シュロの神話学的旅日記   作:加藤ブドウ糖液糖

8 / 44
8.少年ふたり/キンセツにて

〇月□日

 

 朝起きると酷く喉が渇いていた。天気は快晴であり、ガラス越しにぎらぎらした日差しが照り付けている。目に浸み込み溶けてしまいそうな青空に木々の新緑が映え、花々は陽光を浴びて色とりどりに顔を輝かせる。うら若き駆け出しポケモントレーナー達に交じって壮年のポケモンブリーダーやテレビ局の下っ端などが顔を出し、センターの朝食を食べながら談笑している。希望に満ちた光景だが、今日はどうもそんな気分ではない。喉が渇いている中で、ポケモンセンターの少し乾いたパンを食べるのは中々苦痛である。活力に溢れた若者たちの無邪気な笑顔に言いようのない違和感を覚えながら、ぼそぼそとパンを齧った。今思うと不機嫌だったからだろう。老害!……そう呼ばれても致し方ない。老害、初めて覚えたSNS用語である。儂もいよいよPoketter慣れしてきた。

 あの子供においしい水をやらなければよかったかもしれないなあ、いやいやあれでよかったのだ、などと思っていると、若草色の髪をした気弱そうな少年がサイコソーダを差し出してきた。飲んでいいのかい、と尋ねたところ、童顔な彼はこくりと頷き、サイコソーダの瓶がさらに儂の方へ近づく。お言葉に甘えて、君は将来大物になるぞ、などと言い、遠慮なく飲んだ。さらさらと喉を通り、泡が弾ける際のエスパーな感じ、まさしく命であった。名刺を渡して、困ったら連絡しなさい、と改めて礼を言う。すっかり気分がよくなり、彼に様々なことを聞く。どうやらポケモンを持っていないらしく、お礼にケーシィを見せることにした。エスパータイプに何か運命的なものを感じているらしく、尻尾を捕まえようとする姿が非常に愛らしかった(本人と家族の許可を得て掲載していることをここに記す)。

 コトキタウンの広い自然に別れを告げミシロタウンへと向かうと、途中の101ばんどうろでオダマキ君がグラエナたちに追われている。この子らを追い払ってくれと言うものの、儂のケーシィでは相性が悪すぎる。オダマキ君もポケモンを持ってきていないらしく、なぜそんなことをしたのか、と叱り飛ばした。仕方なく、テレポートでオダマキ君を連れて再びコトキタウンへ戻る。オダマキ君はとても変わった人間であり、各地方を代表する博士との交流もなくこうして日夜フィールドワークに勤しんでいる。前述の通り妻子もあり、研究にかけては疑う余地のない才能がある。このように間抜けなことをして、何か間違いがあったらどうするのか、と儂は心配である。

 

 肩身の狭い思いをしながらポケモンセンターに入り、オダマキ君の話を聞く。はじめはコイツ何を言っているのかと思っていたが、しばらく話を聞いていくうちに、その態度に感動にも似たものを覚えた。シュロさん、僕が子供に研究を手伝ってもらっているのも、このように無茶な研究を続けているのも、自分が人とポケモンの共存を心から願っているからで、そのためならば命を落としても惜しくはないのです、だそうだ。そういえば、儂は一生独身なのだなあと思う。キクコのように弟子が居ればまだ良かったのかもしれないが、今の助手はまだ頼りない。アカデミアの中で名前が独り歩きしすぎているのだ、と感じる。昨日は、この分野が跡形もなく消滅すればいい、などと書いたが、こういった話を聞くとやはり消えるのは惜しいと思ってしまう。

 その後も話は続く。このような用件でお呼びして申し訳ないと思っていること、しかし自分の子供には客観的に見ても並々ならぬ才能が眠っていること、自分にどうしても必要な知識があることなどを聞かされる。ああ、若いなあ、と思うと共に、現実というのは儂には持て余すなあという実感が迫ってくる。若い頃は無謀だったが、情熱に満ち溢れていた。どうしても生涯現役というわけにはいかないのかもしれんと自嘲気味に笑うと、オダマキ君が不思議そうになにかあったのかと尋ねてきた。それを適当に誤魔化し、子供の件と隕石の件を承諾するという趣旨の返事をする。

 しばらく沈黙が流れた後、もう疲れたから、と言って立ち上がった。日が傾く中、オダマキ君一人で帰した。ミシロと流星の滝に行く気はもう、ほとんど失せていた。それよりは久々に家に帰って、懐かしの手持ちとゆっくりしたいものだ。

 

 

 

〇月☆日

 

 先日書いた赤髪の少年が何かしたらしく、国際警察に呼び出されました。ジョウトに戻ることが決まったので、詳細は後日ということになります。ニュースにもなるでしょうが、編集部の皆さん、うまくやっといてください。儂はこの事件に何ら関与しておりません。無罪です。こうなったら儂はもう、絶対ミシロにも流星の滝にも行ってやりたいと思っています。

 

 

作品の形式はどれがいいと思いますか?

  • 今まで通りの旅日記形式!
  • 神話解釈+純粋な小説!
  • 小説だけでいいよ!
  • 解釈だけでいいよ!
  • 全部やってよ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。