目覚めたら某有名ゲームの悪役だったけど、正直言って困るんだが 作:プルスサウンド
次から鈍足更新の予定。
バイオ2とか3とかリメイク版を再履修してきます。
ゲーム設定を作品のために最適化すると、どうしても設定をねじねじせざるをえない…その作業がしばらく掛かりそうです。
もし履修にコツがあるならぜひ教えていただけるとありがたく思います。
9月上旬。地球温暖化の兆しはあるものの、秋を前にして日差しは和らぎつつある。
自分が目覚めてから1ヶ月以上が経つが、ラクーンシティは平和なままだ。
日常を重ねすぎて本当にバイオハザードは起こるのかと疑いすら抱くようになってしまうが、鏡の前で髪型をオールバックに変えてしまえばその気も失せる。
結局、壊れたベストやスターズの印がプリントされた血塗れのシャツは処分できていない。それはバイオハザードが起きるだろうという物証だ。
だからこそ、今も色々と準備を重ねていた。
ま、やっていることはそのまんまプレッパー(人類滅亡に備える人のこと)だが。
なおミサイル待機勢なので、核シェルター的なものは目指していない。ゾンビシティでしばらく安泰に暮らせる程度を目標にしている。
「これ何?」
「ガソリン発電機と変電機」
「……?」
「電気を作る凄いマシン!」
「凄いマシン!」
家主の名義で何枚かカードを作って、限度額いっぱいまで借りた金でレンタルした物だよ。
もちろん無期限に借りるつもりだから、利子がやべぇ闇金からも借りましたわ。たぶんウェスカー氏は退職金もらってないし、アンブレラ社につけといて。
ん?…カード作成とか、そんなことできるなら最初からやれば良かったじゃないかって?
最初はできなかったんだよ。言わせんな恥ずかしい。
この1ヶ月近く、情報収集のためにパソコンを触っているうちに、情報工学について色々と学ぶことができた。その成果というやつだ。
ぶっちゃけ楽しかったってのもある。
まるで忘れていたことを思い出すかのように用語を理解し、拙いながらもソースコードを読み解くことができるようになった結果、おかげ様でこうして死んだ人間の口座から金を引き出したり、カードを作ったり、その他にも「ズルい事」ができるようになっていた。
アンブレラ社のガチガチセキュリティに対して何もできない程度なので、本業ハッカーの足元にも及ばないだろうが、身元も不確かな自分には有用すぎる技術だろう。
そうして軍資金の不安がなくなったため、アリエルの居た地下室を自力で改装して発電機を設置することに成功したわけだ。
人を住まわせる関係で、もともと地下室に換気機能があったのも良かった。
ガソリン発電機は本来、屋内に設置してはいけない。理由は簡単で、ガソリン自体が気化しやすい危険物で、排気ガスも有害だから。
それでもディーゼル発電機より静かで、車の給油を装えば怪しまれずに運べるため、地下室の換気機能を強化してからジェリカンを買い漁り、随時ガソリンを貯蓄していた。
他に集めたのは医薬品。
といっても普通にドラッグストアでサプリメントや市販薬、消毒薬や包帯などを買っただけ。健康の秘訣がウイルスな自分には必要ない物だが、アリエルは地下室暮らしが長くて体力が無いので用意した。
傷が炎症したり、病気でげろげろしてる最中にミサイルで死ぬとか可哀想だからな。ピンピンコロリ(外的要因)の方が良かろう。
日持ちする保存食や飲料水も集めた。電源が死んだ時のためにフリーズドライやレトルト、缶詰を溜め込んでいる。
ガスもプロパンを購入したので、ガス管が死んでも大丈夫。
それと、生活用水のために簡易的な貯水槽を庭に設置した。
水道水はお高い浄水器を入れたが、T-ウイルスって浄水器や煮沸で死ぬのか疑問。加熱で死なない菌の食中毒とか普通に存在するので。
そこら辺の知識は本当にウェスカー氏の記憶が残っていればなぁ…と惜しい気持ちになる。
後は万が一、アウトブレイクが発生してからも出掛ける必要がある時のために車を強化してみたり。といっても元から四輪駆動のゴツいやつなので、ただでさえ強いバンパーをより強くしただけだが。
車には頑丈過ぎるマウンテンバイクも積んである。タイヤがパンクしない最新のヤツ。かなり高かったが…こう…かっこ良くてつい……。
んで、最後に家の周りを補強して、暇潰しや銃器を買い集めたら引きこもり準備の完了!
というタイミングで恐ろしい事実が判明した。
『サラダに最適! 柔らかな口当たり』
『ラクーンハーブ 5色あります!』
『全色セット購入で2割引』
『超レア! イエロー&パープルを入荷!』
『毎日の健康に彩りを』
『ハーブティーや軟膏にも』
『レシピ本付き調合セット販売中』
引きこもる間、鉢植えで癒されようかとホームセンターの植物コーナーを眺めていたら、カラフルなヨモギっぽい草の鉢植えが置かれたコーナーに、とんでもねぇ売り文句が書かれていたのだ。
「ひぇ……そうだよバイオシリーズって言えばこのハーブじゃん何で忘れてたんだ…」
シリーズを通してプレイヤー達を支えてきた存在。
調合すれば重傷すらたちまち完治させるやべぇ草。
アンブレラ社は何故この草を栽培して売らなかったのか。
ウイルスよりこっち研究しろよ。
と、さんざん言われていた凄い草だ。
イエローハーブとパープルハーブは知らないが、赤青緑なら操作キャラのレベッカでさんざん調合したから覚えてる。というか思い出した。
ゲームそのまんまの効果なら、本当に医者いらずというか……病気には効かないが、ただの外傷や毒くらいなら瞬時に治してしまうはず。
普通なら医薬品の扱いになるだろうし、どっかの大企業が独占していないのがおかしいくらいだ。ホント、なんでホームセンターで売ってるんだよおかしいだろ?どうなってんだラクーンシティこわい。
すごくこわい。あたまおかしい。たすけて。
「ねぇ、大丈夫?おじさん?」
「あ、ああ大丈夫だ。ちょっとビックリしていただけだよ…」
アリエルのおかげで助かった。静かにパニクるってこういう感覚なんだな。知りたくなかったよ。
結局、この恐ろしいハーブは全色セットで購入した。二階のベランダに置くつもり。
基本レシピ本付きの調合セットも買ってしまった。商売上手なホームセンターだなぁ。
で、レシピ本に書かれていた事だが、どうやらこのハーブ類は効きに個人差があるらしい。
そして、調合により効果は高まるが、自分に適した調合レシピで作らなければ効きは良くならない、とのこと。
つまりコイツは凄い漢方薬みたいなものなんだな。
その道のプロフェッショナルなら個人の体質を見抜いて『最高の調合』を提供できるが、素人が適当にやったり、何もせずに生で食べても効果はまちまち、だそうな。
なるほどなぁ。ラクーン市民がハーブあるのにほとんど助からない描写を思い出すと、そういう物かと納得できる。
「つまり、プロフェッショナルならゲームに近い効果を引き出せるのか……え、こわ」
もしかしたらスターズの調合できる隊員って、お互いの体質を把握しあって、限定的に最高の調合を提供できるようにしていたのかもしれない。
凄すぎる。そっち極めたら一生食っていけるじゃん。むしろ何でスターズ入ったんですか?
「あー!思い出したい!本人の記憶を思い出したい!お前らこのハーブどうやって扱ってたんだ!」
「おじさん落ち着いて!ほら、ひっひっふー、って!」
ひっひっふー
落ち着いた。ラマーズ法なのに落ち着いた。たぶん落ち着きが生まれたんだな。
「ほら、ラクーン君かしてあげるから」
「いや、大丈夫」
「かしてあげる!」
「はい」
動物園と市のマスコットキャラクターを兼任しているラクーン君のぬいぐるみがお気に入りのアリエルは、買い与えた日から日常的にぬいぐるみを抱えている。
お出かけリュックにラクーン君のキーホルダーまでつけるほど首ったけなので、こうしてぬいぐるみを貸してくれるのは、彼女なりの優しさなのだろう。
でもずっと抱えてるせいでちょっと臭いから洗濯しような。
あ、これ洗濯ダメ…でも手洗いすれば良いか。
こうして籠城の仕上げをしているうちに、9月の上旬は終わった。
世間では長い長い夏休みを終えた子どもたちが学校に通い始め、家の周りも少し静かになっている。
仕事に集中するからと徐々に近所付き合いを減らすことに成功していたため、これからはいつアウトブレイクが起きても良いように生活を引きこもりにシフトしていた。
アリエルはお出かけが減ったことにむくれていたが、ビデオやらゲームやらを見せればすぐにそちらに夢中になってくれたのは幸いだ。
ハーブ関係の書籍…と言っても市民の経験をまとめたような物が細々と出版されているだけだが。それらの本を片手にアリエルに適した調合を探すのが、大掛かりな籠城準備を終えた自分の、最近の暇潰しになっていた。
これがなかなか奥が深くて面白いのだ。
で、そうしたことを繰り返しているうちに、やがてある事に気付いた。
家主が持ってた乾燥大麻みたいな草、グリーンハーブだったんだな。
・アンブレラ社のガチガチセキュリティ
→赤き女王です。そらセキュリティ抜けないわな。
社内の動きからバイオハザード発生タイミングを探ろうとして失敗した感じ。
・ガソリン山ほどあるなら自爆できるやん
→そこに気付かないからアホやねんな。
・ハーブ
→基本3色かと思ってたら最大5色もあったんかい。
・ラクーン君
→はじめて知りました。マスコットいたんだ…
色々と調べましたが限界あるんで、1998年のアメリカに無いものが出てきても許してください何でもしますから!