シュロの神話学的旅日記   作:加藤ブドウ糖液糖

4 / 44
『モモナリですから、ノーてんきにいきましょう。』のrairaibou(風)様から、無事連載許可というか、そのようなものを頂けました。本当にありがとうございます!『モモナリですから~』は本当に面白い作品なので(知名度の差から考えると、こちらからあの作品に飛ぶ人はあまりいないだろうとは思いますが)、未読の方は是非ご一読ください!


4.エンジュの近頃/研究室にて

〇月□日

 

 無事エンジュに戻った。日常の些細な出来事に感謝するのが人として大事なことである。そして、疑問を持つのが学者として大事なことだ。

 面白いことに、こうして手帳に目を落とすまでは当然のように思っていた事柄もこうして書き出してみると当然ではない、改めて時間と空間の概念なしには語り出せないのだなあと感じる。なぜなら「エンジュ」という言葉は特定の空間的位置を指すものだし、「戻った」という言葉は現在と同時に、特定の時間的位置を指すからだ。時間と空間はとても重要な概念なのである。時間的位置、というのもまた面白い言い回しだ。時間を表すべき言葉なのに、位置という空間的な言葉が使われている。まだまだ書けるのだが、最初から飛ばしすぎても敬遠されてしまう。この辺りで止めておこう。

 ジムに立ち寄って、マツバ君にローズ氏から貰ったカードを渡す。露骨に嫌そうな顔をされた。彼はますます嫌そうな顔をした。けっきょく私が持っていることになった。少しの間話して、それが終わったらケーシィに頼み研究室へテレポートする。お気に入りの椅子に腰掛けて、今日も色々考える。メリープの毛を加工したものを表面に植えており、程よい刺激が思考の凝固を防いでくれる。ぱちぱちと体に心地いい刺激。年を取ると思わずうとうとしてしまうが、この椅子ならばそれもない。とても気楽である。

 

 研究室での思考は、他のところと比べてある程度思い通りになるような気がする。普段は空間と時間のことばかり考えているのだが、今日はそこから離れて、「はじまりのしんわ」「さらに自分の体から/三つの命を生み出したという文言」「おそろしいしんわ」の視点から精神について考えることにした。

 シンオウ神話の大部分において、人間とポケモンの精神の体系的叙述という目的は共通している気がする。無論、その他の側面もあるとは思うが――民俗学的、科学的な側面もあるだろうが――そちらは若い人々に任せたい。違う観点での研究を見ると、若返ったような気分になれるためである。自分でやるとどうしても頭が痛くなる。あとは疲れる。最重要問題である。

 意思、記憶、感情が湖の三妖精に対応している。人間とポケモンの認識の形式はディアルガとパルキアに象徴されるが、認識する精神それ自体のことは湖に眠るアグノム、ユクシー、エムリットに象徴されるだろう。古代の人間は、この三つを人間、ポケモン達の心の基礎だと考えていたようである。「おそろしいしんわ」においては、これら三匹のポケモンとの距離が近づけば近づくほどに身に起こる事の重大さが増し、それに比例してそれまでの猶予は伸びていく。記憶が様々な意味で最も軽く、意思が様々な意味で最も重い。この伝承は古代の人々が心の能力を考察し、その構造を考えて記したものであろう。それをポケモンになぞらえたのか、ポケモンからそのアイデアを思いついたのかは今の私が考えたいことではないため、後日にする。その因果関係は辿りえないものかもしれないし、因果関係という概念も感情、意思、記憶に基づいているならば、今それを考えることに何の意味があろうか?ともかくこれでは、古代の人々の考えにおいて、意思が最重要であり、記憶が最も軽薄であったかのような、そんな印象を受ける。そう仮定するならば、それはなぜなのか。然るべき理由が存在していなければならない。

 このようなことを考える際に、記憶と意志のみに焦点を絞るのは愚策である。ある種のポケモンとは違って、人間の目はそんなに狭い場所を見るようにできてはいない。感情と二つがどのような繋がり方をしているか、それを道標として建て、私は微かに見える灯りを頼りに精神についての思索を進めなくてはならない。そのまましばらく考えたが、どうにも纏まらなかったため、続きは後日にしよう。

 

 今日は戻って初日なので早めに切り上げよう。他の先生方に挨拶を済ませ、夜の焼けた塔に入った。フヨフヨと浮かぶゴース達を眺める。足元がおぼつかないが、ケーシィがいるため安全だ。月の光が焼け落ちた壁の方から、忘れられた思い出のように降り注いでいる。薄紫色の霧が漂っては消える。あのようなガス状のポケモンにも心が宿っていて、私と同じように物を見ているのだから、驚くべきことだ。若い子供たちも同じようなことを思うのかなあ。いや、たぶん、ゴースに見えている世界と私に見えている世界は、本当に同じ世界なのかしら、なんてことも思うんだろうなあ。

 自販機で買ったおいしい水をちびちびと飲んだ。なかなかうまい。水だから、月見酒ならぬ、月見水、ということになる。最近は様々な地方を行ったり来たりしているが、この街も、この味も、本当に変わっていない。大人の皆さん、若い世代がこの水で焼酎を割れるようになるまで、変わらないことを願おうじゃありませんか。

 




ところでrairaibou(風)様のその他の作品を読んだことがない方は、是非お読みください!

作品の形式はどれがいいと思いますか?

  • 今まで通りの旅日記形式!
  • 神話解釈+純粋な小説!
  • 小説だけでいいよ!
  • 解釈だけでいいよ!
  • 全部やってよ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。