swordian saga second   作:佐谷莢

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 引き続きレアルタ。映像資料の確認と、こもごも。
 生物学上における認識の差異という奴ですかね(適当)


第四十二戦——概念的認識齟齬事案発生~リアラ、どうしちゃったの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〔世界はかつて、ふたつに分かれていました……〕

 

 映し出されたのは傘のような形のダイクロフト、その傘の柄の位置に取り付けられた剣状のベルクラントだ。

 天上人が住む天上世界と、天上人によって支配されていた地上人の住まう地上。

 天上人の圧政に耐えかねた地上人が反旗を翻す──まだ冒頭なのに、すでにおかしな部分が発生している。

 世界が隕石の落下により、太陽の光が得られなくなったがために天空都市が考案され、試用期間として天空へ移った人々が勝手に天上人と名乗り始めたのではなかったのか。

 

 〔これが、後に天地戦争と呼ばれる人類史上最大にして最悪の戦争でした……〕

 

 次に映し出されたのは、そのダイクロフトめがけて上昇する飛行物体である。

 イクシフォスラーと違い、妙にずんぐりとした機体だ。元々飛行艇として作られたわけではないことが推測できる。

 

 〔地上人はダイクロフトに対抗するべく、空中戦艦ラディスロウを建造……〕

 

 ラディスロウ。クレメンテが封印されていた場所にして、海底に沈められていた天地戦争の、負の遺産。

 外観を見たことはなかったが、あんな形だったのだろうか。

 地上人は総攻撃を仕掛けるも、ベルクラントの膨大な光──晶力を変換したものが、剣状の先端に込められていく。

 それが膨張し、放たれると同時に上昇中だったラディスロウが。

 光に、貫かれた。

 

「!」

 

 攻撃を受けたラディスロウは爆発炎上し、空中でばらばらに四散した。

 それを象徴的出来事であるかのように、無機質なナレーションが天地戦争の終わりを──天上人の勝利で終結し、戦争こそ終わったものの、大地はどうしようもないほど荒廃していたことを映像は伝えている。

 焼けた森林、削られた山脈、干上がった河川。人々は自分の住処を失い、地上の物資を支えに成り立っていた天上世界にも影響を及ぼしたそうな。

 もはや人に残されたのは、滅亡へ向かって進む一直線の道のみと、誰もが絶望に囚われたその時だったらしい。

 救いの手が、人々に差し伸べられたのは。

 映し出されたのは、粗末な衣装に身を包む無数の人々だ。

 人々が取り巻くその中心には、非常に見覚えのあるシルエットが光り輝いていた。

 

 〔神は、一人の救世主を地上に遣わしました。その名はエルレイン〕

 

 予想通りの名である。

 エルレインは人々に、荒廃しきった地上でも暮らせるよう、特別な力を込めたレンズを与えたらしい。映像を見る限り彼女のシルエットからほとばしった光を人々が両手を広げて受け入れ、人々のシルエットの頭部がぼんやりと光るようになっている。

 そして人々は生きる希望を見出し、自らの行いを悔い、救いを授けてくれた神に深く感謝するようになったらしい。

 ドームの全容と、取り巻く荒廃した大地を映して、映像はこう締めくくられた。

 

 〔忘れてはなりません。我々が今生きているのは、神の救いがあればこそなのです。そして、繰り返してはならないのです。人間自らの手による、あやまちを……〕

 

 映像は静かに薄れ、やがて何も写さなくなった。それと同時にぼんやりと明かりが灯り、音を立てて扉が開く。

 それでも、一同を包む沈黙は守られ続けたままだ。

 どれだけの衝撃が一同にもたらされたか、その表情が物語っている。

 初めに我に返ったのは、やはり彼だった。

 

「……これでハッキリしたな。やはり歴史は変えられたんだ。エルレインの手によって」

 

 まるで夢から覚めたように、一同の視線がジューダスに向かう。

 それは彼女と同じ存在であるリアラでさえも、例外ではない。

 

「天地戦争の勝者を入れ替え、己が望む世界……人々が神を称え、崇める世界を作り上げた」

「なあ、ジューダス。ずっと思ってたんだけどよ……この世界ができたってことは、俺達がいた世界は……」

 

 おそらく、立体地図を見た際知っている街がひとつもないと知ったその時だろう。ロニが言わんとしていることを察し、ジューダスは重々しく頷いた。

 

「残念だが、お前が思っている通りだ。歪められた歴史のベクトルの上に、僕達の世界は存在しない……」

 

 現代どころか、十年後、十八年前の世界すらも。その現実を直視して、ロニは憤りを吐き捨てた。

 その様子に触発されたように、ナナリーも口を開く。

 

「なんてえこった……!」

「ようやくはっきりしたね。この世界のからくりってヤツがさ……けどね。はいそうですか、って全てを受け入れられるほど、あたしは人間ができていないんだよ!」

「オレだってそうさ! この世界を作ったエルレインを、絶対に許せない!」

 

 度肝を抜かれたその後に、各々の感情が目覚めていく。

 その中で、全てを知ってもその心の中から世界の現状が刻まれているであろう少女が、ポツリと呟いた。

 

「でも……この世界の人は、みんな幸せそう」

「えっ?」

 

 呆気に取られるカイルになど気にもせず、リアラはそれまで胸の内に仕舞っていただろう疑問を投げかけた。

 世界を否定する、己の英雄に向かって。

 

「ねえ、カイル。この世界は、本当に間違っているのかな?」

 

 確かに歪んだ方法で作られたかもしれないが、それでも結果として人々は幸せに暮らしている。フォルトゥナがいないということは、一応実現していないことはわかっているだろうに。

 リアラはまるで夢見るような面持ちで、言葉を続けた。

 

「もし間違っていないんだとしたら、わたしの役目も終わって、カイルと二人で……」

「リアラ!」

 

 その先の、甘い幻想を断ち切られ。

 リアラはまどろみから叩き起こされたように、つぶらな瞳を瞬かせた。

 

「どうしちゃったんだよ、リアラ! リアラは、このままでいいっていうのか!?」

「それは……」

 

 態度からして明らかにイエスなのだが、カイルの剣幕を見て正直に言うほど、少女は愚直ではなかった。

 カイルはそれすら気づかず、それこそ愚直に己の気持ちを吐露している。

 

「オレはイヤだ! だってここには、誰もいないじゃないか! 父さんも母さんも、フィリアさんもウッドロウさんも……誰もいない!」

 

 いないのは、当たり前だ。元から存在しなかったのだから。この場に居るカイル達ですら、リアラの力で歴史改変から偶然逃れたに過ぎない。

 一同がこの世界を肯定してしまえば、そのまま消えるしかないのだ。

 

「このままみんなが消えるなんて、オレは……イヤだ!」

「消える……」

 

 かつての世界において、思い入れる人間が一同以上に存在しないだろう彼女は、戸惑うしかない。

 それを見越したように、ジューダスが重ねた。

 

「人が消えるということは、その人間が積み上げてきた歴史もまた、消えるということだ。人の歴史を否定し、存在する世界……少なくとも、僕は許せない!」

「ジューダス……」

 

 普段、何に対しても斜に構えていた彼の熱弁に、リアラはおろか一同も驚いたように注目している。

 これならリアラも説得されるだろうと踏んでいたのだが、甘かった。

 

「……フィオレは?」

 

 少女の視線はいつのまにか、傍観していたフィオレに向けられていた。

 一呼吸置いて、釘は刺しておく。

 

「私は、あなたの意見に賛同しません」

「わかってるわ。でも、聞きたいの。あなたは、どうするべきだと思うの?」

 

 話すこと自体はまったく構わないが、注意しなければならないことがあった。

 息をついて、一同を見やる。

 

「自分の意見は大切に、人の意見に流されないでくださいね? この後どうするべきなのか、私の中では決定しているのだから」

「……どーゆー意味だ?」

「この世界に対して、しがらみ抜きで言わせてもらえば。素晴らしい世界だと思います」

 

 一転して世界を肯定するフィオレに、一同は驚愕を隠さない。

 無視して、フィオレは言葉を続けた。

 

「その理由としてはリアラ、あなたが語った全てに起因します。だから、リアラが一瞬でもこの世界を受け入れてもいいんじゃないかと思ったことも理解できる。人を幸福にすることが生まれてきた理由である聖女には、この世界が間違いだなんて思わないでしょう。事実エルレインも、そう思ってこの世界を創り上げたのでしょうし?」

 

 彼女もまた、世界はこうあるべきとしてこの現実が存在する。

 カイル達の言い分がわからないはずもなかろうが、迷っているリアラはフィオレの意見を求めたと解釈していた。

 ならば、応えるのが礼儀だ。

 

「両親が生きていて、兄弟が生きていて、愛する人と添い遂げることができたらどんなに幸せなことか……何一つ変わらない日々がどれだけ貴重で儚くて、愛おしいものかわかるから、この世界の完全否定は難しい」

「じゃ……じゃあフィオレは、世界がこのままでもいいって言うのか!?」

「人の話は最後まで聞くものですよ、カイル」

 

 まるで裏切られたかのような面持ちを浮かべ、迫るカイルを軽く流す。

 落ち着かせるための一言は、狙った以上の効果をもたらした。

 

「家族全員で共に暮らしていく。一度たりともそのような幻想を抱いたことがない、とは言わせません」

「そ、それは……」

「されど、エルレインがしたことは看過できるものではありません」

 

 彼女がしたのは、家族の住む家屋に放火して全焼させ、途方に暮れさせてから住処を提供したようなものである。自分に恩を着せる形で、更には生活費まで定期的に与えているようなものだ。

 何かに頼り続けて──この場合は依存してまともに生きられる人間などいた試しはない。依存対象が消えてしまったら、この世界の人々はそれこそ滅びるしかないのだ。

 

「なるほど、わかりやすい」

「そして私には、守護者達の願いを叶えるという責任があります。彼らが求めるはあるがままの世界。とてもこの状態が、当てはまるとは思えない」

 

 宣言通り、リアラの考えとは同調しないフィオレの意見を、少女は静かに聴いていた。

 しかしここにきて、おずおずとだが質問をしている。

 

「じゃあフィオレは、守護者の願いを叶えるためにこの世界を否定するのね?」

「それだけではない、とだけは言わせていただきましょう。それにね、夢は覚めるから夢なのです。ここは確かに理想郷かもしれないけれど、いつまでも寝ていては体に毒でしょう? 彼らを、起こしてあげるべきだと思いますよ」

 

 リアラにだけ通じるその例えを使えば、少女はまるで憑き物が落ちたように、ひとつ頷いた。

 心なしかその顔は、どこか晴れやかに見える。

 

「ごめんなさい、みんな。ヘンなこと、言っちゃって……」

「……わかってくれたら、いいんだ」

 

 正反対に、カイルの表情はどこか沈んでいる。鎮静剤が効きすぎたかと、フィオレはおもむろにその頭を撫ぜた。

 始終落ち着かない硬質な髪だが、こうして触ると驚くほど誰かさんを思い起こさせる。

 ルーティの遺伝子はどこへ行ってしまったやら。

 

「フィオレ?」

「私に言い負かされているようでは、エルレインの手のひらで転がされてしまいますよ。それで、我々は何をするべきなんでしょう?」

 

 手を引っ込めて促せば、カイルははっとしたように一同を見回し、拳を握って見せた。

 

「やろう、皆! オレ達の世界を、取り戻すんだ!」

「あぁ! エルレインに、俺達の意地ってもんを見せてやろうぜ!」

 

 俄然志気が上がる一方で、ふとナナリーが首を傾げた。

 肝心要の、具体的な方法はどうするのかと。

 

「単純な話だ。エルレインが捻じ曲げた歴史を、元に戻せばいい。そのための力は、リアラ……お前が持っている」

「時間移動……ね」

 

 交わされた会話を耳に、カイルは合点がいったように指を鳴らした。

 ようやく話がその方向へ向かったと、フィオレとしては満足な限りだ。

 

「……そっか! 天地戦争の時代に行って、エルレインがしたことを元に戻せばいいんだ!」

「正確には、地上軍に勝利をもたらすこと、ですね」

「さっそく行こう、リアラ! オレ達を、その時代へ連れてってくれ!」

「それはムリだな」

 

 少々興奮気味のカイルがリアラにそれを乞うも、ジューダスが却下している。

 気勢を殺がれて猛抗議するカイルを、リアラの申し訳なさそうな声音が彼を落ち着かせた。

 

「みんなを過去に連れていけるだけの力が、わたしにはないの……レンズがあれば、いいのだけど……」

「それに関しては、俺にいい案がある」

 

 珍しく、自信満々に挙手をしたロニの目は何故かフィオレに向けられている。

 嫌な予感を覚えつつも、仲間達に促されて彼はのたまった。

 

「フィオレが持ってるレンズ、神の瞳とか呼ばれる特殊なレンズなんだろ? だったら、俺達を過去へ連れて行くくらいわけな「ダメよ!」

 

 彼らがすっかりその気になる前に、このレンズ自体に特殊な力はないことを説明しようとして、金切り声がそれを遮る。

 声の主は、血相を変えたリアラだった。

 

「……リアラ?」

「確かに、神の瞳は特殊なレンズで様々な力を秘めていると言われているわ。けど神の瞳自体には何の力もないの。元となる力を変換して、様々な効力を捻出しているに過ぎない」

「!?」

 

 知っていたことではあるが、正体を知る者から放たれるとその重みは格別だ。

 それにしても、元の力というのは。

 

「リアラ、元の力ってまさか……」

「保有者が所持する生命エネルギー……命そのものよ」

 

 衝撃が、一同を包み込む。

 それまで、保有するエネルギーが何もないことを知っていて、常に他の要素からエネルギーを搾取していたフィオレにはただ頷くことしかできないが。

 

「そうですよねえ。私一人の寿命じゃ、この人数の時間移動なんて。ムリムリ」

「そういう問題じゃなくて……!」

 

 高だか人間一人の、それも二十七年ばかり使った後で残った寿命をエネルギー換算してもロクなものは残らないだろう。

 抗議じみたリアラの声をかき消して、その声は聞こえた。

 

 〔地上に住む人々よ……扉を開け、外へおいでなさい。そして、神の恵みをその身に……〕

 

「あの声は……エルレイン!」

「外へ行ってみよう!」

 

 噂をすれば何とやら。まさかの本人降臨かと、慌てふためいて外へ出る。

 その姿こそないが、いつの間にかオブジェの周囲に人々が集まり。一様に天を仰いでいた。

 空に何かあるのかと同じところへ目をやれば、彼方で何かが光っている。肉眼で注視するも限度があり、フィオレは風の守護者へ語りかけた。

 

『シルフィスティア。あなたの眷属の視界を貸してください』

『いいよ。ボク自身は無理でも、それくらいならお安いご用』

 

 まぶたの裏に投影したのは、発光源──ダイクロフト下部から伸びるベルクラントだ。剣状の刀身に光が帯び、切っ先へ光が溜め込まれていく。

 やがて収束した光は、下方へまっすぐ放たれた。あの映像と同じ光景だが、今回は何を破壊することもなく光のすべては真下に施設へ注がれている。

 その施設にて、受け止めたれた光は三方向へ分裂したかと思うと、一直線にドームへと吸い込まれていった。

 

「……いない……?」

「上だ、カイル!」

 

 その声で我に返り、自分の視界を取り戻せば。

 オブジェを中心に雪のような光が降り注ぎ、人々はそれらを一心に、自らのレンズで受け止められていた。

 

「今のは、一体……!?」

「おそらく、ダイクロフトからああやって人々のレンズに力を与えているんだ」

「空から見下ろして力を与える……へっ! 神様気取りかよ」

 

 そうこうしている間に、光はフィオレの元へもやってきた。神の瞳に反応したのか、「敬虔な者達に」とか抜かしていた割には節操がない。

 そのひとひらを、面白半分に受け止め──

 フィオレは全てのハードルをクリアした。

 

「……ああ、なんだ。そういうこと」

「フィオレ?」

「ダイクロフトには神の眼があります。それを使って、過去へ飛びましょう」

 

 唐突なるフィオレの提案に、一同は様々な意味で色めきたった。

 

「って、何でそんなことがわかるんだよ!」

「今の光で、フィオレが壊れた……?」

「待て、考えてもみろ。神の眼は天地戦争時代に封印されたわけでもなければ、神の眼の騒乱で破壊されたわけでもない。従って、エルレインが放置しておくわけがない!」

 

 フィオレが端折った説明をジューダスがし、その話はいきなり現実的なものとなった。

 小さく頷いたフィオレは、ふと思い出したように捕捉している。

 

「この光、とんでもない晶力が込められています。これを定期的に配れるのは、あのレンズくらいしかないでしょう」

「とんでもないって……どのくらいさ」

「それくらい」

 

 フィオレが示したのは、自らの真横に転がる巨大レンズだった。

 その大きさたるや、ゆうに一メートルを数える。これには一同も面食らうしかない。

 

「ど、どこから生えてきたんだ、それ!」

「今しがた、私が光を受け取ったのは見たでしょう。再結晶化させたんです」

 

 あの光の一欠片に、これだけの晶力が詰まっているのだ。神の眼でも使わなければ、まかなえるものではない。

 しかし、彼らの驚愕はフィオレが思っているより、ちょっぴりズレていた。

 

「てか、そんなことできるんだな。その、神の瞳ってやつは……」

「でなければこんなレンズ、早々転がっていないでしょう」

 

 ぺし、とレンズを叩いてリアラに目を向ける。

 少女は目を白黒させていたものの、声をかけられハッと我に返った。

 

「いかがでしょう、リアラ。これでは足りませんか?」

「う、ううん、そんなことない。これだけあれば移動だけなら充分……でも、ダイクロフトへは……」

 

 詳しく聞けば、消費エネルギー以外の問題があるのだという。

 なんでも、リアラ自身ダイクロフトがどんな場所かを知らないから、どこに転移することになるのか未知数になってしまうらしい。

 

「文献によれば、ダイクロフトも空中都市のひとつでえげつねえ広さだもんな。居場所も特定しないままホイホイ飛んで、俺達が神の眼探して駆けずり回っている間に罠でも仕掛けられたら、たまったもんじゃねえか……」

「神の眼がある場所へ、と念じての転移はムリですか? エルレインの居場所でも構いませんが」

「……エルレインの? あの人から聞き出すのは、すごく難しいと思うけど」

 

 確かに、リアラの言う通りだ。しかし、フィオレが狙うのはそこまで蛮勇に頼るものではない。

 

「それでもかまいませんが、飛行竜の動力室でガープとかいう、エルレインの配下が待ち伏せしていたことを思い出してください。まさかあのエルレインが待ち伏せているとは思えませんが、この世界を維持するために必要不可欠であるものは、自分の手元に確保していると思うんですよ」

「つまり、神の眼を使おうとすればエルレインとの対峙が必須か……」

 

 沈鬱そうにするジューダスが呟くも、ナナリーはやる気満々で拳と掌を打ち合わせた。

 直情的な彼女のこと。この状況にフラストレーションが溜まっているのだろう。

 

「上等じゃないか。ついでにエルレインの鼻っ柱も折っていこうよ! 一発殴らないと収まりそうもないよ!」

「そうだよね! リアラ、どうかな?」

 

 同調するカイルが俄然やる気になってリアラの顔を覗きこむも、少女の表情は芳しくない。

 不安に思う気持ちが、わからないわけでもないが……

 

「できることはできるけど、やっぱり危険だと思うの」

 

 こう言われてはぐうの音もでない。ならば、不安を解消するべきか。

 

「ダイクロフト、神の眼がある場所がどのような場所なのかわかれば。転移は可能なんですよね」

「ええ。どんな場所なのか具体的にわかれば、それは」

「わかりました。調べてみます」

 

 もう少し、自力で行く術がないか調べてみるべきだとは思ったが、あんな天空の彼方へ人単体の力で登るのは難しかろう。たとえ梯子がかけられていたとしても、体力的に不可能なのは明らかだ。

 バルバトスが現れた時点で、エルレインも一同のことは承知だろう。それでもかの聖女に頼んでダイクロフトまで赴くなど、愚の骨頂だ。彼女がそれを許す理由などないのだから。

 

「調べるって、一体どうやって……」

『シルフィスティア。ダイクロフト内部を見せてください』

『神の眼を探すんじゃないの? それなら探させ……』

『探し物くらい自分でします。内部を把握しておくことも、無駄ではありません』

 

 ただ、ダイクロフト内部全てを脳裏に流されたら、血管がはち切れるだろう。何もない壁に映像を投射してもらう。

 傘状の、都市というよりは要塞を思わせるダイクロフト全体が浮かび上がる。

 と同時に、ダイクロフトにおいて風が通る場所全てが投射され、仲間達の戦く声がかすかに聞こえた。

 

「な、なんだこれ!?」

「風の守護者に協力を要請し、風の視界を借りたんだろう」

 

 当のフィオレは映し出される光景全てに目を通すのが精いっぱいで相手をする余裕がない。

 カイルやロニ、ナナリーも映し出される映像を注視してみるものの、何十ものコマ割された光景が目まぐるしく変化していく様が負担になったのだろう。

 いくばくもしないうちに目頭を押さえて顔を背けている。

 

「頭痛くなってきた……」

「ホントだよ。ねえフィオレ、こんなもんガン見して大丈夫なのかい?」

「……見つけた」

 

 呟きと共に、細かく分けられていた映像のひとつひとつが消えていく。代わりに現れたのは大きな映像──一同の誰の身の丈よりも巨大な、大型レンズだった。

 完全な球状ではなく、ハニカム構造を球の形として終結させたそれは、大広間にポツンと鎮座している。

 

「エルレインはいないようですね。好機といえば好機ですが」

「そうね……これだけしっかり見せてもらえれば大丈夫。行きましょう!」

 

 一同を見回したリアラが、レンズペンダントに手を添える。フィオレが再結晶化させたレンズが呼応するように輝いたかと思うと、光景は一変した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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