シュロの神話学的旅日記   作:加藤ブドウ糖液糖

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11.教育の心構え/イッシュにて

〇月□日

 

 サンヨウシティに来た。広場の噴水は日の光を弾きながらざあざあと音を立て、水面には忙しなく泳ぐバスラオの影が見える。さわやかなそよ風が階段を駆け上り、街全体を吹き抜けていく。のどかな光景ではあるが、街の真ん中にあるサンヨウジムは閉鎖され、どうやら改装中らしい。プラズマ団の落とした影は未だにイッシュ全体にのしかかっていた。しかし、そんな中で、ひときわ生気あふれる場所がある。それがトレーナーズスクールである。右の窓から廊下でかけっこをする子供たちが見え、ああ、いいなあ、と思いながら応接室へ向かった。いや、廊下でかけっこしちゃだめなんだけどね。

 

 印象に残った青年について書いておこう。それなりに付き合いの長い温厚そうで丸々とした顔の中年の教師の横に、清楚で、どことなく品格がある、見たことのない青年が控えていた。

 出張授業は特にとどこおりなく終わった。こう見えても私は子供の機嫌を取るのがうまい。将来すばらしいトレーナーが出た際に、この分野に対しても理解を示してもらうのが目標である。目指せ未来のシロナさん、というやつだ。授業が終わってからは再び応接室へひっ込んだ。中年の彼は教室へ戻り、なぜかチェレン君と二人でテーブルを挟むことになった。飲み物は何か、と聞かれたため、お言葉に甘えてミックスオレを出してもらう。

 少し気まずい時間が流れた後、ふいに彼の方から質問が飛んできた。いわく、大人とは何なのか、ということだ。駆けだしトレーナーから様々な旅をして、自分なりの結論は出たと思っていた。しかし、トレーナーズスクールの教師を目指すことになり、ジムリーダーの打診を受けた(最初聞いたときは焦ったが、べつに極秘ではないらしい。よかった)時から、自分はいつまで経っても子供のままなんじゃないかという思いと、そもそも大人って何なんだろう、という思いがせめぎ合っているらしい。彼の気持ちは非常によくわかった。私も彼の相談に答えているうちに、ヒスイ研究に恐る恐る足を踏み入れた若い日のことを思い出したほどだ。ここに回答を書くことはできないが、話しているうちに何となく彼の表情も和らいだようだった。夕暮れに別れのあいさつを交わしながら、よい思春期だな、とぼんやり思う。サンヨウで思春期を過ごせるだなんて、なんて幸せなのだろう。ここでは時間がゆったりと過ぎる。急激な転換期もなく、その代わりゆっくりと醸成された穏やかな空気にいつの間にか新緑の香りが混じる。老年の沈黙と青春の歓喜が混じり合う、風のように流れるピアノ・ジャズを聞きながら、少年少女は段々と大人の何たるかを知っていく。彼はいい教師になるだろう。イッシュに住んでいる方は、ぜひお子様をチェレン君のもとにやってはいかがでしょうか。

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