その内若かりし頃の話とか書きたいですね。矛盾が怖いのでレジェンズが出た後にでも……
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『アルケーの亀裂―人間中心主義について』、『普遍=コーポレーション』、『割れた鏡、青白い仮面の神』、『不可視の雲――レックウザ試論』、そして『二重大陸:ジョウトとホウエン』。本書には研究初期~中期にわたる、若い頃の様々な論文が収められている。もしその中で何か一つ"例外"を上げるとするならば、儂はこの論文の名前を上げるだろう。
この論文集に収められているものの中でも非常に短いものであり、また唯一、完全に間違っていることが分かっている論文だからである。息抜きとして読むこともできよう。若い頃の儂の謎のこだわりにより、槍の柱に屋根があるかないかの議論に終始するためだ。だが、その次に発表した非常に重大な論文の流れを汲んでもらう為には是非とも必要と思い、収録していただいた。言うまでもなく『割れた鏡、青白い仮面の神』である。なお、参考文献は巻末にまとめて掲載している。
本論文の初期形態は〇〇〇〇年⬜︎月、シンオウ考古学研究会において古代遺跡という共通課題のもと口頭発表された。これは翌年×月に論文化され、『古代遺跡の系譜』(シンオウ考古学研究会編)に収められたものの再録にあたる。その都合上、前述の通り現在の調査結果から幾つか誤りが判明した箇所が存在するため、その部分には注釈を設けることとした。ただし殆ど修正は加えていない。必要に応じて逐次注釈を確認してもらいたいと思う。
現在の考古学の研究材料としては、従って、本論文にさしたる価値はなかろう。論文の本質は議論の喚起にあり、本論文が呼び起こせたであろう古代遺跡の為の議論はおそらく全て呼び起こした(なぜならそれこそが考古学において重要な作業であるから)。今振り返れば、神話学なる分野が産声をあげたのはこの議論の終焉と同時であるから、神話学的議論の余地もここにはない。それでもこの論文が再録されたのは、ひとえに、前述のものとは全く別の部分で、未だ議論を喚起する余地が残っているように思われることを理由とする。その部分がどこか、私には未だ明確に言い表すことができない。ただ、それは本論文集を打ち捨てることによって明るみに出るだろうということ、その部分こそが新たに解釈される、真なるシンオウ神話になるだろうことについては、私は奇妙な確信を持っている。
短くはあるが、最後に。これらの論文の発表当初から議論に参加してくれた同僚は勿論、この再録を快く引き受けて下さったヒスイ出版の方々に、深甚なる感謝を。
シュロ・トクジ
『槍の柱、その屋根の存在に関して』
大昔、シンオウ地方は今ほどの文明が存在しない世界であった。おそらくは畏怖と理性に従って、その世界で文明が発生し、集団のいくつかは伝承を、そして神話をもつにいたった。火山地域のヒードラン、満月島、新月島のダークライ、クレセリア。坐せるアルセウス。封じられたレジギガス。槍の柱のディアルガやパルキア。湖にはアグノム・ユクシー・エムリット。これらに纏わる話が生み出されるに至った事細かな過程は定かではないが、古代においてこれらのポケモン達は崇められていたと仮定することに不都合はないだろう。この崇拝の形式は文明の発達度を示すと同時に、崇められるポケモンがその文明にとってどのような存在であったかを示す、と考えることができる。今回はその一形式としての槍の柱について考察したい。また、槍の柱の姿を紐解くことにより、ディアルガ・パルキアが古代においてどのような存在であったか、またその二匹と密接に関連しているシンオウ神話、その一端を垣間見ることも可能である。
槍の柱はテンガン山山頂に存在する遺跡である。テンガン山の形成過程に関する地質学者の仮説が正しければ、おそらくこの場所は、古代シンオウにおいて最も宇宙に近かったと言える。この槍の柱の存在により、ディアルガ・パルキアとシンオウ神話、そして宇宙の三つは強く結びついている。
槍の柱の構造だが、これは彫り込まれた石柱が立ち並び、その奥は少し開け、踊り場か祭壇らしき姿が残っているというものである。現在も復元が試みられているものの、今は屋根が存在したのか、それとも存在していなかったかを巡る議論がなされている最中だ。しかし、奥部に開けた場所が存在することを鑑みるに、信憑性のある仮説は槍の柱には屋根が存在しなかったか、もしくはせいぜい、その一部だけを除いて屋根が存在していたかのどちらかであろう。
例えば、シント遺跡においてジョウトとシンオウの文化が交わった際に、シンオウの側から神を讃えるための踊りが伝わったとされている。ディアルガ・パルキアと宇宙の関連性を考えると、宇宙に繋がる場所で踊りを行う方がより自然であると考えられる。頭上から降り注ぐ星々の光や太陽光も神秘性を高める効果が期待できる。また、ディアルガ・パルキアが実際そこに降り立つとするならば、屋根が彼らの行動を制限する可能性が高い。
それでもなお、反論として、シント遺跡には屋根が存在するという主張もあろう。確かにシント遺跡には屋根が存在する。しかし、その代わりとしてか、床部分には槍の柱に存在しない、三角形の角に円を刺したような魔法陣が描かれている。遺跡に書かれた絵はジョウトのアルフの遺跡に見られるものであり、また遺跡の形式も屋根が低いジョウトの特徴が強く出ている。ジョウトから伝わった壁画により宇宙との結びつきを表現することが可能になったのであろう。一部キッサキ神殿にも似た特徴は見られるが、シント遺跡の屋根の存在は異文化との融合が原因であるとして十分に説明がつくものである。槍の柱にも屋根が存在したことを裏付けるには不十分であり、依然として屋根は存在しなかった——少なくとも踊り場には存在しなかった——という仮説が正しいのではないかと考える。
槍の柱とキッサキ神殿との対比も興味深い。巨人、レジギガスを封じると言われるキッサキ神殿が地下深くへ広がって行く構造であるのに対し、槍の柱はテンガン山の頂に存在し、天高く広がっていく。シンオウ神話においてレジギガスはアルセウスの敵として書かれており、ディアルガ・パルキアはアルセウスの分身として書かれている。レジギガスとレジスチル・レジアイス・レジロックにも何らかの関係があると予想されており、おふれの石室も地下深くという意味ではレジギガスと同様、深海に存在する(とはいえ、同じく地下深くに存在するイッシュの海底神殿、古代の城との関連性は現在研究中であり、不明である。古代シンオウと際立って密接な関連が予想されるのは、現時点では、ジョウト、ホウエンの二地方ということになろう)。
付け加えるなら、キッサキ神殿にアルセウスの敵であるレジギガスそのものが存在するのに対し、槍の柱には分身たるディアルガ・パルキアしか存在しないというのはどこか不自然にも思える。屋根がなかったという仮説を採用するならば、アルセウスのための祭壇が槍の柱の更に上部に存在したであろうと考えてみるのも、難しくはあるが、不可能ではない。以上、ここに槍の柱か元はどのような姿だったのか、またキッサキ神殿との関連性、アルセウスの祭壇があった可能性などについて示した。私はこの先、以上のような意味を持つ槍の柱で崇められる対象としてのディアルガとパルキアの実像に迫りたいと考えている。(謎の多いレジギガスとキッサキ神殿がどう関連するかは、ホウエン地方に残る伝説に関するさらなる議論を経なければ何も語ることができないので、ここでは触れられない。)
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