〇月□日
ワイルドエリアに行こうとして、今は大雨だから少し待ってからにした方がいいとスタッフに言われたため、ありがとうございます、と言ってそのまま強行突破した。ワルである。ポケモンになったらあくタイプになること請け合いだろう。確かに儂はもう若くはないし、ゴールドスプレーのにおいも弱まる雷雨の中、野生のポケモンが闊歩するワイルドエリアを歩くのは、いささか危険かもしれない。でも、感覚がマヒしているのか雷雨と言われても大したことはないように思えるし、何より文明的なものを放棄して、野生のポケモンがいる中で思索に耽ることには何事にも代えがたい喜びがあると思うのだ。
そうは書いたが、ワイルドエリアにいるからといって格別面白いわけではない。野生のポケモンに対する感動は薄れ、木陰に置いた折り畳み式の椅子に座り頬杖を突きながら時間と空間、そして反転世界について考える。その辺りは湖の側になだらかな丘があって、ガマゲロゲは儂のことを気にする様子もなく、雨を喜んでぬかるみに座り込んでいる。パルスワンが嬉しそうに濡れた草むらをかき分けて走っているが、その鳴き声は煩いほどである。アズマオウが訳もなく跳ねる。何もかも嫌みのないどんよりした穏やかさで、ふと、死後の世界がこんなならいいのに、と考える。
シンオウ神話において、死とはどのようなものだったのであろう。ここ最近、儂は死とギラティナ、破れた世界の逸話を結び付けて考えている。そして、そのような括り方をするからには、ディアルガ・パルキアの二項も必然的にこの世界を象徴するものとして纏められる。このことは今までの解釈に対して、新たな見方を促すだろう。『シンオウむかしばなし その1』には、"海や川で捕まえた/ポケモンを食べた後の/骨をきれいにきれいにして/丁寧に水の中に送る/そうするとポケモンは/再び肉体を付けて/この世界に戻ってくるのだ"とある。水とは送りの泉と戻りの洞窟のことであろう。そしてギラティナは送りの泉の水が流れ込む戻りの洞窟の最奥部に出現したようであり、ここには明白な関連がある。また、生命は巡る、という世界観を示すこの神話は他のテクストとの関連が薄く、ギラティナは現在再発見されるまで神話の影に姿を隠していた。これの意味するところは、なんであろうか。
ここにおいて、送りの泉と戻りの洞窟、そしてギラティナに「輪廻/死」という関係があることは明らかである。しかし、この関係はいつ、どこで生まれたのか。そして、いつギラティナは姿を消してしまったのか、ぼんやりと考える。パルスワンが尻尾を振りながら枝を咥えて駆け寄ってくるのが見えたので、ゴールドスプレーの匂いがまだ残っているであろう外套の右袖を捲った。枝を受け取り他のポケモンがいない方に目いっぱい投げてやると、稲妻のような速さで跳ねていく。あのように好奇心旺盛なポケモンが、破れた世界への裂け目を発見したのだろうか、と思う。
これは推論だが、もし破れた世界に行った人間かポケモンがいなければ、破れた世界のことが記録に残ることも、伝わることもなかったに違いない。ゆえに、破れた世界に迷い込んだ人間かポケモンは存在した、と考えるのが妥当であろう。付け加えておくと、ここで『シンオウむかしばなし その1』を持ち出して理由を特定することは難しい。既に輪廻の象徴となっていたギラティナがその昔ばなしに書かれたような習慣の原因なのか、その習慣と洞窟最奥部のギラティナが結びつき輪廻のイメージが与えられたのかは、現時点では区別不可能だからである。そしてまた、理由は不明だが破れた世界に迷い込んだ人間――仮にAとしよう――がいるとすれば、Aはギラティナのもう一つの姿を見たに違いない。Aはギラティナの現実世界の姿と、破れた世界の姿の両方をその眼に収める、という訳である。この逸話が伝わっているからには、戻ってきたAがいなければなるまい。だが、戻ってこなかったものもいただろう。ギラティナに対する暴れ者/死のイメージは反転世界から戻ってくることのできなかった人間やポケモンにより、この時から授けられる。かくして死という概念が表出し、その対になるものとして生が、まるで初めからそこにあったかのように出現する。
これは余談であるが、ギラティナは死を司り、二つの姿を持っている。とすれば、Aはディアルガとパルキアのことを、時間を司るポケモン、空間を司るポケモンとしてではなく、この世界を司るポケモンの二つの側面として見る視点を手に入れた、と考えることもできる(儂もそこまでの信憑性を感じていないが)。パルスワンが雨の中、生気をみなぎらせて駆け戻ってくるのが見えたので、思索を中断した。やはりワイルドエリアは生のエネルギーに満ち溢れている、と感じる。だがこの生も、実際は夥しい数の死によって支えられているのである――人間・ポケモン問わず。
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