swordian saga second   作:佐谷莢

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 inハイデルベルク、念願だった武器発注後、英雄門に入り浸り。
 ここでフィオレはパーティから離脱します。


第二十二戦——囲まれたるは本の山々~それじゃあ、みんな元気でね~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 記憶には新しいハイデルベルグだったが、そこはほとんどフィオレが知らない街だった。

 しぃん、と静まり返り、グレバム軍の蹂躙に遭っていたあの街は今、厚着をした人々が行き交う城下町──本来の姿を取り戻している。

 フィオレ達のいる大通りから正面に進んだ先、あのハイデルベルグ城がその荘厳な姿を変えることなく、そびえていた。

 とはいえ、十八年の時の経過で細部が薄汚れている気がするが、元からかもしれない。

 

「フィオレ……本当に行っちゃうの?」

「闘技場の時もそうするべきでしたが、私の個人的な用事に、皆を付き合わせるわけにもいきませんから。英雄王とお会いするのでしょう?」

 

 財布に計4500ガルドを押し込み、懐へ戻す。名残惜しげなリアラに微笑みかけ、そのまま別れを告げようとして。

 

「フィオレの用事って?」

「えーと、まず武器の発注、それから英雄門で資料探しですね」

 

 以前、変に目的を隠して無駄足を踏んだ記憶から、正直に今後の予定を話しておく。

 武器の発注はともかく、後者はフィオレにもどれだけかかるかわからない。待たせるのは気が引けるし、飽きっぽいカイルに耐えられるかどうか。

 

「それだけ?」

「ハイデルベルグですることはね」

 

 確かにすることはシンプルで、わざわざ別行動を宣言するからには、よほど忙しいとでも思っていたのだろうか。

 苦笑を交えて伝えれば、カイルから思わぬ発言が飛び出した。

 

「なあんだ、ならそれが終わったあと合流したっていいじゃん。まさか置いてある本、ぜーんぶ読むってわけじゃないんでしょ?」

「目的の資料が見つからなければ、最終的にはそうなるかと」

 

 しれっ、と言い切ったフィオレに、カイルが音を立てて固まっている。

 英雄門とやらがどの程度の規模なのかわからないが、資料館という名目上本棚が三つ四つの規模ではないだろう。

 手伝えなどと言う気もないが、頼まれても困るとでも思ったのだろうか。それ以降カイルが何かしらを言うことはなかった。

 その代わり、と言ってはなんだが。

 

「その目的の資料が見つかった後は?」

「……そうですね。ジェノス……いえ、ハイデルベルグの近くにある……ええと、そう、知人を訪ねて、その後は……アクアヴェイルがカルバレイスでしょうか」

 

 何しに行くのかと聞かれ、流石にその先は誤魔化す。資料によって判明した事柄如何によっては、予定もまた変わるだろう。

 楽しかった旅行気分から気持ちを切り替えようとしていたフィオレだったが、それはある一言で霧散させられた。

 

「つまり、まだハイデルベルグにはいるんだろ。せっかくだから英雄王にも一緒に会ってかねえか?」

 

 ……確かに記念にはなるかもしれないが、それはためらわれる。

 その後も何やかやと引きとめられ、結局フィオレは一同に別れを告げることなく件の武器防具屋──ソウル&ソードを訪ねることになった。

 

「お城へ行く前に、街を見て歩くのもいいと思うの。あの英雄が治める街がどんなところなのか、見たいから」

「……私は構いませんが、もう皆とは別れたつもりで行動しますからね?」

 

 現在一行は、リアラの目的である「英雄探し」を旅の目的としている。ウッドロウが彼女の求める英雄なら、旅はここで終いだ。

 それを名残惜しく思ったのかもしれないし、単に彼女が見聞を広めたいと思ったのかもしれないが、どちらでも構うことはない。

 これから先、フィオレは一同がいないものとして行動する。その姿勢が保てれば、それでいい。

 行き交う人々に道を尋ねて、あっさりと件の店を見つける。

 何でもソウル&ソードの店主ウィンターズなる人物はその道では有名であるらしく、彼への依頼を携えて訪ねる商人も多いとか。

 

「フィオレ、武器の発注に行くんだよね? そんな有名な人に、大丈夫なの?」

「他国の一般人が一国の王に目通りを叶えるよりは簡単かと」

 

 そのことを含めて、彼に関する情報ならアルジャーノン号に乗船していた商人たちから情報を仕入れてある。フィオレにとっては今更な話だ。

 降雪によって扉が塞がれないよう、ある程度段差の設けられた入り口をくぐって来店する。

 そこかしこに並ぶ武器・防具に気を取られるカイル達を置いて、フィオレは一直線にカウンターへ足を運んだ。

 笑顔全開の店員に店主ウィンターズ氏を出すよう要求。用事の程は本人に直接言うようにする。

 単なる武器の発注と伝えただけでは、門前払いされる危険性が高い。

 

「御取次いたします。少々お待ちください」

 

 それまで店内を回っていた店員にカウンターを任せて、女性店員が席を立つ。

 丁度暇をしていたのか、ウィンターズと名乗る店主はすぐに姿を現した。

 その道で有名、と言われるからにはそれなりの壮年かと思いきや、拍子抜けするほどに若い。ロニが十年ほど年を食えば、こんな感じになるだろうか。

 彼はちらり、とフィオレを見やってから口を開いた。

 

「私がウィンターズだ。見たところ旅業者とお見受けするが」

「初めまして、フィオレと申します。これはあなたが製作されたものだとお聞きしました」

 

 おもむろに特殊な革ケース……紫電シリーズと呼ばれる包丁セットを取り出し、確認する。

 確かに自分が作ったものだ、と彼が頷いたところで。

 

「何か不手際でも?」

「いいえ、この包丁自体には何の文句もありません。これを作成されたあなたに是非とも、紫電をモチーフにした武器を用立てていただきたいのです」

 

 別にこの紫電に似た意匠、そして軽さだけで求めたわけではない。その切れ味は食材にて確認済みである。

 用事が武器の発注だと知り、店主は想像通りのリアクションを取った。

 

「すまないが、オーダーメイドは受けないことにしているんだ」

「どれだけの期間、報酬を提示されても、ですか?」

「期間や報酬の問題じゃない、素材の問題だ。あんたのように紫電のレプリカを造ってほしいと言う依頼人も多い。私もあの泡沫の英雄が振るった武器を再現したいと思ったさ。だが、実際は伝承にあるような紫電の質感、そして軽さを似せるので精一杯……武器としての耐久性に欠けるため、なくなく包丁として加工せざるをえなかった」

 

 なるほど、あんな包丁を作るだけあって紫電に対し興味がないわけではない。残るは素材の問題か。それならば一応、事前の調査で聞き及んでいる。

 フィオレはおもむろにポケットからとある物質を取り出すと、片手で弄び始めた。

 

「私はこの包丁の刃をそのまま、刀に仕上げてほしいのですが……ままならないものですね」

 

 もちろん、相対するウィンターズ氏にこの行動が奇妙に映らないはずもなく。彼がフィオレの持つ物に目を向けたのは、必然のことだった。

 ──この、フィオレが持つ鉱石の正体が文献通りで、ウィンターズ氏についての調査に間違いがないのなら。

 

「まあ、素人の私には理解しかねることですか。今日のところは出直して……」

「ず、ずいぶんあっさり引き下がるんだな。あんた、多少なりとも私のことを調べたんだろう?」

 

 フィオレが手に持つ物に目を止めて以降、そわそわが止まらないウィンターズ氏を目の当たりにして内心で笑みが浮かぶ。

 だが、ここで妥協などしない。相手は仕事どころか客すら選り好みするような職人だ。下手に出る気はない。

 

「何のことでしょうか? ともかく、時間を取らせてしまいましたね」

「今更誤魔化さなくてもいい。その手に持つのは……ベルセリウム、だろう?」

 

 その名を出されて、一貫して空っとぼけていたフィオレは弄んでいた物質をカウンターに置いた。

 蒼く柔らかな質感を持つ鉱石らしきもの。フィオレの感覚では少し前、実際は十八年前に国家を挙げてのドラゴン退治で得たものだ。

 涼しげな見た目とは裏腹に温かな手触りで、それなりに気に入っていたフィオレだが。有害なものだったら困ると、当時調べた記憶がある。

 それが幸いにも、ウィンターズ氏が切望するものであると判明したわけだが。

 

「幻の鉱石と呼ばれ、強大な力を秘めた未知の石……俺がこれを探していると知って、調達したのか」

「いえ、私が偶然所持していただけです。これ以上の量を手に入れる見込みはありません」

 

 それを聞いて、ウィンターズ氏は僅かに失望の吐息をついている。

 それでも、この小さなベルセリウムに興味がないわけではないらしく、触れてもいいかと許可を求めてきた。

 許可を得たとなるや、薄手の手袋を装着し拡大鏡まで持ち出して鑑定を開始する。

 

「……かなり純度が高いな。質も良く、保存状態も良好……本当に偶然手に入れたものなのか?」

 

 保存状態が良好などと、手に入れて何年も経っているわけではないから、当たり前だ。

 

「ええ、偶然です。では、そろそろお暇しますので」

 

 片手を伸ばして速やかな返還を求める。何食わぬフィオレの様子に、ウィンターズ氏は苦笑して両手を挙げた。

 片手にベルセリウム、片手に拡大鏡の万歳はなかなか笑えるポーズである。

 

「わかった、発注を引き受けよう。報酬はこのベルセリウムで十分だ。これにはそれだけの価値がある」

「話が早くて助かります。私が望むのは紫電という刀の性能ですので、それ以外はお好きにどうぞ」

 

 そして後日、フィオレは己の台詞を大いに後悔することになるのだが……それはまだ先の話。

 ベルセリウムを手にしたところで、創作意欲が沸いたとか何とかほざき、ウィンターズ氏はスキップしながら店の奥へと引っ込んでしまった。契約書も何も書かずに。

 

「ちょっと、ウィンターズさん?」

「フィ、フィオレ!」

「すみません、お客さん。珍しい鉱石手に入れたんで舞い上がっちゃってるみたいです。私からちゃんと言い聞かせておきますので、お手数ですが明日あたりまたお越しいただけますか?」

 

 契約も何もないにつき、よもや持ち逃げの可能性も疑うの、店員の仲裁を経てカウンターを乗り越えようとするのはやめる。

 店員の名と顔をきっちり覚えて、フィオレは今度こそ店を後にした。

 降り積もった雪をザクザク踏んで進んだ先には、巨大な門がある。正確には、門の形をした建物か。

 

「街の中にまた門が……」

「これが英雄門だ。この門を隔て、城側が旧市街、外側が新市街と呼ばれている。旧市街は以前の街並みをそのまま保存され、十八年前の騒乱時、崩壊したジェノスとサイリルの住民が集って形成されたのが外側の新市街だな。ある意味ふたつあるこの街を繋ぐ英雄門は新たなハイデルベルグを象徴する記念碑的な建物だ」

「それにちなんで、記念館件資料館として十八年前の騒乱や、天地戦争の資料が納められているんだな」

 

 幸いなことに、英雄門へ入るのに入場料などは必要としなかった。

 門の左右にある階段は開放されているが、雪国特有の二重扉が設置されており、冷たい外気が内部へ侵入することはない。

 

「英雄門へようこそ。どちらの入り口からも自由に入れますよ」

 

 守衛を兼ねた、モコモコの防寒着をまとう職員に区画を根掘り葉掘り尋ねる。

 右側の入り口から上がった先は十八年前の騒乱を扱った記念館、左側の入り口から上がった先は天地戦争にまつわる資料を展示しているのだという。

 最上階は、そのふたつに関連する書物を管理する図書館になっているのだとか。

 

「以前、知識の塔から書物が運び込まれたと思うのですが、それらは全て最上階に?」

「ええ。十八年前の騒乱や天地戦争、更にはそれらに関連する書物の類はすべて最上階の書庫に収まっています」

 

 守衛に礼を言って。階段を上っていく。

 上った先は十八年前の騒乱にまつわる記念館だったが、フィオレに用事はない。

 スタン達の肖像画が飾られた区画、ソーディアンレプリカや神の眼のレプリカが飾られた区画を素通りして、階段へ直行する。

 

「フィオレ、見てかないの?」

「だって、用事がありません」

「心にゆとりがねえなあ。にしてもルーティさん、やっぱ美人だなあ……」

 

 入って目につく一角には、英雄たちの当時の肖像が飾られている。絵師の腕のせいか、皆そこはかとなく凛々しい。

 個人的に、アクアヴェイルから出なかったはずのジョニーの顔をどうやって描いたのか気になる。

 

「……泡沫の英雄がいないのね」

「ここに描かれているのは、騒乱が終わって直後の肖像画だからなあ。どんな人だったのかってのなら、ここにあるけどな」

 

 何が書かれているのかなど、知りたくもない。

 意図的に目を逸らし、意匠だけはそっくりなソーディアンレプリカに張り付くレンズがただの硝子玉であることを確認して階段を上ろうとして。

 フィオレの耳にこんな会話が飛び込んできた。

 

「お前さん達、泡沫の英雄の肖像画ならハイデルベルグ城にあるよ。当時隻眼の歌姫のファンだった見習い画家が描いた似顔絵を、ウッドロウ様が買い取って謁見の間に飾ったんだ」

「でも、謁見の間になんて普通の人は入れないんじゃ……」

「そんなことはないよ。ハイデルベルグの住民だろうと他国の旅人だろうと、望めば陛下はお会いなさる。私も一度お会いしたが、立派な王様だったよ。ファンダリアの誇りさ」

 

 ──やりきれない思い、心苦しい記憶が胸の奥を焦がす。

 それから逃れるように階段を上ったフィオレは、大量の書物が納められた書架へ歩んだ。

 一冊を手に取り、ぱらぱらとめくる。そこに記載されているのはオベロン社の歴史についてであり、フィオレが望む文献ではない。

 いくつも並べられた本棚を見て回り、天地戦争に関する書籍が大体六架程度であることを知る。

 その中には、ジルクリスト邸で見た記憶がある書物も混ざっていた。これならばすぐに見つけ出せそうだと、さっそく書物を開いた矢先。

 

「フィオレー! どこー?」

「バカ、ここは私語禁止だ。でかい声出すなって」

 

 階段を駆け上る音がして、資料館内に大きな声が響き渡る。

 そう広くもないのだからすぐに見つかるだろうと高をくくって、書物を次々と手にしていると。

 

「フィオレ見っけ! あのさ──って、何やってるの?」

「目的の文献探しです」

 

 カイルがそう尋ねたのも、無理はない。

 フィオレは書物を手に取ったかと思うと、パラパラパラ、と親指のみを使って高速で頁をめくり、再び本棚へ戻すという作業を繰り返している。

 片時も本から視線を外していないとはいえ、これでは満足に内容など確認できるはずもない。

 機械的な作業を前にしてカイルが戸惑っている間に、他一同も二人の元へ集ってくる。

 未だかつて見たことがない読書スタイルにロニもリアラも二の句が告げられない中、ジューダスは呆れたような吐息を零した。

 

「……お前、それは文献が痛むからあれほどやめろと言ったのに」

「見逃してください、ジューダス。時間節約のためです」

 

 その間にも、本棚の最上段が全て読破される。二段目の真ん中まで終わった頃、ジューダスは小さくカイルをつついた。

 

「今のことを言うんじゃないのか」

「あ、そうだ。あのね、フィオレ」

「はい」

 

 返事こそあるが、繰り返される行動は一欠片ほどの変化もない。

 戸惑って口を閉ざそうとするカイルだったが、ジューダスは無視をするよう告げた。

 

「返事があるということは聞こえてはいるんだ。気遣っていたら何も言えないぞ」

「そ、そうだね。さっき職員のおじさんが教えてくれたんだけど、ウッドロウ王って誰とでも会ってくれるらしいんだ」

「ふむ」

 

 返事なのか書物の内容に対してか、よくわからない答えと共に再び書架へ手が伸びる。

 よどみないその仕草にめげることなく、カイルは言葉を続けた。

 

「でも、今日は遅いから。オレ達これから母さん推薦の宿屋に行って明日、陛下に謁見しようと思う。だから……」

「ああ、もうそんな時間なんですね。では皆、お元気で」

 

 二段目、最後の書物を棚に戻して大きく伸びをする。

 再三、リアラによる「これからどうするの」という質問に、フィオレは首を鳴らして答えた。

 

「閉館ギリギリまで粘ることにします。元気でね、リアラ。あなたの英雄が見つかることをお祈りしています。あなた方の旅路に幸がありますように」

 

 何か腑に落ちない顔をして立ち去る彼らに手を振って、見送る。

 彼らの姿がなくなったところで、フィオレは三段目の書物を手に取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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