〇月□日
嫌な天気だ!ミアレシティに行こう。ミアレと湿った空気は相性がいい。スタイリッシュなミアレには冴えない曇り空が似合う。もちろん快晴も似合うが。というわけで、どこかのカフェーを訪れてみようかなあ、カンコドールあたりがいいと思い立ち、服装で目立っては敵わんとシックに外出の支度をし、その前にふとテレビを点けたら、赤いスーツの集団による廃墟の不法占拠が発覚し、カロス地方全体が少し緊張しているということ。急遽、カフェーに行くのは取りやめにした。緊張状態で店主の応対が変わりそうだからではなく、全く態度が変わらず面白くなりそうにないから。あそこは常に店内がガラ空きで、儂はそこが気に入っているのだが、まあそんなカフェーが今更緊張状態を気にするわけもない。
こうして、油断すると、いざ外出しようとしても、日々刻々と動く世界の情勢に左右されて、予定が大きく狂わされてしまう。最近は各地方で特に顕著であるため、皆さんも気を付けられたし。
予定を変更してタクシーに乗り、サウスサイドストリートからオトンヌアベニュー前に至る。この辺りは、かつてミアレ大学に居る友人に会いに行く際に、よく通った道だ。ふと、すぐ隣の薄暗い路地裏に入ると、肌に纏わりつくような湿った空気が一層粘り気を増すと同時に、なぜか屯している子供達に声をかけられたので、片言で「怪しい者じゃないよ」と答えた。「見るからに怪しいだろ」というものだから、また「怪しい者じゃないよ」と答えてずかずかと奥に入っていった。儂に言わせれば、こんな路地裏に子供達だけで集まるというのも、十分に怪しいと思うのだが。
なおも何か言っているようだったが、儂がしばらく薄汚れた壁を見つめて感嘆の声を漏らしているうちに呆れたのか、仲間内でひそひそと話し始めた。それにしても、煌びやかな電飾の奥に匿われた、この塵まみれの空気を知っている者が、どれだけいるのだろうか。おそらく、儂とこの子供たちの他には、いないのではなかろうか。
今日も『いし』について考えている。花火を見るという行為を儂は意志しなかったばかりか、実は儂に意志がなくとも花火を見ることは可能なのだ。『恐ろしい神話』には、"そのポケモンに傷を付けた者/七日にして動けなくなり/何もできなくなる"と書かれている。確かにwilleがなければ能動的に何かをすることはできないだろうが、それでも能動的に何かをするということは――布団から起き上がれない場面、または寒い冬場に炎タイプのポケモンのそばを離れられない場面を想像していただきたいのだが――willeがあっても不可能なことがある。つまり、動こうというwilleがあっても動けないのか、動くwilleそのものが欠如しているために何もできないのかという問題が残されている。外的に見れば、それらは同じことなのだ。いや、そもそも我々にwilleは"ある"のだろうか?「それを語れるのも、我々がそれを語ろうと意志するからではないか」と言うとき、その人には儂にwilleがあるのかを確認する術はない。それどころか、儂にもないかもしれない。相も変わらず、『いし』は儂の手をすり抜けていく。
だが……この想定は人間のみでは不毛であろう。即ち、この問題を解決するためには、新しい思考を、人間とポケモンのための神話解釈を打ち立てなければならない。バトルをやめてから放し飼いにしたドンカラスとジーランスのこと。鍵束の管理を任せていた、あのクレッフィのこと。懐のボールをさすりながら、もうそろそろ向き合わなければならぬ頃だなあと昔のことを思った。
「じいさん、ホントに何しに来たんだよ」と子供のうち一人が言った。隣でペルシアンが毛繕いをしていたのだが、その時の彼(彼女?)はおよそ子供の相棒とは思えない程の風格を醸し出していた。固いきずなで結ばれているのだなあ、と一目で分かった。思考の深海から浮上し、どう答えたものかと深く息を吸い込む。ところが、塵も多量に迎え入れてしまったらしく、大きく咽てしまった。ひどく塵の舞う空気をものともせずに、子供たちが一斉に寄ってきて儂の周りを取り囲んだ。
塵を吐き出すための運動に伴い激しく視界が前後する中、目の端にちらりと一匹のニャスパーが映った。胸のあたりを軽くたたいて立ち上がると、突然、薄暗い路地裏の真ん中に集まる子供たちの瞳の奥に、漠然とした不安が見えた気がした。人とポケモンはもともと孤独であること、生きている限りそれは運命であること、だからこそきずなが必要であること、きずなは『いし』の証明でありうることなどが、一挙に頭の中に浮かんでくる。なるべく暗い印象を与えぬよう、しかしため息をつきながら、子供たちに礼を言った。
「ありがとう、もう大丈夫。怪しい者じゃないよ。儂は文章を書いていてね、執筆のために観光に来たんだ。ああ、もう大丈夫、大丈夫。ありがとう。うん、これで全部うまくいく……」
なぜこんな答え方をしたのか、儂にも分からない。あの時何が起こったのだろうか。果たして、この時の儂に『いし』はあったのだろうか。いずれにせよ、なんと不思議なことなんだろう。路地裏の子供たちに別れを告げ、ひとまずホテルへ戻ることにした。ちなみに言い添えておくと、ホテルはシュールリッシュではない。残念ながら。
〇月☆日
めちゃくちゃに背の高い男性を見て、今日はもう原稿どころではない!まだまだ書きたいことがあったのだが、それは来月に持ち越すことにする。
作品の形式はどれがいいと思いますか?
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今まで通りの旅日記形式!
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神話解釈+純粋な小説!
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小説だけでいいよ!
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解釈だけでいいよ!
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全部やってよ!