シュロの神話学的旅日記   作:加藤ブドウ糖液糖

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祝ほぼ十万字!!ポケマスゲーチスイベもよかった……


28.雪の思い出/イッシュにて

〇月△日

 

 まあ、イッシュに来た訳である。分かりやすい文章を書きたい、と思うようになったから。

 というのも、一か月前、携帯獣学者のオーヌキ君に「シュロ何某氏の言っていることは大したことないのに、難解な言葉を使っていてケシカラン」と批判されたためだ。この批判を受けた時、儂は、儂が言わんとすることは重大な意味を持っている(少なくとも儂にとっては)と考えていた。まあまあまあ、彼にとって違うというのであれば、そこは仕方がない。ね。儂も譲りましょう。でも、そんなに難解な言葉を使っているかなあ?

 そういうわけで儂は本屋に行き、オーヌキ君の著書を何冊か読んでみることにした。するとどうだろう、何たる分かりやすさ!分野の違いはあれど、科学携帯獣学の原理や技の発生の仕組みが明快に説明されており、更には身近な木の実とポケモンの協力さえあればできる実験の例まで載っている。認めざるをえない。内容が大したことないかはともかくとして、儂の著書はもれなく難しい表現ばかりであった、と。確かに思い返せば、大学院生の頃から難しい文章を読み解き、そして書く訓練はしてきたのだが、簡単な文章を書く訓練、より正確に言えば内容を変えずに表現を伝わりやすいものにする訓練は全くやってこなかった。

 一つ弁解をするなら、表現の難しさが思考や学問の特殊性と結びついている、ということはありえるし、それによってブレークスルーが生まれた例もある(マサキ君の論文はまさにそういうものだったと言える)。儂の知り合いの研究者にも難解な言い回しを多用する方がおられるが、当然その難解さの分だけ含蓄のある発言で付き合っていて飽きない。すると、何が問題かははっきりしてくる。儂の発言に含蓄がない(と思われている)ことがいけないのだ。どうすればよいのだろうか。解決策は単純で、神話学の面白さをなるたけ平易な言葉で説明すればよい。だが、前述のとおり、儂は簡単な文章を書く訓練を一切やっていないのだ!

 前置きが長くなったが、故に儂はイッシュに来た。ポケモンリーグを訪れる予定であった。勿論、シキミ、ギーマ両氏にアポもとっている。簡単な文章を書きたかったし、目下その作業は継続中である。ああ、驚くなかれ、あの『月間文藝ラプラス』の神話学者による連載であるにも関わらず、儂は難解さ、文学性の欠片もない文章を掲載するのが理想だったのだ。

 夕方の六時頃リッチホドモエにチェックインし、ベッドに倒れこんでゴロゴロ寝転がりながら少し考える。今日は何時にもまして疲れた。簡単な文章を書くというのは、こうも骨が折れることなのだなあ。いや、ベッドにゴロゴロ寝転がると書くことは大して難しくないのだが、今やっているように儂の(いわゆる)難解な言い回しを(いわゆる)平易な言葉に翻訳して書くということが難しいのである。

 例を挙げるなら、こういうこと。ピカチュウがねずみポケモンで、主にトキワの森に生息していて、でんきタイプに分類され、体毛が黄色く、頬が赤く……という特徴を知っている人は、『あ、ピカチュウがいる』という言葉を聞けばこれらのことを思い浮かべてピカチュウを探せるだろう。当然、こういう特徴を持っているのがピカチュウだと意識することもなく無意識のうちに姿を思い浮かべながら、である。

 しかしピカチュウがどんなポケモンか知らない人に対しては、『あ、ピカチュウがいる。ピカチュウっていうのはね、ねずみポケモンで、主にトキワの森に生息していて、でんきタイプに分類され、体毛が黄色く、頬が赤くて』……と一々こういった説明をしなくてはならない!我々はピカチュウにどんな特徴があったかを意識的に思い出さなければならないし、説明も長くなり、疲れる。この場合、ピカチュウの部分に任意の"難解な"用語を、ピカチュウの特徴の部分にその用語の意味だとか、説明だとかを当てはめて考えていただければ分かるだろう。我々のような学者は普通の人にとってのピカチュウのように、専門用語の意味を腹の底から理解してしまっている。とはいえ、それをわかりやすく伝えないのは怠慢だ、と言われたら、それはその通りだと答えるほかない。

 チェックインの前は、未だ霜の残る6番道路を散歩していた。外はひんやりしていて、サクサクと音立てて地面を踏みしめればシロガネ山を訪れた時のことが思い出される。ひらひらと舞い降りていた雪。ゲーチスが「ワタクシだけが ポケモンを使えればいいんです!」と言ったことは有名な話だが、そのためには人間がポケモンを手放すだけでなく、ポケモンもまた人間を見限っていなければならないのではなかろうか。そしてまた、そのようなことがありえると、彼は本気で思っていたのだろうか。今頃悪の組織の首魁たちは、どこで何をしているのだろうか?

 そういえばこのところ、アクロマ君をアローラで見たという情報が儂のダイレクト・メール欄によく届くようになった。雪舞うライモン大のとある研究室を訪れた時、彼が時空を歪める装置の研究計画書を嬉しそうに見せに来た時のことを覚えている。今回の件にはその装置が関わっているようであり、となれば儂は事の成り行きを正確に見届ける義務を負っていることになるだろう。エンジュで死んでいる場合ではなかったようだ。まだすべきことが残っていたことは嬉しいが、全てを達成できそうにないことは寂しい、と思う。

 ふっと顔を上げれば、ここにも細雪が降ってきている。肌寒くなってきたのでホテルに入った。

 




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