シュロの神話学的旅日記   作:加藤ブドウ糖液糖

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21.事件が多くて困る/ヤマブキにて

〇月□日

 

 毎日といっていいほど大事件が起こり、ロケット団が劇的な復活を遂げ、イッシュの半分が凍り、伝説のポケモンも今日こそ復活するのではないかと人々が惑い、フレア団員の数がうなぎ上りに増加し、アローラの空に奇妙な綻びが生まれているこの頃について、私はとんでもないことになったなあと嘆いているが、この雑誌の編集部は平気のヘイガニという様子でけろりとしている。編集のYさんは、諸事情により短編小説が寄稿できないという作家さんの連絡を飄々と受け流しながら、その分の頁を涼しい顔で私のところに回してきた。事件が多くてネタに困らないな、と言われるが、いやいやこんな事件をネタにできるわけがないでしょう。文藝ラプラスの編集は奇人が多いらしい。

 いろいろあったが、そのころの私はポケモンセンターに足を運び、ヤマブキのジムトレーナーであるイサオ君と合流していた。交換相手は知っている人ならば誰でもよい、と思っていたのだが、万一サイコパワーが暴走するといけないから、ということで来てくれたらしい。交換用の装置にユンゲラーが入ったボールが吸い込まれるのを見ながら、ふとプラズマ団のことを思う。

 

 プラズマ団はポケモンを開放すると主張しているが、私はその理由がよくわからない。私の考えを説明するために、例え話をしよう。

 

 ポケモンは人間の指示に従わされていてかわいそうだ、というのがプラズマ団の意見であろう。そして、ポケモンが人間の指示を聞く時、その理由を想像することができる。従わされているか、あるいは月並みなことを言えば、そちらの方が普段より大きな能力を発揮できる、あるいは目的を達成するのに適している、など。リソースの限界という怪しげな概念を用いてもよいならば、状況把握を放棄しあるいは委ねることによって、目的に専念できるため、と答えられるかもしれない。我々の状況把握能力が特に優れているから、という答えもあることだろうし、実際、バトルにおいてはそれを示すジムバッジは大いに役立つ。まずその二つがあって、プラズマ団はそれを混同していると思う。

 しかし、反論を考えることもできる。我々よりはるかに賢く、さまざまなセンスがあるポケモンの場合、それが何の役に立つのだろうか。そう言われるとむりやり従わせている論が少し元気になるかもしれない。確かに、そのようなポケモンは存在しないと断言することは今のところできないし、何よりこの答え方では、人間が役に立たない場合にポケモンと共存するのは難しいように思える――そして、残念ながら、役に立たない人間はしばしば存在する。少なくとも私はバトルの時に役に立たない。だが、ポケモンは私のことを助けてくれる。これは無理やり手伝わせているのか。いや、どうも違う。

 ここで言いたいのは、ポケモンが人間の言うことを聞く理由のうち、特定のどれかが正解なのではなく、かといって間違いなのでもない、ということである。そのような理由は無数に存在し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。独特のリアリティをまとってはいるが全ては偶然だと言うほかない、ということであり、原因から機械的に原理を引き出すことなどできないのではないか、ということである。従うことも、従わないことも。

 ポケモンが人間に従う理由は様々である以上、たった一つの理由をもってポケモンを人間から解放するという主張はナンセンスに思える。"なぜ従うのか"という問いに対する完全な答えも、また、存在しない。ヒトとポケモンが同じだった、ということは、在り方は違えど普遍化不可能な心を持つしかじかの存在であるということを意味しているのだ。ゆえに、『ボールさえあればポケモンはかならず人間に従う』などと考えている人は、ポケモンを従わせることなど夢のまた夢であろう。邪推すると、このように主張する人こそ、画一的な思考、抑圧的かつ画一的な欲望を持っているのではないだろうか。逆説的にポケモンを支配したいという願望が心のどこかにあるのではないだろうか。

 

 こんなことを考えていたら、装置からボールがぽん、と落ちてきた。もうフーディンである。イサオ君が「フーディンはシュロさんによく懐いているようなので、メガシンカができるかもしれません」と教えてくれた。この前進化して、今日も進化したばかりなのに、また進化されると頭がこんがらがりそうである。今日はどうもありがとう、と言って、フーディンを連れホテルに戻ることにした。もう抱き上げられないほどの大きさになっており、少し寂しい。そっと手を差し出すと、気だるげに繋いでくれた。固く冷たいスプーン越しにフーディンの繊細で温かい手を感じた。そこは変わらないのだな、と嬉しくなった。

 

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