シュロの神話学的旅日記   作:加藤ブドウ糖液糖

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週刊誌『ポケモン生活』特集 『あの人の手持ち:シュロ氏』

 週刊ポケモン生活には何度か寄稿している。今でもご恵贈いただいた物をパラパラと捲ることがあるが、いずれも楽しい特集だ。私が持っている号が特別面白いということもあり得ようが、それが二度三度重なるとなれば、それはやはり編集者の腕前、そして何より文章を書いているトレーナーやブリーダー諸氏の妙を示していると考えて差し支えない。この素敵な雑誌にささやかながら彩りを加えられれば幸いである。

 今回の特集は『あの人の手持ち』。プロのトレーナー以外にスポットライトを当てるこの特集は二カ月半にわたって行われ、私の他にもアーティスト、作家、プロレスラーと多種多様な職業の人々に取材が行われるそうだ。この方々に比べれば私の手持ちを知りたい人などはごく少数だろう。というか少々不安になるほど豪華なラインナップである。大丈夫なのか、『週刊ポケモン生活』。いや、私が心配することでもあるまいが。

 とっとと私の手持ちの話に入ってしまおう。今原稿を進めている間にも「どうせケーシィのことでしょ、サイコパワーが研究でナントカなんでしょ」という声が聞こえてくるようだ。勿論その通り。ああ、正確には違った。フーディンと呼ばねばならないのだ。

 彼とは大学時代からの付き合いである。つい最近進化したばかりなので癖で未だにケーシィと呼んでしまいはするが、三十余年にわたり非常に良好な関係を築いてきた。知名度があるかは別にして、私の手持ちの中で最もよく知られているのはフーディンであろう。

 だが、それは逆に言うと、その他の手持ちは殆ど知られていないということでもある。

 そもそもケーシィのほかに手持ちがいるということを知っている人間が非常に少ない。雑誌にもPoketterにも出てこないし、基本的には自宅にいるのだから当然といえば当然だ。編集者の方にも非常に驚かれ、この特集が決まったのは彼ら彼女らの影響であるというのも大げさではないだろう。

 実のところ、私の手持ちは四匹いる。在学中にゲットしたフーディンを除く三匹は大学院を修了した後、付き合いのあったオーキドやキクコらの勧めで捕獲した。というか流れで捕獲することになった。意図的に捕獲しようと思ってしたポケモンではないのだ。

 でも不思議なもので、時代の流れを反映し、ドンカラス、クレッフィ、ジーランスという少々武骨な名前が並んでいる。親から受け継いだ訳でもなければバトルを経て加入した訳でもない。全員が餌付けもしくは利害の一致という、現在では見ることの少ない方法で加入している。バトルの腕前が高い方ではないため当然といえば当然だが。

 しかし、トレーナーの腕前が低いからと言ってポケモン達までそうであるかはまた別の問題だ。私の場合は逆で、腕が高く扱いきれないと判断したが故に連れ歩いていない。優れたトレーナーは相手との実力差を測り、適切な威力の技を指示することができるだろう。私にはそれができなかった。申し訳ないことだが、彼らは強すぎた。

 でも勘違いしないでいただきたいのは、だからといって嫌われている訳ではない、ということ。バトルで仲間にしたポケモンは、トレーナーの腕が低いと見れば反抗的な態度をとることもある。ジムバッジはトレーナーの腕前の指標。もちろん今と昔で基準は変わっているだろうが、私のジムバッジ数は少ない。もっとも規定の八つのバッジを集めても指示を無視するポケモンは存在するし、その一方で才能を見抜きジムバッジを一つもゲットしていない子供に懐くポケモンも存在するのも事実だ。しかし一般的に言って、ポケモンは力量の高いトレーナーを認める傾向にある。

 そのうえで言うと、我々の関係は少々特殊だ。私とこの四匹はバトル以外の方法で通じ合ったのだし、あの時代の危機も共に乗り越えてきた。私たちには私たちの習慣が、役割分担がある。彼らは強く、私は弱い。しかし私にも強みがないわけではない。腕前が低くとも信頼関係を築くことはできる。私が見限られていないのはそのためだ。

 ただ、トレーナーの腕が高いに越したことはない。言うまでもないことだが、ポケモンというのは人間に比べて遥かに大きな力を秘めている。例えポケモンはじゃれ合いのつもりでも、そのエネルギーが人間を傷付けてしまう可能性は大いに考えられる。この雑誌を普段から読んでいる方ならそのことはよくわかっているだろうが、念のために言っておこう。

 では、改めて私の手持ちをご紹介する。

 フーディンは大学時代からの相棒である。仕事柄移動が多く、そのためテレポートを覚えている。大学時代に他棟の教室に移動するのが億劫で覚えてもらった技だ。でも、市街地で行うために免許を取る羽目になり、結局はそちらに時間がとられた。今でも大活躍しているので結果オーライといったところか。

 何度も使っているうちに腕前が上達してきたようで、前に実験してみたところ200m先の針の穴の中に紐を通すことができた。つい最近進化したばかりで、私ともども溢れるサイコパワーには戸惑っている。良い訓練法を知っている方は、ぜひ @tokujishu6 のダイレクト・メールにまで送っていただきたい。

 性格は私が見る限り面倒くさがり屋なのだが、何度も助けられているのもまた事実である。私がキッサキ神殿でハガネールに追い詰められたときなどは、めざめるパワーで天井を一部崩落させた後テレポートで逃げるというファインプレーを見せてくれた。我ながらよく生きていたな、と思う。でも、私も熱を出したケーシィを助けたことがあるのでお互い様だ。

 そのケーシィと仲がよかったのが、初めて紹介するドンカラス。テレポートは知っている街にしか行けないが、『そらをとぶ』は空中から知らない街の地形を俯瞰できるという他にはない利点がある。ケーシィと並んで、若いころの私の移動を助けてくれたポケモンだ。フーディンの他三匹は私の家で留守番してもらっているのだが、後で紹介する二匹のストッパー役でもある。こちらも後で紹介するが、クレッフィが引き起こしたある事件の時に最も活躍したポケモンである。彼らと共に旅をしていた頃はバトルも多少できなければならない時代だったから、彼女の強さに敬意を表して戦い方も書いてみるとしよう。

 現在覚えている技は馬鹿力、霧払い、ブレイブバード、辻斬り。昔は空を飛ぶ、不意打ち、挑発、ブレイブバードという構成で巧みな駆け引きを繰り広げていたし、ピントレンズをモノクルのように顔につけて相手の攻撃を的確に捌いていく姿はとても頼もしい。親馬鹿と思われるかもしれないが、単に光物が好きなポケモンだと思っていたヤミカラス時代とは全く違う、ギャップのある魅力的なポケモンだと今でも思っている。基本的に私のポケモンはかなりの実力派である。私の手を離れればの話だが。

 性格は落ち着きがあって、現在は私が各地で買い集めてきたインテリアを愛でて悠々自適に暮らしている。そんな頼れるポケモンがなぜ留守番しているのかというと、頼れすぎるため。こう言ってよければ、他の二匹が非常にポンコツなのだ。もちろん、愛すべきポンコツである。

 ポンコツコンビのジーランスは、私が海や川を移動するうえで非常にお世話になったポケモンだ。性格は頑固一徹で、考えに没頭したら止まらない。まるで哲学者か何かのようだ。彼がなぜ留守番をするに至ったか、その秘密は彼の石頭にある。

 共に旅をしていた時、私は彼の背に乗って滝を上っていた。確かイッシュのどこかだったと思うのだが、大きな岩が滝から突き出していたのだ。私は避けるように頼んだはずなのに、運悪く彼が何かの考えに夢中になっていたようで、その岩にぶつかる。そして登っている感覚がないことに疑問を覚えたのか彼が少し頭に力を込めると、なんとその岩が砕けてしまった!

 その時既に諸刃の頭突きを覚えていたようだ。私は砕け散る破片を横目に見ながら「強すぎて気軽に指示できない」と冷や汗をかいた。他に滝登りをしている人や岩の破片の餌食になったポケモンが存在しなかったからいいようなものの、そもそもこの行動も問題だ。とつげきチョッキを身に纏い諸刃の頭突きで邪魔なものを粉砕する彼の突破力には大いに助けられたが、これは流石にやりすぎである。まろやかな味の釣り餌を好む普段とのギャップが凄まじく衝撃的だった。それからというもの、彼は庭にある池でのんびりと暮らしている。現在ドンカラスが馬鹿力を覚えているのは石頭の彼に拳骨を落とすためだ。愛すべきポケモンであるのは間違いないのだが。

 最期に紹介するクレッフィは、同族に比べると珍しく生真面目だ。研究員だった頃は家の至る所に本棚からあふれ出た資料が散らばっていて、鍵が見つからなくなることもしばしば。このポケモンはそんな生活を改善してくれたのである。当時から滞在先での生活をサポートしてくれており、現在は留守の多い自宅のハウスキーパー役だ。防犯意識も高く、まさに打ってつけのポケモンである。自宅にはクレッフィの趣味で必要以上に錠前がついているが、些細なことだ。

 ここまでならば。そう、ここまでならば。

 ドンカラスの紹介の際、私はクレッフィが引き起こしたとある事件を話題に出した。それを説明するには技について言及しておく必要があるだろう。覚えている技はリフレクターと光の壁、瞑想、そしてドレインキッス。光の壁とリフレクターが防犯意識の高さと嚙み合ってしまったのだ。当然、悪い方向で。

 以前貴重な資料を家に保管した際、所用で他地方に行かねばならなかった。その時に何の気なしに気を付けて留守番するように言い聞かせたのである。すると生真面目なもので家の守りを固め始める。そこまではいいのだが、固め方が問題であった。編集者の連絡により異変に気付いた私は肝を冷やした。帰ってきたときには私自身も入れなくなっていたのだ。結局ドンカラスが霧払いで解除してくれたものの、あれ程驚いた出来事は殆どないと言っていい。命の危険は不思議と気にならないのだが、帰ってきてから確認しようと思っていた資料が見られないのは当時の私にとってとてつもなく恐ろしいことだった。現在は改善されている。まあ、改善されていなければ困る。

 さて、私の手持ち紹介は以上である。本来ならば魅力をもっと語りたいところだが、限られた紙面を私如きが占有するのも無粋というものだろう。これまで書く機会はなかったが、私と手持ちポケモンの間ではしばしば事件が起こっている。当然危険なものもあれど、しかし我々はそれを乗り越えて仲を深めてきたのだ。もし皆さんとポケモンの間に、万が一何か些細な事件が起こったら。その時は仲たがいしたままにせず解決策を考え、笑い話にしていってほしいと思う。

 

写真:中庭で笑みを浮かべるシュロ・トクジ氏とポケモンたち

 

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