シュロの神話学的旅日記   作:加藤ブドウ糖液糖

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AZさんは色んな地方に関わっているみたいなのですが、私はふるいポエムにも出てきたんじゃないかと思っています。ふるいポエムの中には、もう一度誰かに会いたいと考えたとある人間に同情しながらも、世の摂理を受け入れる筆者の心情を書いたものがある。そのとある人間とは、AZのことではないでしょうか。時系列は別かもしれませんが、時空の裂け目が存在する以上別段あり得ないことではないと思います。今回の講義ではカロス史についても少し触れられますが、これはもちろん二次創作なので内容の正しさを保証するものではありません。


シンオウ神話学講義#001(中編)

(続き)

 "宇宙生まれる前/その者一人呼吸する"。その者っていうのがいるよね。これを観測者と呼ぶとします。シンオウ神話は心=世界ですから、「呼吸する」は心が生まれていない状態とも言える。自我が未発達な状態と重ねてもいいんですが、これはあとで議論しましょう。まずは神話全般の枠組みをとらえるのを目標にします。

 これは記述としてはおかしい。その者一人呼吸するって、じゃあそれを書いてるお前は誰なのか。その者以外の視点がある。だから一人ではないのではないか。

 仮説としては伝聞形式で、その者が誰かに宇宙を創ったときのことを話したというのがあります。そいつが書いている。なぜ話したのか。本人が書いたって言ってもいいんだけど、その場合は誰に向けて書いたのか。どっちも我々に向けてですよね。我々が世界を作った者と繋がっているということにした。何かを共有しているという権威、アイデンティティを獲得する。それはテキスト自体には書いてなくて、テキストを書くという行為の内に存在する意味なんです。ことばというのは他者との関係。なんで関係が成立したかっていうと書いたからですよ。明示的には我々も物語の中に出てこなきゃいけないんだけども、暗示としては書くことがすでに関係なんだよね。だから神話はある意味で行為、契約でもある。神話はその世界においてその世界を解釈するものですけど、それに対して神話学はある神話がどういう構造を持っているか、どういう変化をするか、という解釈を行います。こういうことを喋るんだなと思ってください。

 神話にはどういう枠組みがあるのか。これは試験に出すので単位が欲しい方はメモとって。板書するので撮ってもいいですが、シャッター音は小さめにしてください。神話は事実を報じるか、あるいはそれを述べることによって事実となるに違いない権威ある言葉と呼ばれます。作り話でも事実ということにして信じ込ませる。神話はそういった大昔の、一回しか起こらない(奇跡的な)出来事を語った物語です。我々は、例えば毎日ご飯を食べる。これは繰り返しますよね。でも私が生まれる、これは繰り返さない。一人の人間が何回も生まれるのはSFの世界です。生き物全体で見れば繰り返してるんだけど、じゃあ世界は? これは神話になります。これは宇宙論では神話を拒否して多世界解釈をします。世界はたくさんある。我々がたまたま生命が生まれる宇宙にいるだけだって言うんだけど。

 あと、存在を説明し、同時に基礎づけるという機能。目的論的って言い方をすると早いんですが、よく分からない道具があったとする。「なんなのこれ?」「これはこういう由来があるよ」というのが今あるものの説明。「いるのこれ?」「これは神様がこういう意図で作って、こういう使い方ができるからいるよ」。これが基礎付け。存在理由と言った時に色んな意味があるのがわかると思いますが、大体は二つの意味でつかわれます。一つ目はなぜ存在しているのか。二つ目は何のために存在しているのか。神話はこの二つを説明する。正当性を与えるわけです。

 語り手がそれを真実であると信じるか、少なくともそのようなふりをすること。これは大事ですね。作り話は面白くても作り話でしかない。デタラメであってはいけない。原始の神話的出来事は人間が従うべき、守るべき範型を示しているからです。従うべき規則の説明、基礎づけがデタラメだったら誰も従わない。なぜ従うべきか直感的に理解できない、自分には不利なことばかり、じゃあ従わないとなるのが普通です。なので本当にあったことで合理的な理由がありますと言わなければいけない。実際は嘘でもそう言わなければいけない。みんなにそう考えてもらった方が、社会にとって都合がいい。その根拠を神話とする、嘘も方便というやつですね。

 そういう意味で言うと、当然神話は逆もあり得る。神話には社会制度に正当性を与える機能があるって趣旨のことを言ったけど、それは間違った社会的制度にも理由を与えられるんだよね。これは同僚から聞いた話なんだけど、近頃はカロス史の研究が進んできた。その中に物凄い規模の戦争を起こした人がいて、それは人間もポケモンも万単位で死んでいる。ありえないでしょ? でも実際にあった。その戦争がなぜエスカレートしたかという仮説のうち一つに、神話が利用されたという説がある。これは私の論文が引用されたんだけど、神話の解釈をダイレクトに倫理観のレベルに持ち込んだのが当時のカロス王家だったのではないかって言うんですよ。王家が戦争を激化させた理由はよく分からない。古代兵器が関連すると言われてるんだけど。ただ激化させるためのツールとして神話ね、これが使われたんじゃないかという説はあります。神話がどういう機能を持つかって色々あるんだけど、その一つが民族の世界観の表現なんですね。で、カロスの伝説は生と死を司る二つの繭というもの。戦争が起こる前までは超自然的で、恐れ敬う。あらゆる生命を司る。ただ近くにあるので枯れたり咲いたりするだけで、質には差がないと。ある種の機構、人智の思い及ばぬもの(There are more things)だった訳です。

 ところが戦争が始まってからの解釈としては、カロスという国家に結び付くような解釈が為されたんじゃないかというのがある。正確には戦争が始まって数年後で、何が引き金か、この数年の間に何があったのかというのは掘り下げていくと面白いんだけど、今は置いておきましょう。AZという王様です。で、この時の何がカロスにおける神話伝説の実態だったのか。つまりカロス国民の生命。ロジックは生命なんですよ、やっぱり。でも生命というのは、ありとあらゆる生命じゃなくなったわけ。単なる伝説がカロスの伝説になったので、それはカロスという属性を得たということです。じゃあカロスの神様な訳だからカロスに付いてくれるよね。だからそれに歯向かう奴は神様を敵に回すということだから、そこに都合よく死の繭がある。こっちは生の神様が守ってくれるよ。相手は死の神様がやっつけてくれるよ。カロスのために戦おうね。そういう論理が全部戦争に使われたわけ。元々は恐れ敬ってただけなんだけど、プロパガンダで恐れ敬ってくれて神様も感謝してるよにされた。それを国王がどこまで信じてたかは分かりませんよ。こんだけ死者を出す理由は理解できないし、なんか唆されたらしいという資料もある。でも神話っていうのは、語り手がそれを真実であると信じるか、少なくともそのようなふりをすることだから。誰かが、信じてないけど利用できたから利用した、そういうのに利用されるリスクが常に付きまとってるんだよね。

 だから神話学というのは、今グローバルだから戦争が起こって世界が成り立つか分からない、起こったら終わりなんじゃないとは思うけど、そういう戦争に神話を利用することを防げるかもしれないよね。神話じゃなくて科学でも何でも、戦争は戦争じゃないですか。もっと規模が小さくてもいいけど。絶対的な正しさを作るということではなくて、相対化する。お互いの違いを見ることによって、お互いの異質である所ということを照らし合わせるということは非常に大事だと。合理っていうのは理に合うってことだよね。理に合うって何か、理が客観的にあるのかというとそれは分からない。どっちが理に合わないかというのを比べる。それをやってください。

 だいぶ話が逸れましたが、神話とは何か。神話は儀礼であって、民族の世界観の表現です。だけど神話にも色々あって、神話的儀礼に注目すると、言語と行為という異なった媒体によって展開している。語られた物語と儀式の数が同じという訳ではないんですね。

 儀礼とは何か? ジョウトには舞妓さんがいますよね。これは神に踊りを奉納する神職です。音楽と舞踊は一種の酩酊状態を引き起こすので、これは精神を現実から切り離すために行われる。儀礼的な媒体で展開していて、神の世界と人の世界っていうのがある。一方でシンオウ、ここで例に出すのはヒスイだけど、これは日常生活の延長線上にある。神話が日常に溶け込んでいるのか、日常が神話的なのか。生活が儀礼的なのか、儀礼が生活的なのか。言い方はどっちでもいいんだが地続きの価値観なんです。だから最初自分を知るってことを言いましたけど、神話には人間の無意識の構造が浮かび上がっているとも言える訳です。シント遺跡ではジョウトとシンオウのそういう文化が融合するんだけど、まあ面白いですよ。性格の違いもあるので。

 神話の性格には色々ありますが、今回の講義では世界成立、社会成立、社会内成立に分けて紹介したいと思います。神話学っていうのは面白くて、これは段階的に発展してきた概念なので、その基礎から順に説明します。まず初めに、創世神話と英雄神話という分類が提唱されました。次いで創世神話にも色々あるよねということで、結局世界起源神話、人/携帯獣起源神話、文化起源神話に分類された。これで分類が英雄、世界起源、人/携帯獣起源、文化起源の四つに分かれます。けれど、こういう階層で見たときに、英雄神話というのは文化の中で成立していることじゃないかというディスクールが活発になったんだよね。なので世界起源→生物起源→文化起源→文化内という階層ができた。しかし、今回講義するシンオウ神話は特殊な在り方をしている。世界=心とでも言いますか、そうすると世界起源と生物起源が一つに合体する。なので階層が三つになります。将来他の地方の伝説を学びたい人はこの流れを全部頭に入れておくとよいかもしれません。大体の類型、つまりお話の型は同じです。

 では伝説と神話はどう違うのか、物語と神話はどう違うのか。伝説には最初、結構明確な定義があって、それが創造的原始と静態論的現代の中間にあったと信じられている具体的な出来事を語り継ぐものだと。だから古代から現代までの間に実際にあったことですよ、という体で何か物凄いポケモンとか人とかを語り継ぐ。ただ私としては世界成立、社会成立、社会内成立に対応させたいという気持ちが少しあります。世界成立がシンオウ・ホウエンでこれが神話。社会成立がジョウト・イッシュ・アローラでこれが伝説。ガラルはまだ全貌が分かってないが、カントーが社会内成立かな、という気がしています。ポケモンが何をしてどれぐらいの力を持っているかに綺麗に対応するとは思っていないんだけど、形式としてはこうなるんじゃないかな(笑)。これも定義の話ですが、神話はその民族にとって本質的な性格を基礎づけるものなので。ポケモン自体が何をしたかは、あんまりハチャメチャな力でなければあまり重要ではない。それよりも世界がどう見えていたのか? このような問いかけは、実は自分に世界がどう見えているのかということでもありますね。(後編に続く)

 

 




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