swordian saga second   作:佐谷莢

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 地上軍基地内でのわちゃくちゃの続き。
 ハロルド・ベルセリオスに関しては、皆さんご承知の通り。オリDとD2において、性別を始めとする何もかもが違います。
 共通事項は、独立不羈にして寝た子も騒ぎ出す天才科学者様ということだけ。


第四十五戦——せかんどこんたくと~あなたって実は、ひょっとして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「試作パーツとやらはすぐに取り外せるものなのですか?」

「足の部位に取り付けられている緑色のパーツ。あれがそうよ」

 

 当たり前のようにスパナとドライバーを渡してくる辺り、自分で外す気はないらしい。

 一方カイル達は、氷塊に囚われながらも暴れ出したHRX-2型に度肝を抜かれていた。

 

「うわ!」

「全身が凍りついてるのに、なんで……!」

「ここは雪国ですよ? 寒冷地仕様でない理由がありません」

 

 暴れるたびにヒビが入るものの、晶術レパートリーに炎に類するものがないのか、使用する気配はない。

 それだけを確かめて、フィオレはHRX-2型の前に立った。

 

「危ないよ!」

「雷を迸れ。『ライトニング』」

 

 レンズ一枚の消費でひっぱたくように一撃入れ、渡された工具でパーツの取り外しにかかる。

 偏執的と呼んでも差し支えなかった、かつての主の趣味に付き合っていたのが、こんなところで役に立つとは。

 HRX-2型を閉じ込める氷の一部を溶かし、思いの他がっちり組まれた試作パーツを完全に切り離す。

 その瞬間、暴れていた兵器はウソのように停止した。

 

「おおーっ!」

「こちらはお返しします。片づけて、と言っていましたが、正気に戻ったようですので。問題ありませんよね?」

 

 少女の手に工具、パーツを渡していく。それまでつぶらな瞳で光景を見つめていた少女は、その視線をフィオレへと釘付けた。

 もちろんフィオレは、今も帽子を深く被っている。多少の身長差があっても、素顔が覗ける角度ではない。

 

「何か?」

「……へええ。不用意にブッ壊したら軍法会議にかけてやろうと思ったのに。未来から来ただけはあるわね」

「「!?」」

 

 いきなり、そのズバリを言われたのだ。誰であれ、この不意討ちには驚くしかない。

 しかし、彼の発言はどう考えても不用意だった。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ! 何も言わないのに、どうして……」

「あら、当たってた? イチバン可能性のないものを言ってみたんだけど」

 

 狼狽をあらわにするカイルに、少女はあっけらかんと真相をブチまげている。

 間違っていたところで気にしない性格なのか、あるいは言葉とは裏腹に何か確信があったのか。

 とりあえずジューダスは、前者だと判断したようだ。

 

「カマをかけた、というわけか。まんまと乗せられたな」

「そ、それにしたってだ。なんで未来から来たとか、思いついたんだよ?」

 

 ロニの反応はしごく真っ当なものだ。これだけぶっ飛んだ予想、よほど頭がお花畑でない限りそうそう出てこない。

 しかし、少女の返答はあっさりとばっさりしていた。

 

「根拠は、時空間の歪みから生ずる大気の成分の変化からあくびの仕方まで三十六通りあるけど──ま、イッチバン大きかったのは「カン」ね」

「……勘」

「ほら、女の勘はカオス理論をも超えるって、よく言うじゃない」

 

 多分、女の勘は理屈抜きで的中することが多々ある、と言いたいのだろうが……とりあえずカオス理論が何なのかを知る人間は少数だろう。

 現に、誰ともなく集まった一同はひそひそと囁きあっていた。

 

「ね、ねえ、「かおすりろん」ってなに?」

「さあ……?」

 

 それにしても、物資がことごとく不足していたという地上軍にしては小奇麗な金属である。天上軍の戦闘兵器を流用しているのかもしれない。

 仲間達を余所に返却のため、HRX-2型を包む氷塊を溶かしていると。

 

「……を、奪いなさい」

 

 直後、それまで停止していた兵器がいきなり稼働した。

 

「!」

 

 太い鉄腕が旋回し、フィオレの首をもぎ取る勢いで迫る。

 咄嗟に身を沈めて回避するも、振り回された腕の風圧で帽子を持っていかれた。

 

「獅子戦吼!」

 

 獅子の顔を象った闘気が放たれるも、HRX-2型の巨体を吹き飛ばすには至らない。超重量の持ち主に、この技は本来の特性を生かしきることはできないからだ。

 ただ、体勢を崩すことには成功した。一時的にとはいえ動きを止めたところで、少女の元へと駆け寄る。

 不思議そうにフィオレを見る少女の背後へと回り、フィオレは自分の口元を隠した。

 

【そこで直立不動よ、動いちゃダメ。待機してなさい】

 

 先程聞いたばかりの少女の声真似は、どうやら効果があったようだ。

 少女の声に、その発信源には少女の姿。主人認識機能の精度は口元まで確認するものではなかったらしく、HRX-2型は素直に停止している。

 成り行きを見ていた一同はといえば、囁きは耳にしていないようだ。

 

「また暴走かよ!」

「あの、もう解体しちゃったほうがいいんじゃ……」

「二度あることは三度あるというしな」

 

 口々に彼らはそう提案するも、少女に聞いている素振りはない。

 何故なら彼女はもはや、HRX-2型のことなどおかまいなしにフィオレを見つめていたからだ。

 睨んでいるのとは少し違うが、表情が真摯であるが故にある種の必死さすら汲み取れる。

 どうもその目を見つめ返す勇気が出ず、フィオレは何気なく少女から離れて帽子を拾い上げた。

 

『突然ですが、シャルティエ。彼女に見覚えはありませんか? 軍の工学系統にこんな感じの兵士見習いがいたとか……』

『み、見習いなんてとんでもない! だって彼女は……!』

「……フィオリオ?」

 

 少女の声が、シャルティエの声を途切れさせる。

 それまで、戦用兵器を逃がしたペット同然に追いかけまわしていた様子からは想像もつかないほど、その声はか細かった。

 しかし、それは白昼夢かとすら思える一瞬のこと。

 

「……んなわきゃないわよね。あの子は、もういないんだから」

 

 あっけらかんと呟かれた一言に一同が目を白黒させているものの、当人はお構いなしだ。

 ただ、フィオレには何となく事情がうかがえた。

 改変された現代で明らかになった、バルバトスの事情。あの男もまた地上軍の人間だったというから、その身内が地上軍に身を寄せていたとしてもおかしくはない。

 その辺りのことはきっちりと問いただしたいところだが、今それを尋ねるのはためらわれた。

 一同がバルバトスに同情を覚えることを危惧したわけでもなければ、少女が見せた寂しげな表情がためらわせたわけでもない。

 

「ねえ、あんた変わった眼をしてるわね。今の超常現象と何か関係してるのかしら」

「超常現象?」

「トボけないの。私のHRX-2型、動きを完全に停止させたでしょ。あ、未来からやってきたのも、あんたの仕業だったりするの?」

 

 つぶらな瞳をきらきら輝かせて、少女は思うままに質問を重ね始めたからだ。

 質問というか、生じた疑問を口に出して自分の中で整理し、独自の見解を並べ立てているだけであるため、答えを強要されないどころか口すら挟めないのだが。

 とにかく、いつまでも彼女の好きにはさせてあげられない。

 一人で話して考え込む少女に、フィオレは気を取り直して話しかけた。

 

「私の……ねぇ。ということは、あの兵器はあなたの作品なのですか?」

「まあね。正確には天上軍がけしかけてきたのを捕まえさせて改造したんだけど」

 

 一応こちらの話は聞いてくれるようだ。

 捕まえさせた、ということは彼女が自力で捕らえたわけではない様子。

 物資が不足がちな地上軍のこと、戦闘兵器を何かに流用させるのは大して珍しいことではないのかもしれないが、倒したものを回収したリサイクル品ではなく、捕まえさせたというところが気になる。

 軍服も着ていないことから見習いか何かとばかり思っていたが……考えてみれば彼女は化粧という贅沢を許されているのだ。実は結構偉いのかもしれない。

 

「……一般人にそんなことができるとは思えん。軍の関係者……機械を扱っているということは、ハロルド博士の助手に近い人物か?」

「ハロルド博士って、ソーディアンとかイクシフォスラーの」

 

 製作者にして、軍師カーレルの双子の弟。文献にはそうあった。

 しかし世の中には例外という言葉があり、絶対はことごとく事象を裏切るようにできているものだ。

 故にフィオレは、こんな質問を彼女にぶつけてみた。

 

「ハロルド博士……ハロルド・ベルセリオスという方をご存じですか」

「知ってるわよ」

「もしできるのなら会わせてほしい。話がしたいんだ」

 

 そこはかとなく、やりとりを見守っていたのだろう。彼女の肯定に、ジューダスが横やりを入れてきた。

 彼の頼みに対して、少女はこともなげに承諾している。

 

「話がしたいの? そんなの、お安いご用よ」

「ホント? じゃあ、博士のところに案内してよ!」

 

 嬉々として頼み込むカイルに、しかし彼女は首を横に振った。その必要はないから、ここで話せというのだ。

 これには納得できず、ロニが反発した。

 

「お、おいおい。話が違うじゃねーか。俺たちは、ハロルド博士に話があってだな……」

「だから、ここで話せばいいじゃない! わっかんないやつねえ」

 

 発生した矛盾に、ロニは尚も言い募ろうとする。それを制して、フィオレは苦笑交じりに尋ねた。

 

「初めまして。私、フィオレンシア・ネビリムと申します。あなたのお名前は?」

「ハロルド。ハロルド・ベルセリオスよ」

 

 今初めて開かされた少女の名──ハロルドの自己紹介に、誰もが唖然としている。

 かく言うフィオレとて、文献で記されていた内容と現実のギャップに驚きはしたが……そのまま表に出してしまうほどではない。

 しかし、そのギャップは受け入れられなかったようで。ジューダスは頭から否定している。

 

「下らない冗談はよせ。お前がハロルド博士なわけが……」

「あんたの背中にあるの、シャルティエでしょ?」

 

 ジューダスの懐疑的な言葉は、どこからどうみても少女にしか見えないハロルドの一言で絶句させられた。

 スカートの中身ではあるまいし、ちらりと垣間見ることなど不可能である。確かに彼のマントはフィオレが剥がしたが、現在も黒布に包まれているのだから。

 思い当たるフシは……ひとつだ。先ほどの会話、正確にはシャルティエの発言を聞かれていたのだろう。

 ぺらぺらと、シャルティエの作りから使用晶術の詳細まで並べ立てる製作者相手に、ジューダスすら呆然としかけていた。

 

「そこまで詳細なデータを……」

「把握していて当然よ。設計者なんだから」

「と、いうことは。ソーディアンはすでに製作済みなのですか?」

 

 これ以上シャルティエに話題を集中させていると、どこでその存在が彼女に知れたのか明るみに出る恐れがある。

 フィオレの質問に、ハロルドは何故か首を否定の形に振った。

 

「まだ開発途中よ。八割方できてるけど、実装には至ってないわね」

 

 つまりこれから完成させるところか。時空間の歪むうんぬん言っていたが、案外こっちの要素が高いのかもしれない。

 しかし、これでも納得できない人間はいた。

 

「で、でもよぉ! ハロルド博士は男だろうが!」

「あ、やっぱりそういうことになってるんだ!」

 

 不用意とも取れるロニの発言に、ハロルドはこちらが困るような反応をした。

 なんというか、妙に嬉しげで楽しげだ。

 

「いや~男の名前にしとけばみ~んなカン違いすると思ったのよねえ。案の定、みんなまんまとダマされてるってワケね! グフ、グフフフッ!」

 

 まるで悪戯を成功させた子供である。事実、感情としてみればそのようなものなのだろうが……

 ところがそこで、ハロルドは笑うのをやめたかと思うとフィオレを見やった。

 

「でもそれにしては、あんたはあっさり私をハロルドだと受け入れたわね。何か根拠でも?」

「──現在の仲間達より学びました。伝説はあくまで伝説であると」

 

 特にロニからは、一昔前好き勝手した反動として何が語り継がれてしまうのかをつくづく痛感した。まるっきりの嘘はないものの、いかに誇張・誇大な表現で歪められてしまうのかを。

 それをわかっているから、提示された事実をすんなり受け入れられた。そんなところだろうか。

 ふうん、と納得したのかそうでないのか、軽く鼻を鳴らしたハロルドに、リアラがおずおずと尋ねた。

 

「じゃ、じゃあ、あなたは本当にハロルド博士……」

「ああ、ハロルドでいいわよ。「博士」って言葉の響きが硬すぎて、かわいくないし」

「かわいくないって……」

 

 天才が変人とはよくいったものだ。常識にとらわれてしまえば、その才能を発揮することはできないのだから。

 ハロルドはハロルドで、なかなか強烈な個性の持ち主であるらしい。でなければこんな発言はないだろう。

 

「さて、じゃ行きましょうか」

「ちょ、ちょっと待って。行くってどこに……」

「皆にあんた達を紹介するわ。私の部下にってことでね」

 

 そうすればラディスロウ──地上軍内部でも自由に行動ができるだろうというのが、彼女の見解だ。

 こちらとしては願ったりかなったりなのだが、この気安さは何なのか。

 彼女は得体が知れない人間が軍内部に入り込むことに危機意識がないのだろうか。

 

「……それと、これはマジメな話。あんた達がこの時代に来た理由は、絶対ナイショにしておいてね」

 

 口も挟めぬ勢いで決定事項が並べられる中、ようやく一同に発言権が与えられた。

 これは当然のことと、カイルは元気よく肯定している。

 ところが。

 

「うん、わかった! ハロルド以外の人間には絶対に言わないよ!」

「違う違う! 私にもナイショにしておくの!」

 

 本人による否定と強い希望に、カイルはおろか一同も首を傾げている。

 どうも協力者になってくれそうな人間にすら話さない。こちらにとって不都合はないものの、ハロルドはそれでいいのかと。

 

「こんな面白い問題があるのに、答えをいきなり聞いちゃったら、つまらないじゃない!」

 

 推理小説において、いきなり解答編を読む人間はいないということなのだろうか。

 自分が考えている最中は答えを絶対に言うなと、そう念を押して。

 彼女はHRX-2型を率いて、とっとと歩きだした。

 

「……行きましょうか。こちらとしては、渡りに船です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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