シュロの神話学的旅日記   作:加藤ブドウ糖液糖

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18.さらば、ケーシィの形象よ/アローラにて

〇月×日

 

 朝、目覚めると陽の光がモーテルの窓から眩しく差し込んでいる。白い光が部屋に広がり、机に積まれた資料のコピーが文字も読めないほど白色をはねっ返していて、痛いほど目に染みる。朝日が輝くうち風呂に入り、目を細めながら資料を纏めてモーテルをチェックアウトした。いよいよシンオウに行くのである。スカル団のボスと話したことは書かないようにと頼まれたが、元々儂にもあれを書くつもりはなかった。尤も、書こうとしても書けないのだが。今月号は多分、スカル団の人間にチェックされるであろう。ボスと側近の女性と話した内容は書かないことに決めているが、少し前に「スカル団などかわいいものだ」というようなことを書いており、そこだけが心配である。しかし、これからカントーを経由してシンオウ地方に行こうというのだから、これも些細なことだな、と思う。

 学生時代、神話の研究をしようと人文携帯獣科学研究科に院進したのだが、携帯獣分野の知識がないので行き詰った時、勉強したくはなかったが、ポケモンバトル等で触れ合うのもなんとなく億劫だった。その頃分野として出てきたばかりであった分子携帯獣学の授業に出席したとき、人とポケモンをどんどん分割していって、人間はどこまでポケモンか、という思考実験を知り、そうした考え方を面白く思った。儂があの時から科学的携帯獣学に鞍替えしていたとすると、今頃どうなっていたのだろう。

 こう考えると、儂が今人間であるのも、エンジュ大学の教授であるのも偶然であるというような気がしてくる。今現にそうである以上の意味はなく、これ以外の事実はないと思う。ケーシィをボールから出してこんなことを言うと、突然体が白く輝きだして、ユンゲラーに進化した。

 一度書いておくと、儂とケーシィは随分昔からの付き合いであり、昔からオーキドとの勝負をさぼり、ロケット団の末端構成員に抵抗を試みることもせずに逃げ、その他様々な避けられない勝負以外殆どバトルに出さないという「政策」を貫いていた。という訳で、儂がくたばる間際まで、こいつは進化しないのだろう、お前もバトルを望んでいる訳ではないだろう、という姿勢は儂とケーシィの間で共通していた。

 なにしろテレポートばかり使っており、それに関しては四天王にも引けを取らないほど熟達しているのだが、それ以外の技はからきしであり、まともに使える攻撃技は悪タイプの『めざめるパワー』のみで、儂のトレーナーとしての腕前もよろしくない。ケーシィは何しろエスパータイプの技が好きで、あくタイプなどもってのほかであり、赤髪の少年のワニノコに勝ったのもなだめすかしての結果に過ぎない。万一ほかにエスパータイプの技を覚えたら、即刻野生に戻り、群れを治めても、優れたトレーナーを探してもよいというのが若いころの暗黙の了解であったが、まさかこのタイミングで進化するとは、大事件である。

 はじめは驚いたものの、しばらくユンゲラーを見つめていると次第にそんなこともあるかなあ、という気持ちになっていく。今進化したのも、偶然と言えば偶然のことであろう。ボールを目の前に差し出すと、自らボタンを押して中に戻り、再び自分から外に出てきた。お前、ついてくる気はあるのか、と言うと、ユンゲラーは儂の背後に恐らくは覚えたての『ねんりき』を放つ。振り向けばオニドリルが逃げていくのが見え、少しぞっとした。

 ここまで生きてきて今更オニドリルにやられてやるつもりもないが、シンオウに行くのが少し遅れる程度の影響は出ただろう。オニドリルと言えばジョウトでさんざん見てきており、首を一突きされたとて、という感覚になっている。儂自身、ポケモンバトルが苦手な分、意外と体は頑丈だと自負しているというか、必然的にそうならざるを得なかった。それだけである。

 ユンゲラーの話に戻ろう。今更感謝するのも違うと思い、それでお前、ついてくるということでいいかね、と聞くと、こいつは器用にロトムフォンを呼び出し、原稿用のソフトウエアーに見事なテレパス入力を披露した後、画面をこちらに向けてくる。どれどれと見てみると、「神話ハ面白イガモウ結構、バトルノ練習ヲセヨ!」と書いてあった。ユンゲラーと言えば『変身』のモデルとなったポケモンでもあり、やはり人間とポケモンの()()()も曖昧で、偶然的なものなのかなあ、と思う。儂は右往左往するロトムフォンをひしと捕らえてPoketterに事の顛末を入力し、また道路を歩きだした。この前の呟きはそういう訳だったのだけど、しかし、今回は全くと言ってよいほど神話について触れていない。これは、ずいぶん反省すべきことのようだ。

 

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