守護者の眷属に襲われるの、これで通算三回目だけどね(一度目シルフィスティア、今回のはフランブレイブとアーステッパーのダブルで)
ゲーム中のホープタウンにオアシスらしいところはありませんが、あっても不思議じゃないよね(適当)
翌朝。
誰もいない共用井戸で顔を洗っていたフィオレは、ふと人の気配に気づいて顔に手拭いを押し付けたまま、そちらを見やった。
「あまり意味がないぞ。お前の場合、目を隠さないと」
「……それもそうですね」
同じく、人のいない早朝を狙ってやってきたジューダスが顔を洗っている間に、キャスケットを目深に被る。
手早く事を済ませたジューダスが言うに、ロニはまだ眠っているらしい。
「ナナリーの家にある食材は痛む前に片づけてほしいらしいので、朝餉は二人と御一緒しようかと思いましたが。無理そうですね」
「何なら僕が、相伴に預かってもいいが」
「ロニだけ除け者は気分が悪いでしょう。それより、少し稽古をつけてくださいますか?」
寝たきり生活ですっかり固まった筋肉は、少々動いた程度でどうにかなるものではない。
常に武装を解かない彼の出で立ちを見て何となく誘ってみると、珍しく彼は二つ返事で了承した。
「いいだろう。ガキのままごとにもうんざりしていたところだ」
「……お手柔らかにお願いしますね」
寸止めを常としているせいか、実戦では双剣を扱うジューダスだが、フィオレとの稽古では片手剣としてしか使おうとしない。
どんな風に戦おうと僕の勝手だ、というのがジューダスの持論だ。もしかしたら慣れない剣技ではフィオレの相手にならないと思っていたのかもしれない。
今、一時的に腕が鈍っているであろうフィオレ相手に、彼は双剣を抜いて見せたのだから。
稽古とはいえ、互いに真剣になるため鞘は払う。先に仕掛けてきたのは、ジューダスだった。
「双連撃!」
左右非対称の双剣が翻り、互い違いの刺突・斬撃が迫る。幾度か見た剣技につき軌道を追って緩やかに流すと、返す刀でそのまま反撃に出た。
切上げから始まる刺突に切り替え、弾かれるのを見越してその位置から足を狙う。
手加減こそしているが、受け損じれば真空を殺しきれず被服がずたずたになるだろう。
初めから最後まで真剣に対処していたジューダスだったが、ふとあらぬ方向を見やったかと思うと、構えていた双剣を下ろしてしまった。
理由はわからないがそれに倣い、構えを解いて彼が示す先を見やれば。
「コラお前ら! 朝っぱらから何やってやがるんだ!」
長屋のある方角から
全速力で駆け寄ってきたかと思うと、二人の間に滑り込む。
「あなたこそ、朝っぱらから何をぷりぷりしていらっしゃるので?」
「あのな、そりゃこっちの台詞だっつーの。お前ら、いきなりケンカなんか始めるなよな!」
彼にとって仲間内で真剣を交えるのはケンカの内なのか。どちらかといえば殺し合いだと思う。
聞けば起きだしてきた子供達が二人の剣舞を見つけて勘違い、ロニに告げたらしい。それを真に受けた彼がすっ飛んできたのだという。
「それはお騒がせしてしまいましたね。もうひと眠りいかがです?」
「もう目ぇ覚めたっての。そうそう、昨日のことであいつら、お前に用事があるらしいぜ」
ロニが顔を洗ったところで、連れ立って長屋へ赴く。
ひょいと覗きこむと、中では中年女性に交じって子供たちが炊事の手伝いに励んでいた。
フィオレが戸口から顔を覗かせた時点で、おそらくキャスケットに覚えがあったのだろう。子供たちがわらわらと寄ってくる。その中には、フィオレが救助した少年もいた。
「あ、昨日のねーちゃん!」
「……確か、ブレイブと呼ばれていましたか。回復したようで何よりです」
「昨日はありがとな、助けてくれて。ねーちゃんも一緒に食べようぜ!」
どうやらそのために、総出で手伝いに出たらしい。ナナリー宅の戸締りはしてあるからいいかなと、フィオレは快諾した。
「では、お言葉に甘えて」
「じゃあこっちこっち」
子供達に連れられ、奥にある広間へ案内される。
すでにほとんど出来上がっているらしく、そこには床に直接並べられた朝食と食事が始まるのを待つ長屋の住人達が揃っていた。
年寄りから中年男女からナナリーとそう変わらない年齢の男女から、年齢差はばらばらだ。
「ここでは、床に直接座って食べるらしいんだ」
考えてみれば、カルバレイス地方にて現地の文化に触れるのは割とこれが初めてかもしれない。
すでに慣れたようでひょいひょいと料理をまたいで適当に座るロニを見習い、皿に足をひっかけないよう慎重に移動してジューダスの隣に座る。
その隣に次々と子供達が座って行き、やがて炊事をしていた中年女性達が現れて朝餉と相成った。
「その卵焼き、わたしが作ったんだよ!」
「そのパンこねたのオレ!」
ここでは楽しく食べるのが原則であるらしく、子供も大人もマナーを守るという概念が薄かった。
ある子供などかなり汚くがっついているが、誰も注意しようとしない。
食べ盛りの子供達は次々とおかわりを口にし、いちいち自分の傍にあるパン籠に群がるのがわずらわしくなったフィオレはついにトングを手に取った。
「あ」
「配るから並びなさい。埃が舞うでしょう」
ふたつもみっつも取る子供が発生したせいで騒いでいた子供たちがどうにか収まり、一応順番を待って一列に並ぶ。
この時すでに必要な分だけ食べ終えていたフィオレは、暇を持て余すように子供達の世話を焼いていた。
「がっついて食べるとむせますよ」
「おなかのところにパンくずが」
「お茶のおかわり、要ります?」
おかずを取った、取らないで騒ぎだした子供同士を隔離して、それまでフィオレが座っていた場所に一人を移動させる。
そうこうしている内に朝餉は終わり、食後の片づけを手伝ってからフィオレは長屋を出た。
朝餉を提供してくれた子供達と女性達に礼を言ってからナナリー宅へ戻ろうとして、襟首を掴まれる。
「……何か御用でしょうか、ロニ」
「これからガキ共のお守……もとい、狩りの訓練をやるんだ。お前も来るよな? な?」
笑みこそ浮かんでいるが、目が笑ってない。「俺達仲間だろ?」と言いたげなロニの視線に耐えかねて、少年達や二人についていく。
ところが、辿りついた先の洞穴で意外な展開が待ち受けていた。
「ロニとジューダスが怪物役で、ねーちゃんがさらわれたお姫様役な!」
「「は?」」
「だってそのねーちゃん、ケガしてんだろ?」
「ナナリーねぇちゃんが言ってたよ。だから、怪物役はナシ!」
子供達が言うに、フィオレの役割は洞窟の奥に座っていればいい、とのこと。
それならいなくたって全く問題はないだろう、と早々ナナリー宅へ戻ろうとしたところで、何と子供達からブーイングが来た。
「それは駄目! オレ達が怪物に勝って助けだしたら、「助けてくれてありがとう、チュッv」ってやってくれなきゃ!」
「あと、帽子を取ってオレ達にハグするの!」
……小さくても男ということか、どこからか変な知識を仕入れたのか……キャスケットを取れと言う辺り、心当たりはひとつだ。
「ロニ……子供に何ということを教えるのです」
「なっ、ななな、何の事だかさーっぱりわかんねえなー」
まさかジューダスがそんなことを言うわけがないだろうし、反応からしてやっぱり彼が黒なのだろう。
となれば、囚われのお姫様が言うことなどひとつだ。
「ハムカッテハイケマセンワタシノコトハイイカラニゲテ」
「すげェ、棒読み……」
「行くぞ! 力を合わせて怪物をやっつけるんだー!」
普段はお姫様役などいなかっただろうから、この後することは同じだろう。
少年達による狩り訓練という名のお遊びをぼけっと眺めて、暇を持て余しううん、と伸びをした。
「熱っ!」
何の前ぶれもなく左手の甲に熱を覚え、悲鳴が抑えられない。
幸い彼らは己の戦いに集中しているため気付かれていないが、この痛みに近い熱さは何だと首を傾げかけて。
いつになく焦ったような、フランブレイブの声を聞いた。
『警戒しろ、フィオレンシア! 我が眷族が、そちらへ向かっている!』
『警戒って、あなたの眷族なのに、制御できないんですか?』
『それが出来れば警戒など促すものか!』
情けないことを堂々言わないほしい。
手袋の下で普段乳白色のレンズが灼熱の色に染まっていることを確認し、すっくと立ち上がる。
狭い洞窟の中、乱戦を繰り広げる彼らに気取られぬよう外へと出た。今のところ、ホープタウン内に異常はない。それは結構なことだが、この後何が起こるのやら。
──と、そこへ。
「おい、どうした」
如何なる手段を使ったのか、そもそも気取られぬよう気を配ったはずなのだが。
まるで洞穴内から闇を引き連れてきたかのように、見た目がかなり暑いジューダスが姿を現した。
「……よく気付きましたね」
「あんなでかい声でわめかれて、気づけない奴があるか」
何のことか測りかねて、彼に渡した物の存在を思い出す。
うっかり守護者と言葉も交わせないと肝に命じ、当然のように詳細を尋ねてくるジューダスに何と言ったものかと迷う。何故なら、フィオレ自身どういうことなのかわかりかねているからだ。
フランブレイブに話を聞こうにも、ジューダスの聞いている前で妙なことを口走られても困る。具体的には敵対勢力のこととか。
そこへ。
「こらぁっ! 二人揃ってエスケープすんなっ、駆け落ちでもする気か!」
またもや子供達の相手を押し付けられたロニが、二人を追って洞穴から飛び出してきた。それを追って、少年達もわらわらとやってくる。
再び子供達からブーイングを浴びせられるも、ジューダスは至極冷静に切り返した。
「さらった姫が逃げ出したなら、怪物としては追うのが当たり前だろう」
「そ、そうだよな。ほらフィオレ、戻れって……おーい!」
大変申し訳ないが、そんなままごとには付き合っていられない事態が発生している。
二人が子供達の苦情処理に追われている間に、フィオレはシルフィスティアの視界を借りてフランブレイブの眷属とやらの姿を捜していた。
よくよく考えてみれば、ホープタウン付近に来ていないというなら好都合だ。この村が巻き込まれる前に、処理してしまわなければ。
彼女の視界によって、かつても力試しの名目で戦ったフランブレイブの眷属がホープタウンの外れ、オアシス付近にいることがわかる。
炎を司る守護者の眷属が村の生命線であるオアシスに足を踏み入れたら大変なことになると、フィオレは放たれた矢のようにその場を後にしていた。
高台を駆け下り、村を横断して昨夜訪れたばかりのオアシスに辿りつく。
村に残る大人の大多数は狩りに出て、残った女性達は村の家事仕事とかでオアシスには誰もいない。
──否。オアシスの外れ、どこまでも広がる砂漠の彼方。砂嵐の向こうから、巨体が姿を現した。
真紅の鱗に覆われた、直立するトカゲにも似ている。現地の生物でも、ましてや単なる魔物でもない。
鱗のひとつひとつには燃え盛る火炎が宿っており、彼方を闊歩しているのは明白ながらその姿は巨大の一言に尽きる。
『レンズによって正気を失い、凶暴化しているのでしょうか』
『然り。サラマンダーが我が依代を持ち逃げ、あの泉に投げ込まなければとっくに呑みこまれていた』
確かに、炎の守護者ですら発狂しかねない水中など眷属なら近づくことも、気配さえも探れないだろうが……思い切ったことをしたものだ。
水中から引きだされたことで居場所を嗅ぎつけ、今この状況にある。そんなところか。
『なら、例の如く倒してレンズを奪えば……』
『フィオレ』『足元』『気をつけて!』
オアシスに来る前に勝負をつけようと陽光へ左手を差し出したところで。口々に囁きかけるアーステッパーの声を聞く。
直後足元に覚えた違和感はフィオレを咄嗟に駆け出させ、それまで立っていた場所からはボコボコと何かが飛び出した。
溶岩だったらどうしようと心配し、そうでないことに安堵して首を傾げる。
「あれは……」
『この気配』『あいつだ』『いないと思ったら』
大地を押しのけて現れたのは、うねうね蠢く根っこに見える。
根っこに見えるだけで地中に潜っていた触手か何かだと思ったのは、フィオレの考え過ぎらしい。
『我らが眷属の仕業』『ここは大地の影響も強いから』『この分だと、あいつも……』
──まさか、唯一無事だと思っていたアーステッパーの僕もレンズによって正気をなくしていて。この状況で、これ幸いと襲いかかってくるというのか。
それをアーステッパーに尋ねる最中にも、木の根によるフィオレを狙った攻撃が繰り返される。
たまらず、フィオレは紫水を抜いた。
『シルフィスティア、紫水の鞘に宿ってください!』
『了解!』
フィオレが示した鞘──箒部位に風が取り巻き、一瞬にして中空へさらわれる。
根がどこまでも追ってこないのを確かめて、フィオレは紫水にぶら下がったまま砂漠の彼方を見た。
二兎追うものは一兎も得ず。まずはフランブレイブの眷属を倒すべく、掴んでいた箒に腰かけたフィオレは、降り注ぐ直射日光に左手をかざした。
「遥か彼方の空へ我、招くは楽園を彩りし栄光。我が敵を葬り去れ、荒ぶる神の粛清を受けよ! 【アースガルズ・レイ】!」
時に命をも奪う熱を孕んだ日差しから豊富な
この一撃だけでどうにかなると思えないが、フィオレは急遽標的を地面へと切り替えた。
姿を現さぬアーステッパーの眷属だが、フィオレだけを狙うという発想はないらしい。
「なんだこりゃあ!?」
姿を消したフィオレを捜してだろう。子供達を伴い現れたロニとジューダスが、大地を割ってうねる木の根を発見してしまったのだ。
本物の怪物に固まる子供達をかばい、二人は奮闘しているが……大人の腕ほどもある木の根はいくら斬り落とされても無限に生えそろう。二人の不意を突かれるのも、時間の問題だ。
すぐ傍に泉があるのだが、不用意に近づいて木の根に泉が壊されても困る。怪我を癒すのに使わなくてよかったと、フィオレは懐からアクアサファイアもどきを取り出した。
「そなたが涙を流すとき群がりし愚者は、白に染め上げられし世界の果てを知る。【セルキーネス・インブレイズエンド】」
味方識別済みの古代秘譜術を起動、氷塊を放って地表に暴れる根ごと大地を凍てつかせる。これで新たな根は封じたし、露出している根も彼らに襲いかかることはないはずだ。
今後、環境が激変したせいでオアシスが枯れてしまう危険性は非常に高かったが……目の前の命には代えられない。
子供達をかばう二人が無事なことを確かめて、視線をフランブレイブの眷属へ戻す。
超高熱の光に飲み込まれたにも関わらず、竜族の形をした焔の眷属は尚も健在だった。
強いて違いを上げるなら、鱗に宿っていた炎がほとんど消えているくらいだが……それでもあの鱗にどれほどの熱量が込められているかを、フィオレは知っている。
『どうした、代行者よ。我が眷族を見事下した気概はどこに……『状況が違い過ぎます。私は周囲に被害を出したくないんです』
確かに、以前。
フランブレイブの従える僕と相対した際、フィオレはあれこれ策を弄さず、単純な方法──シンプルに勝負を決めた。
竜族という種族においても最強に位置する彼らが抱える最大の弱点──逆鱗を狙ったという内容だが、一度試してみてよくわかったことがある。
最大の危機は最大の好機にして、逆も然り。その弱点を狙うことは諸刃の刃でもあったのだ。
上手く逆鱗を貫けば、その時点で勝負は決まる。しかし、中途半端に傷つけたが最後、彼の眷属は怒りと激痛で暴れ狂うだろう。
以前は力試しということ、そしてフランブレイブの聖域の中だったにつき周囲を破壊しつくしても困ることはなかった。そのためフィオレは眷属の逆鱗のみを狙い、時に煤だらけになって幾度か失敗した挙句に勝利を収めた。
ただ、今回は違う。しくじって逆鱗を下手に傷つけようものならオアシスは炎上し、彼らへの巻き添えは回避しようがない。
フランブレイブの制御下にあったあの眷属すら、その怒りは凄まじかったのだ。凶暴化している今、あれ以上の怒りなど拝みたくもない。
必ず一撃で仕留めなければならない──!
近寄ることすら許されない、高熱を宿す鱗の炎は消した。古代秘譜術によって相殺を促した状態につき、しばらく再生はされない。
逆鱗のある場所は覚えている。今も変わらず燃え盛る、トカゲで例えれば喉の下の辺りだ。
箒を操り、地面すれすれの低空飛行でフランブレイブの眷属へと近づいて、その間にひとつかみの砂を確保。
自らの間合いに入り込んできたフィオレを迎撃せんとする眷属の顔面目がけて砂を散らす。
『──ッ!』
視界が奪われたことで悲鳴を上げてのけぞった、そこを狙い。ただ一点、炎を宿した鱗に紫水の刃を突き立てた。
鱗が割れる、硬い感触。確かな手応えを覚えて、速やかに距離を取る。
──幸いなことに、逆鱗の位置が変わったとか、ツメが甘かったとか、そういったことはなかった。
『見事だ、フィオレンシア。我が眷族の暴走を止めたこと、称賛に値する』
『光栄です』
断末魔にも似た咆哮を放つ眷属が、まるで融けてしまったかのようにその姿を消す。
その場に残ったものといえば、灼熱の色を宿す完全球体のレンズで、眷属の姿はどこにもなかった。
とにかくこちらはカタがついたと、レンズを回収して箒に飛び乗る。
オアシス付近の空気は冷たく、根も凍ったままで状況は何ら変わらないように思えた。ロニ達の様子も、無事なままだ。
『アーステッパー。眷属の様子はいかがですか? 撤退したとか、どこにいるかとか』
『撤退はしてない』『降りないほうがいい』『フィオレをまだ、探している』
標的であるフィオレ……というか、アーステッパーの依代が感知できず、攻撃手段の根が封じられたことで様子をうかがっているのだろうか。
もし本体が地中に埋まっているのなら、引きずり出す必要がある。となると、ロニ達を避難させなければならない。
下手に大地に近づけばアーステッパーの眷属に勘付かれる危険性があるにつき、フィオレはチャネリングを起動させた。
『ジューダス、速やかにそこから離れて。ロニや子供達を村へ避難させてほしいんです』
『……どこに……』
『早めにお願いします。手遅れになる前に』
フィオレの所在を捜すジューダスに、再三避難を促す。
まさか自分達の頭上にいるとは思わなかったのだろう。やがて彼はロニに一声かけ、子供たちと共に村へと戻っていった。
彼らの姿がなくなかったことに安心して、オアシスに漂う冷気を消しにかかる。数瞬もしない内に、反応はあった。
オアシスから冷気が消えたことで、氷に縛られていた根っこが地中へ戻っていく。さてどのように引きずり出したものかと、思案していると。
『フィオレ』『大地に立って』『我らが制御を試みるよ』
──フランブレイブの聖域に立って以降、彼らがよく話しかけてくるのは気のせいか。
しかし、大地の守護者の協力を受け入れない手はない。要求に応じて地面に降りたてば、依代から幾多の輝きが溢れて零れた。
『いい気になるな』『我らはここにいる』『正気を取り戻せ』『力に溺れるな──』
口調こそ一切変わらないものの、そこはかとなく真剣味を帯びたアーステッパー達の声が囁きとなって脳裏に響く。
先程のような攻撃もないが、かといって投降するような反応もない。沈黙が周囲を支配したと思った、次の瞬間。
『説得成功』『お灸を据えてやったから』『あとは、制裁の一撃を──』
ごごっ、と足元が震えたかと思うと、ぼこりと土が膨らんだ。
まるで中途半端に潜った土竜の移動跡であるかのように、膨らんだ土の跡は砂漠へと向かっていく。
それを追ってオアシスを出た辺り、さらさらの砂地が移動跡を失くした辺りで、それは姿を現した。
──大きさとしては、ひと抱えほど。
土避けにか、全身は短い毛に覆われており、手が体長の半分ほどもある。退化しているのか隠れているのか、目にあたる器官は見当たらず、鼻がかなり突出している。
まさに土竜をそのまま大きくさせたようなその姿は、おそらくアーステッパーの仕業だろう。地表に叩き出されて、ぶるぶる震えている。
その姿に、良心がとがめるような気はしたが──まだその身にレンズを抱えているであろうと予想、その首に紫水を突き立てた。
たとえすでに無害な存在だったとしても、彼らに命という概念がないことはシルフィスティアから聞き及んでいる。
『キュッ!』
まるでイルカが鳴くような音がして、ポンッとアーステッパーの眷属がかき消える。
後に残るのは、向日葵色の完全球体レンズだけだ。
『助かりました。ありがとう、アーステッパー』
『いやなに』『あれくらい』『我らが眷属の面倒を見るのは当たり前』
『……これも、代行者に課せられし試練。甘やかすな、アーステッパー』
『手に負えないからって何にもしないでなすりつけるのはどうかと思うよ、フラン』
『シルフとて、抵抗むなしく一時は眷属に吸収されたハラだろう!』
『落ち着きなさい、ケンカしないの』
『だってリム、フランはいっつもこうだよ? たまにはガッツーンと言わないと』
……守護者同士、親睦を深めるのは結構なことなのだが。そーゆーじゃれあいを自分の念話経由でする必要もないだろうと、レンズを拾い上げて一息つく。
乱雑に飛び出た木の根によって地面は凸凹、凍った影響もあって荒れ果てたオアシス。
とりあえずこれは、アーステッパーに頼んで修復してもらわなければ。
雑談に花を咲かせる守護者達に声をかけるべく、フィオレは再びチャネリングを使った。