swordian saga second   作:佐谷莢

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 ハイデルベルク市街~王城。フィオレは再びパーティ入りし……てません。
 フィオレはここで、ようやく装備ページの武器欄が埋まりました。
 あのとき手に入れた鉱石が、よもやこんな形で武器と化すとは。
 当時を振り返ると、これも運命? とふざけたことを考える自分がいたりいなかったり、ラジバ(ry


第二十三戦——魔法少女も流行り廃り~もちろんそんな年じゃない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「閉門ですよー」

 

 この声がかかるまで、どうにかこうにか、本棚半分を読み切って英雄門を後にする。

 リアラには到底我慢できそうにもない場末の宿で一晩過ごし、開門直後からフィオレは英雄門最上階の書庫に入り浸っていた。

 この頃、速読で大まかな内容を確かめていた幾冊か、目当ての文献を確保していた。

 それでも一応全てに目を通しておこうと読書を続け、現在に至る。

 数少ない天地戦争に関する記述は大体が創作や推察に類するものだったが、ほんの僅か当時の記録を遺した古い資料を見つけることに成功した。

 それはソーディアンが考案される以前にして、天上軍地上軍が血を血で洗う戦いを頻発させていた最中の話。

 ジルクリスト邸にあったものも合わせて読み込んだ今、未曾有の大事件もバルバトス・ゲーティアなる男の正体も掴むことはできた。

 彼が何をし、その最期がどんなものだったのか。従って英雄を敵視する理由も、判明した。ただしこれが生かせるかどうかは、今後の展開にかかってくるだろう。

 そして、あの男が本当に、かの人物なのかもわからない、と。

 何となく無駄な時間を食ったような気がしないでもないが、ともあれ目的は達成されたと正午、英雄門を後にする。

 その足でフィオレが向かったのは、件の武器防具屋──ソウル&ソードだ。

 カイル達がいない以上、これからは自分一人で身を守らなければならない。となれば武器は必須であり、ウィンターズ氏に発注した武器が出来上がるまで、フィオレはこのハイデルベルグから出る気はなかった。

 従って、どの程度の期間を要するかと尋ねようとしたのだが──

 

「おお! いーところに来てくれた!」

 

 件の店舗に足を踏み入れた途端、そんな声がかかってそちらを見やる。

 そんな歓喜の声を上げたのは、クマの浮いた目元でありながらその瞳を爛々と輝かせたウィンターズ氏本人だった。

 店の奥からふらふら姿を現した彼は、どういうことか服装が昨日のままだ。千鳥足にも程がある足取りで近寄ってくる辺り、睡眠を取っていないのではないかと思われる。

 

「こんにちは。昨日の話の続きをしに──」

「ちょっとこれを持ってみてくれ」

 

 大真面目な顔で突きつけられたのは、長い柄が緩やかな弧を描く一風変わった箒である。

 これがどうかしたのかと尋ねかけ、受け取ったフィオレは言葉をなくした。

 

「!?」

「注文が紫電という刀の性能だったんで、見た目に少し遊びを加えてみた。テーマは意外性だ」

 

 おそるおそる、石突の部分を握って抜いてみる。継ぎ目など一切見受けられなかった柄の一部に切れ込みが生まれて、するりと動く。

 箒の柄の中から現れたのは、しっとりとした刃の煌めきだった。

 幻想的な淡い紫、濡れているかのような仕上がり。

 箒の柄が曲がっているのも、当たり前だ。刀の刀身は緩やかな弧を描いているから。

 

「いやー、久々に思った以上のものが作れた。ベルセリウムの賜物だ。俺もあんたも運がいい!」

 

 ──どうも、製作にベルセリウムが使われているらしく返品は利かないらしい。

 機嫌良く鼻歌を奏でる店主を前に、フィオレは刀の検分を始めていた。

 刀の全長は通常の刀と同じ程度、柄が少し長めだがこれくらいなら問題はない。刃の仕上がりは感嘆ものだ。流石はウィンターズ氏と称賛するべきか。

 よくよく見てみると、箒の部位も竹や棕櫚の毛ではなく金属製の細い糸だ。針金にしては柔軟性に優れ、しゃらしゃらと涼しげな音を奏でる。

 こんなものでぶん殴られた日には、顔にひっかき傷どころか失明しかねない。

 

「あのー、これの材質は……」

「気にするな。玉鋼に少しベルセリウムを混ぜただけだ。それと、その仕込杖の銘なんだが」

 

 よくよく見れば、刀身に製作者の名は彫られておらず、また銘のようなものもない。ウィンターズ氏いわく、銘はまだ決まっていないとのこと。

 丁度いいところ、とはこの事を指すらしい。

 

「これだけいいものを作っちまうと、なかなかいい銘が決められなくてな。一緒に考えてくれ。使い手となるあんたなら、きっとしっくりくるものを考えつくはずだ」

「……では、紫電から一文字頂きまして閃電というのは」

「あー、それもいいな。俺は隻眼の歌姫から隻影、泡沫の英雄から朧月、なんてのも考えたんだが」

 

 候補ができているならさっさとつけてしまえばいいのに。どうも決めかねてそんなことを言い出したらしい。

 個人的に黒歴史にもあたる隻眼の歌姫を彷彿とさせるのは嫌だし、後者はなかなか風流だがそんな儚く散った史実にちなんでは、すこぶる縁起が悪い。

 頭ごなしに否定するのも何かと、フィオレは新案を提出した。

 

「……なら、紫電から一文字、発祥の地にちなんで紫水。いかがでしょう」

 

 紫電の紫、アクアヴェイルから想起される豊潤な水。この特徴的な淡紫を無視してほしくなかったフィオレの、ささやかな望みが込められている。

 幸いなことに、ウィンターズ氏の反応はまずまずだった。

 

「紫水……か。うん、明鏡止水を彷彿とさせるいい銘だ。それでいこう」

 

 これから銘を彫ると言い出したウィンターズ氏に仕込杖──紫水を渡そうとして。

 店内に激震が走った。

 

「な、なんだ!?」

 

 渡しかけた紫水を握りしめて店外へ飛び出す。

 見やれば街の中も今しがたの震動によって混乱しており、外へ避難した住民達の目は一様に城へと向けられていた。

 彼らの瞳に映っているものとは。

 

「……飛行竜?」

「うわっ、なんだあのドラゴンは? 尖塔に張り付いてやがる……うおっ」

 

 ハイデルベルグ城の真横にある、尖塔に舞い降りたドラゴンが城下に響けと言わんばかりの咆哮を上げ、皆一様に耳を塞がざるをえなくなる。

 鬨の声ともとれるそれは振動を発生させ、城の窓という窓が砕け散った。

 それ以降、飛行竜自体が何をするでもないのだが──

 

『シルフィスティア、視界を貸してください!』

『了解!』

 

 上空を漂う視界が、瓦礫の散乱する尖塔の根元付近へと移動する。

 飛行竜の出現は尖塔破壊に留まることなく、その内部から様々な魔物がなだれ込むように城への侵入を進めていた。

 骸骨剣士あり、中身のない動く鎧あり、空中浮遊する巨大鉱石あり……人間らしい生き物と言えば、突然の襲撃に戸惑いながら対応する城の兵士達ばかり。

 と、思いきや。ひとつふたつと、おそらく人間と思われる影を発見する。

 ひとつは猫科の肉食獣を連れた剣士風。アクアヴェイル産、片刃にして反りのある剣を持ち、軽鎧に猫科の肉食獣を模したと思われる面を被っている。

 そしてもう一人の姿には、残念ながら覚えがあった。

 妙に禍々しく見える巨大戦斧、筋骨隆々の体躯にうねる寒色の髪──バルバトス・ゲーティア。

 飛行竜がどこに保管されていたのか、あるいは引っ張り出されてきたのか。何を思ってハイデルベルグ城を襲ったのか。

 直前に何があったのかもわからないフィオレには、ただこれだけのことしかわからなかった。

 ウッドロウが、狙われている。

 フィリアの時は単独での暗殺だったというのに、今回これだけの手勢を引き連れて戦争さながらに現れたのは何の意味が。

 必ずや何らかの意図があることは明白だが、それを突き詰めて考えるのはやめた。

 シルフィスティアの視界に映る彼らは、城の兵士をちぎっては投げちぎっては投げ、と戦いとすら呼べない交戦を経てどこかを目指している。

 フィリアと違い、己の剣技と弓技を持つウッドロウがそうそう殺されることはなかろうが、相手はあのバルバトス。あれから十八年の年月が経過しているし、当然現役ではないだろう彼の身にはおそらく余る。

 身辺警護の兵士達がいるに決まっているだろうが、この惨状では生きていられるかどうか。

 

『ありがとう!』

「おい、あんた!」

 

 シルフィスティアに礼を言い、フィオレは大通りへ飛び出した。試し斬りもしていない紫水を抱えて、城門まで一気に駆け抜ける。

 飛行竜襲撃を目の当たりにして避難したのか、大通りに人の姿はない。

 城門のすぐ近くにある警邏隊の詰め所も、門を護る兵士も。尖塔へ駆けつけているのか、とにかく人の気配はなかった。

 反射的に不用心だと思って、まさかこうすることで王城の護りを手薄にすることを考えたのではないかと、勘繰りつつも足を進める。

 過去一度だけ侵入し、仲間達と共に進撃したハイデルベルグ城は改築されているのか、あまり覚えがなかった。

 それでも謁見の間の位置は変わらないだろうと、一直線に廊下を駆けて。

 進んだ先にて、フィオレは一日ぶりの再会を果たした。

 

「フィオレ!?」

「新手……か」

 

 荘厳な大広間、防衛に従事したであろう兵士達のほとんどが、血まみれになって倒れている。

 傷つき、端へ避難している彼らを尻目に、カイルら四人は猫科の肉食獣を模した面を被る剣士と対峙していた。

 体格からして男だと思われる剣士の傍に寄り添うは白い毛皮の猫科肉食獣……特徴からして白豹か何かの魔物と思われる。

 剣士はちら、とフィオレに視線をやるも、一見武器らしい武器を持っていないためか、すぐカイルらへ視線を戻した。

 反対に白豹か何からしい四足動物はフィオレに対して警戒し続けている。緑に光彩の入った瞳は、どこまでも険しい。

 

「どうしてフィオレがここに……」

「連れの男の姿がありませんね。ウッドロウ……王のところですか」

 

 カイルの疑問はとりあえず無視、獅噛らしい面の男に向かってそれを尋ねる。

 何の意図があってか、あるいは性格の問題か。剣士はすんなり口を開いた。

 

「そうだと答えれば、汝は何とする」

「かの王の元へ急ぐだけです。肯定するならばより性急に」

 

 よもやカイル達には目もくれず、まるで主を護らんとする白豹の唸りに一層敵意が増加する。

 獣の分際で見上げた根性だが、それが敵となればすることなどひとつだけ。

 試し斬りどころか一度しか抜かれていない、紫水の初陣だった。

 

「フィオレ、と呼ばれていたな。泡沫の英雄の名か……我が名はサブノック、己が信念に命を賭する騎士なり!」

「騎士を名乗るならまず主を護りやがれ……じゃない、何でもないです。そうですか、それでは」

 

 バルバトスが謁見の間に向かったのだとしたら、こんなやり取りをしている間にもウッドロウが危険だ。

 会話を放棄して速やかに足を動かす。

 それを見て、だろう。それまで尾を逆立てて威嚇を続けていた白豹が、その体をたわめるようにしたかと思うと、牙をむき出して跳びかかってきた。

 

「オセ!?」

「躾がなってませんね」

 

 紫水を一閃、突進自体は軽く体を半身に構え回避する。

 オセと呼ばれた白豹がしなやかに床へ着地したその瞬間。ほんの僅かな衝撃、重力の掛かり方によって。白豹の首はごろんと床を転がった。

 

「な!?」

「では」

 

 首を失い、四肢を投げ出して痙攣を繰り返す白豹の骸に注目が集まっているのをいいことに、さくさく大広間を通過しようとする。

 が、流石にそこまで腑抜けではなかったらしい。

 フィオレが背を向けたその瞬間、サブノックは音高く抜刀したかと思うと、気合も高らかに斬りかかってきたのだ。

 

「心眼・無の太刀……!」

「ペットの仇討ですか?」

 

 とりあえず、不意をつくなら静かにした方がいいと思う。

 おそらく何かの剣技を行使したと思われる男の刀をいなして、距離を取る。

 

「我が剣技を軽々いなすとは、相当な使い手と見た」

「ああそうですか、そこをどきなさい。私の要求はそれだけです」

「フィオレ、急がないと! こいつら、ウッドロウさんを狙ってるんだ!」

 

 ──陛下、ではなくてさん付けときたか。事の成り行きを見守る兵士たちに咎めるような風情がない辺り、謁見で何かあったのか。

 それどころではないからかもしれないが、とにかく早目に駆け付けた方がよさそうだ。

 カイルに小さく頷いて、抜き身の紫水を鞘に収める。

 

「何のつもり……」

「こんな雑魚に皆で足止めされるのは業腹です。先に行きますね」

 

 くるりと紫水を回して、穂先──ブラシの先端を相手に向ける。着色され、金属とは思えないしなり具合から単なる箒型の仕込杖だと思ったのだろう。

 サブノックと名乗る自称騎士は憤慨を隠さない。

 

「おのれ愚弄するか、抜け! 我が信念と……」

「またお会いしましょう」

 

 すでにフィオレはサブノックを完全に無視している。激昂し、鋭く斬り込んでくるサブノックの勢いを利用して、フィオレはそのまま顔面を突いた。

 面をつけているためか、箒ではたかれた程度、気にもかけないつもりらしく防御らしい防御はない。

 そして彼は、地獄を見る。

 

「っ、ぎゃあっ!」

 

 針金の束とはいえ、勢いがあればあるほど剣山に顔から突っ込んだようなものだ。

 獅噛の面から露出した顔面を抑えて悶絶するサブノックの横を悠々すり抜けて大広間を突破する。

 全力疾走でもないのに彼らがついてこないということは、サブノックとやらがすぐ正気を取り戻したということだろう。

 今回に限っては幸いだったかもしれない。この先には、おそらくあのバルバトスがいるのだから。

 謁見の間へ行かせまいと立ち塞がったのだろう。死屍累々と横たわる兵士達の屍を踏み越えて回廊を駆け抜ける。

 かすかな記憶を手繰り寄せ、辿りついた謁見の間。駆けあがった階段の先に見えたのは、玉座ではなかった。

 

「……まったく、失望させてくれる」

 

 階段を昇った先、数段高い位置にあるはずの玉座は、巨漢の背中によって隠されてしまっている。

 侵入者にして恐れ多くも王を狙う刺客に対し、数十名の兵が集ったのだろう。

 謁見の間は、そんな彼らが成す術もなく蹴散らされ、木端のように砕かれた跡がある。

 むせかえるような血臭の中、ただ一人立つ巨漢は、戦斧を振るって血糊を払った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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