swordian saga second   作:佐谷莢

39 / 103
 別に作戦立ててねーし、そもそも決死じゃねーし。
 そんなわけで、エルレインによって飛行竜の積荷にされてしまったフィオレは脱出を試み、ここでようやくパーティ合流します。しかしまた離脱します。
 リアラを止められず、敵に不意を突かれてやりたい放題されて、ここのところいいとこ無しですね。
 ジューダスが不機嫌なのも仕方ありません。
 そんなわけなので、本来あるべきグラシャラボラス戦は、一発ハデに決めちまいましょう(笑)


第三十八戦——飛行竜撃墜大作戦~決死の大脱出劇(誇大広告有)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイルが少女の救出に駆け出す頃、フィオレは必死になって視界を取り戻そうとしていた。

 エルレインによる転移の光を間近に見てしまったがため、眼が眩んでしまったのである。

 幸いなことに、フィオレが視界を取り戻すまで何も起こることはなかった。

 それは、よかったのだが。

 

「ここは……」

 

 見回してすぐに気付く。ストレイライズ大神殿内ではない。

 薄暗い室内、よどんだ空気、硬質にして無骨な造りの壁や床……

 シルフィスティアの力を借り、現在地を把握する。普段ならすぐに実行していたその選択をせずに、フィオレはよろよろと歩き始めた。

 大量の物質を体に乗せられたせいか、妙に体の節々が痛い。更に気分も悪い。それでもフィオレは足を動かしていた。

 エルレインとの会話によって抱いてしまった守護者達への不信感、彼らと念話を交わすことによって発生する脳の負担を回避するためだけではない。

 この場所には覚えがあった、そう遠くない昔、スタンと二度目の再開を果たし、偽りでしかなかった凱旋に使った、天地戦争の遺品──

 見たことにある扉を引けば、大量の風がなだれこんでくる。まとわりつくそれらを払うようにして足を踏み出せば、そこは屋外だった。

 管制室へと続く、屋外の一本道──飛行竜の船首付近。

 眼下を見下ろせば、景色がどんどん流れていく。緑広がる肥沃の大地は、あっという間に大海原へと姿を変えた。

 風を押しのけるようにして飛ぶ飛行竜がどこへ行こうとしているのか探ろうと、管制室へ入る。

 かつて大勢の船員が命を断たれたそこは無人で、いくつかのモニターや計器が並ぶばかりだ。

 リオンと違い、フィオレに飛行竜に関する知識はない。故に自動操縦を解除することなどは一切できないが、それでも設定された目的地を探ることはできた。

 飛行竜が辿りつくであろう、その場所とは。

 

「カルビオラ……」

 

 十年後において聖地と呼ばれる場所で、同じことをしようとしているのか。

 飛行竜内部の監視カメラの内、いくつかを動かせば倉庫の一角にこれでもかとレンズが詰め込まれている。レンズと共に神の瞳を持つフィオレを転送したのだ。間違いないだろう。

 レンズと共に倉庫に積みこまれなくてよかった。下手を打てば、フィオレは再びレンズに押し潰されることで意識を奪われ、二度と目覚めることはなかっただろう。

 未だ恐怖の記憶が残る脳裏からそれを追いだして、善後策を検討する。

 グズグズしていたら飛行竜はあっという間にカルビオラへ到着してしまうだろう。自動操縦を解除できない、レンズの持ち出しも不可となると……選択肢はふたつ。

 レンズの所在を特定し、飛行竜より投棄するか。あるいは飛行竜ごと、海中へ叩き落とすか。

 もう一度管制室の機能を使い、レンズが積まれた倉庫を確認する。倉庫の位置が最下層なら、床を破壊してレンズを一気に投棄するという案が採用されたのだが……そう都合よくはいかないようだ。

 と、なれば選べるのもひとつ。飛行竜もろともレンズを海中へ落とす……飛行竜ルミナ=ドラコニスを墜落させる。

 そうと決まれば、動力室を探して飛行竜が駆動する力の源を探る必要があった。操縦室を破壊して制御不能となり、きりもみ垂直落下してくれるならそうするが、こんなにも巨大な物体で半分は生きているのだ。動力室が存在すると思われた。

 計器に何度もエラーメッセージを突きつけられつつ、どうにか動力室……コア・レンズなるものが安置された部屋があることを突き止めた。これを破壊すれば、動力そのものがなくなるはずだから、理屈上飛行竜は墜落する。

 ……本当は、もう一つ手はある。それは、レンズそのものを消してしまうことだ。レンズだけを音素と元素に還してやれば、さしものエルレインも元に戻す術は知らないだろう。

 しかし、実行すればフィオレは必ず消耗する。そこを、この飛行竜に搭乗しているだろう敵方に狙われたらひとたまりもない。まだコア・レンズを素直に破壊したほうが勝算はある。

 軍事機密ということで、一度たりとも足を踏み入れたことのない機関部を目指し歩いていると。

 

『あの、フィオレ……』

 

 珍しくシルフィスティアが自ら話しかけてきた。どこかおどおどしたような声音が珍しくて、足を止める。

 

『何か?』

『気休めとかじゃないからね? 君は間違いなく人間だよ。だってボク達は人を介してしか人々の営みに関われないんだから。フィオレは強大すぎる力を持っても理性的に……』

『それは、私がもっともよく知っていることです。なぐさめてくれてありがとう』

 

 偽らざる本心を告げたつもりが、どう感じたのだろう。シルフィスティアはそのまま黙りこくってしまった。

 言い方を淡々とさせ過ぎたせいで皮肉に受け取られてしまったのか。そう取られてしまった可能性を確認しようとして、フィオレはその考えを放棄した。

 前方より、人が移動する音──軽快に床を蹴る足音が聞こえる。それも複数人分。

 手元には、紫水も懐刀もない。今こそ、奥の手の出番だ。

 コンタミネーションを起動させ魔剣を取り出し、それを携えてゆっくりと足を踏み出す。

 気配を消し、足音を忍ばせ、呼吸を殺し。擦り足でじわじわと間合いを詰めてかかる。

 カンカンカン……と聞こえる足音がどんどん大きくなっていく。距離が縮まっている証拠だ。

 曲がり角手前、剣の刃が及ぶ位置に到達して立ち止まる。まだフィオレの存在に気付いていない相手が飛び出してきたところで仕留める寸法だ。

 そういえば、このやり方で危うくスタンをなます切りにするところだった。そんな過去を思い出しながら、小さく呼気を吐く。

 聞こえる足音はただ急ぐばかりで、警戒も何もない。

 相手の一部が視認出来たと同時に、魔剣を振り抜き──

 

「カイル、止まれ!」

「え? うわあっ!」

 

 既視感が、眼前を走馬灯のように横切っていく。

 黄金色の蓬髪は記憶のものよりボリュームダウンしているが、それは些細なこと。驚く空色の瞳は、震えるほどに酷似していた。

 ただし、それは束の間の夢。

 剣を振り回した、その音で気づかれたのだろう。彼の姿は曲がり角の向こうへ、引きずり込まれるように消える。

 入れ替わるようにして現れたのは、人型でありながら頭部がトカゲの白骨じみた生き物だった。 

 反射的に剣を突き立てそうになって、どうにか思いとどまる。

 頭部が白骨に見えたのは、大型爬虫類の頭部を模した白い仮面を被っていたからだ。

 そんな奇天烈な人間は、一人しかいない。

 

「ジューダス?」

 

 双剣を振りかざし臨戦態勢だったその体が、僅かに揺れる。

 声を聞き名を呼ばれ、姿を確認しても。彼は武器を収めようとしなかった。

 確かに、フィオレとて計りかねている。ジューダスにしてもカイルにしても、彼らは一体どうやってこの飛行する竜に乗り込んだのだろうか。

 とりあえず、眼前の彼が本人であることを確かめるべく、フィオレは剣を体内へ収めた。

 

「……フィオレか?」

『本人ならこれが聞こえるはず。シャルティエも、いますね?』

 

 念話を用いて話しかけたところ、即座に真偽は確定した。ふうっ、と息を吐き出す音が聞こえる。

 

「念話を使い、禍々しい剣を一瞬で消した……そんな奇天烈な真似をするのは、一人しかいない」

『よかった、無事だったんだね。フィオレ!』

 

 耳元で囁きかけられたら背筋が震えるほどに、外見を反して落ち着いた声と、軽い優男風の声。間違いなく彼らだ。

 再会の挨拶も何もなく、彼は淡々と現在の状況を伝えてきた。

 

「僕らは今、ウッドロウよりレンズ奪還の任を与えられている。そのため、古代の飛空艇を使って飛行竜を追ってきた。お前の救出に来たわけじゃ「蛇足は結構です。レンズがどこにあるかは存じておりますが、総出で運び出すなんて言わないでくださいよ。グズグズしていたら、飛行竜がカルビオラへ到着してしまう」

 

 それに関して先程、船首へ赴いたことを報告する。飛行竜の自動操縦にロックがかけられていたことを告げれば、彼は小さく歯噛みした。

 

「あちらも、バカではないということか」

「何を今さら。例えあなたにロックの解除が可能だとしても、それなりの時間を要すると推測します」

「……」

「だから、飛行竜ごとレンズを海へ沈めましょう。奪還の任、と言っていましたが、封印に有効策があるわけでもなし、神の眼と同じことになってごらんなさい。私は嫌ですよ、あんな厄介事はもうこりごり」

 

 それを提案すれば、彼は長々と息を吐いてくるりと背を向けた。

 自らがやってきたであろう、機関部へ。

 

「いいだろう。そうとわかった以上、お前の提案以上の上策があるとも思えない。……戻るぞ」

「フィオレ!」

 

 彼と共に曲がり角を通過した瞬間。フィオレは小柄な少女の突進を受けた。

 顔を上げた少女の瞳は、浮かべた涙が今にも零れそうになっている。

 

「無事でよかった……本当にごめんなさい! わたしがハイデルベルグを飛び出したりしなければ、こんなことには」

「──私の立場なら、いつかはエルレインと対峙しなければならなかった。それよりもリアラ」

 

 少女の耳元に口を寄せて、ひっそりと囁く。内容を聞いた瞬間、リアラはがばっと身を離した。

 

「そそそ、そんなことないわ! カイルとなんて、何も……!」

「悩みが全部吹っ飛んだような顔して何言ってるんですか。まあ、詳しい話はナナリー達から聞くとして、元気になったならそれでいいです」

「あ、気づいたかい? リアラねえ、カイルと……「ナナリー!」

 

 何やら語りだしたナナリー、頬を染めたリアラが大急ぎでその口を塞ぎにかかり、カイルはゆでダコのように真っ赤になっており、ロニはその横でひたすらにやにやしていた。

 ジューダスは、この緊急時に、と言いたげに呆れている。その口が叱咤を吐くよりも前に、フィオレは大仰に手を叩いた。

 浮ついた空気を一新するように。

 

「さ、続きは後でやりましょう。話は聞いていましたよね、急ぎましょうか」

「仕切るな。リアラの説得に失敗した挙句、囚われの身になったくせに。どれだけこっちが迷惑したと思っている」

 

 そのまま一同を促して動力室を目指そうとしたところで、珍しくジューダスがフィオレの失態を上げ連ねる。

 それを引き起こした張本人が何か言おうとするのを、フィオレは止めた。

 

「──そうですね。わずらわせたこと、迷惑をかけたことは事実です。謝罪しましょう」

「謝罪の一言で片付くことか」

「片付けます。取り返しのつくことですからね」

 

 妙に機嫌の悪いジューダスを、その一言で黙らせて。フィオレは管制室で見たマップを思い出しつつ機関部を進んだ。

 飛行竜は限りなく生き物に近い機械だと聞いている。そのため、機関部は居住エリアと程遠く、生体組織を彷彿とさせる作りを垣間見ることができた。

 

「それにしても、高速移動中の飛行竜によく乗り込めましたね」

「イクシフォスラーの最高速度で追いついて、碇を飛行竜の背中にぶっ刺したんだ。切り離すのも取り外すことも早々できねーから、帰りの心配はしなくていいぜ」

 

 聞き慣れない名詞は古代の飛空艇とやらのことだろう。飛行竜の動力を落とした後はまた脱出ポッドを使おうかと考えていたのだが、そうとわかれば気楽なものだ。

 迷いない足取りで進むフィオレに、疑問を投げかけたカイルを前述の理由で納得させて。特にこれといった障害もなく、一同は動力室へと辿りついた。

 部屋の正面には、飛行竜の動力源たるコア・レンズが取り付けられている。ピクリとも動いていないが、大小様々な管に繋がれているあたりは心臓を思わせた。

 しかし、ここへきて一同の行く手を塞ぐように、コア・レンズを護るように。動力室には一人の男が立っていた。

 葡萄酒色の髪を後ろへ撫でつけた、神団騎士の出で立ち。

 大聖堂にて失神していたはずだが、いつのまにやら復活したのだろう。

 こうなると、トドメを刺さなかったのだが悔やまれる。

 

「来たか。崇高なる理念を理解できぬ、哀れなる者達よ」

「はいはい、勝手に哀れんでてよ。けど……レンズは使わせないよ!」

 

 まことに見当違いな一言を、ナナリーがばっさり片づける。

 重ねるようにジューダスが降伏勧告を行うも、彼は取り合おうとしなかった。

 

「リアラさま……本当に、よろしいのか?」

「天光満つるところに……」

 

 ガープの眼が少女を映し、その視線から護るようにカイルが剣を握る。しかしガープも、そしてリアラにも動揺はなかった。

 

「神の救いを拒絶する者達と行動すること。あまつさえ神にたてつく亡霊を味方に引き入れるなど……とても聖女のすることは思えません」

「……わたしの求めていた英雄は、カイルだった。だから例えどんな結果になって彼と共に歩むわ。そして、彼が信じる仲間達を……フィオレを信じる。そう、決めたの」

「リアラ……」

「……運命を告げる審判の銅鑼より その響きもて万象を揺るがす」

 

 経緯はまったくわからないが、そういうことになったようだ。

 これから先フィオレは英雄と疑われることなく、カイルも英雄として認められ、リアラは己の英雄を見出した。いいことづくめだ。

 対するガープは、失望したように息を吐いた。

 

「……あなたはエルレイン様とは違い過ぎる。そんなことで救いをもたらせはしない」

「ベラベラしゃべるのは勝手だがな。そろそろどかねえと痛い目見るぜ」

「あくまで飛行竜を止めるつもりか。ならば……!」

 

 ガープと一同の間、床に描かれていた転送陣と思しき円陣から何かが姿を現す。

 それは、まるでばらばらにした複数種々のぬいぐるみを適当に縫いつけたような魔物だった。

 頭部は硬質な皮膚を持つ怪物、翼と前足は猛禽類のもの、下半身は多分獅子。これで尻尾が蛇なら完璧である。

 

「お前達の相手は、このグラシャラボラスで充分……」

「こなた天光満つるところより、かなた黄泉の門開くところに生じて滅ぼさん。響け、終末の音──」

 

 発動を促すその言葉は、発生した雷撃によってかき消された。

 虚空より生じた極太の雷はコア・レンズを、そして詠唱中に発生した敵を遍く包みこんでいる。

 視界を灼きつくす閃光が、耳をつんざく轟音が動力室を貫いた。

 そして白光が消え去る頃。そこには黒炭のグラシャラボラスと、電磁を帯び完膚なきまでに破壊されたコア・レンズを含む周辺の機材が散らばっていた。

 

「や……やったのか?」

「あのガープとかいうのには逃げられました。でも、これで飛行竜も墜ちます。退避しましょう」

「なんでそう言い切れるんだよ。考えたかねーが、あの消し炭に混じってるかもしれねえじゃねえか」

 

 食い下がるロニを見やって、フィオレは少々ためらいながらも理由を話した。

 

「……人間の髪は焦げると、それはそれは嫌な匂いを発します。それがないんです」

「な……なんでそんなこと知ってるんだよ」

「経験があるからですよ」

 

 絶句するロニをさておいて、フィオレはジューダスを見やった。

 

「どこを目指せばいいですか?」

「甲板だ。そこにイクシフォスターがある」

 

 フィオレを押しのけるようにして先を急ぐジューダスの後を追う。動力室を出で、正面の転送装置へ殺到するも、作動する気配はない。

 

「コア・レンズから晶力が供給されていないから、手動の扉でないと開かないと思います」

「……そっ、そんなことはわかっている!」

「動かないの!? じゃあどーやって脱出するのさ!」

 

 とりあえず、彼らに任せきりはいけないということがわかった。

 緊急事態ということで、今度こそシルフィスティアの力を借りることにする。

 

『シルフィスティア。あなたの目を貸してください』

『う、うん!』

 

 風の視界によって周囲の状況を把握したフィオレは、くるりときびすを返した。

 近道はいくつもあったが、いずれも晶力の供給が途絶えたことで制御不可、あるいは緊急用の隔壁が降りてしまっている。

 全て手動となると、居住エリアを抜けるしかない。

 

「ついてきてください」

 

 反論するヒマなどないことを、周囲から響く不吉な音で察したらしい。

 彼らがついてきていることを確認しながら、船首付近の通路を経て居住エリア──船員の部屋やら厨房やらを通過していく。

 

「へえ、飛行竜って広いんだね……」

「こっちです」

 

 様々な機器が不気味な悲鳴を上げていることを除けば、がらんと静まり返った船内を駆け抜け、一行はようやく甲板へと到達した。

 彼らよりイクシフォスラー、と呼ばれていた飛空艇は思いのほか小型で、ロニの話の通り打ちこんだアンカーによって飛行竜に張り付いている。

 吹き荒れる風の中、どうにか避難すれば飛空艇内の床には紫水と懐刀が所在なく転がっていた。

 

「回収してくれたんですか、ありがと」

「これで貸し借りはなしだ。いいな」

 

 引き寄せる暇もあらばこそ、さっさと席につけと怒鳴られて粛々と従う。

 直後、ジューダスが打ち込んだアンカーを切り離したのだろうか。がくんと機体が揺れて、じりじり降下していたのが止まる。

 窓から外界を見やれば、飛行竜は頭からきりもみ垂直落下後に、海中へ吸い込まれていった。

 それを見届けたロニが、大仰なまでに胸を撫で下ろしている。

 

「ヒュー! 間一髪ってところだったな」

「でも、結局レンズは取り返せなかったね……」

 

 ウッドロウから奪還、と言われたからには取り戻しておきたかったのだろう。彼は名残惜しげに盛大な水柱の飛沫を見ていた。

 

「他に方法がなかったんだ。仕方あるまい」

「そうだよ。皆無事で、フィオレとも合流できたんだ。レンズだって処分した。いいことづくめじゃないか」

 

 前向きなナナリーの意見に大方が同意し、さてハイデルベルグに戻ろうとジューダスが機首を旋回する。

 それが悪かったわけでもないだろうが、状況が一変したのはこの瞬間のことだ。

 旋回した先、一瞬見えた海面にポツンとした黒い点が生じる。飛行竜の最期かと、もう一度落ちゆくアレから脱出することになろうとはと、感慨深くそれを見つめる。

 しかし、黒点が瞬く間に肥大したのを見て、感慨は吹き飛んだ。

 

「ジューダス、出力を上げて!」

「!?」

「何か言うなら海面を見てからに!」

 

 ジューダスの陣取る操縦席に駆け寄り、ハンドルをしっかり握らせて出力操作のレバーを思い切り傾ける。

 急に速度を上げたせいで体にとんでもない負荷がかかるも、誰一人として文句はなかった。

 海面を見やるまでもなく、巨大化した黒点は飛空艇を追う……否、世界を呑みこみながら際限なく膨れ上がっていたからである。

 出力全開により一度は逃れたと思われるも、肥大化は飛空艇の推進力を遥かに上回っていた。

 

「駄目だ、間に合わねえ……!」

 

 迫る闇が、ぱっくりと口を開いたかのように。漆黒の球体内部に、尋常でない光があったのを見た。

 そんな、気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。