シュロの神話学的旅日記   作:加藤ブドウ糖液糖

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14.バロンになりました/カロスにて

〇月△日

 

 数日前の気が滅入るような湿気が嘘のように、終日太陽がぎらぎらと照り、額から汗が一筋二筋と垂れてくるほどである。ハードマウンテンの煮えたぎるマグマと、そこに伝わっている伝承を想い起こす。シンオウ神話の中では、この伝承も好きであった。ずいぶん昔のことだが、ハードマウンテンの伝承を聞いた時は実際に火山に赴き、岩場の前で様々な箇所を確かめながらそのかなりの部分を暗記した。そのほか、碌に進むこともできなかったが、キッサキ神殿には呆れるほど何度も訪れた。いまでもそのあたりに行くと、体がふんわり浮き上がるようないい気分になることであろう。

 だが、このすべては民間伝承であり、シンオウ神話体系に組み込まれてはいるが、中核をなしているわけではない。しかし歴史的経緯を考えるに、ヒードラン伝承こそが事実においては最も大きな役割を果たしたのではないか、と思うようにもなってくる。全く厄介な代物であって、こんな暑い中でこれを考えるといらいらしてくる。ふと、汗が首筋にまで垂れてきたのに気付いた。ため息をつきながらバトルシャトーの門を叩く。いつもならばここいらで考察を挿入するのだが、ハードマウンテンの伝承に紙面を割くのは、なんだか嫌である。今日はバトルシャトーでの一幕だけを語ることにする。神話に触れないのだから、文体も軽薄なものでいい。

 ひゅうと背後から風が吹き込み、品格あるフロアの腕に連れられてまた何処へともなく去っていく。ミアレと同様洗練されてはいるが、城内の空気はスタイリッシュというより、やはりエレガンスである。イッシュのポケモンリーグを見物しに行った時にも――今は見る影もないが――このような趣があった。ところが、今日のバトルシャトーは一味違うようだ。なんと、ホールにドラセナ氏が居たのである。さすがは四天王と言うべきか、白亜の壁に緋色のドレスがよく映えている……もう結構な年のはずであるが。*1

 今更知らない仲ではない。呼びかけようとするも、執事に止められた。こういう場所になってくると執事の格も必然的に上がるものなのか、私に品格のないのが一目で見抜かれてしまったらしい。一応あそこに見えるドラセナ氏の知り合いだと言ってはみたものの、どうにも胡乱げな目つきをされる。まずいことになったぞ、と思った。ガラルでもらったあのカードもマツバ君に与えてしまった。そこで立ち去ってもよかったのだが、こうなれば意地である。なおも話し続けると、とうとう執事が折れ、ドラセナさんに一度だけ確認を取りにいってくれるとのこと。アサギの灯台を思わせる背筋の伸び方であり、やはり私には品格がないなあと感じた。しばし時間を挟み、執事の方が戻ってきて立ち止まると、どうあがいても私にはできないような見事な一礼。どうぞお通り下さいと言われ、認められたはずなのに無性に悲しくなる。私にはふさわしくない場所に来てしまったぞ、という気がした。

 ありがたいことに、ドラセナさんも私のことを覚えていたようで、しばらく話が弾む。彼女がりゅうのあなの長老のことを「全盛期はとうに過ぎたが、彼ならば今のリーグに参入しても(おそらく)通用する」と評していたのが印象深く、オーキドもそうなりたかったんだろうけど地位と教養が邪魔してなれないんじゃないか、と言ってみた。本音である。ちなみに、欲を言えば私もそうなりたかった、と付け足す。地位はオーキドやドラセナさんに比べれば中の下程度だし、手持ちはともかく私自身の才能は疑いなく()()のだが。私とは全く違って、彼らは正真正銘の天才だということだ。りゅうのあなの長老は古くからの付き合いだが、あれもそうなのかもしれない。

 するとドラセナさんは笑いながら「なんでしたら、今からでも遅くないかもしれませんわよ」と言い、私が爵位を得るための手続きを始めた。その時の私の顔は相当にひどいものだったと思うが、あれはなんでだろう。もしかすると私が長老を雑に扱っているのが気に食わなかったのかもしれない。まあ、気に食わない部分があるといえば私も同じなので、別段問題はないが。相手があまり完璧だと、好意を持ちたくなくなる。卑屈で軽薄な感じがするから。ゆえに欠点の一つぐらいあったほうが良いというのが持論なのだが、ドラセナさんの場合その欠点の癖が強すぎる。詳しくは語らないので、どうしても知りたい方はドラセナさんとリーグで二番目に戦えばよい。

 というわけで、名目上バロンになったけど、人間まあ変わらないね。誰か、どうすれば品格を身に着けられるのか、教えてくれませんか?

 

 

 

 

*1
編集部注:余計なことを書かないように。




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