swordian saga second   作:佐谷莢

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 ラディスロウ。一同は戻ってきましたが、当然フィオレの姿はありません。
 彼らは記録装置越しに、ことの顛末を知ることになります。
 攫われたフィオレがどんな目に遭っているのかは……次回。まあまあ胸糞の悪い展開ですが、乗り越えていただきましょう。


第五十四戦——空より帰還後の追い討ち~行方不明者が更に増えました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 唐突に発生、沈静化した侵入者騒ぎより半日後。ダイクロフトより、未来のソーディアンチームとハロルド率いる工兵隊は無事の帰還を果たした。

 救助対象だったアトワイト・エックス。たった一人を除いて。

 

「……以上で、今回の作戦の結果報告を終わらせていただきます」

「開発チームを無事救出できたことで、作戦は成功したと言っていいだろう。諸君、ご苦労だった」

 

 重苦しいディムロスの報告に、リトラーは僅かな沈黙を挟んで労いを口にしている。

 次に彼が発したのは、彼らが留守中に起こった騒動のことだった。

 

「各副官より報告を受けるとは思うが、諸君らの留守中、この地上軍拠点で侵入者を許す事態となった」

「あらら、司令の心配が現実になっちゃった、ってワケね。フィオレはちゃんと働いてくれた?」

「……結果として、死者は零。負傷者は両手が埋まる程度で済んでいる」

 

 負傷者が出る事態、そして死者が出てもおかしくなかったようなその物言いに、彼女は驚いている。ハロルドとしては、捕捉云々におけるフィオレの貢献を聞きたかったようだ。

 

「じゃあ、事態を未然に防げなかったってことでお仕置きね。フィオレは、例の空き部屋かしら」

「……なお、囚われたアトワイトについてだが、彼女の捜索を行うかどうかは上層部で会議にかけて決めたいと思う」

「そんな……!」

 

 急な話題転換に、ハロルドは首を傾げているものの、一同はそれどころではない。

 カイルが直情的にアトワイトの救出を訴えるがため、ハロルドは再び彼を止めるのに意識をやった。

 

「もー、あんたの意見はみんな知ってるってば。ここは、こーいう説明が得意そうなフィオレに頼みましょ」

「だけど……」

「今ここにフィオレがいないってことは、あの子はこの事を知らないのよ? ちゃんと教えてあげて、意見を聞きましょうよ」

 

 ハロルドに促され、カイルはしぶしぶ会議室を後にした。それに一同もまた続く。

 

「つってもハロルド、フィオレも同意見だと思うぜ? 何せ俺達は未来を知って「やほー。フィオレ、ただいまー。例の件はどうなったかし……ら?」

 

 何の合図もなく部屋に入り込んだハロルドだったが、不思議そうにきょろりと室内を見回した。

 誰ひとりとしていない。

 部屋の片隅には、フィオレの荷袋が所在なげに置かれているだけだ。

 

「いないわね、どこ行っちゃったのかしら? 上司の無事な帰還にお出迎えもしないで」

「リトラーさんからの任務でまだ帰ってきてない、とか」

「だったら司令が教えてくれるでしょ。しょうがないわね、ちょっとあんた達探してきて……」

 

 その言葉に従い、各々部屋を後にしかけた。

 しかし直後、それを命じた本人から鋭い制止を受ける。

 

「ちょい待ち!」

「ん? なんだよ」

 

 訝しがったロニが振り返った先。そこには何を思ったか、荷袋が置かれた辺りへつかつかと歩むハロルドがいる。

 

「……フィオレ、あんまり帽子とか好きじゃないのかしら? 私の目を盗んで外すくらい」

「好きかどうかは知らんが、目立つことは好まない性格だ。ここに同じ顔があった以上、好んで外すことは無いと思うぞ」

「そう……」

 

 言いながら振り返るハロルドの手には、一同にとってもなじみ深いキャスケット帽が握られている。更にジューダスの目には、取り付けられた風の守護者の依代を確認することができた。

 

「あと、あの子は武器を持ち歩くのも億劫がるの?」

「そんなわけあるか。まさかそれまで……」

 

 言いながらハロルドに歩み寄ったジューダスは、彼女が指す方角を見て固まった。

 箒に偽装した紫水が、きちんと立てかけられているのを見て。

 手を伸ばして引き抜けば、紛うことなき淡紫の鋼が姿を現した。

 

「……!」

「ど、どういうこと? なんで……」

 

 動揺する一同を尻目に、ジューダスは置かれていた荷袋を取り上げた。

 音を立てて、その下にまとめて置かれていた大小の刃物が散乱する。

 これらが示すのが何なのか。それを睨みつけるほど真剣に見詰めていたハロルドは、くるりときびすを返した。

 

「ハロルド?」

「作戦会議室に戻るわ。フィオレの行方が知りたければ、ついてらっしゃい」

 

 そんなことを言われては是非もなく。ハロルドの言葉に促されて、来た道を逆戻りする。

 先程通ったばかりの扉をくぐれば、すでに幹部達の姿はなく。リトラーの姿だけが、壇上にあった。

 

「総司令」

「……君達か」

「用件はわかってるでしょ? 説明してもらえるわよね」

 

 刺々しいその態度は、事実を知っていながら何も言わなかった彼に対する不信の表れだろう。

 そんなことは百も承知なのか、リトラーは咎めることなく一枚のレンズを取り出した。

 ごくごく普通の、通常サイズのレンズだが……

 

「まずはこれを見てほしい」

 

 そう言って、彼は自ら映写機を起動させた。

 会議室にもともと設置されているそれは、すでに引き出されていたスクリーンに映像を投射する。

 ぼんやりと浮かび上がったのは、地上軍拠点にあるひとつの風景だった。

 

「ここは……」

「ラディスロウの裏手ね。あんたらも見たことあるっしょ?」

 

 とはいえ、一同が見たのは公開処刑の舞台となったそこだ。今回映っているのは、まったく別の光景である。

 兵装をまとわぬ、巨大な斧を手にした男がとある一点を掘り返していた。

 そこを兵士に見咎めたれ、大声で威嚇された男は何故か大暴れを始めるわけだが……まるで実力が違う。

 多少なりとも訓練を受けたはずの兵士をちぎっては投げ、まるで象が鼠を蹴散らしているかのようである。あっという間に男の周囲は、傷つき倒れた兵士だらけになっている。

 そこで、男の詳細が明らかになった。

 

「……バルバトス!?」

「知っているのかね?」

「この子達、なんとあいつに会ったことがあるらしいのよ。どうやら同一人物らしいわね」

 

 筋骨隆々とした巨体、浅黒い肌、特徴的な彫りの深い顔立ち。まぎれもない本人だ。

 当に死亡しているはずの人間であることがわかっていながら呟いてしまったカイルの失言はハロルドがカバーしつつ、映像は続く。

 足元に転がる兵士を踏みつけに、高笑いするバルバトスの表情が変わった。

 突如周囲に光の円陣が張られたかと思うと、倒れていた兵士達が起き上がり避難を始めたのである。

 彼らが退いて後、ゆっくりと画面端から姿を現す者がいた。

 キャスケット帽を深くかぶり、誰かが落とした盾と戦鎚を拾い上げて歩みを進める女性衛生兵姿──おそらくはフィオレ。

 

「取り巻き共の姿はなし、か。おあつらえ向きだが、得物はどうした?」

 

 バルバトスが揶揄するものの、フィオレの反応は無い。顔が隠れているためにどんな表情をしているかもわからない。そして、隙を見て仕掛けようとする素振りも見せない。

 そんな彼女を不審に思ったか知らないが、バルバトスは戦斧を振り上げた。

 次の瞬間、画像が乱れる。フィオレの手元がブレたかと思うと、次の瞬間には対峙するフィオレとバルバトスの姿があった。

 巨漢は驚愕を浮かべており、戦斧はフィオレの真横の地面に潜りこんでいる。彼女はただ、突っ立っているだけのように見えた。

 

「な、何だ?」

「わざと外した、わけじゃないよね……」

「おそらく、戦鎚で軌道を逸らしたんだろう。変なところで器用な奴だからな」

 

 カウンターを狙うには十分すぎる間合いだが、フィオレにそれらしい挙動はない。

 そうこうしている間に、再びバルバトスは戦斧を振り抜いた。

 

「この俺を前に考え事とは、いい度胸だ!」

 

 停止していた彼女の時間が動き出す。戦斧をやり過ごし、追撃の蹴打を盾で防ぎ。今度こそ反撃を繰り出した。

 戦鎚を取り落としたかと思われたその手はいつの間に腰に差した双剣のかたわれを握っている。映像では追いきれないほどの速さで盾と接触した足に突き立てた。

 

「──獅子戦吼」

 

 気合も何もない、非常に低く硬い声音がバルバトスをあっさりと吹き飛ばした。

 追撃の好機であることは誰の目にも明らかなことである。しかし、彼女は遠ざかった巨漢をただ眺めているだけのように見えた。

 

「フィオレ、一体どうしちゃったんだ?」

「深追いしないように……? それにしたって、不自然だわ」

 

 やがて思い出しでもしたように非常に緩慢な動作で戦鎚が拾い上げられる。時同じくして、双剣を足元へ叩きつけたバルバトスが忌々しげに叫んだ。

 

「何を企んでいる、小娘!」

 

 フィオレの返事は、一条の雷である。並みの兵士ならば直撃で昏倒させる威力のそれを受け、バルバトスは怒号を発していた。

 

「どこを見ている、馬鹿にしているのか!」

 

 憤然とフィオレに迫るも、臆した様子はない。それまでと変わらぬ調子で戦斧をあしらうも、巨漢が足を止めたところでフィオレもまた間合いを取った。

 

「破滅のバーンストライク!」

「母なる抱擁に覚えるは安寧」

 

 定められた呼吸、定められた発声。普段一同が聞くそれとは似て非なる歌声がドーム型の結界を形成した。

 いくつもの炎を帯びた岩石は、ハニカム構造状の外側に触れて霧散していく。

 

「歌詞を詠唱に使うなんて、楽しい術ねえ。確かにそのくらいの余裕はほしいけど」

「……いや、あいつにそんな余裕はない」

 

 映像の中では何事もなかったかのようにフィオレが交戦に応じている。しかしジューダスだけが、彼女の異変に気付いていた。

 

「何でよ。教練のお手本かってくらい完璧な防衛戦に見えるけど」

「得物を見てわかるように、あいつはもともとあんな闘い方をする奴じゃない」

「それが? 相手に合わせて闘ってるんじゃないの?」

「確かにそうとも考えられるが……」

 

 フィオレの小器用さを鑑みるに、それは可能で今映像の中では実践しているように見える。

 しかし、その先は? 

 バルバトスとフィオレの体力を比べれば、先に尽きるのはどちらなのかは考えるだに愚かしい。それがわからないフィオレでもないはずなのに……

 やがて映像内にて、変わらぬ状況に苛立ったバルバトスが動きを止めた。

 血走った目でフィオレを睨みつけるも、当の本人がたじろいだ様子はない。

 

「どいつもこいつもつまらん戦いをしおって……! これを見てもまだ腑抜けていられるか!」

 

 状況が一変する。

 バルバトスが、発生した闇色の球体より引きずり出した一人の女性によって。

 

「アトワイトさん……なんてこった」

「まさか……まさか、フィオレ……」

 

 最悪の結果が、一同の脳裏によぎる。

 彼女を人質に取られ、なす術のなくなったはずのフィオレは。

 

「あっははは!」

 

 画面の中で大笑いをしていた。

 あっけにとられる一同と同じくして、その態度は勝利を確信していただろうバルバトスをも凍らせている。

 

「人質! 人質かあ。ははっ、馬鹿のひとつ覚えってやつか!」

 

 心底愉快そうに、あまつさえ挑発に近い言動を放った。

 息も絶え絶えに腹を抱えた仕草で、帽子が落ちる。

 そこで初めてフィオレの表情が露わになるのだが──確かにそれは、笑みに類するものだった。

 口元は歯列がむき出しに近い状態で口角が上がっている。そして眼を、おぞましくなるほどギラギラさせていた。光や輝きとはほど遠い、憤怒と憎悪で濁り切った瞳。

 そして、人質などいないかのような態度でバルバトスに接近を試みる。

 

「ま、待て! この女は……!」

「聞こえねーな! この期に及んで、ぐちゃぐちゃ抜かしてんじゃねーよ!!」

 

 珍しく慌てているらしいバルバトスを口汚い一喝で黙らせ、彼女もろとも斬らんと双剣の片割れが翻り──

 

「やめろ馬鹿者!」

「……わかっちゃいると思うけど。何言ったって無駄よ?」

 

 大幅な軌道修正がなされて、後ずさりしかけた足を穿つ。

 素早く背後へ回り込んだフィオレの手には、いつの間にかバルバトスの足元に落ちていた双剣の片割れがあった。

 

「人質は使わねえのか、ええ!?」

 

 これまで一同が聞いたこともないような罵声を放ちながら背中を斬りつけ、返す刀で肩口に突き立てる。

 その拍子に女性──アトワイトを拘束する腕が緩んだようだ。その好機を逃さず、フィオレはいつの間にか手にしていた棒状の刃物で腕の皮をひっかくように斬り裂いた。

 アトワイトの顔に血飛沫が散る。と、同時にフィオレは彼女を抱えるようにして、バルバトスから間合いを取った。

 

「よ、よかった……」

「焦ったぜぇ。けどよジューダス、フィオレはアトワイトさんのこと、知らねえんじゃ……」

「十中八九、人質がアトワイトだとは知らないだろうな。わかっていてこんなぞんざいには扱わないはずだ」

 

 画面の中のフィオレは、ひとしきり彼女を眺めまわした上で雪上に転がしている。

 彼女を跨いで前へ出で、外套に手を突っ込んだかと思うと腕を大きく振りかぶった。

 小さな刃物がバルバトスへ飛来する。

 

「くらえ!」

「こんなもの!」

 

 まるで蠅でも払うかのように刃物は叩き落とされたが、その瞬間リキュールボトルの瓶らしいものがバルバトスの額に被弾した。

 中身が違うものであることは、巨漢の呟きが語っている。

 

「酒だと……!?」

「苦しめ! 泣いて喚いて這いずり回って死ね!」

 

 怨嗟の声が悲痛なまでに響いて、あっという間にバルバトスは炎上した。巨大な人間松明が七転八倒してのたうち回る。

 

「きゃっ!」

「あらー、エグいことするわねえ。フィオリオの仇討のつもりなのかしら?」

 

 訝しい顔を崩さないリトラーへのフォローなのか、ハロルドが呟く。幸いにして彼はその呟きを聞き逃すことはなかった。

 

「彼女にフィオリオくんのことを話したのか?」

「話したわ。だってあの子は、それ目的で私の部下になったんですもの」

 

 正確にはそういう設定だったはずだ。

 リキュールボトルを叩きつけ、更なる炎を呼んだフィオレは露骨に嫌そうな顔をしながらも追撃を放っている。

 一同ですら詳細がわからないものを、総司令が不思議に思わないわけもなく。

 

「これは……一体」

「私が今考案中の晶術に似てるけど、レンズを持ってないわねえ。さっきの雷撃と同じく、守護者の力を借りたものかしら」

「……その解釈で問題ない」

 

 一同に冷や汗をかかせながら淡々と、画面の中の出来事は進む。

 業炎の渦がバルバトスを覆い、余波らしき熱波で周囲の雪が霧へと姿を変える。

 霧が晴れた頃には、さぞかし凄惨な光景が広がっているかと思われた矢先に、ゆらりと蠢く人影が透けて見えた。

 

「……うそっ」

「あんなもんくらって無傷なのかよ!」

「いや、よく見ろ」

 

 火傷どころか傷ひとつないバルバトスが取り出したのは、砕けた鉱石の残骸である。

 それを見て、ジューダスは忌々しげに眉を歪めた。

 

「リバースドールか。厄介なものを」

「何、それ?」

「所持者の負傷を担う代わり、粉々になる奇跡の石よ。所持者が死に至りかけて、初めて効果を発揮すると言われているわ」

「誰なのよ。そんな貴重なものをあいつに持たせたのは」

 

 ようやくこの戦いに終止符が打たれるかと思いきや、形勢逆転もいいところである。落胆も隠せないであろうフィオレはといえば。

 

「……」

 

 無言のままに薄笑みを浮かべて、軍靴に仕込まれていたらしい小剣を引き抜いた。

 

「それで、何でこの子は笑っていられるのよ?」

「僕が知るものか。考えられるのは、相当歪んだ思考状態だということくらい……」

 

 そこへ、リトラーの号令が響く。と、同時にフィオレの顔つきが一変した。

 澱んでいた眼に光が灯り、顔つきからあらゆる険が落ちている。

 周囲を一瞥し、バルバトスを標的と定めたずらりと居並ぶ弓兵を認めてフィオレは後退した。そのままアトワイトに駆け寄り、脈や呼吸を確かめた上で抱き上げる。

 そこへ。

 

「逃がすかっ!」

 

 矢雨を浴びるバルバトスが、闇の球状に呑まれて消える。直後、戦線より離脱しかけた二人もまた闇に引きずり込まれた。

 ──映像は、そこで終わっている。記憶容量が限界に達したためだと、リトラーは語った。

 

「残されたのは、フィオレ君の持ち物だけだった。色々疑問はつきないが、二人の行方は杳としてしれない」

 

 

 

 

 

 

 

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