swordian saga second   作:佐谷莢

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 ラディスロウ。
 戦争中に四肢一部欠損なんてしたら、普通は戦場復帰できませんわな。
 物理的に心理的に、しかしそれを超えるのがファンタジーのお仕事哉。


第五十九戦——天地戦争、最終決戦直前~自動人形は人間でしたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リトラーさん! ソーディアンが完成しました!」

 

 ラディスロウに入るや否や、帰還報告も何もかもすっ飛ばしてカイルはそれのみを告げている。

 幸いなことにリトラーは、苛ついているディムロスよりも頭は硬くなかった。

 

「そうか、ソーディアンが……」

 

 部下の手前、口調は静かなものだが内にある興奮は隠していない。それまでとりかかっていた作業全てを中断して、身近にいた伝令兵に指令を下している。

 

「よし、工作班に伝達。ラディスロウ浮上の準備を急がせろ」

「では司令、ついに……!」

「ソーディアンチームが戻り次第、ダイクロフトへの総攻撃をかける。二交代制で兵たちに休息をとらせろ」

 

 これから存分に振るうであろう鞭に対してなのか、酒を出してもかまわないと飴をちらつかせている。あるいは、最終決戦に向けての兵たちへの労いか。

 伝達を言付けられた兵士は、後者の意味と解釈したのか。若干嬉しそうに、そして俊敏にラディスロウを後にした。

 そしてカイル達にも休息が与えられ、一同が集められたのはあくる朝のことである。

 

「──そうそう。突入作戦にフィオレも連れて行くつもりだけど」

 

 帰還したハロルドが呼んでいる。そう連絡を受けて、カイル達が作戦会議室へ赴いた際。

 すでに集合しているらしいソーディアンチーム、リトラー、そしてハロルドの会話が聞こえてきた。

 

「別に構わないわよね?」

「フィオレ君を……それは彼女の希望なのかね」

「傷痍軍人を? ほんの少し前に片腕を失った者を、戦場に引きずり出す気ですか」

 

 眉をしかめるリトラー、真正直に己の意見を口にするイクティノス。

 彼らの反応にあまりとらわれることなく、ハロルドは話をディムロスに振った。

 

「そう。ディムロスは?」

「お前が決めたのなら……と言いたいところだが、カイル君達では不足か? 負傷した彼女を加えれば、それだけ彼らに負担がかかるぞ」

「──つまり、総司令も前線指揮官殿も反対なのね」

 

 黙して語らないアトワイトをちらちら見る限り、語られない理由がありそうだ。

 ともあれ、自らの要求をやんわりとはいえ却下されたというのに、ハロルドはさして反論を唱えなかった。当然のことながら、こうなることを予想し、受け止めているようにも見える。

 我儘を言っては頭痛のタネを蒔いてきたハロルドの、殊勝ともとれる態度に何を思ったのか。

 シャルティエがふと、発言した。

 

「何もフィオレ……さんを連れて行かなくても、その自動人形を連れていけばいいじゃないですか」

「確かに。何せ、我らの誰と戦ってもひけを取らん相手だったからの」

「それとも、何か問題でもあるのか?」

 

 フィオレを、怪我人を連れていくよりずっと戦力になるだろうと、実際に剣を交えたマスター達が次々とその案を押していく。

 それを聞き、ハロルドはわざとらしく繰り返した。

 

「ブリュンヒルドを連れてきたのは、確かにそのことの許可をもらうためよ。じゃあ突入作戦にはこの子を連れていくわ。いいのよね?」

 

 ハロルド製の自動人形となればそこらの兵士よりは頑丈だろうし、壊れたところで人命には代えられない。これにはリトラーもディムロスも反対しなかった。

 が、しかし。

 了承を得られた途端、ハロルドは満面の笑みを浮かべている。

 

「そう。それじゃ、もう外していいわよ、フィオレ」

「!?」

 

 その場の誰もの注目を集めつつ、白銀の全身鎧は命令もなしに動き始めた。

 だらんと下がっていた両腕がゆらりと蠢いたかと思うと、己の頭をわし掴む。ガチャンと音を立てて、ブリュンヒルドの頭部──兜が外れた。

 艶やかにして豊かな長髪が、さらりと外気にさらされる。

 その髪の色は、広がる雪原に等しい雪の色で。

 

「フィ、フィオレくん……!」

「いささか卑怯なやり方だと思いましたが、先程の反対を想定し、一芝居打たせて頂きました」

 

 置いてけぼりはもう御免ですよ、と嘯きながら、眼帯の緩みを直す。

 唖然とする一同を睥睨して、ハロルドは呆れかえった。

 

「っていうか、誰も本気で気づかなかったわけ? 強さもそうだけどあんな滑らかな動き、機械にできるわけないっしょ」

「いや、ハロルドさんならあるいは……」

「あら、あんたそう思うの。戦争終わったら頑張ってみようかしら。手伝ってくれるのよね?」

 

 戦争が終わったら、戦闘用自動人形なんて需要ないと思う。あと、無闇に(フラグ)立てないでほしい。

 小さく息をつき、おもむろに会議室の出入り口──ラディスロウ内部に通じる側を見やる。

 すなわち、カイルらのいる側を。

 

「これから最終作戦に関する説明が行われるそうです。中へどうぞ」

 

 彼らの立ち聞きなどお見通しだ、とばかり言い放つ。

 指摘されて黙っているわけにもいかず、気まずく入室するカイル達の姿を認め、リトラーは気を取り直したように小さく咳払いをした。

 

「これで揃ったな。君達も席についてくれ」

 

 以前座った末席へフィオレが移動したのを見て、カイル達も動く。

 それを確認したリトラーが、改めて一同を見回した。

 

「諸君、本日1300(ヒトサンマルマル)をもって、我が軍は敵本拠地ダイクロフトに対し総攻撃をかける」

 

 ソーディアンチームを機軸とし、敵陣を突破、最終的に敵将ミクトランを討つ。カイル達工兵隊はハロルドの護衛をしつつ、敵の撹乱に当たれとのこと。

 どさくさに紛れて中央制御室を占拠し、ダイクロフト及びベルクラントの機能停止が最重要にしてハロルドの任務だという。

 

「前回の作戦のこともあり、敵も警戒を強めているはずだ。困難を伴うが、君達ならできると信じているぞ、カイルくん」

「はい! 任せてください!」

 

 小気味よいカイルの返答に頷き、ディムロスもまた一同を、ソーディアンチームとカイル達を見回した。

 その眼に、いつか見た余裕のなさは欠片もない。

 

「私から、ひとつだけ言っておくことがある。死力を尽くすことと、死ぬことは別だ。必ず生きて帰ってきてくれ!」

 

 ──それに応える、各々の発する声はこんなにも力強いのに。何と虚しく聞こえることか。

 これにて幹部会議は終わる。残るは全兵士への通達だが、こちらは作戦開始直前に行われるそうだ。

 

「もうすぐダイクロフトに突っ込むから、今の内に心の準備を済ませてね」

 

 この度ダイクロフトへは、兵士を大量に詰め込んだラディスロウで強襲する。

 長らく半沈没状態にあったこの輸送艦が動かない、あるいは不具合を起こしたら洒落にならないと、工作班の最高責任者であるハロルドは足早に機関部へ向かって行った。

 

「時間になったらそういう放送が入るから、どこか掴むなりして身体を固定すること。不測の事態でつまんない怪我しないようにね」

 

 適当に待機していろ、と言われ。迷うことなく割り当てられた私室へ戻るフィオレに、一同もまた続く。

 艦内はこれまでにない緊張感にみなぎり、行き交うどの兵士からも緊張と興奮が漂ってきた。

 

「つ、ついに最終決戦なんだね……!」

「何を今更」

 

 その気配に当てられたのか、らしくもない緊張でカチカチになっているカイルが冷たくあしらわれてかくっ、と肩を落としている。

 フィオレはその様子を微笑ましげに見やりながも、特徴的な金属音を奏でながら荷袋を漁っていた。

 

「……なあ、そのガントレットの中……カラ、だよな? どうやって動かしてるんだ?」

「ちょっと……!」

「カラではありませんよ。ちゃんと義手が入っています」

 

 無神経にもとれるロニの発言をナナリーが責めかけて、フィオレに制止される。

 はっきりと笑みを浮かべることで大丈夫だ、と意志表示したフィオレは、やがて着替えと思しき布の塊を抱えて衝立の中へ入っていった。

 

「それにしても驚いたなあ。まさかあのブリュン何とかが全身鎧着たフィオレだったなんて」

「教えてなかったんですか。余計なことは言ってしまうのに、意外です」

 

 金属がこすれ、派手な音が響いたかと思うと小さな布ずれの音が響く。

 やがて衝立を開けて姿を見せたフィオレだが、その両手には様々な金属塊──鎧の各部位を手にしていた。

 彼女はそれらを、使われていない寝台の下へ押し込もうとしている。

 

「な、何もそんなところに押し込まなくても」

「これからラディスロウが動くんですよ? 下手に放置しておいたら大惨事」

 

 単なる飛行でも重力は働くのに、ダイクロフトへの強襲が優雅で静かなわけがない。

 寝台の下へこれでもかと言わんばかりに押し込み、いい仕事をしたと言わんばかりにフィオレは額の汗を拭っている。

 

「……余計なこととは、何の事だ」

「ソーディアンチームの誰かに、不幸が訪れることですよ。文献を読みこまない限り知ることはない史実なのに、集まった皆の顔はどこか暗かったのでね」

 

 大方あなたがバラしたのだろうとしめくくるフィオレ、否定できないジューダス。

 責めるような調子ではないものの、彼は居心地悪そうに釈明した。

 

「話さなければならないことだろう。この中の誰かが、彼を救ってしまったら」

「その場に居合わせないよう誘導して、自分も知らなかったふりをすればいい話。変なところで正直なのは、あなたのいいところでもありますが」

 

 この様子では、フィオレも事前に知識としてカーレルの死を知っていた様子である。嘆息して衝立を畳んだフィオレは、くるりと一同に振り返った。

 その左手は、一見鋼鉄製の小手で覆われているように見える。ただし、被服の袖口から本物の腕のようににゅっ、と生えて、布製の手甲に覆われていた。

 

「それでは、皆でハロルドから恨まれますか」

「そいつが義手か! 確か、筋肉義手とかなんとか……」

 

 人の話は聞きましょうよ、とボヤいたフィオレが、袖を持ち上げてその全容を見せる。

 繋ぎ目はなく、切断した肘の辺りをすっぽりと覆うような構造になっていた。カモフラージュは一切なく、甲冑の腕部位をそのまま腕に移植させたかのような武骨さだ。

 しかし、中に本物の腕が入っているのではと思わせるほど、実に滑らかに動く。

 

「どうやって動かしてるの?」

「原動力はレンズです。で、これが役に立ちました」

 

 そう言ってフィオレが取りだしたのは、どこかで見たことがある硝子製の筒だった。

 以前は中で転がっていたものが、今は影も形もない。

 

「それ、ベルクラントを作るのに使ったっていう……!」

「レンズから引き出した晶力を何倍にも高められるので、重宝してますよ」

 

 平和的利用でしょう? とジューダスに微笑んで見せる。

 本来の身体機能にあるような「無意識の命令」はできないが、それでも原動力を気にせず済むため大変助かっているらしい。

 

「へええ……」

「それはそうと、皆に頼みがあるのですが」

「頼み?」

「ダイクロフトでバルバトスと事を構えることになったら、一切手出ししないでほしいんです」

 

 一切合財手を出さないとは、すなわち一対一の戦いを切望しているということだろう。

 当然のことながら、一同は反対した。

 

「そりゃ……大分ムチャっつうか……」

「駄目だよ、危ないよ!」

「あれに負けてとうとうイカれたか。そんなことをして、一体何になる」

 

 否定しか口にしない各々、ジューダスなどは痛烈な悪口雑言を叩いてナナリーが手を上げ、悠々かわされている。

 そんな反応を逐一見て、一同が落ち着いたところでフィオレが口を開いた。

 

「予想通りの反応をありがとうございます。ですが、このまま皆と力を合わせてあの男を袋叩きにするわけにはいかないのです」

「……リベンジしたい、ってことかい? だったら尚のこと」

「あの男は勝利のために、どんな手段も厭うことはしませんでした。だからこそ私は筋を通したい」

 

 そう言い切るのは、フィオレが清濁併せのむことを許容しているから、だという。

 どれだけ高尚な信念があろうと、負けたら全てを失い、そして終わるのだ。フィオレはそれを知っている。

 そんな輩は、そのように考える輩は、正攻法で戦って初めて意味があるのだと。

 

「私は負けてはいないけど、勝ってもいません。今度こそ勝ちたいのです。そして願わくば、この腕の仇を」

 

 フィオレは一度、バルバトスの腕を切断している。同じ目に遭わせないのは、もしかしたら仕返しをしたのかもしれないことを考えてのことだった。

 紫水を抱きしめるようにしながら力説するフィオレに、説得不可能と見たカイルが二の句を告げようとして。

 

〔これより最終作戦を開始する──ラディスロウ、発進!〕

 

 雑音の入り混じる、しかし力強さだけははっきりと伝わる声が、艦内に響き渡る。

 ズズズ、と地響きにも似た振動がやまない中、フィオレはジューダスの背中──シャルティエのコアクリスタルに手をかざして譜歌を謡っていた。

 

「母なる抱擁に覚えるは安寧──」

♪ Qlor Luo Ze Toe Luo Rey Nu Luo Ze──

 

 イクシフォスラーに、あるいはダイクロフトへ一方通行突撃艇に搭乗経験がある一同の知る圧力が唐突に失せる。

 私室の備品が右から左へ上から下へ、かつてない大運動会を開催している辺り、通常なら立っていることもままならなかっただろう。

 時折一同にも襲いかかる備品は、不可侵の聖域により完全に阻まれていた。

 

「うわ、危ねえっ……」

「あっ。まずい」

 

 このままならば、何とか無事に乗り切れるだろう。一同にそんな安心感をもたらした矢先。

 台詞に反して妙に緊張感のない呟きが、逆に彼らに恐怖をもたらした。

 

「えっ?」

「おい、何がどうなった? 何がまずいんだ?」

「それはですねえ、まずこちらへどうぞ」

 

 実に自然に結界を解いたフィオレが、激しい震動にも関わらず私室の外へ出て行く。

 それにどうにか続いた一同を確認して、フィオレがまず扉を閉めた、その矢先。

 

〔……っ!〕

 

 砂を噛むような雑音がひどくて聞こえない放送直後に、それまでとは比にならない震動が一同を襲う。

 もんどりうって床へ叩きつけられる直前、再び譜歌が唱えられ事なきを得る。

 

「……おっかないの」

 

 どこまでも呑気なフィオレの呟きが、何故かはっきりと聞こえる。

 それが薄れる頃、耳に痛い轟音がなくなり、再度展開された結界が解かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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