目覚めたら某有名ゲームの悪役だったけど、正直言って困るんだが   作:プルスサウンド

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皆さんの反応で元気に書かせていただいておりますおほーっ!!!
楽しくデッドラ履修してきましたが、なるほど限定的な共通世界設定でしたか道理であまり情報が集まらんと…皆さん様々な情報ありがとうございますですわ!

ここ最近シリアス系だから、次は平和な小話を挟みますわよ!(次回予告)




くそでかブーメランに草も生えぬ

 

 

 

 思い詰めたようなカルロス氏の表情は、まるで先ほどまでの自分を見ているようだった。

 

 

 

 ワクチンに関して、自分は彼やジルさんに何も言えない。

 だからさっきはタイレル氏が気遣って、自分をバリケード係にしてくれたのだと理解していた。

 

 ワクチンをアリエルに使ったことを後悔しているわけではない。するものか。

 けれど卑しくも「ジルさんが感染した知らせが来る前に使ってしまって良かった」と思ったことは確かだ。

 例えアリエルにワクチンを打つ直前にジルさんが運び込まれたとして、これからの人生で価値を計るならばジル・バレンタインという人物が世界にとってかなりの高価値だと理解していても、自分はワクチンを譲ってくれと頼んだだろう。

 

 食えもしないプライドでアリエルの命が助かるなら安いものだと土下座して、哀れがましく脚にすがりつき、彼女に未来を下さいと拝み倒すのは何も苦痛ではない。

 それでも無理なら、恩ある彼らに敵対してでも、と安易に考えてしまう程度の小物が自分である。

 

「何でアルフがそんな顔してるんだ」

「どんな顔だ」

「まるで鏡を見てるみたいに酷い顔だよ」

「……そうか」

「アンブレラの悪事について、タイレルから聞いた」

「ああ」

「ジルはさ、それを知ってた。なのにアンブレラ社員の俺を信じてくれたし、助けてくれた……そういう人なんだ…」

「本当に彼女は、善い人だな」

 

 アンブレラの裏切り者にしか見えない男が言った「ウェスカーなんて人は知りません」という嘘を、信じてくれている人でもある。

 

「だから今度は俺が、俺が助けてやらないと…」

 

 彼は自分と同じ酷い顔をしていたが、同時に自分とは違う力強い眼をしていた。

 

「君は凄いな。情けない話だが……私は、彼女が死んだ場合、誰にも何も謝れないまま苦しんで死ぬ気がする。だから助けたい…」

 

 いわば、自分の精神衛生のために助かって下さいと言っているようなものだった。そんな酷い理由でも、誤魔化してはいけないと思ったのだが。

 

「そうか……ワクチンを使ったことで謝ったら、何か硬い物で思いっきりぶん殴ってやろうかと思ってたぜ」

 

 いつの間にか、酷かった表情は持ち直していた。

 彼は力強い眼をそのままに、しっかりと顔を上げている。

 

「俺は死なない。俺のいない世界なんて寂しすぎると思ってるからな」

 

 生きた表情で前を向いている。

 

「だがな、ジルの欠けた世界はもっと寂しくなるだろう?

 だから俺は絶対に認めない」

 

 本当に彼は、強い人だ。

 おかげ様で、こちらの背筋も少し伸びたよ。

 

 

 

 

 

 共に小走りで地下施設に向かう。

 下ってばかりの道のりは、アンブレラが街に深く根を下ろしている様子を体現するような構造だった。

 再び昇降機に乗り込んで今度は上へ…

 

 途端にバチン、と背後で弾ける音。

 足元を照らす火花。

 

 電気が切れて広い空間が全体的に薄暗くなる中、スピーカーから聞き覚えのある声が響いた。

 

「まさか君たちが食らい付いてくるとは思わなかったが、敬意を表してやろう」

「ニコライ!」

「だが残念ながら終わりだ…このゲームも、ジル・バレンタインの命もな。諦めて帰ることを推奨するよ」

「勝手に終わらせるんじゃない!!お前が!!!」

 

 お前が裏切ったせいだろうが。

 そう吐き捨てたカルロス氏は歯を食い縛り、スピーカーの有る方を獣のような眼力で睨み付けている。

 

 対して自分はそこまで怒りを感じていなかった。

 もちろん何も思わないわけではない。ニコライ某はかなり邪魔だと感じる。

 

 しかし、ああいう手合いに対していちいち怒っても無意味だと思ってしまうのだ。

 

 なんせ相手が怒ろうが嘆こうが、それを手のひらに乗せたつもりで笑うような人物だから。きっと直接ぶん殴られるまで、相手が同じ土俵に上がってきていると認めないだろう。

 で、そんな風に上から目線で事態を操作しているつもりの人間は、その自信の根拠となる奥の手的な何かを持っていて、それは総じて暴力の形をしているものだ…というのが自分の考えである。

 

 だからニコライ某がドヤ顔でゲームマスターを気取れるだけの何かが、この先にはあるのだろうと思う。たぶん。

 

「彼は本当にこちらを舐めているみたいだな」

 

 昇降機は必要なヒューズを集めれば動くようになっていた。我々を完封するなら設備にもっと致命的な損傷を与えれば良いのに、こんな中途半端な欠けを見せびらかすなんて「できるものなら追い付いてみろ」と言っているようなものだ。

 

 しかしコレはゲームではない。

 つまり馬鹿正直に昇降機を使う必要はないわけで。

 自分がカルロス氏をおんぶして、飛び上がれば解決だ。

 

「よし、私の背中に乗ってくれ」

「は?何のつもりだ?」

「背負ってジャンプするから」

「……冗談は止めてくれアルフ」

「冗談じゃない。有るかも分からぬ予備ヒューズを集めるより早いぞ」

 

 とりあえず倉庫の棚の横でビョーンと飛び上がり、アホみたいな脚力を披露する。ついでに落ちてきたゾンビの上に着地して踏み倒す。

 

「げぇっ!マジで跳べるのかよ…」

「ははは、我ながらヤバいとは思う」

 

 絵面もヤバいと思う。

 しかしアリエルと違い、頑丈なカルロス氏ならこのジャンプで掛かる負荷にも耐えられるはずだ。

 

 というわけで、時間に余裕があるわけもなし、と了承してくれた彼を背負い、一足飛(ひとあしと)びで階を上がった。

 

「よっこらしょういちっと」

「ぐえっ……変な掛け声だなぁ」

 

 しかし上階のコントロールルームには、ニコライ某どころか誰も居ない。つい先ほどまで誰かがそこに居たであろう証拠として、つけっぱなしのモニターがあるだけだった。

 

 見ればニコライ某は、ここで何やら報告書を書いていたらしい。

 

「逃げられたか!」

「うわ、この内容は…」

 

 報告書の内容はニコライ某が主導した「各所属の戦闘員と生物兵器の交戦記録」であり、彼の立場を端的に表すものだった。

 彼はU.B.C.S.に属しながらも別の集団の利益になるように動くスパイのようなもので、部隊の潜在的な敵として潜んでいたのである。

 

 しかし未知のB.O.W.や新型のNという表現を使い、やっている事の規模を見るに、彼はアンブレラの中でもこの街で大きく動いている勢力ではないのだろう。

 ネメシスみたいなデカブツを使える実験なんてできないような、またはしないような派閥に属する人員か、アンブレラ社員でありながらそれとはまた別の組織に属する人員かは分からないが。

 そしてこれが偽装でないのならば、報告書を書いて渡す相手が居るのだから、その背後に誰かが居るのは確実だった。

 

 と、そこまで考えて、ふと思い至る。

 

・表面的には主人公の仲間の立場

・裏の顔は敵で、裏切り者

・他人の命を使って情報収集

 

 あらまあヤダー…無印の隊長だよコレ…………

 

 やってる事の類似点になんとも言えぬものを感じながら目を通していると、どうやらニコライ某は自分をスターズ隊長のアルバート・ウェスカー本人か、そのクローンを利用した生物兵器だと疑っている様子もうかがえた。

 

 うん。そりゃそうだろうな。

 ある程度の情報が手に入るならば、スターズの立場だけでなく、普通にアンブレラ社員としてのウェスカー氏を知っていてもおかしくはない。

 なんかウェスカー計画みたいな名前のヤツもあった気がするし。何だっけあれ、ウイルス適応試験をパスしたらウェスカーの名字がもらえるお得なキャンペーンだっけ?

 

 とにもかくにもウェスカーという人物は、そういう実験に被験者の立場で関わっていてもおかしくないような、なんとも胡散臭い素性をしているのだ。

 しかもタイラント素体になれる大佐のような例もある。彼の推測を笑うことはできなかった。

 

 というか、自分でも考えたことはある。

 うろ覚えの映画版では主人公(アリス)の記憶が消され弄られ、ワサワサとクローンが登場していたような気がする。

 設定が共通しているとは言わないが、こちらの技術で似たような事ができても不思議ではない。

 

 つまり、もしかしたら自分は憑依転生したと思っているだけで、実は記憶をぶっこ抜かれたり不完全に人格移植されたアルバート・ウェスカー本人だったりするかも、なんて。

 意識が戻ったのが爆発直前の洋館だから、クローンまでは無いと思うが、そういうSF染みた想像をしたことが無いわけではないのだ。

 

 思考を切られるように、唐突にモニターが消される。

 真っ暗な画面には、アルバート・ウェスカーの顔が映っていた。

 

「データをタイレルに送れた。行こう」

「ああ、そこのゲートの向こうが地下施設だな」

 

 病院の内装もさほど古臭く感じなかったが、地下施設への扉はそれ以上に近未来な雰囲気を感じさせた。まだ20世紀で、ノストラダムスの大予言は来年だというのに。

 

 カルロス氏がパネルを操作し、ゲートを開く。

 社員であれば入れるとのこと。無断退職したウェスカー氏はたぶん入れないから助かった。ここはマスターキー(斧)が通用しなさそうだから。

 

 映画版のサイコロレーザーを思い出させる通路に足を踏み出した瞬間、無意識にカルロス氏のベストを掴んで横っ飛びしていた。

 先ほどまで居た場所に突き刺さる汚ねぇ色した触手。

 

「駅前でくたばったんじゃねぇのかよ!!!」

 

 驚愕するカルロス氏を担いで反対側に走る。追いかけてくる気配は人というより獣のそれに近い。

 

 あのボタンを押せ!と言われ、緊急用のデザインが目立つ壁面の赤を叩く。

 力を入れ過ぎてバキョっとボタンが壊れた感触に血の気が引くが、幸いにも防壁は稼働。

 ギリギリで滑り込んで溜め息をついた。

 

「…ジルが倒したはずだったんだ…首も落ちてた…」

「駅前で見たんだよな?」

「別の個体か」

「いや、私とジルさんをしぶとく付け回したんだから、同じ個体が生きて運び込まれた可能性もある」

「…………ニコライッ!」

 

 タイレル氏に報告を飛ばし、我々は警戒を解かぬまま足を進めた。

 

 

 

 

 

 




 
・また主人公に焼かれたおじさん
ノストラダムスの大予言で大騒ぎしてたのは日本だけらしいってマ?
ゲームありがち黒幕ムーヴをディスると、肉体的には特大ブーメランとなって脳天に突き刺さる悲しみを背負った男。ぴえん。

原作本人がUCで壁面ぴょんぴょんしてたから、これくらいイケるイケる。
脳筋「多分これが一番早いと思います」



・カルロス氏
ニコライ絶対ゆるさんマン。
ワクチンへの道のりが原作より遠いせいで心身が大変だが、ほぼ自力で立ち直った。伊達に21歳の若さでベテラン傭兵をしていないのだ。
RE3の姿じゃなくて3の姿だったらへたれてそうだったが。



・タイレル氏(おるすばん)
RE3だと先行していたジルに追い付き、地下施設ゲート開けた直後にネメシスくんにザクッと殺された人。あんなワケわからんもんに唐突に致命傷を負わされて、それでも助けてくれとか言わなかった地味にヤベェ男。
ミハイル隊長といい彼といい、胴体に穴開けられても他人やジルを案じる人間の鑑。



・ニコライ某
ゲームの進行上、プレイヤーキャラに対して舐めプせざるを得ない役割のせいで、性格付けがあんな感じになってしまったのかもしれないと思うと…涙がで、でますね…

カルロスを背負ってジャンプする、とかいう頭がおかしな内容の話を聞いて、慌てて逃げた人。




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