swordian saga second   作:佐谷莢

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 継続してラディスロウ内。
 雑用に終わりが見えたものの、それどころではない事案発生。しかしどうにかします。
 ただ、シャルティエの魔の手(笑)が迫ってきたようで。


第四十九戦——天空より放たれるは~守護者達よ、やっておしまい!笑

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうひとつペンください」

「? それくらいはお安い御用だが……」

 

 ペン先が潰れてしまったわけでもないのに、何に使うのだろうかと。カーレルは首を傾げて動向を見守っている。

 そして次の瞬間、ハロルドの木の実型の目とは正反対な切れ長の目が丸くなった。

 両手にペンを持ったフィオレが、並べた二枚の羊皮紙へ同時に描き始めたのを見て。

 一枚目の丁寧さとは比べるべくもないが、それでも同時に違う図面を写すなどそうそうできることではない。

 

「君も、両手利きなのか……」

「驚くところはそこなのか、カーレル」

 

 速度が極端に落ちたわけでもなく、むしろ丁寧に書くより早い。作業効率は単純に二倍になり、あっという間に二枚目、三枚目の複写が済んだ。

 ダイクロフト見取り図が八枚の羊皮紙で構成されていることを考えると完成まで程遠いが、それでも驚異的な速度であることに変わりはない。

 

「ところでベルセリオス中将」

「あ、ああ、なんだい?」

「全部で何部必要でしょうか。原本はとりあえず省くとして」

 

 作戦においてどれだけの人員が投入されるのかわからないが、指揮官レベルの人間には必須だろう。

 それを尋ねて寄越された返事に、今度はフィオレが驚いた。

 

「最低限必要なのは五部だね。今回の作戦は少数精鋭を旨としている、参加メンバーはディムロス、イクティノス、シャルティエ、ハロルド、そして私なんだ。最もハロルドは君達を護衛に連れて行くだろうから、必要に応じて増えるものと思ってくれていい」

「うち一部はベルセリオス中将が作成してくださるとして、私達は二部程度で充分でしょうから……」

 

 残りは六部。技術面のみを鑑みれば、信じがたいほど簡単な作業だ。

 しかしカーレルが言っていたように、実に単調で機械的な作業だけに、途中で嫌気が指すだろう。

 

「まあ、気長にやろう。それと私のことはカーレルでいいよ」

「かしこまりました、カーレル中将」

「……まあ、いいか」

 

 ここがカーレルの公務室だったら、普通に応じていたかもしれない。

 しかしすぐそこに、ディムロスとリトラーがいるのだ。リトラーはともかく、上下関係に殊更厳しそうなディムロスを前に気安い口は叩きにくい。

 たまには両手でお絵かきもいい頭の体操になるかと、そのまま一部を描き上げる。

 軽く伸びをして首を鳴らし、つい出てきた欠伸を噛み殺した。

 

「少し休憩するかい?」

「え、でも……」

「資料を作成してから休憩も何もなかっただろう? 考えてみれば君はディムロスとも手合わせしているんだ。このままでは効率も落ちるだろうから、一息入れておいで」

 

 あんなもの実戦に比べればおままごとみたいなものだったが、慣れない作業で疲弊しているのは確か。

 カーレルの言葉に従い、フィオレはラディスロウ外へと出ようとした。

 その時。

 

「……?」

 

 奇妙な感覚を覚えたと同時に、ラディスロウ内に響く無機質な音が発生した。

 聞く者の緊張を招き不安を掻き立てるその雰囲気からして、間違いなく警告音の類である。

 表情を厳しく張り詰めさせたリトラーが壇上の脇にある通信機械に触れようとして、ノックもなく扉が開いた。

 そこには、一人の兵士が息を荒げて立っている。

 

「どうした?」

「か、管制室より報告します……! ベルクラントが、活動を始めました! エネルギー充填作業に入っています!」

「何だって……!」

「何とかして座標を……!」

「ベルクラントの照準位置は!?」

 

 にわかに緊迫する作戦会議室にて、フィオレはこっそりシルフィスティアの視界を借りた。

 いつか見た──改変された現代において見た際と同じく、地上へ突きつけられた剣状兵器全体に淡い光が帯びていく。

 全体の光が徐々に剣先へと集まり、やがて蓄えられた晶力がベルクラント本来の破壊力をもって地上へ放たれるのだろう。

 正史上で起こった出来事なら、ラディスロウ及び地上軍拠点は無事であるはずだ。

 しかしあの光が、現在どこにいるともしれない仲間達、あるいは神の瞳を狙っているものだとしたら。

 たとえ狙いがわかったとしても、どうにかなるものではない。

 そんなことはわかっているだろうに、ベルクラントの照準を特定しようと奮闘する幹部達を尻目に、会議室から──ラディスロウから出ていく。

 鉛色の空しか見えない外では、まだ何も知らされていないのだろう。何ひとつとして変わった様子はない。

 ラディスロウを出たフィオレは、その足でラディスロウの裏手へ回った。

 見張りの人間もいなければ、何があるというわけでもない。あの公開処刑記録を見ていなければ、海に面した単なる雪原だ。

 過去何人が処刑されたのか知らないが、それでもかつて人が埋められたこの場所を忌避するのは当たり前なのかもしれない。

 そして今、フィオレにとっては好都合だ。

 これから盛大な悪あがきを試みるのだから。

 

「……星に宿りし守護者達よ。我が前に集え」

 

 フィオレの求めに応じるかのように、異世界の扉が開くように。四つの譜陣が雪の敷かれた地面に浮かぶ。

 

 ひとつから、実りの秋を象徴する小麦の穂の色が。

 ひとつから、わだかまるような、それでいて澄んだ瑠璃の色が。

 ひとつから、噴火を連想する紅蓮と溶岩の色が。

 ひとつから、土から顔を出したばかりの新芽にも似た、鮮やかな緑の色が。

 

 それぞれ光球となって、フィオレの周囲を取り巻いた。

 

「ベルクラントの一撃を、どうにかしてやり過ごしたいのです。協力してください」

『いいよ』『大地を護れる』『お安いご用ではないけど』

『それがあなたの望みなら……』

『我らは尽力を尽くすのみ』

『協力は惜しまないよ。でも具体的な方法とか、考えてる?』

 

 確かに、ただ逸らしたいと願ったところでベルクラントが停止してくれるわけでもなければ、地表以外のどこかを狙ってくれるわけでもない。

 そこまで細かい策はなく、フィオレは漠然とした考えをただ告げた。

 

「ベルクラントの一撃は、つまるところ膨大な晶力の塊だと思っています。だから、同等のエネルギーを真っ向から打ち上げれば散らせるんじゃないかと」

『じゃあフランだけ大した戦力じゃないね』

『大地も海原も風もあるけど』『むしろ雪があるから力出せないね』

『ではフランブレイブ、敵方の動向を見守っていてください。私達はそれぞれ、属性の力を高めます』

『聞いての通りだ、代行者よ。我らの力を汝に与えよう。時が満ちた時、属性の力を束ね、放つがいい』

 

 想像はしていたが、やはりフィオレ自身が砲台とならなければいけないようだ。

 明るい麦藁色、落ち着いた瑠璃色、初々しい若葉の色がひとところに揃い、停止する。

 燃え盛る朱金の色のみが、まるで見張りをするようにふわりと高度を上げた。

 その様子を、フィオレとてただ眺めていたわけではない。

 

「Va Rey Ze Toe Nu Toe Luo Toe Qlor……♪」

 

【第三音素譜歌】戦乙女の聖歌(バルキリーズ・ホーリーソング)で砲台となる自身を強化、更に雪原であることをいいことに身体強化の譜陣を描いて中央に佇む。

 本来体に刻まれて最高の効力を発揮するものだが、気持ちを落ち着けるのに作業自体は効果があった。

 

『フランブレイブ、まだかな?』

『晶力の圧縮率が際限なく上昇している。そろそろ頃合いだろう』

 

 ベルクラントによるエネルギー放出がどの程度で、一秒間につきどれだけの速度を進むかもわからないため何も言えないが、それでも放たれてから迎撃するのは下策だろう。

 フィオレが狙っているのはエネルギーをぶつけての相殺、万が一にも地上に影響を出すわけにはいかない。

 

『では、フィオレ。精製したエネルギーを差し上げます。それぞれ属性の異なる力ですので、取り扱いには注意を』

『大丈夫』『人の中でなら、うまく融合するはず』

 

 こんなときだからなのか、人だと言われて変にホッとする。

 アーステッパー達から、アクアリムスから、シルフィスティアからそれぞれ凝縮した音素(フォニム)をもらい、神の瞳を使って蓄積させた。

 とはいえ神の瞳にエネルギーを宿しておけるのはわずかな間。ぐずぐずはしていられない。

 

『フィオレ、早く!』

 

 ベルクラントを視認で観察していたらしいシルフィスティアの警告を聞いた直後。

 丁度フランブレイブからも少量の第五音素(フィフスフォニム)、炎属性の塊をもらっていたフィオレは、闇雲に紫水を虚空へ掲げた。

 

「荘厳なる意志、静かなる意志、灼熱と業火の意志、舞い降りし疾風の御子。我が手に集いしは星の意志。森羅万象の名のもとに、薙ぎ払え!」

 

 紫水の先端に光の譜陣が浮かび上がり、四つのそれが組まれて巨大なひとつの陣と化す。

 円陣の中央より射出された星の意志は、凄まじい反動と引き換えに天へ昇っていった。

 その反動たるや、踏ん張っていたはずのフィオレを地面へ叩きつけるほどである。敷かれた雪が非常に冷たい。

 

「冷た痛い……シルフィスティア、状況は?」

『凄いことになってる。見てみなよ』

 

 どこか楽しげにシルフィスティアが見せてくれたのは、一直線に降り注ぐベルクラントの一撃とフィオレを媒介に放った星の意志だ。

 あっという間に衝突した両者だが、どちらもまったく引けはとっていない。

 どちらが押し切ることも、軌道を逸らすこともなく天上と地上の狭間でせめぎあっている。

 もし打ち負け、下手に軌道を変えてしまった時のことを考えて第二弾の用意をするべきかと悩み、しかしそれは杞憂に終わった。

 激しくぶつかり合っていたエネルギー同士はやがて収縮、どちらからともなく消滅したためである。

 今まさに空中の攻防戦が終わったことを知らしめるかのように、消滅しかかったエネルギーが眩い光を発した。

 直視を避けるため間一髪で自分の視界を取り戻すも、空の彼方で鈍色の雲が一様に発光している。

 まるで薄い雲の向こうに太陽があるかのような輝きだが、ほんの一瞬のこと。

 空は再び、憂鬱な色に戻っていった。

 

『……成功したようですね。ありがとう、皆』

『フィオレもよく頑張ったよ。お疲れ様』

 

 守護者達を代表するようなシルフィスティアの労いを聞きながら、ひっそりとラディスロウの影から拠点の様子を伺う。

 何があったのか、そもそもベルクラントが撃たれたことさえも知らない兵士及び避難民たちがポカンと空を仰いでいる隙を縫ってラディスロウの中へと戻った。

 

「一体どうしたんですか? 空が一瞬輝いて、また収まったようですが」

「……状況を報告しろ」

『ベルクラントの活動、及び発射が確認された後、正体不明のエネルギーが射出されました。結果として迎撃、相殺に成功しています……』

 

 一息入れようとラディスロウ外へ出て、異変に気付き戻ってきた体裁を装う。

 その声で、硬直していた作戦会議室内の空気が動き出した。

 リトラーの重々しい声音に、応対する管制室の通信相手もまた戸惑ったように集まった情報を報告している。

 気づけばこの場にはイクティノスもやってきており、再び地上軍の幹部達が額を寄せあって難しい顔をしていた。

 

「正体不明のエネルギー? 射出位置は」

「現在割り出し中です、マイナード少将。地上から放たれたものであることに間違いは無いのですが」

「正体不明か。怪しいものなら、まずハロルドの関与を疑うところなんだが」

「今頃は物資保管所だろう。ありあわせの部品を使ってその場で兵器を作り、ベルクラントの迎撃に使った……ありそうだから困るな」

 

 なんやかやと今しがたの現象の解明にかかる彼らを押しのけて、複写作業に戻る勇気は無い。

 話し合いが済むまで待機していようと、壁際に寄ったその時。

 ぱさりと音を立てて、ラディスロウの入り口である会議室と外界を隔てる布が動く。

 顔を覗かせ入ってきたのは、細い髪の金髪に柔和な面立ちの、シャルティエであった。

 

「失礼します。リトラー司令、よろしいでしょうか」

「おお、シャルティエ少佐。結果を教えてくれ」

 

 いぶかしげにしているのがほとんどの面々であることから、彼らも伺い知らぬことのようだ。

 そして明かされたやりとりの正体は、流石地上軍の総司令だと舌を巻かざるをえない内容だった。

 

「ベルクラントが活動を始めた時点で拠点から出ようとした人間はいません。正門はおろか、他方からも脱走者及び侵入者も零だそうです。そもそも外の兵士達はベルクラントが活動を始めたことも知らず、謎の発光の時点でようやく「何かあったこと」に気付いたそうで」

「ふむ……避難民にまぎれたスパイの密告で場所が割れたかと思えば違うようだな。特に騒ぎが起きていないということは、混乱に乗じて侵入しようとした輩もいない、と」

 

 あの混乱状態の中、そこまで考えてシャルティエを使いに出したのか。

 フィオレでさえ、まずはベルクラントをどうにかしようとしか考えられなかったというのに。

 フィオレが内心でひたすら感心していた最中のこと。シャルティエの、どちらかというと丸みを帯びている瞳がちら、とフィオレを見やった。

 

「……ただ、発光直後。フィオレさんがラディスロウへ入っていくのを僕が見かけました。入り口の兵士達は空を眺めていたから、知らないと思いますけど」

「ああ、それなら……」

 

 騒ぎの前後のやりとりから、カーレルが潔白を証明してくれる。

 事情を聞いてシャルティエが軽く頷いた後で、カーレルはフィオレに向き直った。

 

「さて、先程の件でちょっと話し合わなくてはいけなくなってしまった。すまないが、私の部屋で作業を続けてほしい」

 

 手早く必要なものをまとめて、差し出す。それを受け取り、承諾の意を示した。

 

「わかりました。よろしければ、清書も仕上げましょうか」

「複写が終わって手隙になったらね。それが終わったら報告へ来てくれ」

 

 そのまま会議の邪魔にならぬよう足早に作戦会議室を後にしようとして、その足に何かが当たる。

 ちらと視線を落とせば、それはペンダントに見えた。

 赤い染色の革ひもに蓋つきのペンダントトップ……ロケットか。フィオレが所持していたものとは明らかに異なった意匠である。

 

「これはどなたの落し物ですか?」

 

 革ひもに手を伸ばし、ひょいと持ち上げかざして見せる。

 ロケット自体は壊れているのか開きっぱなしだが、不用意には覗かない。

 中身を無断で見られることがどれほど嫌なことなのかは、わかっているつもりだ。

 かくして、所持者はいた。

 

「……私のだ。ありがとう」

 

 近寄るイクティノスにそのまま渡そうとして、ふとその目つきに違和感を覚える。

 妙にこちらを熱心に見詰めているというか、フィオレよりも長身であるにも関わらず帽子の下を覗きこもうとしているというか。

 何にせよ、詮索をあまり歓迎できないフィオレが親しくなれるわけもない。

 受け取ろうとする手にロケットを載せて、フィオレは早々に退室した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 音を立てて扉が閉まり、数秒後。

 フィオレが完全に立ち去ったことを確認して、イクティノスは開いたままのロケットペンダントを閉ざした。

 

「落としたのに拾わなかったのは、そういうことか」

「中を見るかと思いましたが、礼儀正しいですね。ハロルドから事情は聞いていないようです。あの態度を作っているのだとしたら、大したものですが」

 

 肩をすくめるイクティノス、さもありなんと頷くリトラー。

 二人のやりとりに首を傾げたのは、シャルティエただ一人だった。

 

「どういうことですか?」

「そうか。シャルティエは知らないんだな。彼女、フィオレくんは……」

「カーレル。人のプライベートを無断で語らないでください」

「それもそうだね。話していいかい?」

「駄目です。余計なことを知って態度に出されても困ります」

 

 あっさり断られ、あっさり引き下がったカーレルがすまん、とシャルティエに頭を下げる。しかし、それで納得する彼ではない。

 

「そうやって隠されると、更に気になります……」

「気にしなければいいだろう」

 

 その通りではあるが、それが悲しきかな人としての性だ。

 それでも階級としては上位に立つイクティノスに詰め寄る気はないらしく、シャルティエはリトラーに小さく会釈をした。

 

「それでは、失礼します」

「シャルティエ少佐、これからベルクラント稼働の対策会議を開くが……」

「それに関して調べたいことがあるので、すみませんが欠席します。はっきりしたことが分かり次第、報告しますので」

 

 首をひねる一同を尻目にシャルティエは、足早に作戦会議室を後にしている。

 彼が向かった先、それはカーレルの執務室兼私室だった。

 

「失礼するよ」

 

 声をかけて入った先、そこには中央のデスクを使って作業に没頭するフィオレの姿があった。

 格好は私服、やってきた当初のまま。顔も髪も大きなキャスケット帽に覆われてしまっている。

 しかしシャルティエにはあの端正な顔立ちが大真面目に、色違いの特殊な瞳が資料とにらめっこしている様子がありありと浮かんでいた。

 突然の訪問者に対し、フィオレは作業の手を止めて立ちあがっている。

 目上に対するその礼儀正しさが、シャルティエの好感度を上げていることを彼女は知らない。

 

「カーレル中将なら、ご存じの通り作戦会議室ですが……相部屋なんですか?」

「いや、違うよ」

 

 では何の用事なのだろうかと、フィオレは気持ち首を傾げている。

 彼の言伝を受けて備品を取りに来たとか、フィオレへの伝言か何か。しかしシャルティエは何を話すでもなく周囲の様子を探っているように見える。

 ともかく作業に戻ろうとしたフィオレがペンを手に取ったところで、シャルティエは唐突に切り出した。

 

「あのさ、さっきの話。本当のところは?」

 

 手に取ったばかりのペンが、彼女の手をすり抜けて転がる。

 その動揺は明らかに質問に対するものだ。しかしフィオレとて、それをあっさり認めるわけにはいかない。

 

「本当のところ?」

「一息つこうとしてラディスロウから出て、空の異変に気付いて戻ってきたんだよね」

 

 シャルティエの言に一切否定するべき点はない。

 首肯するフィオレに対し、彼は人懐こそうな、だからこそ何らかの裏を勘繰りたくなる笑みを浮かべている。

 

「ラディスロウを出ていく時、警報が鳴ってなかった?」

「鳴っていましたね」

「鳴っていたことを知っていたのに、君は何もしなかったってこと?」

 

 なるほど、そうきたか。

 シャルティエが何をどこまで知っていて、何を目的としているのかはわからないが。

 彼はフィオレがどのように答えようと何かしら追い詰める方向へ話を持っていくように仕向けるだろう。

 シャルティエの話術がどれほどのものかは知らないが、この手の話をまともに付き合っていたらいくら時間が合っても足りない。

 相手は少佐階級の持ち主だが、今フィオレが任されているのは中将に軍師を兼ねた人物からの仕事だ。優先順位は比べるべくもない。

 

「……何も……いいえ。ラディスロウの外へ出ましたね。何があったのかを確かめるために」

 

 言いながら、再びデスクについて複写を再開する。

 シャルティエはかすかにムッとした様子だが、取り合わない。

 この時点で、目指す着地点ははっきりしている。彼が何を知っていて、何を目的としているのかを、如何にして聞き出すか。

 とはいえ、フィオレ自身にやましいことはない。

 強いて言うならラディスロウ裏手でのことは隠しておきたいが、それは地上軍から疑われてまで隠すことではないのだ。

 この場合は、前者だけでも達成されるのが最低ラインか。

 

「ラディスロウの中で何かあったとは思わなかったの?」

「中で何かあったのだとしたら、その場所へ駆けつけるべきなのでしょうか? 対処を知るならばまだしも、つい先程軍入りした新入りにできることは、せめて避難することだったと愚考します」

 

 シャルティエによる尋問に付き合いながら、さりげなくフィオレも相手の情報を聞き出そうとして。

 次なる一言に、フィオレの目論みは完全に潰された。

 

「……じゃあ、僕が見たことをそのまま総司令達に話しても構わないよね。君達の身柄を保証しているのはハロルド博士だから、彼女になんやかんや聞くことになると思うけど」

 

 おそらくはフィオレが、シャルティエの望む言葉を意図的に避けたから、であろう。

 堂々巡りを予感させる話の流れを力づくで軌道修正した形になる。

 ハロルドを引き合いに出したのは、彼女を煩わせて貸しを作るのは誰でも嫌がるだろうという思惑のもとか。

 ハロルドの機嫌など心底……とまではいかないが、そこまで重要視するものではない。

 しかし、シャルティエが何を知っているのかが判らない以上あることないこと告げ口されて天上軍のスパイとか何とか、疑われるのだけは避けたい。

 

「……何が、お望みですか?」

「あはは、そんな怖い声出さないでよ。ちょっと手伝ってほしいことがあるだけさ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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