swordian saga second   作:佐谷莢

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 ストレイライズ大神殿、聖堂内にて乱闘。
 フィリアのことで完全に頭へ血が上っています。

※私事ですが、初プレイ時。
 アナゴさんのあまりの強さに、負けイベントかと思って戦闘放棄しました。
 そのまま流れでゲームオーバーになってしまった時の気持ちを、私は生涯忘れることはないでしょう。


第十戦——聖堂と聖戦~久しぶりのあなたは、似合わぬ色をまとっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダリルシェイドでフィオレに襲撃をかけてきたあの巨漢──バルバトスが、満身創痍で倒れ伏した金髪の少年に戦斧を振り上げている。

 少し離れたところで銀髪の青年が同じような状態におり、更に戦線から離れたところには数日前に見たような少女が蒼白な顔で座り込んでいた。

 その少女が抱きかかえるようにしている、倒れた神官服姿がある。

 見覚えがありすぎるその特徴的な容姿を眼にして、フィオレはその他すべてを意識から外した。

 春に芽を出す、若葉色の髪。ふたつのおさげをまとめるは、珊瑚の赤い髪飾り。

 おびただしい出血によって自身を、神官服を、そして聖堂の絨毯までも染めているその人物が、彼女であることを認めたくなくて。

 フィオレは戦線を突っ切るように移動した。

 

「ぐぁっ! き、貴様は……!!」

「な、フィオレ!?」

 

 ジューダスが何かをしたのだろう。バルバトスはいつの間にか戦斧を取り落としている。

 そのバルバトスと少年の間をすり抜けるようにして、フィオレは少女が座り込むそこへ駆け寄った。

 

「あ、あなたは……!」

「……フィリア? ねえ、フィリア、なの?」

 

 少女に一切構うことなく、へたり込むようにその場に座り込み、顔を覗き込む。

 顔つきこそ幼さが抜け落ち、あの頃よりずっと女性らしい体つきになっているが……愛らしい丸眼鏡に左右の三つ編み、それを留める珊瑚玉の髪飾りは、間違えようがない。

 

「フィリア……」

 

 肩口から胸にかけて致命傷を負い。紙のように顔色は白く、今にも息絶えそうなこの女性がフィリア・フィリスであることを認識して。

 フィオレはゆらっ、と立ち上がった。

 くるりと踵を返した先には、最早カイルやロニ、ジューダスにすら気を払わないバルバトスが立っている。

 その姿を認め、携える戦斧に大量の血痕が付着しているのを認め。

 何の言葉もなく、フィオレは巨漢に迫った。

 

「馬鹿者、頭を冷やせ! 死ぬ気──「うるせぇ! このクソ野郎がっ、ぶっ殺してやるっ!」

 

 妙に勘に触るジューダスを黙らせ、瞬時に魔剣を取り出したフィオレは勢いのまま斬りつけている。

 そんな荒い太刀筋を、バルバトスは受けるまでもなく回避した。

 大剣が床を穿つ、その瞬間を狙って戦斧が唸る。

 が、鋭い斬り込みを回避したフィオレは立ち位置を変えて魔剣を構えなおした。

 

「その血の上った頭で、よくぞかわしたな」

「抜かせぇ!」

 

 頭に蛆でも湧いているのだろうか。こんな一撃、ナメクジでもかわせる。

 舐めるのも大概にしろ。いや、舐めてくれたほうがこっちは助かる。

 浮かんでくる罵倒を口に出す余裕もなく、フィオレは魔剣を振るった。

 鋭い攻撃など何も望めない、実に荒くて野太い一撃。

 故に、あちらの戦斧とも互角にやりあえる。

 

「らぁっ!」

「軽いな、こんな攻撃……なっ!?」

 

 渾身の一撃を軽くいなしかけたバルバトスの目が、急激な丸みを帯びた。

 

 きもちわるいきみがわるいこんなものみたくないでもめをはなすのはきけん──

 

 気味が悪いと内心で唾を吐き、力任せに振り回したと見せかけた一撃を切り返し、しつこく巨漢の体を狙う。

 巨大な体、巨大な武器には似合わぬ繊細さでバルバトスは防御に徹した。

 鉄壁とも称すべき頑健さだが……いかんせん正直すぎる。

 流れ、勢いに任せて攻め立てる最中。見出した一瞬の隙を逃さず、フィオレはあっさりと魔剣を投げ捨てた。

 

「武器を捨てるとは……勝負を投げたか、馬鹿め!」

 

 ……人を馬鹿呼ばわりした奴こそが馬鹿だと思う。

 魔剣が床を転がり、派手な音を立てる前にコンタミネーションが発動。その姿が音素と元素に分解され、フィオレの中へと回帰する。

 すっかり魔剣の存在に気を取られていたバルバトスは、突き立てられた懐刀をあっけなく受け入れていた。

 

「ぬがぁっ!」

「死ね、さっさと死ね、速やかに死ね! 死んでフィリアに詫びろ、屑がっ!」

 

 懐刀──刃すらも黒く塗られた短刀のおかげで、鋼のような肉体という印象が綺麗に払拭出来た。

 分厚い胸板にそのまま大穴を空けてやろうと、更に刃をこじ入れようとして。

 ──背筋を駆け抜けた悪寒に従い、短刀を置き去りに距離を取る。

 

「驚いた」

 

 それはフィオレの方だった。

 何故なら、浅黒い肌の巨漢は、何の痛痒を覚えていなかったからだ。

 短刀をあっさりと引き抜いて投げ捨てる厳めしいその面は、まじまじとフィオレを見つめている。

 

「……俺の体にこれだけ深く剣を打ち込んだのは、貴様で二人目だ」

 

 それを聞き、フィオレは怒りに駆られていながらもこの男を本気で哀れに思った。

 よほど格下、雑魚としか交戦したことがないのだろうか。

 が、その哀れさも男が言葉を発する内に沸々とした怒りへと転換される。

 

「嬉しいぞ……久しく忘れていた。この血の沸き立つ感触……」

 

 嬉しい? 一体何が? 斬られたことに対してならとんだマゾ野郎だ。

 血の、沸き立つ感触? フィリアを傷つけてこの肉だるまは、何を笑っているのだろう。

 帽子で隠されたフィオレの表情などもちろん知らない巨漢は、誰の目からしても歓喜を意味する表情を浮かべて、のうのうと吼えた。

 

「俺はこの感触を手に入れるために、貴様のような敵と巡り合うがために蘇った! さあ戦え、この俺を失望させるな!」

「ごちゃごちゃと、うざってぇんだよ! 望み通り八つ裂きにしてやる!」

 

 ぶっ飛んだ発想を披露した男を、そしてその発想をむざむざ聞いてしまった自分にハラワタが煮えくりかえるような感覚を覚えて、再び魔剣を握る。

 その手品じみた様を見て、バルバトスはただ愉快そうに笑った。

 

「面白い、面白いぞ小娘「獅子戦吼!」

 

 フィリアを傷つけて何をゲタゲタ笑っているのか。

 なりふり構わず突っ込み、戦斧の間合いどころか眼と鼻の距離まで踏み込んで技を放つ。

 初動こそ遅いが、高笑いを上げていたバルバトスに回避する術はなく。

 長椅子をなぎ倒し、成す術なく吹き飛ばされた体躯へ容赦ない追撃が放たれた。

 

「轟破炎武槍!」

「ジェノサイドブレイバー!」

 

 真紅の剣気が巨漢に襲いかかるも、残念なことに戦斧は手放されていない。

 長椅子を踏みつぶす勢いで体勢を立て直し、戦斧を振るって高質量の闘気を迸らせる。

 真っ向からの打ち合い、しかしそれは唐突に終止符を迎えた。

 交戦の長期化を嫌ったフィオレが身を沈め、剣気の射出を停止させたことにより、闘気はむなしく背後の壁へと流れていく。

 

「ぬう!?」

「零式・龍虎滅牙斬!」

 

 再び間合いを詰めたフィオレが、かき集めた第二音素(セカンドフォニム)を持ってして譜陣を展開させる。

 バルバトスを中心として発光したそれは、龍と虎の顎を模した衝撃波を発生させた。

 長椅子の残骸と共に打ち上げられたバルバトスだったが、追撃は仕掛けない。

 一見無防備に吹き飛ばされたものの、空中で体勢を整えたのをフィオレはしっかり認めていた。

 怒りに任せて剣技を使ったせいで、未だ癒えない負傷は二の腕に明らかな負担を強いている。無理を重ねれば、被害をこうむるのはフィオレの腕だ。

 その代わりといってはなんだが。

 

「ぐわっ!」

 

 棒手裏剣をいくつもばら撒き、ささやかな嫌がらせを忘れない。

 乱れ飛び、数本同時に投擲されたせいで精度を欠いた棒手裏剣は、ほとんどが弾き落とされている。

 ただし、追撃に次ぐ追撃で集中力を欠かしたか、ただ一本だけはその太い腕に引っ掻いたような傷を残していた。

 それを忌々しげに見るバルバトスはといえば、あからさまな笑みを消している。

 内心で溜飲が下がったのは、戦いを愉しむかのような態度がなくなったことに起因しているのか。

 あるいは──笑む余裕も消すほどの脅威と認められたことで、フィオレの心の奥底にあるくだらない自尊心が満たされたか。

 ……最後の可能性は考えたくなかった。

 

「ふっ、猪口才な」

「くっそうざってぇ屑……んんっ。なかなかしぶとうございますね。八つ裂きではなく、なぶり殺しがお好みですか」

 

 むかっ腹の立つ笑みを消したこと、明らかな負傷を与えたことで、フィオレの理性は取り戻されつつあった。

 怒りは普段にない力を発揮することも多々あるが、それでも血に上った頭では単調な攻撃しかできない。

 戦いにおいて戦術、戦略は必須と考えるフィオレに、それは明らかな戦力低下を意味する。故に、あまり歓迎できる事態ではない。

 だからこそ、波打つ感情を抑えて冷静さを取り戻そうとしていたのだが。

 修復中の理性は、バルバトスの一言で木端微塵に砕かれた。

 

「……お気に入りを壊されて、ご立腹か」

「! 誰が壊れただって、訂正しろよこの塵屑(ゴミクズ)が!」

 

 挑発なのかそうでないのかもわからないその言葉に、戦術も戦略もなく勢いだけで躍りかかる。

 罠にかかった獲物を前に猟師が浮かべるような、会心の笑みを浮かべてバルバトスはずい、と前へ出た。

 その足元には、それまで壊れた長椅子に隠れていた円陣が不気味に浮かび上がっている。

 

「罠だ、突っ込むな!」

 

 たとえ制動が可能だったとしても、今のフィオレには到底届かない。

 大股で踏み込み、フィオレの扱う譜陣とは似て非なる円陣を片足が踏む。

 立ち入った者を遍く状態異常へ導く円陣から、フィオレに毒が感染する──はずだった。

 

「っ!」

 

 まるで怒りにとって跳ね返したかのように、フィオレは何事もなく魔剣を振るう。

 フィオレの体には、毒も薬も効果を示さない。

 致死量の毒物ならまだしも、体力を徐々に削るような毒が通じないことを知っているのは、当人だけだった。

 

「な、馬鹿なっ!」

「往生しやがれ、ゲス野郎ぉっ!」

 

 初めて、本当に初めて焦りをあらわにしたバルバトスに禍々しい刃が迫る。

 肩口から胸にかけて、ちょうどフィリアが負った個所と同じところに、魔剣はめり込んだ。

 吐き出された命の水はどこまでも(あか)く。この男にもフィリアと同じ血の色が流れていることを、フィオレは心底嫌悪した。

 傷の深さは相当なはずなのに、バルバトスは一切戦意を失っていない。

 

「フフ、ハハハッ! 褒めてやろう小娘、一度ならず二度までも、この俺に刃を突き立てたことを!」

「……おふざけはここまでです! カイル、やっちゃえ!」

 

 天然か故意か、沸き立つ苛立ちこそ完全には消えない。

 しかし、交戦の最中ジューダスにグミを食わされ、戦線復帰したカイルが好機をうかがっていることは知っていた。

 一体どんな理屈なのか、大穴があいたはずの胸板を更に傷つけられ、高笑いを放った巨漢が完全にフィオレに気を取られているのを見て取り、合図したのである。

 そして彼は、この好機を逃さなかった。

 

「でやああぁっ!」

「くらえ、デルタレイっ!」

 

 斬りつけられ、ぐらりと体勢が崩れたところでロニより放電を伴う光球──疑似晶術デルタレイが飛来する。

 フィオレとの交戦により、蓄積したダメージもあってなのか。やっとその巨体が完全に動きを止めた。

 

「や、やった……」

「とどめっ!」

 

 息も荒く小さく呟いたカイルなぞ眼もくれず、フィオレは逆手に持った魔剣の切っ先をバルバトスの頭部めがけて突き立てた。

 しかし。

 鋭い音を立てて、大剣が絨毯を引き裂き床を穿つ。が、肝心のバルバトスは脳髄を撒き散らしていない。

 驚くほど俊敏に動いたバルバトスは、低い笑声を放ちながらも発生した闇に身を委ねていた。

 

「……ククク。我が飢えを満たす輩が、この世界にまだいようとはな……」

 

 ──最早バルバトスに戦意はなく、わざわざ殺す意味もない。

 いちいち長ったらしい巨漢の捨て台詞を聞くまでもなく、フィオレは魔剣を収めるなり、フィリアの元へと駆け付けた。

 

「あ……」

「失礼」

 

 未だ少女が抱きかかえるフィリアに手を伸ばす。

 首筋の脈を探し、呼吸を確かめて、フィオレは聖堂内にたゆたう水の流れに手を突っ込んだ。

 

「命よ健やかであれ。心安らかな癒しを、あるべき姿を」

 ♪ Luo Rey Qlor Luo Ze Rey Va Ze Rey……

 

 小さく、本当に声量を絞って譜歌を発動させる。

 譜歌は譜陣を展開させ、立ち入った者に等しい癒しの輝きを与えた。

 

「な、なんだ!?」

「傷が治ってく……?」

 

 バルバトスとの交戦によるものだろう。

 息も絶え絶えだった二人から生傷が失せ、フィリアの傷もまた塞がっていく。

 ただし意識は戻らぬまま、致命傷に等しい裂傷が完全に癒えることはなかった。ともすれば傷口は再び開き、大出血を引き起こすだろう。

 そうなれば、彼女は今度こそ出血過多で命を落とす。

 

「困りましたね。これではここに放置するわけにもいきませんし、かといってここに留まっていたらいずれ発見されて不審者扱いされるのが関の山ですし……」

「だったらフィリアさんの私室に行こう。とにかく安静にさせにゃなんねえだろ」

「でも、今動かしたら傷に触ります」

 

 しかし、この場合ロニの案が一番建設的だ。

 傷口を固定し、細心の注意を払って移送するべきかとフィオレが迷っていたその時。

 それまで身動きひとつしなかった少女が、口を開いた。

 

「待って。これだけ状態が安定しているなら……」

 

 か細い首元に下がるレンズペンダントを手に取り、祈りを捧げるかのように瞳を閉ざす。

 その様子にカイルがぽぅっと魅入っているのを横目に見ていると、ぼんやりとレンズが発光した。

 輝きはまるで周囲から集められていくかのように徐々に大きさと、光の強さが増していく。

 それが一定を超えたその時、圧力に耐えかねたかのように光が弾けた。

 まるで、エルレインが使った奇跡の再現である。

 一度四散したと思われた光はフィリアに降り注ぎ、彼女を覆い尽くした。そして──フィオレの、患部にも。

 光はやがて、唐突に消え失せる。

 フィオレの譜歌で塞ぐのがやっとだったあの裂傷をなだらかな白い肌に変え、顔色も元に戻したフィリアの姿がそこにあった。

 

「!?」

「……ロニ。フィ……彼女の私室はどこでしょうか?」

 

 痛みの消えた腕をさすって驚愕を抑え込み、フィオレはするべきことを優先させた。

 以前アタモニ神団騎士であったというロニに案内を頼み、フィリアの私室へと移動する。

 天蓋つきの寝台に彼女が横たえられたのを確かめて、フィオレは念話を使った。

 

『彼女が意識を取り戻したら、すぐにここから離れましょう。ちょっと野暮用を済ませてきます』

 

 制止する声を無視して、人気のない神殿を我がもの顔で移動する。

 神殿にも知識の塔にも大聖堂にも人がいない今、どうしてもしておきたいことがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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