ここでようやく、本来の主人公+ヒロインが戻ってきます。
残るバーティメンバーはあと一人いるのですが、まだまだまだ先の話ですね。
それまで続けられると良いのですが、予定は未定です。
フランブレイブの眷属と、アーステッパーの眷属からレンズを徴収して数日後のこと。
畑の水やりを手伝い終えたフィオレは、普段通り少年達の狩りの予行演習をしている二人の元へと向かった。
「二人とも、お時間よろしいですか?」
「おしきたァ! 今日はどっちからだ?」
「僕から行こう」
この数日間、村で何がしか手伝いをした後、二人と実戦さながらの修練を日課としている。
こういった狭い集落内では、余所者とはいえ協力的な態度を取っていないと生きていくのが難しい。場合によっては、三人を助けたナナリーに白い目が向けられてしまう。
だからロニもジューダスも渋々子供達の相手をしているし、フィオレもあまり目立たないように行動しているのだから。
怪我人ということで怪物役を免除されているフィオレだが、真実を知るジューダスからの視線が痛い。そこで定期的に彼らの鬱憤を晴らすため、わざと彼らの演習中に乱入するようにしているのだ。
基本村からの外出を許されていないフィオレにもいい運動になるし、二人にとっても気分転換になる。ついでに、子供達にしても他人の修練風景を見るのはけして悪いことではない。
子供達自身をさておいても、この修練はロニ、ジューダスにとって確実に良い影響をもたらしていた。
ジューダスはともかく、孤児院暮らしで子供達の面倒を見るのにそれなりに手慣れているロニは、子供たちから馬鹿にされがち、下に見られがちだった。
しかし、フィオレとの修練に付き合わせた結果、「なかなかやるじゃん」と一目置かれるようになったのである。
「いや~、ホントあれは助かった。サンキュな、フィオレ!」
これまでカイルのこともあってか、ロニからあまりいい印象をもたれていなかったが、ここ数日でそれなりに打ち解けてくれた。
それは同じ境遇に置かれたジューダスに対しても同じらしく、日々怪物役として同じように子供達から扱われていることから、仲間達でも芽生えたのかもしれない。
攻守を断続的に切り替える剣舞を一通り済ませ、ジューダスはロニと交代し、フィオレは紫水を鞘へしまう。
ベルセリウムをカタにほぼ無理やり作ってもらった代物だったが、抜けば刀、納めれば長柄武器になるというのは大変お手頃だった。
一目見た時はフザけたものを作ってくれたと内心頭を抱えていたが、こんなところで役に立っているのは先見の明なのか、それともただの偶然か。
普段
子供達も観戦する中、一通りの型を終えて無事仕合を終わらせた二人が、礼を交わす。
それが終了の合図であることを知っている子供達は、感嘆の吐息をつきながら一斉に拍手した。
「カッコよかった~!」
「オレずっと剣がいいと思ってたけど、ロニみたいな武器もいいよな!」
「でもさ~、なんで二人ともこっちは真剣なのに、怪物役は不真面目なの?」
めったに寄せられない称賛の嵐に、ロニは鼻高々となっていたが、その言葉でギクリと肩を震わせる。
食材を購入、あるいはナナリー宅の備蓄を用いて自炊するフィオレとは違い、ジューダスもロニも子供達同様長屋にて待機している女性達による食事提供を受けている。
どうした仕組みか知らないが、こうでもしないと真面目にならないからか。少年達は事あるごとに飯抜きを連呼し、二人を怪物役にして遊んでいるようなのだ。
「決まっているだろう。忘れたのか、お前達。投げやりにフィオレと仕合をしたロニが、危うく高台から蹴落とされるところを」
「フィオレねーちゃん、マジ強えーからな。ロニとジューダス、二人がかりでも勝てねーんじゃねーの?」
少年の一人、ジャスティスといったか。
にひひ、と冗談交じりだが非常に腹立たしい物言いでそんなことを抜かしているが、流石にそれは難しいだろう。無理に勝負をつけようとするなら、どちらも殺してしまいかねない。
まともに取り合うことはせず、フィオレはただ滝汗を拭った。
そこで。
「隙あり!」
こそこそと後ろに回り込んでいた少年が、僅かに浮いたフィオレの帽子を取り上げんと飛びついてきた。
修練後とあって全員で座っていたにつき、回避こそ難しい。しかし。
「はい残念」
伸びてきた両手を捕まえてくい、とひねる。悶絶する少年の腕を解放してやれば、彼は痛そうに両腕を抱えて距離を取った。
「ブレイブの負け~」
「これでフィオレねーちゃんの八連勝だな」
ロニに何を吹きこまれたのやら、フィオレが救出したあの少年はここのところフィオレの素顔を暴くことに余念がない。
少年はぷう、を頬を膨らませながらもフィオレの隣に座り込んだ。
「くっそぉ、背中にも目がついてるのかよ!?」
「奇襲なら足音くらい忍ばせなさい」
本気で強襲するならそのくらいはしてほしいところである。あるいは誰かと手を組んで、フィオレの気を引くとか。
実際それで不意を突かれて、フィオレは子供相手に不覚をとったことがあった。
「背中が駄目なら前から、とりゃっ!」
どういった理屈なのかよくわからないが、わけのわからない独自理論を展開して別の少年が真正面から手を伸ばしてくる。
上体をのけぞりつつ、さりげなく突き出した紫水の柄で足を払ってやると、少年は至極当然のように足を取られた。
「おっと」
顔面強打で鼻血を出されても厄介である。
のけぞらせた上体を戻して胸で少年の顔を受け止めると、肩を掴んで自分の足で立たせた。
「足元不注意です。無駄な怪我をしたくなければもっと注意を──」
しつこい注意喚起を促そうとして、ふと少年を見る。
どこかに打ち付けたわけでもないのに、彼は顔を紅潮させていた。顔の前で手を振っても反応がない辺り、重症である。
気付けに一発平手を入れようとして、その少年の周囲を比較的年齢の高い少年達、そして何故かロニが取り囲んだ。
「なあ、どーだった?」
「……
「だってよ、ロニ!」
素顔を暴こうとするに飽き足らず、性別まで疑ってきたか。多少打ち解けてきたと思ったらすることがそれとは、非常に素直な御仁である。
首を巡らせてロニを見やれば、「バカ! そんなでかい声で言う奴があるか!」と自分こそでかい声で抜かし、フィオレの視線に気づいた彼はしどろもどろと言い訳を始めた。
「は、はは。まあそんなムキになるなよ。ジューダスみてーに細っこい野郎もいれば、ナナリーみてえな怪力ガサツ女だっているんだ。ちょっくら確認をだな……」
「ロニ! 誰が怪力ガサツ女だってぇ!」
突如として鋭い声が飛び、うひゃっ、とロニが軽く肩を縮こませる。
見やれば日差し避けと思しき外套を羽織ったナナリーが肩を怒らせ、大股で歩み寄ってくるのが確認できた。
その後ろを、やはり薄手の外套を着込んだ二人がついてくる。
慌てふためくロニと怒り心頭のナナリーがじゃれ合っている間に、立ち上がったフィオレは二人に駆け寄った。
「ひょっとして、カイルとリアラですか?」
「うん。久しぶり、フィオレ」
被っていたフードを落とした二人は、ハイデルベルグ城を最後に行方知れずとなっていたカイル、そしてリアラだった。
砂漠を横断してきたのか、少々日焼けしている以外に何ら変わったところはない。
やがてナナリーのお仕置きから解放されたロニは、カイルの姿に気がつくなり一目散に駆けてきた。
「無事だったかぁ! 二人とも心配させやがって!!」
ロニの熱烈な抱擁で二人が目を白黒させている間に、ナナリーに近寄る。
それこそ鬼のような怒りを見せていた彼女は、感動の再会をそれなりに温かい目で見守っていた。
「ありがとうございます、ナナリー。二人を見つけてくださって」
「礼には及ばないよ。二人とも運よくアイグレッテにいたし、あんたの似顔絵もわかりやすかったし」
それにしたってナナリーには世話になりっぱなしである。荷解きの手伝いを申請しかけて、カイルらの言葉が耳に入った。
「それはこっちの台詞だよ! オレ達だって三人を捜して、タイヘンだったんだから!」
「でも、無事でよかったわ。フィオレも大怪我してたのに、元気そうだし」
リアラの言葉に、カイルははっとしたように口を噤んでいる。ジューダスはああ言っていたが、なかなか忘れられるものでもないだろう。
そこへ休憩は終了だとばかり少年達は狩りの予行演習を始めようと口を開く。誰が何を話しているかわからない状況で、ナナリーは手を叩いた。
「はいはい、いっぺんにしゃべらないの!」
鶴の一声で少年達は口を閉ざし、ナナリーの仲介を経てロニもジューダスもお役御免と相成る。
その際放たれたナナリーの一言に、ロニは目の色を変えて抗議した。
「ロニとジューダス、晩メシ抜き! おばちゃん達にそう伝えといて」
「なっ、なんだよそりゃあ……」
「カン違いしないの! 今日は、あたしがごちそうしてあげるよ」
快活な笑みを浮かべ、ナナリーは言う。
美女から夕餉の誘い、しかも手作り確定だと言うのに、ロニは何とも微妙な表情を浮かべていた。
「……人間の食えるものが出てくりゃいいけどな」
もしや、某弓使いの王女同様彼女も料理下手なのか。
しかしこの発言に根拠は皆無であるらしく、彼はすぐに態度を改めた。
「……ホントに晩飯ヌキでもいいんだよ、ロニ?」
「いえっ、よろこんで食べさせていただきます」
調子のいいロニにひと睨みくれつつも、彼女は承知したように頷いた。
「決まりだね。じゃあちょっと時間を潰してておくれよ。積もる話もあるだろうし」
自分は少し行くところがあると言い残し、ナナリーは高台を降りていった。
その背中を見て、それまでお茶らけていたロニの顔色が変わり、何とも切なげなものへと変わる。
それに気づかぬ弟分ではない。
「ロニ、どうかしたの?」
「あ、いや……あいつも、マメだなと思ってよ」
どういうことなのかと尋ね返したカイルに、何でもないと返し、二人に村の中を見せるかのようにゆっくりと歩き出す。
彼曰く子守から解放されたジューダスに同じことを尋ねれば、彼は小さく息をついた。
「そうか、お前は知らなかったんだったな。村の中を回る際、多分あそこにも行くだろう。その時話す」
今は彼らについていこうと、先に行ってしまった三人の後を追う。
空気を変えるためなのか、二人きりの旅の最中、ヘンなことをされなかったかと、いきなりロニが尋ね出した。
リアラに対するそんなセクハラじみた質問を、カイルが全力で否定している。
確かにカイルはリアラに対して多少意識をしていたようだが……直球で尋ねるのはいかがなものか。
「……カイル、お前それでも男か?」
「全部自分を基準に考えるなって!」
「あのジューダスでさえ、夜な夜なフィオレの名を呼んでは幸せそうに微笑んでいるというのに……」
「デタラメを抜かすな!」
それが正真正銘デタラメであればいいのだが。フィオレはロニを追いまわしかねないジューダスの袖を引いた。
声をかければ、凄まじい勢いで否定が返ってくる。
「ジューダス」
「違うからな! 口から出まかせだ、僕は絶対そんなこと……!」
「そんなことは百も承知です。子供の軽口を本気にするなんて、大人げないですよ」
フィオレの名なら別にいい。しかし、これがマリアンの名になると大幅に異なる。
彼がリオン・マグナスの悲劇を一から十まで知っているとは思わないが、何がきっかけで正体が割れないとも限らない。
一時期それでロニといさかいを起こしたくらいなのだから、気を緩めないほうがいいとこっそり忠告を囁く。
幸いなことに、ジューダスはすぐさまクールダウンしてくれた。
「ああ、その通りだな。ついムキになってしまった」
「落ち着いた様子で何よりです」
何故かロニから不憫そうな視線が送られていることには気づかず、ふとジューダスはあらぬ方向を見やった。
いつの間にか、一同は村外れのオアシス付近にいる。小さな泉の傍ら、ささやかな墓標の前に片膝をつくナナリーの姿があった。
「あれ、ナナリー?」
「あのお墓って……」
「ナナリーの、弟の墓だそうだ」
彼女の行くところ、とはここのことだったのか。ジューダスもロニも、フィオレよりか彼女と付き合いは長い。
このことはすでに知っていたらしく、ロニはまた切なげな表情を浮かべている。
「旅から帰ってきたり、何か嬉しいことがあったらいつも、ああやって報告するんだよ」
「そうなんだ……」
──死者に対して思うことは人それぞれで、その付き合い方もまた人それぞれだ。
ナナリーの行いに対し、己の過去を想起しながらも、フィオレはそれを見守った。
やがて、その報告が済んだのだろう。名残惜しげに墓標に背を向けたナナリーは、一同の姿を見るなりてくてくと歩み寄ってきた。
「あぁ、ごめんね。ここに来るとつい長くなっちまってね」
「弟さんの……お墓だって聞いたけど」
そう尋ねるリアラの声音は、至極不思議そうなものが含まれている。
死亡理由が聞きたいわけではなかろうが、何を持ってそんな声音なのか。
それに答えるナナリーの声音も、かなりさばさばしたものだった。
「あぁ、そうだよ。あたしがちっちゃい頃病気で死んじまってね」
「治せなかったの?」
「……治せなかったから、そこにお墓があるような気がします」
フィオレの茶々に怒りもせず、確かにその通りだとナナリーは苦笑している。
しかしその苦笑も、墓に目をやってからは綺麗に消し飛んだ。
「……方法が、なかったわけじゃないんだ。フォルトゥナ神団に頼めば、奇跡の力で治してもらえたと思う」
「後で教える。黙って聞いてろ」
聞き慣れない言葉を耳にして、オウム返しに尋ねようとしたフィオレをジューダスがすんでのところで止める。
そのため、ナナリーの話は無事続いた。
「でも、あたしもルーもそれを選ばなかったんだよ」
「どうして? フォルトゥナ神の力を使えば、どんなことだって……」
「でもその代わりに、一生をアイグレッテで暮さなきゃいけない」
──何が何やら、フィオレにはさっぱりわからないが。ただひとつ確実なことが判った。
フィオレには聞いたことのないような神の名を、まるで既存の神のように話すリアラは、間違いなくこの世界のことを知っている。
人から、あるいはナナリーから仕入れた知識なのか。それとも元々持っていたものなのか、それはわからないが。
「安全で清潔だけど……生きてるって実感が、わかない場所でね」
「それは……」
「だから、あたしはルーと一緒にここへ来たんだ」
十年前までアタモニ神団が深く関わっていたアイグレッテは、今やフォルトゥナ神団とやらの巣窟にでもなっているのだろうか。
当時はレンズを寄進すれば施された奇跡が、今は信者にならないと賜れなくて。
安全で清潔でも、生きている実感がわかないというのは……自由がない、という解釈でいいのか。
その口ぶりからしてフォルトゥナ神団肯定派のリアラ、弟の……大切な人の命を引き換えにしても、フォルトゥナ神団を否定するナナリー。
意見が分かれてしまったところで徹底的に議論を交わさないのは、リアラの性格によるものか。あるいは双方話し合って理解しようという意志がないせいか。
沈黙を招いてしまったその場の雰囲気をガラリと変えたのは、ロニだった。
「あ~あ。なんかノド乾いたな。なあ、こないだのお茶、まだあるか?」
「あれの残りなら、ナナリーの家に置いてありますが」
ロニが言っているのはおそらく、オアシスに自生していた天然の茶葉をジューダスが見つけ、フィオレが乾燥させたものを午後のお茶にと皆に振る舞ったものだろう。
カルバレイス産の茶はミルクをたっぷり使うものらしい、というジューダスの意見というか聞きかじりを無視して──ミルクが手に入らなかったため──淹れた茶は大変さっぱりしており、ロニからは大変好評だったのを覚えている。
「じゃ、メシ前に一服しようぜ。おいナナリー、お前んちの台所借りるぞ」
「はいはい」
さくさく歩き始めたロニの足取りは軽いというより速く、素早く続いたナナリー以外の一同はほとんど置き去りにされている。
話題を変えようとして急に行動を起こした。それに気付いたジューダスが呆れたようにそれを口にしているものの、リアラはハッと気づいたように彼らの背中を目で追っている。
「行きましょうか。置いていかれます」
そんなリアラの背中を軽く叩き、少女の様子を気遣うカイルにも声をかけ。フィオレもまた、歩き出したジューダスに続こうとして。
「あの……フィオレ。こないだは、ゴメン」
カイルから謝罪を聞かされて、フィオレは足を止めて振り向いた。
彼は実にバツが悪そうな顔をしながらも、その目はしっかりフィオレを見つめている。
「フィオレはオレをかばってくれたのに、オレ、あんなこと言っちゃって……」
「──カイル。あなたの発言に私は怒っていないし、それが間違っているとも思いません」
気にしていない。その一言で返すのが一番だとわかっていても、正直に自分の気持ちを伝えたかった。
はずみでもなんでも、カイルは自分の気持ちをぶつけてきた。それがどんな内容であれ、ぶつけ返すのが礼儀だ。
左の頬をぶたれたら、左の頬を殴り返すべきである。
「あなたの素直さは私も大変評価していますが、あの時は失望を覚えました。もう二度とあんなことにならないよう、お互い精進しましょう?」
「──うん」
差し出したフィオレの拳に、カイルは軽く自分の拳をぶつけた。
彼らと共にオアシスを抜け、村の中を歩きながら先程までロニと話していた彼らと軽く会話を交わす。
「フィオレ、怪我の具合はどう? 調子がよくないようなら、わたしが……」
「あんなの、出血がひどいだけのかすり傷ですよ。もう跡形もありません」
酷い嘘だが、実際もう傷はない。リアラの申し出を拒否、ナナリー宅へ至る。
夕飯作りを始めたナナリーの隣で茶を淹れたフィオレが合流する頃、本格的な近況報告が始まった。
「んじゃ、まずはお互いが何をしていたかを報告するか。どうせ、話したいことが山ほどあんだろ?」
とはいえど、ロニ達から語られるのはナナリーに助けられた経緯と、如何に子守が大変だったか、だ。
締めくくりとしてオアシスの出来事に話が及び、フィオレはとってつけたように話に割り込んだ。
「そういや数日前、ヘンなことがあったんだよなあ。オアシスでさ……」
「──ねえリアラ、フォルトゥナ神団て何ですか? 奇跡がどうのこうの言っていたということは、エルレインも無関係ではありませんよね。もしかして、この十年間でエルレインが神格化でもされましたか?」
普通の方法では治せないような病を、奇跡の名の下に完治させる。
それはエルレインがアイグレッテにて披露していたものと同じ類のものだ。
もともとあの時代でもアタモニを押しのけて崇拝者は数多くいたと思うが、それが高じてとうとう神格化されたか。
リアラに尋ねるのは、けしてカイルが抜けているから、だけではない。奇跡を操ったのは彼女も同じ、リアラは無関係ではないと考えているからだ。
ただ、アタモニ神団の長であった人物が神格として祭り上げられたとしたら、本来のアタモニ神信者……フィリア達が黙っていないはずだが。
「──この時代には新たな神『フォルトゥナ』が存在している。フォルトゥナ神団とは、フォルトゥナと人々を繋ぐ連中のこと……在り方としてはアタモニ神団とそう変わらない」
ナナリーから聞いていないのか、と尋ねるカイルを尻目に、ジューダスがとうとう教えてくれた。
にわかには信じがたい話だが、事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだ。
世界を構成する自然を司りし守護者──精霊の立ち位置にいる彼らすら認める神を知っている以上、納得せざるを得ない。
少なくとも、神という存在に関しては。
「……そーですか。で、今アイグレッテは、そのフォルトゥナ神団の信者しか住めない街になっていらっしゃるので?」
「それなんだけどさあ……」
つい数日前アイグレッテ付近にて気が付き、実際にアイグレッテを、そこで生活する人々を見てきたというカイルの話を聞く。
語られたのは、信じがたくも未来的とも言えるのかそうでもないのか、とにかくトンデモエピソードばかりだった。
※フィオレもまた、母が逝去したその場所で、虚空に向かって彼女に話しかけたことがあります。墓所ではなかったので、変な目で見られていたのはご愛嬌。