swordian saga second   作:佐谷莢

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 リアラとカイルの修羅場中、ラスボスとの初接触は、終始闘いに準じるものでした。
 口論も、物理的な方も。
 展開的にはちょっとした小競り合いですが、流石神様、命がけ。
 早すぎるよ! という突っ込みにはめげませぬ。


第三十三戦——激突! 女神様との闘い~神のくせに逆ギレすんな~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 効果はバツグンだ。彼女の言葉は事実以外の何物でもない。

 しかし、たとえ事実でも言っていいことと悪いことがある。

 絶句したカイルからぷいっと顔を背け、リアラは再びフォルトゥナと向かいあった。

 

「……フォルトゥナ。わたしたちを、十年前の時代に送って」

「いいでしょう。ですが……」

 

 ここで、フォルトゥナの視線が初めてリアラから外れる。

 気づいていなかったわけではないし、見逃す気もないらしい、と。

 

「リアラ。あなたはその者の正体を存じ、それを承知で行動を共にしているのですか?」

「え……?」

「知らないと思いますよ。何も話していませんから。それで、可愛い聖女の望みを叶えてあげないのですか?」

 

 多分、黙っていればフォルトゥナはよどみなくフィオレの正体を告げるだろう。守護者達のことはともかく、フィオレ自身のことに話が及んだら事だ。

 それに。

 

「──聖女の望みは叶えます。ですが、彼らに与するあなたに神の恩恵はあやかれない」

 

 これから行うつもりの、フィオレとのやりとりにおいてフォルトゥナがヘソを曲げたら大変だと思ったのだが……それにしても声のトーンが変わり過ぎた。

 すでに面立ちから慈愛は消え、端正であるが故に冷たく感じられるものへと切り替わっている。

 唐突に始まったやり取りを前に、修羅場を目の当たりにした一同、そして今しがた派手に決裂した二人も当惑した。

 

「フィオレ、あんたフォルトゥナのこと知ってたのかい!?」

「名を聞いたのはあなたのお家で。顔を見たのは、今しがたのこと」

 

 ただし、存在そのものはかなり前から知っていた。その答えは「いいえ」ではない。

 驚くリアラの隣、フォルトゥナと対話するために少女同様前へ出る。無論のこと、これは打算と下心を伴うものだ。

 仲間を巻きこまぬため、もしもの時は……リアラを盾にするつもりで。

 

「私の聖女から離れなさい。彼らにかしずく穢れた亡者よ」

「……ヒドい言い様。ケンカ売ってるんですか?」

「先に敵対を示したはそちら。絶対的な、それこそ神に等しき力を持ちながら苦しむ人々を放置した。人が生きていく上での試練と称し、何もしようとせずただ見守るだけ。そのように考える者達との共生など、できるはずもない」

 

 彼女は、人々が苦しみから救われたいという思いから生まれた、いわば新参の神だろう。

 生まれた理由がそれでは、守護者達の考えなど理解できるはずもない。守護者達が新参の神の、一方通行的な考えに賛同することが出来なかった結果がアレなのか。

 うまく話し合いが成立するといいのだが……

 

「……あなたは人を、生まれてから死ぬまで一切変化することのない生きているだけの肉塊と勘違いしていませんか?」

「何を言い出すのかと思えば。そんなわけがありません」

「ええ。人は生まれてから体がある程度大きくなる生き物です。何故そうなるのかは、ご存じで?」

 

 相手に自分の認識を知ってもらいたい。その上で相手と理解しあい、どうにか穏便に事を収めたい。

 そんな目論みのもと、フィオレは言葉を選んで慎重に対話を試みた。

 

「人がそのような作りである生物だからです。生まれた瞬間からこの姿の私たちとは違う」

「……ええ。人は生きている限り成長する生き物です。でもそれは体に限ってのことじゃない」

 

 言葉を選びながら、殊更ゆっくりと言葉を紡いだ。

 願わくばこの神が、人の言葉を聞き入れ、理解してくれることを祈って。

 

「知能や人を人たらしめる、人しか持たないとされる心。これら精神は、生きているだけでは成長しません。生きている上で遭遇する、様々な経験が精神の成長を促す要素となるのです」

「……何が、言いたいのです?」

「私にはあなたが、人の精神の成長を阻んでいるようにしか見えません」

 

 多分、現在のアイグレッテという街に対して感じた違和感の正体はこれだ。人々は神に頼ることで知能を、心の成長を止めてしまった。

 個人的なことだが、それが悪いことだとは思わない。それもひとつの、幸せの形には違いない。

 

「弱い人間は多いから、少しでも楽な方へと考えて、結果としてあなたが生まれたのかもしれない。そしてあなたを奉り、頼って生きていくことを決めたのも人が選んだことだから、私にとやかく言う筋合いがないのは知っています」

「……」

「でも、ここにいる全員の髪色や顔の作りが違うように、人の考え方も種々様々なのです。人類の絶対幸福を願うのならまず、存在する全ての人々が持つ幸せの形を……生きる様を知るべきではないのですか。全ての人々を箱庭に収めて同じように扱うのではなくて、あなたを否定する人々の幸せも、考えることはできませんか?」

「ただ人を放置する彼ら側の者が、何を言って」

「言ったでしょう、弱い人間は多い。強大な存在が手を差し伸べれば、そのまま離さず依存する者も多い。それはこの時代の人々が証明している。手を差し伸べたままでは人は精神の成長を忘れ、人間としての種が衰退していく。その先に待つのが何なのかは知りませんが、それが星としての在り方に果たしてふさわしいものなのか。そうでなかったら、守護……彼らはあなたに賛同していたはずです」

「……それらを私に告げて、何を望むと言うのです」

「生まれた理由に固執しないでください。あなたにとって人はか弱く儚い存在でも、あなたの庇護なしに生きていけないわけじゃない。あなたを生み出した人々の可能性を信じて、見守っていてあげてほしいんです。彼らの力でどうにもならない時、少しだけ力を貸してあげる程度で」

 

 フィオレが言葉を結び、フォルトゥナも沈黙する。

 水を打ったような静けさを、すっかり変質した声音が切り裂いた。

 

「聞きましたか、リアラ。これは彼らの代理者の策略です。何一つはっきりしていない、あやふやな言葉で私さえ言いくるめようとする」

 

 全否定、更に聞き流された。

 フィオレとしては苦心に細心を重ねて言葉を選んだつもりだったが。理解してもらえなかったのが残念だ。

 フォルトゥナがこうだとすると、リアラもおそらく同意するだろう。神も聖女も敵に回して、守護者達の声も今は聞こえない。

 失望を覚えた矢先、まずどうやって生き延びようか、それだけを考えて。隣からリアラの声が聞こえた。

 

「フォルトゥナ、何を言っているの? フィオレはあなたを言いくるめようとなんて、してないわ」

 

 希望という名の蝋燭が、一瞬にして灯る。そんな気がして、彼女を見やった。

 リアラはそれすらも不思議そうに、フィオレを見返している。

 

「どうしたの?」

「……フォルトゥナはあれを否定して聞き流したのに、あなたがそう言うとは思わなかったんです」

「だってフィオレは、フォルトゥナがどう間違っているのか、その上でどう改善するべきか言っただけでしょう? 違うの?」

「いいえ、確かにその通り。その通り、なんですけど……」

 

 一番理解してほしい相手に聞き流されたら意味がない。

 そして、同意を求めたはずのリアラにこんな反応を返されたフォルトゥナはといえば。

 

「ああ、リアラ。私の聖女。純真なばかりに、こんな下らぬ言葉遊びに騙されて……」

 

 怒っていないのは何よりだが、どこがどう言葉遊びなのかを説明してほしい。

 真剣に大真面目に、尚且つ怒らせないように、言葉を選びに選んで対話を求めたフィオレの立つ瀬がない。

 とはいえ──神が、守護者の手先とはいえ人間の言うことに耳を貸すだろうかという疑問がなかったわけではないのだ。論破を目論むでもなく、全否定される危険性を欠片も想像していなかったわけではない。

 しかしこれで、対話による解決は絶望的となった。

 言いくるめようとだの、言葉遊びだの、一応聞いてはいるようだから何故そう思うのか。それを尋ねることで対話だけでも成立させようかとしたところで。

 

「──やはり、野放しにはできません」

 

 それまでリアラに向けていたものとも、フィオレに向けたものとも違う声音。

 優しげで静かなものでありながら、決定的に異なるその声に、フィオレは少女の手を引いて後退した。

 直後、フォルトゥナの胸元に輝きが灯る。かと思うとそれは炎弾と化して、二人が立っていた床へ激突した。

 床を焦がす程度ではあるものの、直撃したら火傷では済まされない。

 

「フォルトゥナ……!?」

「何をするのです、リアラに当たるところだったではありませんか!」

「──私は何も間違っていない」

 

 フォルトゥナの声音は変わらない。優しく、静かなまま。が、その面に浮かべているのは聖母の如き笑みではない。

 敵を前にし、見下すような──冷たい瞳。

 

「人々を幸福に導くのが、私の宿命。その私を拒否した守護者達には重罪を。そして──身の程をわきまえぬ穢れた亡者に、裁きの鉄槌を」

 

 ぼんやりとしたフォルトゥナからではなく、飾られたレンズから途方もない晶力の高ぶりが感じられる。

 やっぱり怒らせてしまったか。神様ならもうちょっと寛容でいてくれと内心で焦りつつ、フィオレは一同に集うよう声を上げた。

 

「なんだなんだ。神のくせに、正論突きつけられて逆切れかよ!」

「ごめんなさい、皆。文句は生き延びたら受け付けます」

『すみませんね、シャルティエ』

 

 さりげなくジューダスを引き寄せ、第二音素(セカンドフォニム)、大地の属性を限界まで引き出す。念話でシャルティエに詫びて、集中した。

 

「母なる抱擁に覚えるは安寧……」

 ♪ Qlor Luo Ze Toe Luo Rey Nu Luo Ze──

 

「フォルトゥナ、一体何を……」

「絶対的な力の差を、思い知るのです──インディグネイト・ジャッジメント!」

 

 半球型の結界が展開すると同時に、見たこともない円陣がフィオレを中心に床一杯に敷かれていく。

 円陣は二重三重にも広がったかと思うと、幾つもの雷光が煌めいた。

 

「うわあ!」

 

 轟音が木霊するも、それだけで一切の衝撃も負傷もない。代わり、結界が耐えかねたように弾けて譜陣も消滅する。

 

「耐えきったか……?」

 

 そんなわけない。

 信じたいその可能性をかなぐり捨てて、フィオレは再度譜歌を奏でた。

 譜陣が展開しきると同時に、飛来した何かが完成しかけた結界に突き刺さる。

 それは、ロニの全長をも凌駕する大剣だった。大剣はじりじりと結界内へ侵入を果たさんとするも、真下のフィオレを穿つより早く消滅する。

 保険に第二音素(セカンドフォニム)のレンズを握りしめていてよかった。敷かれていた円陣は消え、全身からドッと汗が浮かぶ。

 

「インディグネイト・ジャッジメント……神の鉄槌を、防いだ……!」

「あくまで、抗うか。己の犯した罪を認め、その贖罪として、偽りの命を捧げるのです!」

 

 リアラの驚愕を余所に、見下すような冷たい瞳に、明らかな怒りの色が宿る。神様にも感情があるとは意外だと胸の内で呟きながら、フィオレはフォルトゥナを見やった。

 降臨した際よりもその姿はぼやけ、色彩も一段と薄い。力を行使したせいか、冷静さを失い姿を保とうとしていないのか……前者であることが望ましいが。

 だが、あの様子を見るに立ち尽くしたまま恨みごとを連ねるに終わらないだろう。それは、彼女の頭上にあるレンズが証明している。

 もう一度、結界を張るか。いや、先程の鉄槌とやらに結界は耐えきることができなかった。今度も重ねがけで凌げるかは甚だ疑問である。

 

 ──楽観視はしない、今度は、己一人の被害に留まらないのだ。突き飛ばしただけでは誰も助からない。

 

 今まで考案したことはあっても、試したことはなかった。それでも、これしか方法がないと思わせるほどに晶力は高まっていく。

 対峙する相手が神だからなのか、それとも放たれようとしている力に恐怖しているのか。リアラなどは一点を見つめて、ぺたんと座りこんでしまっている。

 それに気付いて、フィオレは少女の隣に座りこんだ。

 

「リアラ。大丈夫ですか、リアラ」

 

 呼びかけた反応こそ示すも、リアラの目は一点を見つめたままだ。

 思い切ってその小さな肩を掴み、自分に向き直させる。それでやっと、焦点を失っていた彼女の目に光が宿った。

 

「フィオレ」

「呆けている場合ではありません。あなたに頼みがあるのです」

「……今の内に、時空転移を……?」

 

 呟くような声で確認するリアラに対して、フィオレは大仰に首を横へ振った。

 それが最善なのだろうが、フィオレが望むは別にある。

 

「時空転移ではなく、あのレンズから晶力がなくなる前に皆を安全なところへ避難させてください」

「……え?」

「今時代を移動したら、もともとこの時代の人間であるナナリーが置き去りにされてしまいます。助かりたいのは山々ですが、恩人を見捨てたくはありません」

 

 この時点で、フィオレは時空転移がどのようにして発生する代物なのかを理解していない。

 ましてや、状況が状況だ。深く考えるようなこともなく、フィオレはまくしたてた。

 

「今この状況に陥ったは私に原因がありますから、私を囮にしてくれてもいい。関係ない皆なら見逃してくれるはずです。聖女として愛でられるあなたも」

「!」

「だから皆を……」

 

 お願いします、と続けようとして。

 おどろおどろしく響いたその声を耳に、フィオレは立ち上がった。

 

「穢れた手で聖女に触るな──薄汚い、罪人が!」

「化けの皮が剥がれましたね」

 

 そう。フィオレがこれから行うべきは、リアラが力を使うまで彼らを護ること。

 自身が生き延びる方法は、皆がいなくなってから考える。

 

「奏でられし音素よ、紡がれし元素よ──」

「これ以上は時間の無駄です。消え去りなさい」

「穢れた魂を浄化し、万象への帰属を赦さん……」

 

 今はもう体内にしか存在しない第七音素(セブンスフォニム)をかき集め、足元に譜陣を、手のひらに仄かな光を灯す。

 

「ラスト・ヴァニッシャー」

「ディスラプトーム!」

 

 上下からの圧力を感知したフィオレは展開した譜陣に光を押し付けた。

 従来、一方向へと放たれていた万象を音素と元素へ還すその光が、加えられた圧力のみに向けられる。

 触れればどのようになるか。想像するだに恐ろしい圧力が、生まれる傍から消えていく。

 ただし、発生した衝撃は消しきれず一同を包んだ譜陣の外へと漏れ、床や壁はおろか透明な天井をも砕き、崩壊させた。

 

「馬鹿な……」

 

 力が弱まる気配もなく、唐突に圧力がかき消える。

 それに合わせてディスラプトームの行使をやめたフィオレは、改めてフォルトゥナを見た。

 正直、幸運な事態である。あのまま第七音素(セブンスフォニム)を放出し続けていたら、やがて肉体を構成する音素(フォニム)と元素のバランスが崩れて、あの術の被弾より前に消滅していた。

 一方、今ので完膚無きまでにフィオレを消そうとしていたのだろう。神らしからぬ驚愕の表情をフォルトゥナは浮かべていた。

 

「神の、この力が。退けられた……!?」

「言ったはずですよ。人間は、生きている限り成長し続ける。あなたにとっては非常に脆い存在でも、時としてこんな奇跡を起こすことがある」

 

 無論、フィオレにとっては奇跡でも何でもない必然の行動だ。しかし、奇跡が彼らの専売特許ではないと知らしめるにはちょうどいいだろう。

 幸い、まだ体は動く。とはいえあんな不透明な物体に攻撃する気はない。そんな素振りを見せて、火に油を注ぐつもりもない。

 挑発すれば何とかなる相手ではない以上、事態が激変するまでひたすら凌ぐしかなかった。

 驚愕の表情を浮かべながらも、フォルトゥナはその姿をいっそう透明化させている。

 まさか力を使い果たして消滅する、なんてことにはならないだろう。本腰入れて防御したとはいえ、たかだか二つの術の行使で消え失せなどしたら、お粗末すぎる。

 さて次は何を仕掛けてくるやら、と身構えたその時。

 別方向から晶力の高まりを感じて、フィオレは思わず振り返った。

 視線の先には、敢然と立ち上がったリアラが首にかけたレンズペンダントを手に瞳を閉ざしている。これで皆の無事は保障されたかと胸を撫で下ろしかけて、フィオレは固まった。

 リアラの放つ光は、フィオレにも及んでいたから。

 

「リアラ……!? 」

「フォルトゥナ。わたしは、フィオレの言葉が間違いだなんて思わない」

 

 光はどんどん膨らみ、直視を許さぬほど強くなっていく。その最中にも、リアラはフォルトゥナを真正面から見つめていた。

 フォルトゥナが何かを言うような素振りを見せる。しかし、それを聞きとるよりも早く。

 リアラのレンズから放たれる光が一同を飲みこみ、かつて見た白光が視界を塗り潰していく──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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