swordian saga second   作:佐谷莢

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 引き続き、ノイシュタット廃坑。
 そんなわけで、いきなり行方不明の原因はアーステッパーによる聖域への強制召喚が原因でしたとさ。
 どっとはらい。


第十九戦——廃坑の深奥にて、邂逅~なんて人騒がせな真似を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、突如として姿を消したフィオレはといえば。

 

『来た』『来たよ』『やっと来た』

『遅かったねえ』『遅かったよねえ』

『でもいいよね。来たんだから』『そうだよね』

『ようこそ、来訪者。我らの(やしろ)へ』

 

 子供の囁きにも似た声が、鼓膜ではなく脳裏へ寄せては返す。周囲を見回しかけ、妙に視界がブレたような気がした。

 フィオレがランタンのスイッチを切ったのは、その直後のことである。

 大地の守護者アーステッパーに導かれてのことなのか。左手甲の疼きは消え、フィオレの視界は見事なまでに一変していた。

 まず、光がある。

 通常廃坑に太陽光が差し込むことなどありえず、当然植物の類もない。清涼な清水など夢のまた夢。

 しかしフィオレが現在立っている場所は、それら全てが存在し調和する空間だった。

 天井付近から光が差し、瑞々しい緑はおろか花さえ咲いている箇所がある。周囲にたゆたうは湧水と思われる清水で、眼前には苔むした岩石がでんと置かれていた。

 土臭くカビ臭い坑道内に置いてお目にかかれない光景にフィオレが魅入っていると。

 

『アーステッパー! 無事だったのですね』

『見たところ封印されてたような感じしないし。どうして今まで音信不通だったのさ』

 

 現在フィオレと同道を共にしている守護者らが、姿を現さぬまま尋ねにかかる。

 その問いに、彼らはまるでささめくように答えた。

 

『無事?』『封印?』『そういえば連絡できないね』

『来訪者が来なかったから』『解放されずにずっと眠りっぱなしだったから』

『──そういえばフィオレ、アーステッパー達と契約してないや。だから、あいつらに目をつけられなかったってこと……?』

『ちょっと前、大地はボロボロにされた』『吸い上げられたり落とされたり』『こっちのことで手いっぱいだったから』

『大地が殺されそうだったから』『大地が死んだら、誰も生きられない』『今も大地は傷ついたまま』

 

 ──つまり、フィオレが契約してようとしてなかろうと、アーステッパーにはアーステッパーの用事があり、フィオレの蘇生には絡んでいないらしい。

 と、いうことはだ。

 

『なら、私に同行する意味はありませんね。聖域が無事なのだから、契約だけしてこの地を守っていてくだされば』

『ううん、行く』『除け者なんてやだ』『我らアーステッパー、大地と共に在りし者』

 

 秋に実る小麦の穂のような麦藁色が数えきれないほど灯ったかと思うと、まるでポップコーンが弾けたようにアーステッパーはその姿を現した。

 否、アーステッパー達と言うべきか。

 

「こ……これが、アーステッパー……!」

『はい。彼らの一人一人が、アーステッパーなる守護者を形成しています』

 

 通りでいくつも声が重なって聞こえたと思ったら、当たり前だ。数えきれない麦藁色全てが、アーステッパーだというのだから。

 二股の帽子を被った、靴職人の小人じみた容姿。その容姿に見合う小ささを補うように、アーステッパーは無数に存在していた。

 

『来訪者……』『フィオレ、だっけ』『そうそう、そんな名前』

『彼女に選定されし者』『聞きたいことは何?』『誰が答えよう?』

『大変ありがたいのですが、質問は保留でもよろしいですか? 契約を済ませてしまいたいのです』

 

 聞きたいことはいくらでもある。しかし確実に答えてもらえるのは一度だけ。質問内容をよく考えたいが、今はその時間がない。

 何せ、仲間たちとの行動中にいきなり召喚──姿を消してしまったのだ。

 早いところ戻らなければ、還らぬ人認定をされ置いてけぼりの憂き目に遭うだろう。

 それはそれで構わないような気がしないでもない。しかし、その案を採用してしまうほど、彼らのことがどうでもいいわけではなかった。

 

『保留?』『後回し?』『別にいいよね』

『別にいいよ』『ならば我らと契約を──』

 

 掌サイズの小人たちが、我も我もと小指より小さな腕を差し出してくる。

 左手でそれに触れるようにしながら、フィオレは誓いを口にした。

 

「汝らの意に沿う。汝らの願いがため、我にその加護を。我に力が貸し与えられんことを。願わくば契約が、無事に果たされんことを」

『その心ある限り』『その意志の限り』

『我らは汝と共に行く』『我らは汝の友となる』

『豊穣の大地は』『気高き母なる地は』『汝を柔らかな抱擁にて包むだろう……』

 

 小人達が一斉にその姿を麦藁色の光に変え、一点に吸い込まれる。その一点はフィオレの左手に収束し、その光を散らした。

 光が散った後に残るのは、蔦が巻きつく意匠のバングルである。フォレストエメラルドに似た輝石が、中央にはめこまれていた。

 ふっ、と遠くなる意識の中、バングルを腕にゆっくりと目を瞬かせる。

 湿った土の匂い、清々しい光に慣れた目では到底見通せない、闇。

 再びあの坑道内に戻されるものと思っていたフィオレは、きょとんと周囲を見回した。

 霧の漂う山脈の真っただ中とは信じがたい、降り注ぐ日光。可愛らしい花さえ咲かす足元の草むら、日光と共にそれらを育んできただろう豊潤な湧水。

 ただしそこに苔むした巨大な岩石はなく、目を向ければ少し行った先に人工的な通路がある。

 そのちょうど反対側に湧水に囲まれた小さな孤島に何かがあった。

 片手で持ちあげられるほど小さな円筒形のケースと、実に綺麗な切断面を見せる長方形の石板。それに彫られた、たどたどしい文字の羅列。

 石板の文字を眺め、繊細な硝子製と思われる筒状のそれを見やって。

 フィオレはそれに触れることなく、その場を去った。

 人工的な通路を通り、続いていた小部屋の階段を降りればすぐそばには運搬用と思しき水路。眼前には巨大な土饅頭がそそり立っている。

 この水路が本当に運搬用のものなら、坑道のどこかに繋がっているはずだ。

 フィオレは迷いなく水路に身を投じた。

 荷袋が耐水布であるにつき心配はないものの、水路は思った以上に深い。辟易して泳ぐうち、数人が走っているような、そんな音が聞こえた。

 すぐ様水路のヘリに張り付き、ランタンを掲げる。

 掲げた光の先、壁の燭台でぼんやりと照らし出されたのは、ほの白い骨と思しきものだった。

 

「っ!」

「なんだ?」

 

 ランタンを消し、速やかに水中に逃れる。

 水路のヘリを蹴ってその場を離れ、漂っていると。それまでフィオレのいた水路の縁辺りで、足音が止まった。

 

「どしたのジューダス、立ち止まって」

「今、この辺りで光が見えたような気がしたんだが……」

 

 その会話を聞いて、フィオレは迷わず水音を立てながら近寄った。当然、突然の水音に誰かさんが怯えている。

 

「ねえ、今の水音……」

「気、気のせいだろ? 気のせいだと言ってくれ! あ~でも俺の耳にも聞こえるしな~よし、魔物だ! 魔物に決まって」

「二人とも、私です。怖がってないで手を貸してください」

 

 水中にいながらランタンを灯せるのは、今はなきオベロン社製レンズ補充式の賜物である。

 腕を伸ばして水路の足場にランタンを置き、濡れて重たい体を持ち上げにかかった。

 

「ふぃ、フィオレか?」

「はい。お久しぶりですね、ロニ」

「あいつの声を真似してるんじゃねーだろーな……」

 

 怖々差し伸べられたロニの手を容赦なく掴んで脱出する。

 ここ最近はどうも水難の日が続くと被服から水気を追いだしていると、その間にジューダス達もやってきた。

 足元に置かれたランタンを取り、濡れ鼠のフィオレを一目見るなり呟く。

 

「……怪我はなさそうだな。何があった?」

「見ればわかるでしょう。水路に落ちたんですよ」

「──水音もなければ、あの付近、水の気配もなかったんだが」

 

 いぶかしげなジューダスの追及を適当にいなし、水路を泳ぐ最中見つけたものを掲げてみせた。

 

「何枚あるのかわかりませんが、これをあの……レンズ式動力エンジンとやらにつっこめば光源が確保できる気がするんです」

「まて、あのテの機械はああ見えて繊細だ。一枚二枚ならいざ知らず、あまりレンズを詰め込みすぎてオーバーロードしても困る」

「それにフィオレ、ずぶぬれじゃない。服を乾かさないと風邪引いちゃうわ」

 

 繊細な機械が、果たして十八年もほっとかれて動くものだろうかと思うし、濡れた体で動き回ったところで平気な程度には鍛えてある。

 それに。

 

「いいですよ、別に。風邪引いたって、宝を見つけたその後は嫌でも船の上なんですから、寝込んだところで旅に支障は」

「駄目! ねえ、どこかに火を起こせるようなところはないかしら」

「そういえば。入ってすぐのところの小部屋に暖炉があったよ」

 

 リアラの猛反対に否を唱える者は誰一人としておらず、一同はそのまま出入り口付近までの撤退を余儀なくされた。

 カイルの先導によって辿りついた小部屋には古びた丸テーブルやら切り株型の椅子、奥には暖炉が設置され、坑夫達用の休憩所であったことを思わせる。

 暖炉の脇にあった薪こそ使い物にならないが、幸いなことに炭は無事だ。幾つか暖炉に放り込み。ソーサラーリングで着火する。

 ほんのりと明るくなった部屋の中で、リアラはフィオレから預かっていたレンズ入りの袋をテーブルの上に置いた。

 

「じゃあフィオレが体拭いてる間に、私達はレンズを数えましょう? 足りなかったら、また探さなくちゃいけないし」

「リアラ、あなたは私に男性陣の前で裸になれと仰せですか」

「大丈夫よ。皆暖炉を背中に座るから」

 

 有無を言わさぬ、何が大丈夫なのかちっともわからない理屈を一方的に並べた少女は男衆と一緒にレンズを数え始めた。

 あの内気な少女が、ここまで活発になったのも珍しい。

 一応言うことは聞いておこうかと、フィオレもまた彼らに背を向けた。

 水気は払ったとはいえ、ずしりと重たい着衣を脱いで垂れる雫をしぼり、ばさばさと振る。

 暖炉付近に立てかけられたツルハシに引っかけたりしながら、とりあえずびちゃびちゃの下着だけは替えた。大量の雫を吸って肌に張り付くサラシを取り、新たな布を巻く。

 湿った髪を解放し、外気に当てることで少しでも乾かそうとしていた時のこと。

 

「そういえばフィオレ、替えの服とかある?」

「……あるといえば、ありますが」

 

 レンズを数えながらのカイルの質問に、フィオレは正直ためらいながら答えた。

 ないことはないが、十八年前を生きていた人間を知るロニの前で同じ格好は……よもや正体こそばれないだろうが、似た被服の着用によるファンの物真似だろうと指摘される危険性がある。

 正直不愉快だ。

 

「じゃあ着たら、すぐ出発できる?」

「できればこちらの服が乾くまで待っていただけませんか? 濡れた服を持ち歩きたくないんです」

「それもそっか。じゃあオレ、その間探検してよっかな……」

 

 いきなり何を言い出すのかと思えば、レンズ数えに飽きてのことのようだ。

 ふと彼らの手元を見やって、フィオレはおそるおそる尋ねた。

 

「カイル、レンズ何枚ありました?」

「え? んと、これで32枚目」

「ロニは?」

「これで48だ」

「リアラとジューダスは?」

「51枚だけど……」

「87枚だ」

 

 数字を聞いただけで、レンズ二百枚を超えていることは明らかである。

 レンズ袋にはまだ十分すぎるほどの膨らみが残っていた。これなら、多少使ったところで支障はないだろう。

 そう確信して、フィオレはレンズ袋から十枚のレンズを取り出した。

 バルバトス戦後も服を乾かすのに使った熱風。必要なだけの熱量を発生させるのは、それだけの晶力が必要なのである。

 たとえずぶぬれになろうと、これだけは外せない手甲付きの左手にレンズを持ち、件の熱風を発生させようとして集中する。

 ──ところが。

 左手の甲のレンズから、やけに高密度の晶力を感じる。

 本来普通レンズの一枚に宿る晶力は微々たるもので、だからこそ複数のレンズからそれぞれに宿るエネルギーを取り出し、収束させたのだが。

 違和感を覚えるものの、せっかく取り出したエネルギーを無駄に散らすわけにはいかない。

 そのまま熱風を発生させて。予想外の結果を前に、立ち尽くすしかなかった。

 ほんの一瞬、被服の水気を払い湿気を残す程度に吹かせた熱風が、とんでもない高熱を伴って吹き荒れる。

 密閉空間ではなかったにつき、フィオレにも仲間達にも被害がなかった。が。

 

「なんだ今のは!?」

「熱い風がなんか、ぶわーって……!」

 

 異変に気付かれないわけもなく、すわ襲撃かと剣を手に取る人間もいる。

 そんな中、裸も同然だったフィオレは大慌てで外套を引っ被り、うずくまった。

 覗かせた隙間から、誰がやってくるのかがわかる。

 黒地に水色の炎の刺繍が躍る足……ジューダスだ。

 

「お前か」

「……ちょっと、熱風を発生させようとして。失敗したみたいです」

 

 正確には、操ろうとした力と実際に発生した力の差異があまりにもかけ離れていて、フィオレがびっくりしただけだ。

 暴走じみたことも起こった現象に不備があったわけでもない。だが、こうでも言わない限り彼らは納得しないだろう。

 事実、ロニなどは大仰なため息をついている。

 

「はあ? なんだよそりゃ、はた迷惑な……」

「熱風って、バーンストライクを使うなら私に言ってくれれば」

 

 訂正を求める気にもなれないリアラの言葉を聞き流し、一同にそっぽを向くよう告げる。

 内三人は素直に指示に従ったものの、眼前に立つ細い足だけが微動だにしない。

 

「ジューダスのスケベ。そんなに私の裸が見たいんですか」

「……お前、何か隠してないか? お前が晶力の扱いをしくじるなんて、明日は槍でも降る……」

「隠し事はお互い様です。その話は後にして、さっさと私に背を向けなさい」

 

 しかし何を言っても、彼は動こうとしなかった。「はぐらかすな、質問に答えろ」の一点張りである。

 いい加減痺れを切らしたフィオレは、ふと己の指に鎮座する銀環に目をやった。

 そこで、ささやかな悪戯の敢行──並びに久しぶりに使うあの感覚を思い出す。

 精神と精神を繋ぐ、髪の太さにも等しい糸。本来は相手の糸に絡めるだけでいいそれを手繰り寄せ、幾重もの糸を生成させる。

 それを相手のフォンスロット──と思われる箇所に這わせて、フィオレは小さく息を吐いた。

 そのまま、まるで人形を操るように。相手の五感等感覚から始まり、やがて筋肉繊維のひとつひとつを掌握していく。

 相手はチャネリングを可能とするたった一人、ジューダスだ。

 

「!?」

 

 異変に気づいても、もう遅い。

 全身はおろか、すでに声帯すらフィオレの管理下にある今、彼に出来ることなどチャネリングを用いての抗議くらいだ。

 

『……なにを……』

『以前チャネリングが何なのか、シャルティエを介してお伝えしたはずです。これこそが、チャネリングの真髄』

 

 とはいえ、他人の全身支配はかなり疲れる。

 散らばってしまった衣服をかき集め、手早く格好を整えたフィオレは何食わぬ顔でジューダスを解放した。

 

「終わったか?」

「ええ。もう結構です」

 

 両の瞼を強制的に閉ざされたジューダスからは不満げに睨まれ、驚かされたことをねちねち口にするロニをいなしつつレンズを抱えて坑道を行く。

 正確に二百枚数えたレンズをざらざらと放り込めば、側のモニタが点滅し、突如として周囲は明るくなった。

 

「これで宝が探せるね」

「よし、これからあの坑道の奥を探索するぞ。もし罠のようなものがあっても、これで回避が……」

「盛り上がっているところ、少々よろしいですか?」

 

 さっそく探索を続けようとする彼らを制止し、モニタを覗きこむ。

 興味本位で適当に動かしてみて、わかったこと。

 このエンジンが設置されたフロアの階下には、発破に使われていたと思しき炸薬の類が保管されているようなのだ。

 

「ここのすぐ近くの階段を下ると、発破があるみたいなんですよ。これを使ってあの土饅頭を吹き飛ばしてみたいのですが」

「えー? でも、まず回れる場所から回った方が……フィオレがどんな罠にひっかかったのかも興味あるし」

「あの罠があるから、私はあっちに行きたくないんですよ。他にどんなものがあるかもわかりませんし」

 

 アーステッパーによる召喚を誤魔化すため、フィオレは「罠か事故か知らないが、歩いていたらいきなり水路に落ちた」と苦しい言い訳をしている。

 実際のところ、あの坑道付近の水路などなかった。この視界が利く中向かわれたら、ちゃちい嘘など一瞬で崩壊する。

 一応そうなった時どうするのか、考えてはいるが。そうならないに越したことはない。

 

「まあ、あちらを探したいなら止めません。視界に不自由がなくなった以上、まとまって行動する必要もありませんし……でも、先に私が宝を見つけても怒らないでくださいね?」

 

 決して強固に反対はせず、自分さえ行かなければいいという姿勢を見せる。そして、一滴の挑発を忘れずに。

 これだけで、カイルは想像以上の食い付きを見せた。

 

「あっ、それ困る! じゃああの土砂を先にどかしてみるよ。でも何もなかったら、坑道の奥に行くからね」

「当然です。その時になって四の五の言いませんよ」

 

 階段を降り、それまで見つけたものよりずっと強固な扉を見つける。

 かかっていた錠は錆びてボロボロになっており、鍵開けを試すまでもなく破壊できた。破壊できたというより、カイルが弄ったら取れたと称すが正しい。

 

「うわ、取れた!」

「好都合です」

 

 本来の意味で鉄錆び臭い錠前をお手玉するカイルを尻目に、室内へ入り込む。

 山積みされた木箱、その中に入っている炸薬を手にとって状態を確認した。

 

「……あまりいい保存状態じゃないが、使い物にはなるだろう」

「わかるんですか?」

「袋に湿気はないし、乾燥材も詰まっているからな。効きは弱かろうが、問題ないはずだ」

 

 一箱もあれば十分すぎるだろうと、未開封の木箱を総出で運ぶ。

 階段脇に手押し車があったからよかったものの、そうでなければリアラやフィオレがへたばっていたことだろう。木箱にはそれなりの重量があり、人力で運ぶのは難しかった。

 件の土饅頭に木箱を据え、十分な距離を取る。

 

「ところで、着火は……」

「私がやりますよ」

 

 フレイムドライブ、なる小型の火球をぶつける晶術──スタンの扱ったファイアボールとどう違うのか、フィオレにはいまいち理解できない──を放たんとするカイルを制して、レンズを二枚ほど取り出した。

 一枚はソーサラーリング用、そしてもう一枚は──発生するであろう轟音によって誘発しかねない二次災害を防ぐようだ。

 先程のこともあり、不安がないわけではない。しかし、先程の出来事にたいしてなら、すでに原因を特定していた。

 当初、一枚のレンズからごく小規模の放電や炎を発生させるので精いっぱいだったのが、ここ最近は実用に耐えうる譜術の発動すら可能となっている。

 きっかけとなっているのは、守護者達との契約だ。正確には彼らと接触する度に手の甲のレンズがうずく。このことが関係してなのか、レンズを介して取り出せる晶力が明らかに増加していた。

 今しがた、アーステッパーの契約を終えてからの出来事を考えれば、もう間違いない。

 レンズ一枚で、土饅頭を炸薬ごと大気の結界に閉じ込める。そしてソーサラーリングの照準を定め、熱線を放った。

 おそらく当時も、熱線と衝撃を同時に放つソーサラーリングを使用していたのだろう。木箱はあっさり破壊され、熱線は炸薬に着火した。

 

 ドンッ! 

 

 結界が働いているため、そこまで激しくもない衝撃が鉱山を揺るがす。

 上手いこと土饅頭を除去した先に、フィオレが通った階段が続いていた。

 

「階段だ……」

「行ってみましょう」

 

 躊躇なく階段に足をかけ、そのまま小部屋へと赴く。小部屋側から無理やり破ったような空洞があり、その先は土がむき出しの通路に続いていた。

 当然、明かりも途絶えているのだが……その行く先は妙に明るい。

 

「なんか……それっぽくなってきたね! この先に何かあるのかな!?」

「行ってみればわかるでしょう」

 

 ぐっ、と拳を握り締めるカイルはさておき、さくさくと足を進める。

 そして辿りついた先、潤いとは程遠い坑道内部を歩きまわっていたせいか、光景を目にしたリアラの呟きには感嘆が伴っていた。

 

「キレイ……!」

「岩の切れ目から、光が差し込んでいるのか。なるほど、通りで明るいわけだ」

 

 物珍しげに周囲を見回そうとするカイルの肩を叩き、無言で湧水に囲まれた孤島を差した。

 幸いカイルの視力はいい方で、フィオレが指したのが何なのかも、彼は理解している。

 喜び勇んで駆け寄ったカイルだが、硝子ケースの中に入ったモノを目にして不思議そうに首を傾げた。

 

「これが……宝なの?」

 

 高価な硝子ケース、それも特殊な機械が取りつけられている筒の中にあったのは、何の変哲もない鉱石だった。

 ふとした注意で落としたら、その辺の石コロと区別がつかなくなるほど、何の特殊性もない。

 

「一体、何なんだろ?」

「……この鉱山だけで採掘できる特殊な鉱石だそうです。それに入っているのは状態を安定させるためでしょうか」

「特殊な鉱石? それじゃただの石っころなの?」

「あなたにとってはね。でも……」

 

 カイルの持つケースに気付いてか、他の面々も孤島へやってくる。

 体重で沈んだりしないかハラハラしている間に、ジューダスが説明役を買って出た。

 

『口を挟むな、知ったかぶってろ、だって』

「……お前たち、ベルクラントは知ってるな」

「ああ、知ってるさ。天空都市ダイクロフトにあったっていう、兵器のことだろ?」

 

 ジューダスによるシャルティエの忠告を感受し、口は慎んでおく。

 ロニの答えに以前読んだ資料の内容を反復していると、会話はそのまま進んでいった。

 

「地殻にエネルギーをブチ込んで破壊するっていうとんでもねえシロモノさ」

「その石は、ベルクラントに使われていたレンズの力を増幅させる石だ」

「え!?」

 

 ──つまり、間接的にだがこの石のせいで、アーステッパーは大忙しになったわけか。

 世界を滅ぼしかけた兵器の一部となりえる石っころを見つめて、一同は戦々恐々としている。

 

「それじゃあ、これさえあれば……」

「そうだ。理論上はもう一度、ベルクラントを作れる。街ひとつを軽く吹き飛ばせるような兵器が、また作れてしまうんだ」

「現実には無理でしょう。この石をどうやって使えばいいのか、わかる人はいないのですから」

 

 そもそもベルクラントが作られたのは千年前のこと。

 十八年前よりも技術力が高く、空中都市はおろかソーディアンすら作られた時代の話である。ベルクラントがもう一度作れる、などとここまでくれば夢物語だ。

 しかし、十八年前の騒乱に巻き込まれ、ベルクラントの脅威を肌で知る人間にとっては面白い話ではない。

 この中で唯一、上記に該当するロニは露骨に眉を歪ませていた。

 

「うへぇ、お宝ってこんな物騒なもんなのかよ」

「別に物騒ってことはないでしょう。ベルクラントの設計図だっていうならともかく、これ単体なら」

 

 もちろん、ロニにとってそれは納得できる話ではない。彼は不機嫌そうに鼻を鳴らしてフィオレを見やった。

 

「お前ジューダスの話聞いてなかったのかよ。ベルクラントが作れるんだぞ!?」

「この石が可能とするのは、レンズの力を増幅させることだけでしょう。武器と同じく、生かすも殺すも持ち主次第だと思います」

「ベルクラント完成させちまうような石に、他に何ができるってんだよ」

「──その台詞、そちらの石板を読んでからもう一度言っていただきましょうか」

 

 どうもロニは、激情に駆られると声を荒げたりなど逆切れの傾向が顕著だ。

 そのことを再確認して議論を終了させるべく、フィオレは切り出された石板を示した。

 今さら気付いたかのように、ロニもそれに目をやる。

 

「何だってんだよ。どれどれ……」

 

 彼が目にし、読み上げ始めたもの。

 それは、今はなきオベロン社ノイシュタット支部長、イレーヌ・レンブラントによる手製の遺言だった。

 

 

 

《この鉱山にある鉱石を使えば、レンズの力を大いに高めることができます。

 そうすれば生産力が増大し、すべての人々が豊かな暮らしを送れるようになるでしょう。

 鉱石はノイシュタットの貧富の差をなくせる、奇跡の石となるのです。

 この奇跡の石は、光との化学反応によってのみ作られるもののようです。

 偶然光が差し込むように光が連なっていて、偶然この場所に石があった……

 これはきっと、神様からの贈り物なのでしょう。

 ですから、この場所を壊さぬよう大切に守っていってください。

 この場所を守ることがそのまま、ノイシュタットの人達を守ることになるのですから》

 

 

 

「これを読む、未来の誰かへ。オベロン社ノイシュタット支部長、イレーヌ・レンブラントより……」

 

 石板は発注したもの、あるいはこの鉱山の不要な岩石を切りだしたものなのだろうが。このたどたどしい筆跡は、手製とみて間違いないだろう。

 これだけの長文を慣れない彫刻刀で彫ったことを考えると、彼女のしたことはさておきすごいと思う。

 この遺言の意味を理解してだろう。ロニは納得したように頷いた。

 

「なるほどねえ、確かに鉱石は兵器だけじゃない、工場や船にも使えるもんな。俺達はその事に頭が回らなかった。これじゃ兵器を作った奴らと同じ……」

「初めから兵器のことしか考えられなかったのはあなただけでしょう。私は違います」

「ぐ、お前だってこれ読んでなきゃ、そうでもなかっただろが!」

 

 フィオレの茶々にロニが憎まれ口を叩くも、理解してもらえたなら何よりだ。

 珍しくジューダスがフォローを入れるように独白した。

 

「オベロン社も同じさ、そしてイレーヌもな……彼女達は道を誤った。理想の実現を急ぐあまり、即効性を求めて劇薬を選んだ」

「神の眼の騒乱の話か? そうだな……こんな風に考えられる人が、一体何で……」

「けれど……イレーヌさんの想いはウソじゃなかったと思う」

 

 あれから十八年という年月が過ぎ、真相を知る者など絶えて等しいだろう。

 それでも残ったこの場所がこんなにも綺麗なのだからと、リアラは言葉を続けた。

 

「ノイシュタットに住む人達のことを考えて鉱石を掘っていた。そしてこの場所が荒らされ、鉱石が取れなくならないようメッセージを残してくれていた……だから、ここはこんなにもキレイなのよ。まるで……宝物みたいに」

「宝物……か。案外、こっちが本当の宝なのかもしれないな」

 

 ロニの言葉、実は大いにその可能性がある。

 実際のところ金庫の中に硝子ケース入りの石だけを残せばそれで済んだのだろうが、これひとつで終わらないようあえて手がかりを残し、わざわざ目立つ土饅頭で隠した可能性は十分にあった。

 ただ、リアラもロニもそんなつもりで言ったわけではない。それだけは確実である。

 

「そうだね! きっとそうだよ!」

「本当の、宝……」

 

 素直に同調、肯定するカイルとは正反対に、ジューダスは鼻で笑ってみせた。

 ただ、その笑みに嫌みはない。

 

「……ふっ。安っぽい台詞だな」

「へっ! うーるせえよ……」

「……だが安っぽいのもたまにはいい」

 

 木漏れ日のような温かい日差しに、白く小さな花を抱く草むら、こんこんとわき出す清水。

 鉱山の中とは思えない別世界の風景を堪能し、唐突にロニが声を上げた。

 

「さあーて! 本当の宝も見られたことだし、街に戻るとしますか」

「うん!」

 

 ──とりあえず、フィオレとしては嘘がばれなくてよかった、と喜ぶべきだろう。

 階段を降りていく面々を見送り、小部屋とレンガで舗装されていない通路の境目を見やる。

 爆破してしまったせいで、目隠しの土饅頭はもうない。ならば新たな目隠しを作らなければ。

 

『アーステッパー。ここ、塞いでもらえますか』

『いいよ』『構わないよ』『ここは我らの聖域にも通じるからね』

 

 左手の甲に向日葵のような色が宿り、通路に向かって溢れた光が散らばった。光は瞬く間に土壁を形成し、周囲とそう変わらないレンガの壁を作り上げる。

 出来上がったその壁を叩いてみると、その分厚さは他の壁と遜色ない。

 

「フィオレー?」

「またいなくなっちまったのか!?」

「今行きます!」

 

 本物の小部屋と化したこの空間を見られても、面倒極まりない。

 階段を駆け降りた先では、返事を聞いて安心したのだろう一同が雑談を交わしていた。

 

「イレーヌさんかあ……口先だけじゃなくて、心から『ノイシュタットの民を救いたい』って想いが伝わってきた。きっと美しい心の持ち主だったんだろうなあ……」

 

 いつにないロニの発言に、ジューダスを含めた一同が驚きをあらわにしている。

 それに気づかぬロニではなく、気が抜けたように一同を見やっていた。

 

「俺、感動しちまったよ……あん? 何だよ皆、驚いたような顔して。俺の顔に何かついてるか?」

「……いや」

 

 誰ひとりとして咄嗟に答えられない中、小さく息をついたジューダスが一同の心境を代弁した。

 

「女性の外見ではなく、内面を見るという概念がお前にあるのを知って驚いているだけだ」

「ったく失礼な奴だな。こう見えても俺は美しいものには弱いんだぞ!」

 

 憤慨するロニを前に、三人のコンボが発動する。

 その条件で彼が反応するものといえば、これしかない。

 

「美女とか……」

「美女とか……」

「美女とかにな」

「何だよ皆……」

 

 何か弁解しようとして、言葉が見つからなかったか。あるいはあきらめたのか。

 彼は途中で言葉を切ったかと思うと、半ばやけくそ気味に自らの本音をさらけだした。

 

「ああ、そうだよ、その通りだよ! 「イレーヌさんてきっと美人なんだろーなー」とか考えたよ! ケっ、悪かったな、チキショウ!」

 

 それでこそ、ロニがロニである由縁である。

 幸いジューダスがぽろっと彼女の外見について語るようなこともなく、フィオレは安心して彼らに追いついた。

 

「ねえ、カイル。その石、貸してもらえますか?」

「え? いいけど……」

 

 たとえ石コロ同然であっても、一応は依頼された宝。そんなわけで後生大事に抱えていたカイルから石コロ、もとい宝を借りてレンズを手に取る。

 筒状のケースにレンズを添え、左手に携えた。ベルクラントを形成していた、レンズ──晶力増幅の力を持った石ならば。

 

「フィオレ、何するの?」

「ちょっとした実験です。晶力を増幅させるというなら、多分……」

 

 以前から、フィオレは折りを見てチャネリング訓練の見返りにジューダスから疑似晶術──現代における晶術の扱い方を習っていた。

 上級に近づけば近づくほど感覚的な素養が要求されるらしいが、初歩である下級晶術ならばカイルすら扱っている。フィオレにできない理屈はないというのが彼の言だ。

 例えがヒド過ぎる、というのはさておき。

 確かに、ジューダスのたどたどしい教え方でも、フィオレには何となく理解できた。

 理解が何となくだからか、今一歩使用までは届いていない。どうにか「ストーンザッパー」なる初歩晶術を何とか発動させているに過ぎない。具体的に挙げれば、発生する幾つかの石弾をたったひとつしか生成できないことか。

 

「……手品も奇跡も操る人間が、疑似とはいえ何故晶術を使えない?」

「相性が悪いんでしょう」」

 

 一因としてはフィオレの、好奇心の域をでないやる気不足、そして守護者達と契約している身だからだろう、とフィオレは考えている。

 アクアリムスはレンズを不純物だと言いきっていた。おそらくレンズより発生する晶力と彼らの力の拠り所は一線を画している。

 だというのにフィオレの手の甲に張り付いているのがレンズだというのはお笑い草だが、フィオレの召喚者自体がレンズなのだからしょうがない。それに、形はレンズであろうと行えることはまったく違うのだ。もしかしたらレンズの形をしているだけで、中身は別物なのかもしれない。

 ともあれ、今回のこれはほとんどフィオレの好奇心によるものだ。

 

「つぶては空を舞い、やがて母なる大地へと還る……」

 

 降りてきた階段目がけて、ストーンザッパーを放つ。

 以前は小さな石コロひとつがころん、と転がっただけでロニに指差して笑われたことのある晶術だったが。

 

 ごどっ。めりっ。

 

 幾つか発生するはずの石弾はたったひとつ、今回もまた宙を舞わない。

 しかし今回ロニは指差して笑うことはなく、口を開けて唖然としていた。

 以前と今回の違い。それは、発生したつぶての大きさにある。

 拳ほどだったつぶては晶力増幅の石の影響なのか、ロニより巨大な岩石となって階段上部にめりこんだからである。

 完全な球体につきその質量も半端なく、下手に触れば真下へ転がり落ちてくるような、そんな危うささえもあった。

 

「……まさか輝きの聖女……アタモニ神団の長って、この石を持ってませんよね」

 

 しげしげと発動した晶術の結果を見て、カイルに筒を返す。その一言にはっ、と我に返ったロニは、薄気味悪そうに筒を見やった。

 正確には、筒の中で力なく転がる石コロそっくりの鉱石を。

 

「とんでもねー威力だな……試したのがカイルだったらと思うと、ゾッとするぜ」

「なんだジューダス、使い方簡単じゃん! オレもちょっとやってみる!」

 

 見せつけられたとんでもない威力を目にして、好奇心に駆られたカイルが自分もやってみたいと言い出す。

 総出で反対、せめて外に出てから試せということになり、一同はカイルに引っ張られるようにして鉱山を後にした。

 白雲の尾根に出たところで、自分のレンズと筒を密着させた状態で晶術を放つ。

 大惨事と紙一重の出来事を予想して海岸で、フレイムドライブを使わせたわけだが。

 

「あ……あれ?」

「あんま変わったようには見えないな」

 

 火球が三つほど、海に目がけて飛び込んだだけで何か変わった様子は見られない。

 そんなはずは、とカイルがストーンザッパーを使ったのを見て、フィオレがぽつりと呟いた。

 

「拳大の石つぶてが、赤ん坊の頭くらいになってますね」

 

 念のため砂浜に転がったつぶてを確認すれば、確かに多少の肥大が見て取れる。おそらくフレイムドライブも同じように、多少威力が増しているのだろう。

 それを推測すれば、カイルは面白いくらいに膨れた。

 

「え~、なんでフィオレの時よりちっちゃいのさ!」

「一度使ったから、増幅機能が衰えてるとか……?」

 

 リアラの指摘に、再びフィオレが砂浜に向かってストーンザッパーを放つ。画して再び、ロニより巨大な完全球体の岩石が転がった。

 おそらく先ほどのものと、寸分変わらないだろう。

 

「普通に使えますが」

「え~……」

 

 憮然とするカイルが、今度はリアラに使用を薦めている。

 それを見て、事の成り行きを見ていたジューダスがぽつりと呟いた。

 

「その辺にしておけ。いくらやってもフィオレ以上の威力は見込めん」

「ジューダス?」

「素養の差……いや、経験の差とでもいうべきか。カイル、レンズから一度に引き出せる晶力は鍛錬次第で増幅させられることは知っているだろう」

 

 つい最近疑似晶術について知ったフィオレには全く分からない話である。黙って事の成り行きを見つめるより他ない。

 突然そんなことを言われても、彼らにとってそれは常識でしかないようだ。誰一人として戸惑う者はいない。

 

「そうだけど、それがどうかした?」

「おそらくこの石は、術者によって引き出された晶力を更に増幅している。もともと引き出された晶力の少ないお前では、あの程度の増幅しかされないということだ」

「──でも、そうだとするとフィオレの例が説明できないわ。十分な晶力が引き出されているはずなのに、どうしてちゃんと使えないのかしら」

 

 リアラの意見は最もだ。しかし、ジューダスは一言で切って捨てた。

 

「相性が悪いか、引き出される晶力があまりに膨大すぎて晶術が正常に発動しないのか……そんなところだろう」

 

 ともかくこれで実験は終わりだと、ジューダスはフィオレが手にしていた筒を取り上げた。

 ついでにジロリ、と表情が判然としないフィオレを睨む。

 

「……欲しいとか抜かすなよ」

「対バルバトス用の切り札なら欲しいと思っていましたが……一応、依頼ですしね」

 

 手に入れるとしたらきちんと対価を払う、と宣言し、ノイシュタットに向けてようやく帰還することになる。

 実力が違う、ときっぱり言われたカイルは長いことくすぶっていたようだが、幸いなことに八つ当たりじみたことはなかった。

 ロニのあの性格ではきっと感化されているだろう……とひやひやしていたのが、肩すかしを食った気分だ。

 ただし。

 

「ねえフィオレ、ちょっと稽古つけてよ。剣の稽古!」

「──せめて依頼を済ませてからにしろ」

 

 事あるごとに修練をせがむのは辟易したが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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