swordian saga second   作:佐谷莢

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 大穴が空いた船の上。
 船長ではあるまいし、沈みゆく船と心中するわけにはいきません。どっかの船長はイの一番に避難したようですが。
 しかしここは大海原のど真ん中。どんなに頑張っても、犠牲者無しとはいきません。
 しかも、よくわからん怪物の強襲×2というオマケつき。
 そんな絶望的な状況の中で。奇跡の光が、降臨します。


第十三戦——少女の祈りは奇跡の呼び水となりて、海原の大決戦を制す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その切羽詰る想いに応えるかのように、アクアリムスの声が、フィオレの脳裏に響いた。

 

『ごめんなさい、フィオレ。この魔物に依代を取りこまれ、手も足も出なかったのです』

 

 唐突にフォルネウスの姿が消え失せ、珍しい完全球体のレンズと瑠璃色の光球が出現する。

 海水の浸入を阻む氷上に転がったレンズを拾うと、光球からは蒼穹の長髪を優雅にたなびかせた女性の姿が現れた。

 

『良かった、無事だったのですね』

『ご心配をおかけしました。つきましては私も、シルフィスティアと同じくあなたの供となりましょう』

『あの海の主というのは、あなたの眷族なのですか?』

『いいえ。私は眷族をたぶらかされたのでなく。古来よりこの海域に生息していたこの魔物をけしかけられたのです。レンズによって力を付与され、凶暴化したフォルネウスに対する術を、私の眷族は持ち合わせていませんでした』

 

 アクアリムスの姿が失せ、光球は依代に吸い込まれる。そして手のひらに収まったのは、水滴を模した輝石を中央に抱くチョーカーだった。

 幅広の布を首に巻き、急いで一同に追いつく。

 幸いなことに彼らは「自分はこの船と運命を共に」がどうたら言い張る船長を、どうにか外へ出そうと奮闘している。

 今の今までフィオレが船倉にいたことを気づいていなかった。

 

「私、船室を回ってきますね。逃げ遅れがいないかを確認します」

「あ、それならわたしも……」

 

 船員たちとカイルらの熱い語らいについていけなかったのか、あるいは意味深な一言を突きつけたジューダスから離れたかったのか。

 ジューダスに一言告げてその場を離れようとしたフィオレに、リアラがくっついてきた。

 船倉から上階へ、順々に船室を巡り残っている乗客がいないかを確かめて、二人もまた甲板を目指す。

 途中、泣き叫ぶ幼女とその場に座り込んで神に祈りを捧げる母親を見つけ、リアラが幼女に「あの、泣きやんで?」と直球で頼む珍妙な光景を見ることになったものの、そんなんで泣きやめるかと突っ込み先を急ぐ。

 甲板へ辿りつく頃、すでにそこには男性陣、そして甲板を埋め尽くすほどに集まった乗客らが、不安そうに佇んでいた。

 どこかで子供が泣いているのか、勘に触る泣き声が船のきしみの合間に聞こえてくる。

 

「とりあえず甲板に集めたが……これから、いったいどうする!?」

「ねえ、岸まで泳げないかな!?」

 

 焦るロニにカイルがどうにか提案を出すも、周囲にもちろん陸影などはない。

 仮に見えていたとしても、カイルらならともかく一般人の体力では、あっという間に海の藻屑だ。

 

「救命ボートがあの大きさでは、ほとんど助からないだろうな」

「くそっ! 完全に手詰まりかよ!」

 

 ジューダスの視線の先を見て、ロニが声を荒げた。

 リアラはといえば、特に考えもないらしくうつむいて沈黙したままだ。

 万策尽きたとわかっていても、カイルはあきらめていなかった。

 

「あきらめちゃダメだ! 何とかして、皆を助ける方法を考えようよ!」

「とは言っても……」

「とりあえず全力を尽くしてみましょうか。どうせこのままでは、全滅必至ですし」

 

 ──怪しまれたくない、詮索されたくない、目立ちたくない。

 そんな我儘は、人の命に代えられない。

 呼吸を整え、己を中心に譜陣を展開させる。

 丁度ジューダスがリアラを見て何か言おうとしていたところ、うつむいていた少女はパッと顔を輝かせて、フィオレを見た。

 

「何か考えがあるのね!?」

「策があるのか?」

「策と呼べるほど頭は使っていません。ほとんど、力技です」

 

 フィオレが左手をかざした先には、第四音素(フィフスフォニム)──水の元素も豊富な海が広がっている。

 レンズを介して取り入れる元素は、増加するごとに譜陣を明滅させた。

 

「どうするの?」

「平らな氷塊を海に浮かべて、救命舟代わりにする。単純でしょう?」

 

 いかにシルフィスティアの力を使っても、以前彼女は小型の射出カプセルすら持ち上げられないと言ったのだ。こんな巨大な客船を持ち上げることなど夢のまた夢。

 ただしアクアリムスの力を借りられる今、そのくらいのことならできる。そう、断言できた。

 

「ん、んなムチャクチャな……」

「無茶苦茶ですよね。でも、他に何か方法が?」

 

 絶句するロニを尻目に、第一陣を作ろうと集中する。

 人が多数乗れるほどに頑丈で、平たい氷塊を作ろうとしたその時。

 アクアリムスの警告を聞いて、フィオレはあっさり集中を解いた。

 

「どうした?」

「──状況が変わりました」

 

 いち早く異変を感じ取ったジューダスの顔すら見ずに、フィオレは一度消した譜陣を再び展開した。

 今回展開された譜陣はフィオレの周囲に留まらず、船を覆うほどに膨れ上がる。

 

「なんだ!?」

 

 不意に船が大きく揺れたかと思うと、それまでゆるやかだった沈下が一気に加速した。

 急速に近づく海面に、パニックを起こす暇がない。

 しかし、どれだけ海面が近付いてきても海水は甲板に押し寄せてこなかった。

 海面が甲板と平衡になっても、平衡を通り過ぎて海中に入っても、海水は甲板へ──船の中へは、入ってこない。

 気づけば、アルジャーノン号は海中へと潜り込んでいた。

 沈んでいくそばから海中の様子が眺められるその様はただただ物珍しく、状況がさっぱりわからない一同としては呆然とするしかない。

 やがて海底へと到達したらしく、アルジャーノン号の沈没、もとい下降は止まった。

 あまりに奇怪さに、そして眼前に広がる静かな海中に誰もが沈黙せざるを得ない中。

 

「……凍りつけ」

 

 唐突に船の周囲が凍りつき、厚い氷の壁が出来上がる。

 初めて大きく息をついたフィオレに、まず食ってかかったのはロニだった。

 

「な、何がどうなったんだ!?」

「簡単にご説明申し上げると、海面を降下させて、周囲の海水を凍らせました。これで船がこれ以上沈むことはありません」

 

 確かにその通りだが、船が無事でもこれでは移動ができない。

 起こった物事に対し理解の範疇にあったロニがそれを問い詰めようとして、ジューダスに割り込まれた。

 

「……状況が、こうしなければならないものに変わったんだな?」

「そういうことです」

「こうしなければならない状況って……」

 

 どんなんだ、と尋ねるロニに、フィオレは気軽な調子で舳先を指した。

 途端、甲板からどよめきや悲鳴が発生する。慌てて振り向いたロニの視線の先にあったものとは。

 

「嘘だろ……あんなぶっとい雷の直撃受けて、生きてたのかよ!?」

「ありゃ新手ですよ」

 

 船に向かってひたすら突進し、氷壁に阻まれているのはデビルズ・リーフ、ならびに海の主ことフォルネウスの姿がであった。

 氷壁の向こう側は海中につき、海水があるはずなのにそれを感じさせない軽やかさでフォルネウスはひたすら突進を繰り返している。

 譜陣の中心から微動だにせず、フィオレはただ結界の維持に努めている。

 

「どういうことなんだ……」

「どうもこうも、海の主は一体ではなかったのでしょう。仲間の死を知って報復に来たのか、あるいは血の匂いを嗅ぎつけて興奮しているのか……ともかく、どうしたものでしょうか」

 

 当然、言いだしっぺがこの有様では氷舟など作れない。

 いくらシャルティエのコアクリスタルがあろうと、この客船を不可侵の聖域(フォースフィールド・サンクチュアリ)で包みこむのは無理だ。

 だから水精の力を借りた結界を展開した上で、分厚い氷壁を張ったわけだが。

 

「このまま耐えるしかねえのか……」

「それなら、私の精神力が尽きた時点で全てが終わります。結界は消え、海面は上昇し、船は沈没するかフォルネウスの食餌になるか。こうなってしまった以上、私にできるのは倒れるまで結界を維持し続けることくらいです」

 

 いくら分厚くても、所詮は氷。

 しかも海水につき塩分という名の不純物が混ざっているため、真水製の氷より脆い。

 フォルネウスの巨体で何度も体当たりなど受ければいつかは砕ける。現に結界の向こう側で、氷に亀裂が入っていく音がするのだ。

 

「こうなったら……フィオレ、結界を解いてフォルネウスを倒そう! 今すぐあいつを倒して、それから氷の舟を作れば……!」

「周りにこれだけ一般人がいるのに、さっきみたいな派手な交戦はできません。今言ったように船が狙われたら一貫の終わりです。それに」

「まだなんかあるのかよ?」

「フォルネウス二体を、同時に倒すおつもりで?」

 

 船の後方を指し、フィオレは軽く歯を食いしばった。

 譜陣が明滅し、砕けかけていた氷壁が再び凍っていく。しかし、前方と後方から同時の突進を受けて、氷壁はあっさりと砕け散った。

 フォルネウスの巨大な口が客船に迫るも、最後の砦である結界がそれを遮る。

 

「……あんまり、長持ちしそうにありません」

 

 結界に侵入を拒まれたフォルネウスが、当然のように結界への攻撃を始めた。

 尾を叩きつける、体当たりをぶちかます、頭突きを繰り返すと、その衝撃は凄まじい。

 それまであらゆる衝撃を呑みこんでいた結界が、まるで悲鳴を上げるかのように少しずつ、震動を船へ伝えていく。

 無論その衝撃は結界の起動者であるフィオレにも反動を与えており、どれだけロニがわめいても返事をする余裕がない。

 

「おい、聞いてんのか、この……」

 

 身じろぎせず、口元を引き締めて沈黙を貫くフィオレに焦りからか、ロニが掴みかかる。

 途端、集中が乱れたことを体現するかのように結界の一部がぐにゃっ、と歪んだ。

 それを見て、カイルが大慌てで兄貴分を止めにかかる。

 

「落ちつけよロニ! フィオレに当たったって、どうしようもないだろ!」

 

 事実にして悪意なきその一言に、傲慢にも傷つきながら欠いてしまった集中を整える。

 生まれてしまった結界のゆがみを修正する最中、事態を静観していたジューダスが静かに口を開いた。

 

「全員が助かる方法が、ひとつだけある」

「えっ!? ほ、ホントに!?」

「……力を使え、リアラ」

 

 今にも抱きつかんばかりに迫るカイルを冷静に捌いて、ジューダスは沈黙を守り続ける少女へ目を向けた。

 槍を向けられたリアラだが、驚きはあってもそれに対する強い否定はない。

 

「……わたしが」

 

 まさかフォルネウス同士が示し合わせているわけでもなかろうが、結界に加えられる衝撃が徐々に高まっている気がする。

 自覚こそないが、内心の焦りが集中を乱したのか。

 加えられた衝撃を吸収しきれず、客船は大きく揺らいだ。

 

「……何かするつもりなら、お早めに。でないと、何にもできなくなりますよ……!」

 

 ごりごりと、まるで削られていくかのように気力が消耗していく。

 薄れてきた意識の向こうで、カイルらや乗客の悲鳴が聞こえてきた。

 それを聞いてか、あるいは別の要因か。少女は覚悟を決めたようだ。

 

「リアラ……!?」

「おねがい……飛んで!!」

 

 カイルの言葉なぞ聞く余裕もない様子で、リアラはペンダント──首から提げたレンズを握りしめた。

 彼女の言葉に応えるように、レンズは淡い光を孕み始める。

 唐突な既視感はおそらく、フィリアの負傷を完全に癒して見せた時だろう。

 他にもまだあるような気はしたが、結界の維持と事の成り行きを見ていたフィオレに、それ以上思考する余地はなかった。

 ペンダントに宿った光は、除々にその輝きを増していく。

 次から次へと起こる奇怪な現象を前に、ロニはわけもわからずリアラを焚きつけたジューダスに目を向けた。

 

「おい、リアラはいったい、何をするつもりだ!?」

「船を浮かせるつもりなんだ。だが……これだけのものを動かすんだ。今のリアラにできるかどうか……」

 

 ──まるで、も何もない。

 ジューダスの発言は、今この極限状態においても聞き逃せないものだった。

 もちろん普通の人間にできることではない。

 フィオレには「守護者の力を借りる」というタネがあるが、リアラの様子を見る限り、彼女は独力でそれを成そうとしている。

 

「……くっ!」

 

 現に今、ペンダントに宿った光はほんのわずかずつ、船を包もうと散らばりつつある。

 第三音素(サードフォニム)──風に属する元素こそ感じるものの、守護者の力が働いた感覚はない。

 それともこれは、フィオレの感覚が鈍っているだけなのか──

 

『ううん、そんなことない。ボクはその子に、力を貸していない』

 

 そんな疑念も、当のシルフィスティアの一言で消滅する。

 やはりこの力は、リアラ本人が独力で起こしているのだ。ちょうどアイグレッテの人々を熱狂させていた、現アタモニ神団長のように。

 ふとエルレインの存在を思い出して、何かが引っかかる。

 引っかかるが、それ以上何かに気を取られている暇もなかった。

 なぜなら。

 

「……ああっ!」

 

 まるで力の放出に耐えかねたように、リアラは膝をついてしまった。

 途端輝きは薄れ、船を包み込もうとしていた光も消えていく。

 具体的に何をどうする気なのか知らないが、彼女が扱おうとしているのが第三音素(サードフォニム)であるならば。

 

「落ち着いて、リアラ。大きく息を吸って、吐いて」

「フィオレ……」

 

 先ほど手に入れたばかりの、完全球体のレンズ──フォルネウスに力を付与していたであろう瑠璃色のレンズを譜陣の中心に置き、結界の維持を代替わりさせて彼女の傍へ行く。

 レンズペンダントを握るその手は、極度の緊張によるものか、冷え切っていた。

 緊張は手の冷えだけではなく、彼女の精神をも蝕んでいる。

 

「やっぱり無理よ。船を浮かせて、海の主を振り切るくらい早く進ませるなんて……!」

「大丈夫。海の主はこっちで何とかしますから、あなたは船を浮かせるだけでいい」

 

 べそをかきかねない少女の泣き言にやんわりと、まずは達成してほしい事柄を告げる。

 やせ我慢でもなんでもない。船の浮遊が可能だというなら、それさえ行ってくれれば突破口は見いだせる。

 

「でも……!」

「──リアラ。私はあなたのことをよく知らないから、『あなたならできる』なんて無責任なことは言わない。でも」

 

 つぶらな瞳を潤ませる少女の手を取り、自らの熱を伝えるように包みこむ。

 誰かを慰めたり勇気付けたりするのが苦手なフィオレではあったが、こと事実を告げることに関しては自信があった。

 

「あなたが一人で頑張らなくていい。一人で背負わなくていいように、あなたには『仲間』がいるんです」

「!」

 

 リアラの手に温もりが宿ったことを確信して、フィオレはもうひとつ完全球体のレンズを取りだした。

 シルフィスティアと再会した際に手に入れた、彼女の眷族に力を与えた大量の第三音素(サードフォニム)が宿るレンズ。

 リアラの手を掴んだまま、左手の甲のレンズを介して力を注ぎこむ。

 

 それに伴い、ペンダントは強く発光した。まるでフィオレが、彼女と初めて出会った時のように。

 

 つぶらな瞳が驚愕に見開かれるも、状況を思い出したようだ。リアラはぐっと表情を引き締めて、意識を集中させた。

 それまでとはうってかわって強い輝きを灯したレンズから、溢れた光が迸る。

 頃合いを見計らい、フィオレはリアラの傍を離れてそれまで結界を維持していたレンズを回収した。

 結界が消え、海面が急激に上昇する。

 船底に穴が空いている影響でずぶりと沈みかけるも、リアラの力が働いたため、すぐに体勢を立て直した。

 残る問題は、それまで船にかじりつかんと迫っていたフォルネウスだ。

 海面下で激突し海の主と呼ばれる者同士、頂上決戦でもするなり、愛情が芽生えてくれたりしてくれないかとこっそり目論んでいたのだが……そう上手くはいかないようだ。

 ふよふよと、進行方向へ前進を始めた客船──エモノを逃すまいと、すぐに追跡してきた。

 進行速度は人の早足程度、すぐに追いつかれるだろうが……息を荒げて甲板に座り込んでしまった少女の努力を無に帰すつもりはない。

 

「上出来です。後は任せてください、リアラ!」

 

 高らかに少女を称賛し、視線をフォルネウスへとやる。

 左手を大海へ突き出し、第四音素(フォースフォニム)をかき集め。

 

「そなたが涙を流すとき群がりし愚者は、白に染め上げられし世界の果てを知る。セルキーネス・インブレイスエンド!」

 

 フォルネウス本体ではなく、二匹の進行方向──船の後方に氷塊を落とす。

 障害物発生により動きが鈍ったところで、船全体を覆う第三音素(サードフォニム)に手を差し伸べた。

 

「天空を踊りし雨の友よ。我が敵をその眼で見据え、紫電の槌を振り下ろさん……インディグネイト・ヴォルテックス!」

 

 神の雷よりは数段劣るが、発動は段違いに速い雷乱舞をほぼ駄目押しで放つ。

 トドメこそさせないだろうが、海水は殊更電気を通しやすい。船を壊せば食糧が調達できると学習しているフォルネウスが、これで懲りてくれることを祈る。

 ともあれ、危険は去った。

 

「すげぇ……マジで助かっちまった……!」

「すごいよ、リアラ、フィオレ……!」

 

 心底安心したのだろう。ロニは気が抜けてしまったかのように空笑いし、カイルはあのキラキラした瞳で二人を見ている。が、当人達はそれどころではない。

 

「ありがとう、リアラ。皆が助かったのは、あなたのおかげです」

「……そんなこと……フィオレ、だって」

 

 心から安堵した表情を浮かべて、リアラはぐらりと突っ伏しかけた。

 それを受け止めて、ねぎらうように背中を叩く。

 

「お疲れ様でした。お休みなさい」

「駄目よ、そんなことしたら、船が……」

「大丈夫。あなただけに活躍はさせませんよ」

 

 それを聞いて、緊張が途切れてしまったのだろう。リアラはそのまま、フィオレの胸の中で寝息を立て始めた。

 うらやましい限りだが、真似はできない。

 

「リアラ?」

「お静かに。部屋に戻りましょう、手を貸してください」

 

 何事かと覗き込むカイルにリアラを渡して、ほとんど気力だけで立ち上がる。

 ゆらゆらする意識のまま、船室の扉を開けたと思ったその直後。

 ふと、誰かに触られた気がして無意識に捕まえる。

 

「うをわあぁっ!」

 

 素っ頓狂な声が上がったかと思うと、犯人がロニであることが判明した。

 それと同時に、いきなり状況が変わっていることを知る。

 

「……私、何でリアラの隣で寝てるんです?」

 

 ここ数日で見慣れたスイートルームの内装に、背中はふかふかの寝台。

 隣ではリアラが寝息を立てており、眼前には手をひっこめたロニと心配そうに少女を見守るカイル、そして呆れたようにロニを見るジューダスだ。

 

「だから言っただろう。不用意に触れば目を覚ますと」

「や、違う! 断じて違うぞ! 俺は単に、帽子を被ったまま横になるのは寝苦しいんじゃないかと思ってだな」

 

 船室に入った直後意識を飛ばして、すぐここに寝かされたはいいが。ロニが興味本位か述べた理由か、帽子を外そうとした。そんなところだろうか。

 小さく息をついて何となくキャスケットに手をやり、フィオレはジューダスを見やった。

 

「あれからどれだけ経ちました?」

「お前が気絶したのはついさっきだ。僕らはこれから船長と話をしてくるが、どうする?」

「行ってらっしゃい。私はもう少し、寝ておきます」

 

 フィオレが所持していた鍵をロニに渡し、彼らを見送って寝慣れたソファに横たわる。

 けだるく感じていた体が、ふかふかのソファに預けられた瞬間。

 まるで奈落の底へ落ちていくかのように、すとん、と意識が落ちていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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