いておきますね」

 

ありがとうございます、宮藤軍曹。

是非頂きます。

 

天使か。

 

危うくそう口に出そうだったが既で止めた。

宮藤軍曹はテーブルの上にトレーを置いてくれた。

 

医務官のおばちゃんの代わりに作って持ってきてくれたのだろう。

 

 

「過労って聞きましたけど、あまりピンとこなくて。

扶桑の実家でもそういう患者さんは来なかったので。

私の治癒魔法では効果がないのはわかってるんですけど」

 

私自身もあまり実感はありませんよ。

体が怠いとは以前から思っていたのですが。

でも体調もかなり良くなってきましたし、明日には復帰しますのでご心配なく。

 

「…そうなんですか。

休むのも仕事だって坂本さんも言ってましたよ。

あ! 別に悪いって言ってるわけじゃなくて」

 

わかっています。

休憩はいつもより多く摂るつもりです。

おそらく来週には元通りになっているはずですよ。

考えてみれば今休めたのは丁度良かったのかもしれませんね。

私が倒れたのは睡眠不足も原因しているので。

少し夢見が悪くて不眠気味だったんです。

部隊設立時の方が仕事は忙しかったのに、倒れるなんておかしいとは思ってたんですよね。

 

「そうなんですか。

でも元気そうでよかったです。

みんな、心配していますから」

 

 

ふと気が付くと彼女の視線がテーブルに向いていることがわかった。

テーブルには彼女が置いたトレーの他には写真立てがあるくらいだ。

 

 

「これって少尉さんの写真ですか?」

 

 

彼女が指さしたのは予想通り写真立てだった。

写真には所狭しと大勢の男たちが写っている。

 

 

これは私が原隊にいた頃の写真ですよ。

 

「少尉さんがどこにいるかすぐにわかりました。

みんな楽しそうに笑ってますね」

 

その頃から不愛想だったもので。

ああ、自覚がありますのでどうこう言うつもりはありませんよ。

 

 

倒れたり隣の男と談笑したりやたら筋肉を強調したりと背筋を伸ばして普通に映っているのは俺くらいだ。逆に浮いている。

 

これは失敗した写真だった。

もちろんその後の二度目の写真は全員背筋を伸ばして足並みを揃えて撮っている。軍人らしくだ。

 

現像するかどうかを聞かれて俺が買い取った。

彼ららしい一面が出た写真だったからだ。

数少ない俺の私物の一つだ。

 

 

「原隊のみなさんはこの基地にはいないのですか?」

 

ええ、写っている中でこの基地にいるのは私だけです。

彼らは彼らの務めを果たしているので、ブリタニアにはいないのですよ。

 

「寂しくないですか?

軍人さんとは違いますけど、私は扶桑にいる学校の友達と会えなくてたまに寂しくなることがあるんです」

 

確かに寂しいですね。

ただ私は彼らとは会うつもりがありません。

少なくとも次に会う時は501での役目を果たしてからと決めていますので。

戦果を上げるのは貴女方ですけどね。

期待してますよ。

でも無理はしないでくださいね。

 

 

頑張ります、と彼女は頬を掻いて困ったように笑った。

 

温かい内におかゆを頂きます、と締め括ると宮藤軍曹は一礼して部屋を出て行った。

おかゆには赤い梅干しが添えられていた。

 

食欲はあまりなかったがすべて食べられた。

 

 

 

夜、いつも通り体を動かせるようになっていたので部屋を出て士官室へ向かった。

取り急ぎ済ませるものはなかったが、明日のために現状の整理を行いたかった。

 

手帳に書いていたスケジュールを照らし合わせて確認するが、見過ごせない予定や報告が増えていた。

 

一番近い予定では近隣の村との友好を築くために親睦会を開くそうだ。

これはヴィルケ中佐か坂本少佐が直々に手続きを進めているのかもしれない。

ウィッチたちによるアピールが主体だ、俺は基地で待機になるだろう。

 

加えてウィッチたちは近い内に海での訓練を行うらしい。

ネウロイの襲撃後のタイミングに加えて天候の移り変わりを合わせなければならないだろう。

 

間隔が不定期になってきているものの、連日の襲撃はまだないから。

 

 

後は遅れていた辞令が届いたそうでイェーガー中尉は大尉へ昇進したそうだ。

結構前に決まっていたのは聞いていたが次からはイェーガー大尉と呼ばなければ。

 

ふいに、廊下の方から誰かが走ってくる音が聞こえた。

 

 

「少尉、やはりここにいた」

 

ノックなり声をかけるなりしてくれないと心臓に悪いんだが。

 

 

扉が開けられてクルトが入ってきた。

その表情からは怒りが見える。

初めて見る表情かもしれない。

 

 

「過労で倒れたというのに仕事をしている人に礼儀を問われたくありません。

無理はしない主義だと言っていたのに、これですか」

 

ちょっとした整理だ、仕事の内に入らない。

倒れたのは過労だが睡眠不足もある。

 

「士官室に来ている時点で…いえ、口答えをしてしまい申し訳ありません」

 

 

冷静になったのかため息をついて謝った。投げやりな言い方だ。

もしかすると俺が自室にいないからここまで探しにきたのかもしれない。

 

悪かった、とだけ伝えた。

 

 

「何を恐れているのです。

ヴィルケ中佐や坂本少佐が貴方をここから追い出すとでも思っているのですか」

 

彼女らはそんな人じゃないことくらい理解してる。

ただ最終的に判断するのは彼女らじゃない。

足手まといと思われたくないんだ、誰にも。

お前もそうだろう。

 

「それは貴方の身を削ってまですることですか」

 

当たり前だろ。

俺は大人だからな。

 

 

クルトは口を何度か開いて何かを言おうとしたが、何も言わなかった。

しばらくその場に立ち尽くして、やがて短く失礼しましたと言って出て行った。

 

愛想を尽かされたかもしれない。

ため息を吐いて椅子に深く座り直した。

 

同じ軍人だというのに年の瀬を気にするのは愚かなのかもしれない。実際、彼女らからすれば侮辱なのだろう。

まともな大人であれば感情で動くのは良しとしない、まるで子供のようだと一言で切り捨てられるだろう。

 

生憎俺は、まともな大人ではなかった。

ネウロイと戦う彼女らを見て平気な面ができるほど、大人ではなかった。

そのような常識が俺にはまだあった。

 

 

それに加えて、宮藤軍曹に言った言葉はすべてが嘘ではない。

501での役目を果たすということは、ガリア奪還が成ったことに他ならない。

ネウロイがいなくなったガリアで、あの港で眠る俺の友人や部下に会わなければならない。

 

501が設立し、その目的を知った時に俺は決めた。

 

これが生き残った俺の義務であると。

 

 

 

しばらくして机を何もない状態にしてから士官室を出た。

まだ消灯時間まではかなりあるが早い内に寝る方がいい。

来る時は誰にも見つからないように移動していたが帰る時は堂々としていればいいか。

 

廊下を歩いていると嗅ぎ慣れない匂いが漂ってきた。

お茶の香りだろうか。

自室の前で誰かがいた。

ルッキーニ少尉だった。

昆虫片手にうろうろしている。

声をかけると駆け寄ってきた。

 

 

「体、大丈夫? 頭も顔も」

 

 

言い方。

似たようなことが前にもあったな。

 

 

大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます。

少し疲れが溜まっていただけです。

それよりこれは?

 

 

廊下にいくつか置いてある花瓶台にティーセット一式が置いてあった。

香りの元はそれらしい。

蓋を開けると茶葉は抜いてあった。まだ湯気が出るほどに温かい。

 

嗅いだことのない香りだ。

 

 

「ペリーヌがさっきまでいたんだけど。

でも帰っちゃった。

代わりに少尉に差し上げて下さいまし~、だって。

会って自分で渡せばいいのにさ」

 

 

クロステルマン中尉のお嬢様口調を真似して彼女は言った。

カップは1つ、元々渡してすぐ帰るつもりだったのだろう。

 

以前言っていたごちそうするという言葉を思い出す。

もしかするとカモミールの花で淹れたお茶なのかもしれない。

相応の手間がかかるものだ。

 

 

クロステルマン中尉は貴族の出でありますし淑女でありますので。

夜中に異性の部屋に行くということそのものにかなりの抵抗があったはずです。

それでもわざわざ淹れてここまで持ってきてくれたのです。

ありがたい気持ちしかありません。

ルッキーニ少尉はもしかして。

 

 

彼女はニッと笑みを浮かべて持っていたくわがたを突き出した。

渡されて掌でくわがたが動く。

 

見えていたけど結構でかいな。ここまでくると遭遇した時ちょっと怖いぞ。

この近辺で捕れる大物だろう。

 

くわがたの顎に気を付けながらしばらく動く様を眺め、癒されました、と彼女に返した。

 

現代にいた頃からも結構好きだったくわがただったが、日本ではないこともあり馴染みのある姿ではなかった。

それがちょっとした珍しさと共に男心をくすぐるのだ。

でかいは正義だ。

自分でも探したくなる。

 

満足したのか、またね、と彼女はくわがたを握り絞めて走り去っていった。

手を振って見送った。

 

気を使われているな。

ただ純粋に嬉しかった。

 

明日からもこれまで以上に頑張っていけそうな気がした。

お茶を楽しんで眠った。

今度会ったらクロステルマン中尉にお礼と感想を伝えよう。

 

 

 

翌日。

まだ少女の夢を見る。

体はまだ脱力するが、先日よりもマシだと思う。

ピークを過ぎたのかもしれない。きっと撤退戦の日が過ぎているからだ。

 

起き上がってしばらく体の柔軟体操をした。

椅子に座って仕事をするには十分だ。

 

それと仕事の合間に魔女について自分で調べなければ。

まだ一年猶予はあるはず。

その保証はこれまでの経験以外に何もないのだが。

 

 

遅めに朝食を済ませ士官室でいつも通りに仕事をした。

ウィッチたちは飛行訓練のようで遠くの空でストライカーユニットの駆動音が基地まで届いていた。

 

ヴィルケ中佐には休憩を増やした上で復帰すると伝えた。

あまり良い顔をしてもらえなかったが了承してもらえた。

 

バルクホルン大尉はどうやら休暇で朝から基地の外に出たらしい。

 

午前中は滞りなく済ませることができた。

昼、遅めに食事を摂るためにしばらく時間を持て余した。

その間にウィッチについて少しでも調べたい。

 

基地には蔵書室がある。

改造する前の城にあった本がいくつか残っているかもしれない。

もしかすると既に軍に回収されてしまっているかもしれないが。

 

蔵書室は既に明かりが点けられていて誰か利用していることがわかった。

中を覗くと珍しい人物がそこにいた。

 

 

イェーガー大尉、お疲れ様です。

大尉への昇進おめでとうございます。

 

「ありがとう。

改めて言われるとむず痒いな。

他はあまり階級で私のことを呼ばないし」

 

 

開いていた本を棚に戻して彼女はこちらへ振り向いた。

 

 

「ここで少尉と会うとはね。

何か探し物かな?」

 

ええ、まぁ。

少し調べものがありまして。

ちょっとした個人的なものなのですが。

 

「そうか、邪魔しちゃ悪いな。

私はこれで失礼するよ」

 

 

気取ったような口調で彼女は部屋を後にした。

 

彼女の調べものの邪魔をしてしまっただろうか。

気を使われてばっかりだな。

俺が悪いのだけれど。

 

昼食の時間は長くはない、あるかどうかだけでも調べよう。

幸いにも本の調べ方には明るい方だ。

実家にいた頃も士官学校でもよく図書は探すことが多かった。

 

日本語と少しばかりの英語しか知らずに生きて来たのだ、カールスラントでの語学は本が頼りだったのもある。

 

手慣れた手付きで本棚を渡り歩き、魔女の、というタイトル群に目が止まった。

他にも魔女に関するタイトルが散見できる。

どうやら蔵書室にはウィッチに関する本は多いらしい。

 

検閲もされていると思っているが読める本が多いのは悪いことではない。

まずは簡単な本から調べようか。

 

棚の上の方に手を伸ばし、魔女の教科書という本に指先が付こうというところで、

視界の端で蔵書室の入り口に兎耳だけが伸びているのが見えた。

 

そんなことだとは思ったがもう既に遅かった。

本を手に取った。

棚から取り出す際の僅かな音が聞き取れたのか、彼女は意気揚々と扉を開け放ち入ってきた。

 

あまり彼女とは話したことがないのだが、苦手意識を俺は持っていた。

俺自身が無理に人と話す性格ではないのが起因している。

彼女はその逆、誰とでも話して誰とでも仲良くなれるようなフレンドリーな性格だった。

 

普段仕事以外を話さない俺からすると話しにくい相手でもある。

話のタネを彼女は決して見逃さない。

それでいて他人を傷つけたという話を聞かないから彼女の人柄の良さが見れるだろう。

 

以前俺をお尻さんと広めたのは忘れていないが。

間違ってもいないけど。

もしかして部隊の共通認識だったりしないよね。

 

 

「懐かしい本を読んでいるな。

私もそれを読んだことがあるぞ」

 

 

からかわれると思っていたが、飛んできた言葉は予想とは違っていた。

 

 

いたんですかイェーガー大尉。

 

 

白々しく言ってやる。

彼女は特に気にした様子もなく俺が持っていた本を取り開いた。

内容も覚えているのか流し読みして懐かしい、と口にした。

魔女と銘打つだけで胡散臭いタイトルに早変わりしているが、きちんと教材として使われているのかもしれない。

 

 

「少尉がウィッチの本を読むなんて珍しいな。

何を探しているんだい?」

 

まぁ、少し。

用事があって。

 

「ま、言いたくないなら深くは聞かないさ」

 

 

もちろん他の人には言わないよ、と本を返してくれた。

好奇心が強いところもあるのかもしれないが、気配りもできる彼女は年齢に見合わず大人びている。

 

リベリオン(アメリカ)出身のシャーロット・E・イェーガー大尉は司令部から問題児と認識されている。

その理由はストライカーユニットの無断改造である。

 

詳しくは知らないが原隊で追放される直前だったらしい。

その直前に501からの要請で厄介払いのようにこちらへ異動となったとか。

 

その点ではルッキーニ少尉と境遇が近い。

彼女もまたウィッチとしてはかなりのやり手だとバルクホルン大尉が言っていた。

飛行の腕も固有魔法も優秀でストライカーユニットの知識も他のウィッチよりも格段に優れている。

 

501ではその技術を活かし実技調整しながらストライカーユニットを改造しているのだとか。

ヴィルケ中佐や坂本少佐の間で取り決めがあるのだろう。

 

整備中隊から聞いた話なのだが彼女のストライカーユニットだけは最低限以外整備していないらしい。

彼女自身が整備を行うから。

 

知られたのだから聞いてしまうか。

その方が互いにすっきりするだろう。

 

 

イェーガー大尉はウィッチについては調べたことはありますか。

この前の憑依事件もそうですが、固有魔法や戦闘以外でウィッチに何ができるのか知りたくなりまして。

 

「戦闘以外?

うーんそうだな。

ウィッチとしては戦闘以外ほとんど魔法力を使ったことがないからなぁ」

 

 

含みのある言い方だったがまぁいいか。

 

そういえば彼女は連絡機という名目で航空機を所有している。

バイクも個人で所有している。

どちらも基地に置かせてほしいと中佐に言っていたそうだがスペースの都合叶わず、基地から近いガレージに格納されているそうだ。

 

それらもまた手を加えているのだとか。

魔女としてよりもメカニックとしての活動の方が彼女は多いのだろう。

 

 

「それより、少尉も男だったんだな。

ウィッチ(女)のことに興味津々とみた」

 

 

恐れていた流れになってきた。

裏ではなく堂々と俺に対して言ってくるのはまだ良いが。

 

 

あまり大っぴらに話さないでくださいね。

これでもオカルトなどに子供の頃から興味があったんですよ。

男の身なので夢物語にすぎませんでしたが、憑依のこともあって再燃したんです。

貴女方と一緒ならそういったオカルトも検証できるかなと。

 

 

本音半分といった具合だが嘘ではない。

 

 

「…意外だな、少尉は軍務が恋人だと思っていたが。

趣味もあったのか」

 

趣味というほどではないかもしれませんが。

息抜きも必要かもしれないと思っていましたので。

これを機に。

 

「それならルッキーニの方が適任だよ。

中佐にあれだけ怒られたのに最近また何か企てているらしい。

今は近い内に開かれる親睦会の企画で手一杯みたいだけどね」

 

親睦会は知っていましたが、ルッキーニ少尉が企画を立てているんですか。

 

「中佐や少佐に言われて仕方なくといった具合だ。

一応言っておくが今回はルッキーニに任せてやってくれないか。

あいつ自身のためになることだ」

 

 

手伝わないと、と思ったが止められた。

 

確かに彼女の言う通りだ。

ルッキーニ少尉のためになる。

ただちょっと責任が重すぎないだろうか。

 

近隣との付き合いは言葉以上に意味を持つ大役だ。

 

 

助言くらいに留めておきます。

 

「それがいい。

整備班の男どもといい、お前たちはすっかりルッキーニの保護者だな」

 

それは違います。

ルッキーニ少尉はウィッチであり軍人であると同時にまだ子供で、私たちは大人なので。

子供に対する大人の役目を全うしているだけです。

都合のいい時だけ子供扱いをして失礼だとは思いますが。

 

 

ルッキーニ少尉のちょっとした気遣いに助けられている自分がいる。

だからこそ頑張らなければと思えるのだから。

 

真の保護者とはヴィルケ中佐のことを言うと思うのだが。

滅多に見られないが、怒ると怖いし。

何がとは言わないが圧がすごい。

 

子供といえば彼女もそうなのだが、大人びた立ち回りで忘れているが彼女はまだ16だ。

比べると20半ばの俺が情けなく思えてくるから考えないようにしているが、十分子供である。

 

そういえば。

 

 

イェーガー大尉は何の本を読んでいたのですか。

 

「ちょっとした工作の調べものさ。

さて、そろそろ昼が終わってしまうな。

ご飯を食べてないから私は行くよ」

 

 

時計を見やり彼女はそそくさと部屋を出て行った。

本は返してもらったが、読むのは今度にしようと棚に戻した。

長々と話してしまっていた。

俺も昼食を食べなくては。

 

ただ少し、歯切れが悪かったことが気がかりだった。

イェーガー大尉も俺が何を読んでいたか覗いたのだから俺も知る権利くらいあるだろう、と彼女が立っていた場所を探す。

 

慌てて本を戻したのだろう、掃除と整頓が行われた本棚の中で唯一動いた形跡のある本が見つかった。少しだけ斜めに入っている。

おいしいお菓子の作り方、というタイトルだった。

 

そういうところは年相応なのだな、と思った。

もしかすると彼女がわざわざ入り口でこちらを伺っていたのは自分の読んだ本がバレるのを防ぐためだったのかもしれない。

 

本を正しく戻した。

 

 

 

後日、ハルトマン中尉が茶会で皆が持ち寄ったお菓子の話を聞かせてくれた。

その中にあったバタークッキーが美味かったとも溢していた。

少し焦げるくらいにこんがり焼かれているのが彼女には好評だったらしい。

 

 

 

クルトも整備中隊の男どもも彼女らと同様に過労で倒れた俺を労ってくれた。

 

 

彼らや彼女らが一様に心配してくれたのは嬉しいことであったが、それ以上に心が苦しかった。

 

言えないことがこれからも増えるに違いない。

 

俺はこれからも心の内を誰かに話すことはないのだろう。

 

自分の本当の身の上など家族にすら話したことはないのだから。

 

 




イメージ体ヨーロッパミヤマクワガタ

医務官のできる範囲行える処置の範囲や病院に行くかどうかが知りたかった二週間でした。


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