swordian saga second   作:佐谷莢

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 引き続きホープタウン。
 フランブレイブとブレイブの救出劇+ジューダスと寸劇。
 お話に緩急つけたかったのですが、結局何がしたかったのかよくわからん回になっていますね。


第二十六戦——危うしフランブレイブ~いちゃこらすんな、お前ら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高台で見た通り、小さいが砂漠の内陸部であることを忘れそうなオアシスの泉の淵に、先程の子供達が手に手に釣り竿を持って腰かけている。

 

「ここがホープタウンの生命線、オアシスだ。ここを荒らすと村の連中が怖……」

 

 ロニの話のほとんどを聞き流し、子供たちが釣りに夢中になっている泉を覗きこむ。

 見やればその規模は湖と呼べるほどで、透明度は高いが底が見えない。

 アクアリムスの探査によれば、泉のどこかにフランブレイブの依代が放り込まれているかもしれないのだ。

 早く助けなければ、発狂してしまう危険性が……

 

「あ、ロニにジューダスだ」

「駄目だぞ、二人とも余所者なんだから。ここで魚釣っちゃ……」

 

 子供達が二人に気を取られている間に、アクアリムスに頼んで水中の探査を行う。

 シルフィスティアのように何かを探すことは長けていないものの、水中の不純物を感知することだけは一瞬で行えたらしい。

 

『フランブレイブの気配がします。詳細な場所は……』

「あっ、何かかかった!」

 

 一人の少年が手応えを告げ、慎重に引き上げる。

 ふと引き上げられたものに目を向けて、アクアリムスが一言呟き、フィオレは唖然としてしまった。

 

『あれです。あの依代に、フランブレイブが』

 

 少年が引き揚げたもの。それは、赤銅色のチェーンブレスレットで炎を模しているハイランドルビーに似た輝石が中央に据えられている。

 

『……私が回収しなければいけませんか? 契約が途切れているわけでもないし、これで発狂の危険もなくなりましたし』

 

 契約者だからといって全ての守護者の依代を手にしなければならない理由はないだろう。

 それでもとりあえず一応は、フランブレイブの安否を確認しようとして。

 

「なにこれ?」

「さあ……」

「宝石みたいなのがついてる! ねえ、高く売れるかな?」

 

 針に引っ掛かるブレスレットを手に取り、子供達は手に入れた依代の扱いを検討している。

 このままフランブレイブが人の経済に埋もれていくのもありかもしれないなあ、と思った矢先。

 

『……冗談ではない……』

 

 地の底から響くような念話が聞こえたかと思うと、少年の一人が持つブレスレットが突然、発火した。

 

「わあっ!?」

 

 もちろんこれで驚かない子供はいない。ブレスレットは勢いよく泉へ投下される。

 多分売り飛ばされることに対して怒りを覚えたフランブレイブがつい感情を発露させてしまったのだろうが……結果は見えているというのにそれはどうかと思う。あるいは発狂寸前で、抑えがきかなかったのか。

 更にブレスレットを手にしていた帽子の少年は、投げ捨てた弾みで足を滑らせたのだろう。身投げするように泉へ入水していた。

 

「ブレイブ!」

「あいつ、泳げないのに──」

 

 その頃、すでにフィオレは外套を脱ぎ棄てて泉にその身を投げている。どれだけ深いのか目算はついていたため、慎重にはならない。

 ゆらゆら揺れながら沈むブレスレットを追って水中で捕まえ、水を飲んで早々意識を失ったブレイブとかいう少年をついでに回収、浮上する。

 患部の激痛をこらえて、少年を陸へ押し出した。張り付く前髪をわざと放置して、そのまま帽子を被る。

 ぴくりとも動かないブレイブ少年の体を後ろから抱え込み、みぞおちに拳を押し込んだ。

 

「……ゲホ! ゴホッ!」

 

 幸い飲んだ水の量はそう多くなく、ブレイブと呼ばれた少年はすぐに呼吸を再開した。

 しかし、これで安心してはいけない。

 

「ジューダス、ホープタウンにお医者さんは?」

「いない。ここでは民間療法が主流だ」

「呼吸が戻ったなら大丈夫じゃねえか?」

 

 ロニは楽観的だが、肺に水が入ると肺炎を引き起こしやすい。まだ意識も戻っていないから、安心するには早すぎる。

 仰向けにして気道を確保し、呼吸が安定したところで事の成り行きを見守る少年達を見やった。

 

「この子のお家は御存じですか」

「う、うん」

「でも、ブレイブんちの父ちゃんも母ちゃんも出稼ぎに行ってるから……」

 

 家に連れて行っても休ませるしかできない、か。

 とりあえず濡れた服を取りかえて風邪を引かせないよう、運搬をロニに任せて移動を始める。そこへ。

 

「ブレイブが泉に落ちただって!?」

 

 彼が水に落ちるや否や、人を呼んでこようと機転を利かせた子供がいたのだろう。子供たちの監督はナナリーの役目なのか、あるいは頼まれていてのことか。

 再び現れた彼女に、フィオレはロニを伴って歩み寄った。

 

「救助はしました。呼吸は戻りましたので大事はありませんが、意識が戻りません。風邪を引かせないよう安静にさせたいのですが」

「そ、そうかい、わかった! こっちだよ」

 

 ナナリーの案内で迅速にブレイブ宅ではなく長屋に連れて行かれる。

 出稼ぎに出ている親の子供達なのか、幼い少年少女達が何事かと見守る中、ナナリーは手近な中年女性を捕まえた。

 

「おばちゃん、タオルとブレイブの服出して! 溺れたらしくて……」

 

 この気候では風邪を引く方が不思議かもしれないが、びしょ濡れの状態で安静などできるはずもない。

 そして、風邪と無縁の気候だけにロクな抗体もないだろう。そこから肺炎など引き起こしたら、死亡率が一気に跳ね上がる。

 なんやかやと手を出す最中、長屋に入ってきた中年女性が顔をしかめてフィオレを見た。

 

「ちょいと、そこの帽子の人。びしょ濡れで上がらないで頂戴。掃除が大変じゃないのさ」

「な!」

「ひどいよ、カミーユおばちゃん! このねーちゃんはブレイブを助けてくれたのに!」

 

 そういえば、アクアリムスの助けなしに泉に飛び込んだのを思い出す。雫は今もぽたぽた垂れて、これは確かに掃除が大変だ。

 

「ああ、それは失礼しました。ではナナリー、その子をお願いします。ロニもジューダスも手伝ってあげてください」

 

 きびすを返して、さっさと長屋から出ていく。

 道すがら髪やら服やらの水気を払い、ナナリー宅に足を踏み入れる。

 そこかしこに置かれた旅支度に水気が及ばないよう注意しながら、フィオレはてきぱきと服を替えた。

 ──備えさえあれば憂いなし。こんな時のために、従者時代の被服を残しておいてよかった。

 折りを見て繕い、どこからどう見ても違和感はない被服に袖を通して濡れた服を張られていた洗濯紐に吊るす。

 それから誰もやってこないことを確かめて、フィオレはポケットに入っていたものを取りだした。

 

『……フランブレイブ、大丈夫ですか?』

『大丈夫なものか。気が狂うかと思った』

 

 ブレスレットに取りつけられた輝石が輝き、赤と橙が混ざったような光が浮き上がる。

 状況が状況につき実体化はしないでくれと頼めば、フランブレイブはいらいらしたように答えた。

 

『いいだろう。こちらもそこまで力を持て余しているわけではない』

『フランブレイブも、聖域は無事なんですよね。戻りますか? お望みならまた聖域へ……』

『……契約者よ。そなた、何故アーステッパーが同行を申し入れたかわからぬのか?』

 

 確かに、アーステッパーも聖域が無事であったにもかかわらず、依代を手にするよう望んだ。あれには何か、理由があったのだろうか。

 何とはなしに想像はつくものの、フィオレはわからないフリを決め込んだ。

 

『ええ。想像もつきません』

『……そなたが二度と間違いを犯さぬよう、我らが総出で監視をすることになったのだ! わかったら──』

 

 プツッ。

 

 フランブレイブの怒声が脳裏にて響き渡るよりも前に、身につけていた指環を引き抜く。

 残念なことに完全に声が聞こえなくなったわけではないが、それでもかなり声は遠ざかった。

 フランブレイブの依代を床に置き、アーステッパーの依代も外して同じ場所へ置く。アクアリムスの依代、そしてキャスケットに取りつけていたシルフィスティアの依代も外した。

 装飾品の形をした依代を適当な巾着に放り込み、荷物の奥底に閉じ込めて。フィオレは小さく息をついた。

 ──発狂寸前までに追い詰められたフランブレイブの機嫌が悪かったのはわかっている。

 人が人と争う原因でもある、ほんの小さな言葉のアヤだったのかもしれない。それでも、だとしても。

 許しがたい彼の言葉に、渦巻く怒りを抑え込もうとして。

 

「──フィオレ、僕だ」

 

 いつの間にか、天幕の外に人が来ていたことを知らされ、ハッと息を呑む。

 それに気付いてだろう、不思議そうにしながらもジューダスは言葉を続けた。

 

「ブレイブ──あの少年のことはカタがついた。入ってもいいか?」

「どうぞ」

 

 深呼吸をして、気持ちを切り替える。てっきりロニやナナリーも一緒かと思いきや、彼は一人だった。

 そういえば、とどうでもいいことに気付く。口に出したところでどうにもならないと、ジューダスに話を促した。

 

「目を覚ましたんですか?」

「ああ。今はナナリーとロニが介抱している。あのまま残っていたら子守を押し付けられるのが関の山だからな」

 

 つまり逃げてきたのか。

 今も昔も「子供は苦手だ」と言っていた彼らしく、あっけらかんとそれを認めている。

 変なところで素直になったことが妙におかしくて、小さく肩を震わせていると。

 

「それで──怪我の具合はどうなんだ。包帯を替えたばかりなのに、あんな無茶をして」

「命に別条はありません」

「見せてみろ。包帯も取り替えたほうが「大丈夫ですって。カホゴなのはロニだけでいいですよ」

 

 水気を拭うだけ拭った患部を軽くさする。死ぬほど痛かったが、それで死ぬほど柔な体ではない。

 そういえば、とフィオレはおもむろに自分の荷を手に取った。羊皮紙に筆記用具を取り出し、直接床に座り込む。

 

「なんだ?」

「アイグレッテへ行くついでに、カイル達を見かけたら声をかけてもらおうかと。でも、特徴だけじゃなんですから」

 

 記憶の中の二人をそのまま羊皮紙に映していく。

 羽ペンを滑らせるようにして描いた二人の似せ姿に、ジューダスは小さく唸った。

 一応二人の表情は素──無表情ではなく、彼らを知らない他人が見てもわかりやすいようよく浮かべる表情を描いている。

 

「いかがですか? それなりに似ているでしょう」

『それなりも何も……謙遜も過ぎると厭味だよ』

 

 シャルティエの念話なら、指環なしでも聞こえる。そのことを思い出して、フィオレは指環の感触を再確認するのはやめた。

 二枚の羊皮紙のインクが乾いたのを確かめて、くるくると丸める。

 

「上手いこと見つけてくださるのを祈ります。特にリアラ。彼女がいないと、多分にっちもさっちもいかないでしょうし……」

「ところで、謁見の間でカイルが何か怒っていたようだが……あれは何だったんだ」

 

 そういえばそんなこともあったかなと、朧な記憶を掘り起こす。

 幸いか不運か、あのやり取り自体はきちんと記憶に残っていた。

 

「……要らないことを言って、カイルに嫌われてしまったみたいです」

「要らないこと?」

「どうしてかばったのか、その理由と。バルバトスを仕留められなかったことの謝罪です」

 

 彼とてやり取り自体は聞いていたはずだ。

 フィオレにとって良い思い出とは言えない記憶をそんな概要で伝えると、その心境を悟ったのだろう。ジューダスは鼻で笑った。

 

「実力不足でかばわれ、逆切れか。ガキにも程がある」

「ジューダス?」

「あのトリ頭のことだ。三歩も歩けば忘れるだろう。くだらんことに気を取られて、ウジウジ悩むなよ」

 

 明確な悪意のようなものはない。むしろ、カイルを知る人間ならそのくらいは言うだろう、だが……その言葉に奇妙な自重が孕んでいるのは気のせいか。

 本人は自覚していないらしく、黙して己を見やるフィオレを不思議そうに見返すだけだ。

 ただ、これだけは確実だろう。

 

「……慰めの言葉として受け取っておきます。なんだか奇妙な感じですが」

「なに?」

「口を開けば毒舌しか吐かなかったあなたの言葉とは思えません。正直凄まじい違和感を覚えています」

 

 フィオレとしては正直な思いの吐露だが、彼には遠回しな皮肉に聞こえたのだろう。瞬く間に機嫌を急降下させた彼は、仮面の上からでもわかるブスくれた表情を浮かべて黙りこんだ。

 最も、勘に障っただけで態度を急変させるこの悪癖を改善するのは、まだ先のことだろうが。

 床に座り込んだままムスッ、と顔をしかめ、座り込んでいる彼の前に立ちあがる。

 傷に障らないよう伸びをすると、彼は唐突に口を開いた。

 

「その格好……」

「予備の服がないので、急遽引っ張り出しました。よくよく見てみると、あなたのそれと酷似していますね」

 

 闇色に対して漆黒、細部こそ異なるが、パッと見た感じは似たような印象を覚えるだろう。

 それを聞いてか、フィオレの格好をじっくりと見てか。彼はそのままの体勢でとんでもない要求を口にした。

 

「……脱げ」

『坊ちゃん、なんて大胆な!』

「お約束のボケはさておいてですね。一応理由を聞いておきましょうか」

「あいつらになんてからかわれるか、わかったもんじゃない」

 

 普段珍妙な仮面を被っていることで散々からかわれれているのだから、今更気にしなくてもいいだろうに。やはりマリアンのことを考えると、フィオレとそういう仲であると勘繰られるのはうしろめたいのか。

 などと考えていたところで、外から騒がしい二人組の声が聞こえてくる。

 フィオレとほぼ同時にロニとナナリーの帰宅を悟ったジューダスは、強硬手段に出た。

 

「ちょっと、何をするんです」

「うるさい、大人しくしてろ」

 

 自分の背に手をやり、シャルティエを覆っていたマントを外してそれをフィオレに投げつける。

 視界を塞がれたフィオレがそれを難なく取り払うも、彼は無理やりそれを羽織らせにかかった。

 

「すぐに済む。じっとしてるんだ」

「嫌ですって。やめてください、暑苦しい」

 

 マントで包もうとしてくるジューダス、ひたすら拒否するフィオレ。

 ふと、人んちで何やっているんだろうと我に返ったフィオレが、まるで闘牛士のようにマントを構えるジューダスにそれまで洗濯紐に下がっていた衣服を投げつけた。

 

「!?」

 

 その間──ジューダスの視界が塞がっている間に手持ちの薄い外套を羽織る。

 これで文句はなかろうと、ジューダスの仮面に引っ掛かる濡れた衣服を回収して、玄関に呼びかけた。

 

「お騒がせしました。もう大丈夫ですよ」

 

 呼びかけに応じて、おずおずと二人が姿を見せる。

 会話だけ聞けば十分痴話喧嘩に聞こえたのだろう。二人とも何だか顔が赤いし、余所余所しい。

 ロニあたりは面白がってからかってくるかと思いきや、触れてこないところを見ると実は奥手なのかもしれない。

 

「あの少年はもう大丈夫ですか?」

「ああ。時々思い出したように水を吐くからまだ安静だけど、意識も戻ったし。もう大丈夫だと思う……ええっと。お、お邪魔だったかい?」

「とんでもない」

 

 ジューダスの顔は見ない方向で、フィオレは先程丸めた羊皮紙をナナリーに見せた。

 その二人を見かけたら、出来れば接触を図ってほしい旨を伝える。すると彼女は、ロニと一緒になってまじまじと羊皮紙を見つめて言った。

 

「……参考までに、ロニかジューダスの似顔絵も描いてみてほしいんだけど」

「わかりました」

 

 似顔絵がどの程度似ているのか、計りかねてだろう。そんなナナリーのリクエストに、フィオレは二つ返事で応じた。

 カイル達のように詳細は書き込まず、しゃっしゃっと描いた走り書きをナナリーに手渡す。彼女はそれを見るなり、プッと吹き出した。

 

「うん、わかった。あんたがすごく、絵が上手いんだってことはわかった」

「どれどれ?」

 

 くすくすと、軽い笑みを零しながら頷くナナリーの手元をロニが覗きこむ。しかし彼女は素早く羊皮紙を折り畳んでしまった。

 

「これ、もらっちゃってもいいかい?」

「かまいませんよ」

 

 ロニかジューダス、というリクエストを受けて、フィオレは二人が言い合いをしている図を描いている。

 面白がって懐に仕舞ったのを見るに、彼女も幾度かこの現場に立ち会ったことがあると予想させた。

 

「積極的に捜してくれとは言いません。見かけたら私達のことを話して、できれば連れてきてほしいんです」

「ああ、わかったよ。じゃあその間にフィオレは家の留守番、ロニとジューダスはあの子達の世話、お願いね!」

 

 微妙な顔して返事もない二人はさておき、ナナリーの出立に際して荷作りの手伝いをする。

 その最中、それとなくファンダリアのことを尋ねるもそういった雪国があると知っているだけでそれ以上のことを彼女は知らなかった。

 この時代においては、すでにウッドロウも過去の人なのかもしれない。

 

「ナナリーねぇちゃん、行ってらっしゃーい!」

「おみやげ買ってきてねー!」

 

 夕暮れ時の過ごしやすい、僅かな時間帯に出立したナナリーを子供達と見送る。

 ジューダス達は現在、出稼ぎで親と離れて暮らしている子供達同様長屋で寝泊まりし、炊き出しで日々の糧を得ているのだという。

 ご相伴に預からないかという誘いを丁重に断って、フィオレはその足でオアシスに向かった。

 日が沈み切り、暗闇に包まれるオアシスの泉へ、人がいないことを確かめて身を沈める。

 

「命よ、健やかであれ。心安らかな癒しを、あるべき姿を」

 ♪ Luo Rey Qlor Luo Ze Rey Va Ze Rey……

 

 久々にきちんと体を洗い、ついでに負傷をなかったことにした。皮膚が突っ張るような感覚も、痛覚も、ありとあらゆる違和感が消えさる。

 冷え込む気温、冷たい清水。小さく息をついてフィオレは半日振りにチャネリング補助の指環を身に付けた。

 それまで遠かった守護者の声が、はっきりと脳裏に響き渡る。

 

『フィオレ、いきなりどうしたの? 依代を全部外して接触拒否なんて──』

『シルフィスティアの言う通りだ。一体何を考えている!』

 

 風精の戸惑う声、炎精の怒声。

 あのまま会話を続けていたらまず間違いなく我を忘れて感情的になっていただろうが、すでにあの怒りは納めてある。今なんと罵られようと、冷静に受け流せる自信があった。

 フィオレは彼らの願いを叶えるべく行動し、そのために力を貸してもらう。代わりに彼らは、フィオレの望みを叶える。

 彼らとの関係は、それ以上でも以下でもない。

 それを改めて再確認して、フィオレは事務的に謝った。

 

『こちらの都合でわずらわせてごめんなさい』

『それはいいんだけど、フランと話してて何かあったんでしょ? 寝てたからよくわかんないけど……』

『大したことではありませんから』

 

 追及に余念がないシルフィスティアを適当にいなし、フランブレイブのお説教には耳を貸さずに清めた髪から水気を払う。

 一体何日寝ていたのやら、面白いくらい剥がれていく垢を落として泉から上がろうとして。

 

 ──ガサッ

 

「!」

 

 急な物音を耳が拾い、反射的に周囲を伺う。

 紫水を引き寄せ、十分警戒しながらも素早く身支度を整えた。

 湿った髪をまとめてキャスケットを目深にかぶり、まともに移動できるようになって。

 相手が魔物以外である可能性を思いついたフィオレは、声をかけることにした。

 

「──人語を解するなら答えなさい。どちら様ですか?」

 

 返事は、ない。

 大急ぎで服をまとったにつき、体が冷えていたフィオレはさっさとカタをつけることにした。

 

「では、人語を解さぬ魔物か何かであると解釈し、排除します。ホープタウンが襲われたりなんかしたら目にも当てられない──」

「ま、待って!」

 

 フィオレが紫水を握りしめたところで、耐えかねたように一組の男女が姿を現した。

 旅装束でもなく、軽装であるということはホープタウンの住民なのか。

 手を繋いで現れたところを見ると、ロニが憧れる何たらの逢瀬、という奴らしい。

 

「……人騒がせな。では、ごゆっくり」

 

 いくら小規模な村とはいえ、いや小規模な村だからこそ年頃の男女がいればそういうことにもなるだろう。

 そういえば昼、初めてこの村へやってきたロニがこりもせずナナリーの女友達にちょっかいかけた、というエピソードを思い出しつつ。

 フィオレは今度こそ帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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