swordian saga second   作:佐谷莢

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 やってきました、天地戦争時代in地上軍基地。
 ここでやっと、満を辞して、正真正銘、最後のパーティメンバー。
 天衣無縫、傍若無人。笑った子も泣き出すマッドサイエンティストのご登場です。


第四十四戦——ふぁーすとこんたくと~未知との遭遇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冷やりとした外気が、頬を撫でる。背中の重みと重たい目蓋に眉をしかめながら眼を開けると、そこは雪の降り積もる屋外だった。

 雪原ではなく、人の気配がする集落のようだが……眼に映る建物は急ごしらえのものに見える。

 うつ伏せになっているため、腹が非常に寒いこの状況をどうにかしようとフィオレは立ち上がろうとした。

 しかし、背中が重くて難しい。

 一体何が、と首を動かして、フィオレは思わず呟いた。

 

「……ロニ?」

 

 まるで重なり合うように、フィオレの背中に覆いかぶさっていたのは銀の短髪の持ち主──ロニだ。

 フィオレを軽く見下ろすほどの上背に、恵まれた筋力の持ち主ならば、この加重も納得できる。

 しかしこれでは、立ち上がるどころか起き上がれない。

 

「ロニ、ロニ起きて──「あんたってヤツはっ、どこまでハレンチなんだい!」

 

 頭上で聞き慣れた声が、まるで雷のように鼓膜を直撃する。同時にぐったりと投げ出されていた体が蹴飛ばされ、彼は悲鳴を上げて飛び起きた。

 

「っ痛ぇ!? 何しやがんだこの……!」

「何寝とぼけてんだい、フィオレを押し倒したくせに!」

 

 わめく二人は元気そうだからとりあえず放置、三人の姿を探す。幸いにも彼らは、今まさに起き上がろうとしているところだった。

 荷物を探り、リアラに外套を渡す。

 

「あ、ありがとう……」

「ここが、千年前の世界、天地戦争時代か……何か、見たことあるな」

「当然だ。ここはイクシフォスラーが封印されていた軍の駐屯地。地上軍の拠点だ」

「それって、ハイデルベルグの近くにあったあの?」

 

 話し振りからして、リアラとフィオレがアイグレッテへ飛んだ際、イクシフォスラーを手に入れるために訪れたらしい。

 未だに言い合いを続けるナナリーにジューダスから剥がしたマントを渡して、フィオレもまたケープを羽織った。

 とりあえず休戦したのか、一段落したのか。マントに包まるナナリーが誰となしに尋ねた。

 

「さて、着いたはいいけどこれからどうする?」

「まずは情報を集めなくてはな。エルレインが、どうやって天地戦争の勝敗をひっくり返すつもりなのか……」

「それについては、いくつか推測が」

 

 情報を集めること自体に不満はないが、彼には想像もつかない一言だったのだろう。

 不信感も露わに尋ね返したのはロニだ。

 

「推測? どーやって……いえ、どんな内容なんですか?」

「……レアルタの映像投射機で、ラディスロウがベルクラントの直撃を受けていたでしょう。史実にもラディスロウでダイクロフトに直接乗り込んだとありますから、あれさえ防いでしまえばいいのでは」

 

 単純にして豪快な解決策に、ジューダスさえ言葉を失っている。

 しかし、それは一瞬のこと。彼は頭痛でも引き起こしたかのように頭へ手をやった。

 

「簡単に言ってくれるが、具体的な案はあるか」

「浮揚艇の機動力を上げるよう製作者に提案する。もしくはベルクラントの一撃に耐えうる障壁を作らせる。でなければ、ベルクラント自体を最終決戦で使われないよう目論む」

 

 確かに具体的な策ではある。しかし、どれも実現するには一筋縄ではいかない。

 更に要素としては不安なものが残っていた。

 

「一番警戒するべきは、バルバトスによる要人暗殺ですね。ソーディアンチームの誰か、もしくはハロルド博士がお亡くなりになられたら、間違いなく歴史は変わります」

「ってことは、オレ達地上軍に入ったほうがよくない? ラディスロウ改造も、要人警護も、その方がやりやすいって! どう?」

「確かにそうだけど、早々軍人になんてなれるもんなのかねえ?」

 

 言われてみればそうだと、カイルは首を傾げている。

 文献によれば地上軍は常に人不足、物不足だったらしいから、望んで実力を見せれば引く手数多だろうが……

 どうも、カイルの言葉の端から欲望がにじみ出ているような気がしてならない。ジューダスが黙っているのも、同じ理由だろう。

 

「まあ、ここはジューダスの言う通り情報収集から始めていきましょうか。考えてみれば戦況がどうなっているのかも知りたいところです」

「ねえ、ここって軍の駐屯地でしょう? わたし達、こんな恰好でうろうろしていたらその、怪しまれないかしら……」

「う~ん……」

 

 ふと、リアラが訴えた不安にナナリーは熟考の末、同意を示している。

 難民を装えば保護くらいしてもらえるだろうとタカをくくっていたフィオレの考えは、甘いようだ。

 

「言われてみれば、確かに。どう見てもあたし達、軍人には見えないだろうしねえ」

「もし、もしもだぜ? 怪しまれちゃったりしたら……俺たち、どうなるんだ?」

 

 ロニの不安を解消、否煽ったのはジューダスだ。

 本人は真面目に答えているだけなのだろうが、真顔でありえる可能性を紡ぐからタチが悪い。

 

「即逮捕、拘束されるだろうな。天上軍のスパイにでも間違えられれば、軍事裁判にかけられてそのまま処刑……なんてこともありえる」

「おいおい、脅かすなよ……」

「そうですよジューダス。この駐屯地が避難民の保護区も兼ねていたことは知っているでしょう? 歩いているだけでは怪しまれませんよ」

 

 それを聞き、ロニの顔が輝いた。しかしその安堵を聞いて、フィオレは腑に落ちない。

 

「ホントですか!?」

「私の知る限りではね。ところでそれは、新手の嫌がらせか何かですか?」

 

 フィオレが尋ねるのはもちろん、ロニの挙動不審についてだ。

 とってつけたような敬語、余所余所しくなった態度、ついでに挙動不審。どれをとっても立派な嫌がらせだ。

 しかしロニは、首が千切れる勢いで否定した。

 

「ち、違うって! そんなんじゃなくてその……隻眼の歌姫、泡沫の英雄なんだろ?」

「……そう呼ばれていたことは認めましょう。泡沫の英雄の方は知りませんが」

「だからさ……その、ホラ。礼儀正しい元神団騎士の俺としては敬意っつーもんを」

 

 なんとなく意味は察したものの、正直いい気分はしない。

 放っておくのもひとつの手だが、この際だからはっきりさせようと、フィオレはロニに向き直った。

 

「かしこまる必要はありませんよ。私はフィオレンシア・ネビリムです。フィオレシア・ネフィリムなんて人は知らない」

「いやそれは、スペルミスなんじゃ……」

「あなたが憧れている人は、私に関する言い伝えが美化された麗々しい偶像なのです。私のことじゃない」

 

 ピッ、と立てた指の先に小さな譜陣が発生し、音素(フォニム)の集まる気配と共にそれはある形を組み上げていく。

 ゆらゆらと陽炎のように、音素(フォニム)は一匹の蝶を生み出した。

 

「こ、これは……」

「人違いではなさそうですが。会っていきなり『光る蝶と戯れていた』とか抜かすから、思わず足を滑らせてしまったではありませんか」

「あ……」

 

 鉛色の空を悠然と舞う蝶が、フィオレに呼ばれて降下する。

 蒼く透き通るような羽の蝶はフィオレの指先にしがみつき──開かれた手のひらが蝶を捕らえて、容赦なく握りつぶした。

 

「あっ!」

「まさかあの小っちゃい男の子が、ジューダスはおろか私より大きくなってしまうとはね」

 

 ぱ、と蝶を握りつぶしたはずの手が開き、思わしげに顎へ寄せられる。

 しかしロニにはとてつもない衝撃だったようで、ぱくぱくと口が開閉していた。

 

「お、俺のこと、覚えて……!」

「私にしてみればちょっと昔のことですが、あなたには十八年も前のことでしょう? むしろあなたの記憶力にびっくりですよ」

 

 余計なことをしてしまったかもしれない。すっかり感激しているロニを見て、フィオレは他人事のように考えていた。

 別人ではないが、逸話とあまりに違うだろうとアピールしようとして、彼の郷愁の念を掻きたててしまった模様である。

 さてどうしようかな、と首を巡らせて。

 

「待ちなさ~~い!」

 

 甲高い少女の声が響いたかと思うと、一同の間をすり抜けていく何かが現れた。

 人型といえば人型、そうでないといえばそうでない、譜業人形のような物体がちょろちょろと走りまわる。

 

「こらぁっ! あんたのマスターはこの私なのよっ! 言うこと聞きなさい!」

 

 足はなく、常に浮遊しているくせに……いや、だからなのか。楕円に手を生やしたようなソレはすばしこい。

 そして、それを追うのは甲高い声の持ち主に見合う、背の低い少女だった。

 濃い桃色の髪を好き勝手に跳ねさせ、姿恰好も少々個性的だ。

 いわゆる女の子らしいお洒落に興味がないのかと思いきや、幼い顔立ちにはしっかりと化粧が施されている。

 

「ちょっと試作パーツを組み込んだくらいで暴走するなんて! こらぁ~~!」

 

 わざわざこうなった過程を説明してくれた辺り、巻き込まれる……いや、多分彼女はこちらを巻き込む気だ。

 でなければ、譜業人形のようなソレが一同の周りをぐるぐる回るように追いこんだりしない。

 厄介事に巻き込まれるのを防ぐべく、一同を連れて避難──今が平常時なら、そうしていた。

 しかしここは千年前の世界、天地戦争真っただ中の時代なのだ。右も左もわからないのにこの状況、味方は作っておいたほうがいいに決まっている。

 特に、地上軍と関わりがありそうなものに関しては。

 

「止まれっていうのがわからないの、このポンコツが! スクラップにしてジャンク箱行きよ!」

 

 一体どの単語に反応したのやら。それまでマスターとやらから逃げ回っていたソレが停止し、くるりと回れ右をする。

 一応視覚の器官があるのか、自分の作品に見つめられて少女はたじろいだ。

 

「な、何よ……」

 

 じりじり、と間合いをつめられ、少女が同じだけ距離を取る。そのまま捕まえればいいのに、逆に迫られて少女は逃げた。

 

「こらああ~! 私は、あんたのマスターだって言ってるでしょうが!」

 

 言っていることは同じだが、こちらは相手に対する威嚇要素が強い。

 すっかり立場の逆転してしまった鬼ごっこの最中に、勇気を出したらしいリアラが話しかけるも、そんな余裕はないらしい。

 そうこうしている内に、進退極まったらしい少女は手近な盾に隠れてしまった。

 事態をボーッと眺めていた、カイルの後ろに。

 

「うわっ!」

「ちょ、ちょっとあんた! 何隠れてんだよ!」

 

 ロニの苦情などものともせず、少女はそのまま距離を取っている。その距離、戦闘になっても巻き込まれない程度か。

 更に少女は、使えるものは何でも使えとばかり、とんでもない頼みを口にした。

 

「ちょっと、あんた達! あれチャッチャと片づけちゃって!」

「……もしかしてそれは、俺達に言ってるのか?」

「他の誰に言ってるように聞こえる?」

「俺達は関係ないだろうが!」

 

 ロニは必死に無関係を主張しているが、どうも暴走しているようなあちらにそんなことは関係ない。

 自称マスターと言葉を交わす人間達が、その視覚器官にどう映るか。答えはひとつだ。

 

「どうやら、あいつは僕達も敵とみなしたようだな」

「冷静に言ってる場合か!」

 

 そうこうしている間に、HRX-2型、という型版の機械は一同に襲いかかってきた。

 どうも、あんなふざけた形でありながら戦闘兵器であるらしく、鉄の腕を振り回すわ晶術は放つわ、危険極まりない。

 

「フィオレ! 何ボーッとして」

「時の狭間にて揺蕩(たゆと)うものよ、奏でし調べに祝福を」

 ♪ Rey Va Nu Qlor Toe Rey Rey──

 

 体内の第七音素(セブンスフォニム)を取り出し、静なる時縛り(タイムストップ・バインド)を奏でる。

 無機物の時を止める譜歌は問題なく、HRX-2型をその場に凍結させた。

 

「これが……これが、余韻の奇跡か! すげえ、本当に歌で「気を抜かないで。まだ終わってません」

 

 これまで幾度か違うものは使ったはずなのに、色眼鏡は恐ろしい。色眼鏡を叩き割るためにも、大興奮のロニを冷たく叱咤する。

 状況もそうだが、片眉を跳ねあげたこの少女の前で不用意なことを口走らないでいただきたい。

 

「終わってないの?」

「一時的に動きを止めただけです。すぐ動き出しますよ」

 

 驚く一同に注意喚起、すぐさま距離を取らせる。その間にフィオレは、ナナリーに声をかけていた。

 

「あなたのお古、借りますよ。それと、あの兵器を氷漬けにしてほしいのですが」

「氷漬け? 壊すんじゃないのかい?」

「壊せなんて、一言も言われていませんよ」

 

 フィオレの予測では、この兵器は間違いなく地上軍に属するものだ。つまり地上軍の備品。

 人材も物資も不足しがちの軍の持ち物を不用意に破損させようものなら、そんな仕打ちが待っているのやら。

 

「じゃあいくよ。扇氷閃!」

「エンブレスブルー!」

 

 凍気をまとう矢が弧を描き、HRX-2型に氷を付随させ、直後降り注いだ冷気の矢が周囲を固めていく。

 やがて時縛りの効果が消える頃、ソレは氷塊の檻に閉じ込められていた。

 

「ふう、ビックリしたあ!」

「まったく、いきなりこんなことに巻き込まれるとは……」

 

 フィオレとしてはまだ気を抜かないでほしいのだが、どの道彼らにしてほしいことはもうない。まったりしてもらうことにする。

 それまで遠くで事の成り行きを見守っていた少女に話しかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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