swordian saga second   作:佐谷莢

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 エルレインを撃破した、その後は。
 いよいよ御大ご登場、過去一度こっきり登場したフォルトゥナとの対峙。
 フィオレは順調に×××していきます。


第九十九戦——惑星の管理者達と箱庭の創造主。彼らが相容れることはない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「哀れな亡霊に操ってまで、私を拒絶しますか。星の守護者達」

 

 エルレインが残した光の粒子を自らの胸元に誘い、フォルトゥナが問う。

 相当消耗したのか、ソルブライトの腕から降りたフィオレは肩で息をしながらうずくまっており、交戦どころか会話できる状態ではない。

 対して口火を切ったのは、シルフィスティアだった。

 

「拒絶するに決まってるでしょ! じょーだんじゃないよ!」

 

 それを皮切りに、口々に。精霊結晶達は言い募った。

 

「あなたが、救いを望む人々の願いより生まれたことは知っています。それに固執するのは、それがあなたが生まれた理由だから。けれど私達は、それを享受できない」

「人類を救おうと画策し、その手段を人より拒絶され、それを繰り返した先がこの有様……星の破壊、歴史の改変、果ては人類の滅亡。とても受け入れられるものではない」

「ただただ人々の望みを叶えるのか?」「それは人を堕落へ導く」「少なくとも救うことはあたわない」

「救済……幸福……人は……恵みを受け続ければ……容易く……退化する」

「聞いての通り、汝のやり方は我々の方針にそぐわぬ。何より汝は、そこにいる人らに救済を、存在を否定された。望まれぬ神の行く先など、ひとつしかない」

 

 アクアリムス、フランブレイブ、アーステッパー、ルナシェイド、ソルブライト。

 満場一致でフォルトゥナの存在は認めない。

 しかしフォルトゥナがそれを受け入れることもなく。

 

「……それは、彼らに限ってのこと。私は人々の願いより生まれた存在! 否定などされてはいない!」

「必要ないと今し方はっきり言われたばかりというのに、頑なじゃの。星の管理者として星の営みの一部たる人類へのちょっかいはやはり看過できぬ。とはいえ」

 

 ここでソルブライトは、うずくまったフィオレを、そして臨戦態勢を崩さないカイル達をちらと見やった。

 

「代行者の消耗を鑑みて、我らは活動を停止する。エルレイン──汝の下僕が示した救いを敢行するならば、好きにせい」

「ソルブライト、でも!」

「今一度詫びよう、代行者。何があろうとも我らが敵を討て。如何に汝の命令であろうと、今は執行できない。遂行する前に、汝の命が尽き、我らはこの場にも存続できなくなるだろう。それだけではなく、これまでの反動で星における活動自体が困難となる。その危険を、我らは背負えない」

「……何?」

「……そうですか、わかり、ました」

 

 ようやく息を整えたフィオレが、ぐっと顔を上げる。

 その時、ジューダスは気づいてしまった。

 

「……?」

 

 未だ立ち上がる素振りも見せないフィオレの足。足首からその先が、消失しているのを。

 

「!」

 

 出血は見られず、そもそも今に至るまで彼女は被弾していない。それにも関わらず、あるはずのその場所には、光の粒子がわだかまるばかりで、存在を確認することができなかった。

 

「──エルレインが示した方法では、人々を救済できませんでした」

 

 一方で、フォルトゥナは。守護者達が消えたことを境に、ふわりと宙に漂っている。

 

「リアラ。我が聖女よ。あなたの答えを聞く、その前に」

 

 漂うその姿が、ゆらりと腕を上げた。立ち上がらぬフィオレへと、その目は向けられている。

 

「守護者達の拠り所たる亡霊に、我が聖女を滅したその裁きを。エルレインが差し伸べた救いの手を振り払った、その罪の重さを知りなさい!」

「させないわよ、ディバインセイバー!」

 

 フィオレが反応するよりも早く、それまでエルレインへ放たんと詠唱していたハロルドが動く。

 はなたれた光は、ハロルドの術によって相殺された。

 

「フィオレ、大丈夫!?」

「どうなってるんだい、この足! 一体何されたのさ」

 

 駆け寄ったリアラが回復術を唱えても意味はなく、フィオレはただナナリーに背負われている。

 

「これは……その」

「あーっ、後でいいよ! 先にこっちを何とかしないとね!」

 

 言いにくそうに口ごもるフィオレに追及するでもなく、ナナリーはリアラを伴ってその場を離脱した。そしてつつがなく、一同が合流する。

 

「ナナリー、降ろしてください。巻き込まれますよ」

「バカ言うんじゃないよ! フォルトゥナ、フィオレを攻撃するならあたしも巻き添え、ついでにあんたの大事な聖女もいっしょくただ! それでも構わないってのかい?」

 

 背中から降りようとするフィオレを無理矢理背負うナナリー、その前には二人を護るよう立つリアラ。ハロルドがその隣に立ち、三人を護るようにカイル、ロニ、ジューダスが居並ぶ。

 

「人々よ、我が聖女よ! その罪深き亡者から離れなさい……!」

「馬脚を出したわね。救いを拒むのが罪? そんな押しつけがましい救済はゴメンよ!」

 

 再三の救済拒否を受けて、我慢の限界なのか。フォルトゥナは声を荒げた。

 

「……何故です!? 何故救済を拒むのですか。私は人々より救済を望まれた存在、人々は救いを必要としている! それなのに……やはりこの歴史は破壊するべきです! エルレインが望んだように!」

 

 最早、一同はおろか、リアラの言葉をも聞かないつもりなのか。救うと言ったり滅ぼすと言ったり、忙しい神様である。

 それまで湖面のように静まりかえった澄まし顔から一転、神にあるまじき絶叫の後に。一同は違和感を覚えた。

 例えるならそれは、これまで幾度かお世話になった、自動的に作動する空中の足場。ただ今のこれは、圧倒的な重力を伴っていて。

 

「な、なんだ……!?」

「動いている……? まさか、地表に向かって!?」

 

 ここは神のたまご。エルレインが完全なるフォルトゥナを降臨せんと企み、今なおカルビオラ上空に佇んでいたはず。それが動いているということは。

 

「落下速度があがってる! このままだと、地上に激突するわ!」

「あんのやろう……! まじでこいつを地表にぶつける気だ!」

「フォルトゥナ!」

 

 ウサギの耳を生やした奇抜な端末装置を片手に珍しく焦るハロルド、激情も露わなロニ、非難の声を上げるリアラ。

 エルレインの消滅と同時に降臨した神は、毛ほども動じなかった。

 

「安心なさい。この歴史が幕を閉じても、すぐに次の歴史が産声を上げる。千年前、それ以前の歴史が終わり、あなた達の歴史が始まったように……」

 

 天地戦争が大きな転換期であったことはまぎれもない事実だが。それを歴史の繋ぎ目だという根拠は何もない。カイルは素直に反発していた。

 

「ふざけるな! 次の歴史なんて必要ない! オレ達の歴史は、まだ終わっちゃいない!」

「役割を終えた歴史に、存在する意味などありません。失敗作だったのです。そこにはわずかな価値すらない……」

 

 かつてフィオレがストレイライズ神殿でお世話になっていた頃。天地戦争以前の歴史がほぼ残っていないことを誰かが嘆いていたような気がする。残っていないものは調べようも学びようもなく、存在したかどうかもわからないものは確かにないも同然なのかもしれない。それでも、だとしても。

 失敗作などと、一言で切り捨てられるほどに。

 

「歴史はそんなに軽いもんじゃない! 一人一人が今を生きた、その積み重ねこそが、歴史なんだ! それを失敗の一言で、片づけられてたまるもんか!」

「消え去るのです! 古き人々よ! 悪しき歴史とともに!」

「オレ達の歴史を、消させはしない! 消えるのはお前だ──フォルトゥナ! 力を貸してくれ……みんな!」

 

 己を認めない世界を、受け入れられない気持ちは痛いほどにわかる。

 だからこそ、彼女を受け入れるわけにはいかない。

 認められないから世界を排除してしまったら、世界がいくつあっても足りないだろう。排除されるべきは、排除しなければならないのは、彼女だ。

 

「奏でられし音素よ。紡がれし元素よ。穢れた魂を浄化し、万象への帰属を赦さん──」

「消え去りなさい……ラストヴァニッシャー!」

「ディスラプトーム!」

 

 カルビオラの地下でも放たれた、天地を揺るがす衝撃が放たれる。

 ナナリーの背中でおぶわれながら、どうにかこうにか相殺するべく、対抗術を放ったフィオレだったが。

 

「!」

「フィオレ、本当に何をされたんだい!? なんで、なんで……足がなくなってきてるのさ!」

 

 万物を押しつぶさんと迫る衝撃波を消し去るのに忙しいフィオレは答えられない。それでもナナリーだけは、抱えていたはずのフィオレの足が、自分には触れなくなっていくのを文字通り手に取るように感じていた。

 やがて双方の術が効力をなくし、同時にフィオレはナナリーの背中から滑り落ちる。慌てて振り返ったナナリーが見たのは、形こそ視認できるものの、向こう側が透けて見えるほどに色が乏しく、その体から目に見えて実体が薄れていくフィオレだった。

 

「天光満つるところに我はあり、黄泉の門開くところに汝あり。天の風琴は奏者たる我を欲し、冥界の霊柩は贄たる汝を欲し……」

「フィオレ……!」

「運命を告げる審判の銅鑼より、その響きもて万象を揺るがす。其の衝撃は奏でる我を鼓舞し、凄惨なる旋律に汝は嘆き脅え、悠久の刻踊る紫電に我歓喜し 降り注ぐ裁きの雨は汝を撃つ」

 

 しかしその眼はフォルトゥナのみを映し、その口は詠唱を絶えず続けている。まるで、フォルトゥナしか見ていないかのように。

 リアラが回復晶術をかけるも、その状態異常は一向に回復する気配がない。

 

「どういうことなの……?」

「此方、天光満つるところより、彼方、黄泉の門開くところに生じて滅ぼさん。響け、終焉の音──」

「いい加減にしろ、この馬鹿!」

 

 何を尋ねられても詠唱を止めないフィオレに、ジューダスが掴みかかり──その手が空を切る。

 否、手は正確にフィオレの胸元にあるものの、何も掴むことはできなかった。

 

「……!?」

 

 もう、フィオレも。この世の者ではなくなってしまったのか。

 神のたまご内における守護者達の活動、行使する術の乱用によって体内の音素(フォニム)と元素のバランスが崩れ、肉体が消滅しかかっているとは知る由もない。

 見る間に透けていく己の手を、その向こうにいるフォルトゥナを見つめたまま、フィオレは持ちうる最大級の術を放っていた。

 

「インディグネイト・アポカリプス!」

 

 ──ぎりぎり、己が消滅しない術を。

 束ねられた終末をもたらす雷が、救われたいと願う人々の心から生まれた神を撃つ。

 

「ぁあああっ!」

 

 ──それでも、フォルトゥナは倒れない。

 消耗こそ見て取れるものの、実体を持たない神の肉体を炭化させることはかなわなかった。

 パチパチッ、と満遍なく浴びた雷の残滓をまといながら、その目は明らかな憎悪をたたえてフィオレを見ている。

 

「フィオレ! 大丈夫なの……?」

「──さて、みんな。今のでフォルトゥナは怒り心頭でしょう。私が気を引きますので、フォルトゥナにバックアタックを」

 

 問いそのものには答えずに。フィオレは透けが目立つ己の手を背中へやって、淡々と一同に指示を出した。

 

「そんなことしたらフィオレが……!」

「最終的にフォルトゥナをどうにかしてくだされば文句はありません。その前に何も言えなくなると思いますが」

「また囮をするつもりか、馬鹿を抜かすな! それに、その足でどうやって移動する気なんだ、僕はごめんだぞ」

「大丈夫、あなたには頼みません──全守護者に命ず。私の手となり、足となってください」

 

 活動を停止していた筈の守護者が、命令に応じたのか。フィオレが身につけていた依代から淡い光が零れて、フィオレの周囲を取り巻いていく。

 失っていた色が戻り、機能も取り戻されたのか。フィオレはすっくと立ち上がった。

 

「それではね」

 

 それが別れの言葉になるとは、誰が想像ついただろうか。

 

 紫水に腰掛けて、フィオレは独りフォルトゥナの背後へ回る。

 そのまま攻撃する素振りを感知したのか、フォルトゥナの敵意が膨れ上がった。

 

「亡者の分際で、我が聖女を惑わし、いたぶり、更には守護者の力をも我が物顔で扱うか! 神になろうとでも、企んでいるのか!」

 

 どのような形であれ、守護者の力を扱えるからといって、力さえあれば神になれるはずもないのに。

 いや、案外彼女は。力さえあれば神を名乗ってもいいと、思っているのかもしれない。

 

「神とは、個人の心におわすもの。時に各個人を見つめる鏡となり、時に行動の指針となり、ただ黙して個人を見守るもの。私では神になれませんよ」

「世迷いごとを……! 貴様が神を語るのか、では私は何だというのだ!」

「神を自称し、等しい力を持ち、また多数の個よりそう認識されているもの。それに転じて、森羅万象の頂点に立たんとするもの。実際にそれだけの力があるのに、それだけに飽きたらず、新たな歴史を紡ごうと──いえ、自分の存在を認められたいがために守護者を排除し、新たな歴史を求めてあがく、ひとりぼっちの可哀想な存在」

 

 出会った頃の、聖母のように厳かな顔立ちが懐かしい。場違いにそんな考えが浮かぶほどに、フォルトゥナの造りもののように綺麗な面相は、怒りに彩られていた。

 図星だというわけでもないだろうに、一体何に怒っているのやら。フィオレには、わからなかったが。本来人に、人に属する者しか持たないはずの感情が、何らかの形で彼女に芽生えたのだろう。

 

「……!」

「大分人に感化されましたか? 神とも名乗るものが、亡霊の戯れ言を真に受けるなんて。カルビオラでは私の意見を口車と切り捨てたくせに、今はきちんと受け止めて、理解してしまったんですね」

 

 返事は、一抱えもある炎塊である。己の手ではなく、フランブレイブが形成してくれた手でそれを払い落とし、フィオレはずいずいと歩み寄った。

 

「神のこの身を畏れぬか、わきまえよ亡者!」

「無理ですよ。あなたは私の神ではないから」

 

 迫るフィオレからまるで逃れるかのように、フォルトゥナは翼を広げ、空中へ己が身を浮かべている。

 フィオレに気を取られているフォルトゥナの背中を斬りつけんとしたロニが、盛大に舌打ちした。

 

「クソ、あれじゃ届かねえ……!」

「絶対的な力の差を思い知るのです……!」

 

 いつかカルビオラの地下で見た、神の雷を思い出す。あの時は防ぎきったと同時に逃げることができたから凌げたが、今度は無理だ。防ぎきったとして、追い討ちがくるのが関の山。せっかく一同から距離をとったのに、フォルトゥナへの攻撃のために再び集結しつつある。

 今の状況を考えれば、リアラをフォルトゥナが殺しかねないが、この場合はどうなるのだろうか。

 エルレインを殺しても、リアラに影響はなく、フォルトゥナは何事もなく現れた。おそらくこの三者に五感や状態の共有は存在しない。

 そうでなければ、とうの昔に。リアラを殺せと、守護者達は抜かしてきたかもしれない。

 

「唱えさせちゃだめ! 妨害しなきゃ──!」

「でも届かないよ! 矢も、翼の風圧ではじかれるし──」

「アーステッパー。彼女を、中空から引きずり落としてください」

 

 果たして神にトラクタービームが効くのか。詠唱時間短縮と、そんな危惧のもと、神の瞳を手に大地の守護者へ乞い願う。

 

『……わかったー』『できるかなー?』『やるだけやったるー』

 

 これまで、何をするにも、大概自分以外からエネルギーを搾取して、代替えに使ってきた。今や、頼る者は何もない。

 フィオレの生命エネルギー……命を糧に、アーステッパーはフォルトゥナへ、重圧をかけた。

 

「!」

 

 高らかに唱えられた詠唱が中断し、フォルトゥナの体が一同の足下へ叩きつけられる──ように、見えた。

 

「こざかしい! 亡霊に、古き歴史にすがるか、守護者ども! そんなことをしても、止められはしない!」

「!」

 

 地面へ叩きつけられるより早く、フォルトゥナはかろうじて体勢を整えている。詠唱も、かろうじてつながっているようだ。

 それを確認したフィオレは、完全球体のレンズを取り出した。幾度となく頼り、そろそろ晶力をなくすであろうレンズを。

 

「母なる抱擁に覚えるは安寧……」

「インディグネイト・ジャッジメント!」

 

 神の怒りともたとえられるだろう無数の雷が、そして束ねられた光の剣が、一同の頭上に飛来する。

 展開したハニカム状の結界が阻むも、その瞬間。フィオレが手にしていたレンズは、音もなく消えた。

 

「……」

 

 これでもう、後はなくなった。術を防ぎきるか、フィオレが先に消滅するか。

 しかし、先に消滅するのはどうにか避けたい。どうにか、フォルトゥナを仕留めるまでは……! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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